変な事を考えたら

彰太しょうたが苗字について、


『部族名みたいなもの』


と言ったのは、漫画の中で見た、


『平民には苗字というものがなく、名前と出身の村などとの組み合わせで個人が識別されていた』


みたいな話を思い出したからであった。苗字やファミリーネームのようなものは、それなりの身分にあるものしか持たないという認識があったことで、適当に告げたものである。


実はこの時、彼の頭の中には前世の記憶が様々過ぎったのだが、言語化されていなかったことで、言葉としてはレオーナには伝わらなかったのだろう。


いずれにせよ、


『変な事を考えたら筒抜けになっちゃうってことか。気を付けなきゃ』


と考えたら、


「大丈夫ですよ。私は気にしません」


彼女が笑顔で言ってくれたのが逆に申し訳なくて、


「うひぃ~! ごめんなさい!」


謝るしかできなかった。


人付き合いは必ずしも得意ではないものの、あくまで一人でいるのが気楽でいいというだけで、決してコミュニケーション不全を起こすほどのものではなかった。加えて、『夢の中だからと思っている』という気安さもあるのだろう。


夢の中では、結構な時間が経過しているような気がしていても、


『目が覚めれば八時間も経っていない』


ということがよくある。だから彰太も、ここまでの時間経過については特に気にしていなかった。なにしろ彼自身、


『自分が子供から大人にまで成長するまでの人生経験を夢で見た』


こともあったからだ。夢を見ている間は気にならないものだ。それで言うと、今回のように、


『これは夢に違いない』


とはっきり考えられているのは珍しかったが、それ自体、ないことでもないだろうとは考えている。


そんなことよりも今は、


『人魚の姫様の別荘に招待された』


ということの方が重大だ。重大なイベントだ。人魚がどんな暮らしをしているのかは興味もある。


もちろん自分が見ている夢だったらそれは決して実際に、


『人魚の暮らしを垣間見ている』


ことにはならないだろうが。


この辺りについては思考としても実に散漫で曖昧でとりとめもなくて明確に言語化されていなかったから、レオーナにもはっきりとは伝わらなかったようだ。それでいて彼女からすると、


『まるで子供みたいですね♡』


思わず微笑んでしまったりもする。それというのも、幼い人魚は上手く言語が使えなくて、とりとめのない思考がダダ洩れ状態になってしまうのだ。これ自体は大人達が子供の考えていることを察する役にも立っているものの、彰太の思考は幼子のそれよりはずっと複雑だったため、レオーナにも理解できなかったのである。


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