人魚

『え…? 人魚……!?』


そう思ったが、これが<夢>なら別に人魚が出てきてもなにもおかしくない。ならば、


『ようし!』


彰太しょうたは意識を切り替えて人魚を助けることにした。


なにしろその人魚は可愛かったからだ。一見すると年齢は彼と同じくらいだろうか。だから十代半ばという印象。青色っぽいような緑色っぽいような不思議な色の髪が流れるように伸びた女の子だった。ちなみに胸には水着のブラのようなものを着けている。


そして女の子に周りを、こちらは屈強な男性の姿をしたやはり人魚が取り囲み、手にはモリのようなものを持ち、サメを威嚇するように構えていた。


しかし、さらにその周囲には、少なく見積もっても二十匹以上のサメが包囲、今にも襲い掛かりそうな様子だった。明らかに多勢に無勢。


なのにサメの方も攻めあぐねているのか、ぐるぐると回りながら時折、近付こうとするだけのような……


だがその理由を、彰太は察した。人魚の男性がモリのようなものを突き出すたびに、ビリッとかすかな痛みが届いていくる。


『あ、もしかして電気か、これ』


そう。彼が察した通りそれは<電気を放つモリ>だったのだ。


『確か漫画で読んだことがある。サメには、え…と、ロ…ロリ…いや、ロル……ロレ……そうだ、<ロレンチーニ器官>とかいうのがあって、電気刺激を受けると痛みを感じるとかなんとか……!』


それによりサメ達は一気に襲い掛かることができずにいたようだった。だが、諦めないところを見ると、<電気を放つモリ>も、無限に使えるものじゃないのかもしれない。時間が経てば電力が尽きて<ただのモリ>になってしまうなら、こうして取り囲んで逃げられないようにして待つというのもなるほど分かる。


彰太も痛みは感じるものの、それは飛ばした輪ゴムが当たる程度のもので、我慢できないほどじゃなかった。それにこれは<夢>。だったら女の子を助けるのが正道だろうと思い、サメの群れへと突っ込んでいった。


普通に考えれば一人(一匹?)でこの数を相手にするなど無謀もいいところだろうが、


『どうせ夢だし!』


と考え、


『きっとカッコよく活躍できるに違いない』


的な軽い気持ちで挑んだというのも間違いなくあった。


しかも、手近にいたサメに体当たりを食らわすと、まるでぬいぐるみのように大した手応えもなく吹っ飛ばすことができてしまった。


それというのも、実は彼の体は人魚達を取り囲んでいるサメの三倍ほどの大きさがあり、もはや<大人と幼児>のような差があったのである。


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