サメの勇者、人魚を救う ~世界最強のサメ?に転生した少年の英雄譚~
京衛武百十
深見彰太
彼の名前は
その日、彼は、家族と一緒に海へと遊びに来ていた。人付き合いそのものはあまり得意ではなかったものの泳ぎには自信があった彼は、遊泳区域を示すブイまで泳いで戻ってくるということをしていた。彼にとっては本当に他愛ない遊びに過ぎないはずだった。
それなのに、意識を失って浮かんでいるところをライフセーバーによって救助されたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。死因は溺死ではなかった。まったく水を飲んでいなかったからだ。このこともあり、急性心不全により死亡したと判断された。
しかし……
『よかった。俺、生きてた』
彼はなぜか意識を取り戻した。いきなり体が動かなくなり意識が遠くなったところまでは覚えていたことで自分が溺れて死んでしまうと感じたにも関わらず生きていたことでホッとするが、すぐさま強烈な違和感に囚われて愕然とする。
『なんだ…? ここ水の中だよな? なんで俺、息できてんだ……?』
そう、彼が意識を取り戻したのは水中、しかも水面はずっと上に見えているのに拘わらず、普通に呼吸ができているのだ。いや、厳密には『呼吸ができている』のではなく、『息苦しくない』と言った方が正しいか。なにしろ口から取り込んでいるのは確実に水であり、しかも、胸に吸い込んでいる感覚がなかったのだ。
さらに身体も何かおかしい。首が回らない。手が前に行かない。バタ足ができない。なんとか自分の体を確認しようと目を向けるとそこに見えたのは板状の何か。
『え…? これって、<ヒレ>……!?』
まさかと思って自分で動かそうとしてみると確かに動く。自分の意思で動かせる。
さらになんとか足を見ようと体をひねってみると視界の端に捉えられたのは、非常に特徴的な鋭く尖った尾ビレ。
『ななな…! なんじゃこりゃあ~っっ!?』
驚きつつもさすがにピンとくる。
『もしかして<サメ>かこれ? 俺、サメに生まれ変わったってことか……!?』
そう思ったものの、次の瞬間には、
『いや、待て待て待て! ありえないだろ! これはきっとアレだ! 俺は今ホントは病院のベッドで寝てて、それで夢を見てるんだ! そうに違いない!』
自分に言い聞かせる。
すると少し落ち着いてきて、
『まあ、夢だったらしばらくちょっと楽しんでみるか』
とも思えた。
いずれにせよ、今の状態じゃどうにもできない。だから様子を見るしかなかった。
だがその時、
「助けて!!」
悲鳴が届いてくる。彼の人生の中で、アニメの中でしか耳にしたことのないような、いや、アニメのそれはまだどこかいかにも<演技>という印象もあるものだったが、この時のそれは、本当に切羽詰まった、耳にした者を震え上がらせる、恐怖させる、間違いなく『ヤバい』それだった。
なのに彼の体は竦んでしまうどころか、頭の中がカアッと熱くなるような感覚とともにほとんど無意識のうちに悲鳴が聞こえた方へと動いていた。
まるで弾丸の如く水中を進む自分自身に、
『すげえ……!!』
彼は高揚する。高校の部活とはいえ仮にも水泳選手として重ねてきた努力がまるで無意味なものだったかのような、すべてを圧倒的に超越するパフォーマンスに、しびれるほどの興奮を覚える。
そして彼の視界の先にあったものは、無数のサメの群れに囲まれた、
『え…? 人魚……!?』
人魚の姿なのだった。
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