仲間割れでしょうか……?

兵士らしき男性の人魚が、女の子の人魚に話しかける。


「姫様、仲間割れでしょうか……?」


それに対して、『姫様』と呼ばれた女の子の人魚は、


「分かりません。ただ、彼らも一枚岩ではありませんし、何より、この者達はあくまでも使役されているだけです。従わない者も当然いるでしょう」


凄惨な光景を目の当たりにしながらも、理性的かつ知性的な目付きと口調で応えた。応えつつ、ゆっくりと下がっていく。慌てず、焦らず、しかし確実に。


だが、十分に距離を取れ、岩礁の裏に回って姿が見えなくなったと思いそこからは急いで離れようとしたその瞬間、


「!?」


女の子の体が影に覆われた。ハッと振り返った視線の先には、巨大なサメの姿。


彰太しょうただった。彰太が女の子達の頭上に現れたのだ。全身に傷を負いつつも、瞬膜を閉じてまるで白目のようになった目はそのままに、すさまじいまでの殺気も放ちつつ。


完全に正気を失っているのが一目で分かるそれだった。サメとしての本能のみに従い、激しい衝動に憑りつかれた。


「姫様! 申し訳ありません! 少し我慢を!」


兵士達は彼女を庇うように立ちはだかりつつ声を上げ、モリを構えた。と同時に、先ほどまでとは比べ物にならない強い衝撃が。


同時に、女の子も、


「く……っ!」


痛みに耐えるような仕草を。兵士達も歯を食いしばって何かに耐える。


電気だ。モリから放つ電気の威力を上げたらしい。サメの方が敏感なことで彼女達にはそれほど影響のないレベルで使っていたのを、巨大なサメを一撃で退けるためにやむを得ずそうしたようだ。


するとこれには、


『ギ……ッ!?』


彰太もひとたまりもなかった。おそらく鼻っ柱に強烈なパンチを食らったようなものだろう。一瞬、意識が飛ぶ。


すると瞬膜も開き、焦点の合わない目でしばらく虚空を見つめた後、


『え……? あ……』


正気が戻って周囲を窺った。そこに人魚の兵士達が再びモリを構える。だが、明らかに余裕のない険しい表情。おそらく先ほどのそれと同じ電撃は放てないのだろうと思われる。だから手にしているのは<ただのモリ>ということだ。それでこの巨大なサメを相手にしようというのであればそれこそ命を投げ出す覚悟をしているかおということか。


けれど、


「待ちなさい!」


姫様が命じた。そして、


「あなた、私の言葉が分かりますか?」


彰太に問い掛けてくる。


それは、<耳に聞こえる音>ではなかった。それよりは直接脳内に届いてくるような印象。


「私は今、あなた方の<言葉>で話し掛けています。分かりますか?」


言われて、彰太は、


「は、あ、はい! 分かります!」


と応えていたのだった。


もちろん<口>ではないが。サメの口では<言葉>を発することはできない。


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