確認していいですか?

<人魚の姫様の言葉>は、頭の中に直接響いてくるような感じだった。少なくとも<音>ではない。彼女の口は、ほとんど動いていないからだ。ただ、頭に直接響いてくるような印象もありつつ、しかしそれとも違うような気もした。


彰太しょうたはなぜかそれがすごく引っかかってしまい、


「あの、ちょっと気になるんで確認していいですか?」


と問い掛けてしまった。これには人魚の姫様も戸惑って、


「え……? あ、はい。何でしょう?」


思わず子供のようなあどけない表情になってしまう。


「……!」


兵士の人魚達は怒っているような表情になったものの、何を言ってるのかこちらは伝わってこなかった。それもあって彰太はそのまま、


「俺、口では喋れてないみたいなんですけど、なんで話ができてるんでしょう? それが気になって気になって」


疑問を伝える。夢の中なのだから別に気にしなくてもいいのかもしれないが、理屈などないのかもしれないが、とにかく気になってしまったのだ。それに夢の中なのだと考えるからこそその辺りも気楽に尋ねることもできてしまう。


と、人魚の姫様は呆気にとられたように、


「ええ……?」


目を見開きつつ、すぐに、


「口で喋るというのは、地上の人間達がするコミュニケーション方法ですね。私達人魚には鼻の奥に<意思を伝える器官>というのがあって、あなた達にもよく似た器官があるんです。それで話してるんですが、知らなかったんですか?」


そう答えてくれた。


「へえ、そうなんですか。知らなかった」


彰太は素直に感心する。そんな彼に人魚の姫様はくすりと微笑んで、


「あなたはちょっと変わってるみたいですね。だから私を助けてくれたんですね。ありがとうございます」


謝礼を述べてもくれた。これには彰太も、


「あ、いえ、なんか思わずそうしちゃっただけで」


逆に慌ててしまう。しかも、


「それに君が可愛かったから、つい……」


と本音まで。すると人魚の姫様も、


「あら、お上手ですね」


頬を染めながらもまんざらでもなさそうに。


「……」


そんな二人の様子に、兵士の人魚達も戸惑いつつ緊張感が薄れてしまっていた。確かにこの巨大なサメからはまったく敵意を感じない。互いに顔を見合わせ、警戒はしながらもまずは見守ることに。


そのなかで人魚の姫様は、


「私達の<言葉>はそれぞれ違ってて、私はあなた方のことをよく知るために勉強して、<あなた達の言葉>を話せるようになったんです」


改めて説明してくれた。すると彰太も、


「そうなんですね。分かりました」


和やかに応えていたのだった。


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