粗茶ですが
「今回のお客様がいらっしゃいました」
「吾輩は妖怪・猫又、名はコマである」
座布団に座り、猫背をピンと伸ばして名乗った。
「化野白夜、言わずと知れた最強の陰陽師だ」
客猫に負けず自信たっぷりに名乗る。
「失礼いたします」
襖をすーっと開けて盆を持った弥生が入って来る。
「粗茶ですが」
盆の上には主人と客人の茶とお茶請けの饅頭が載っていた。白夜の湯飲みには湯気が出ているが、コマの方には丁度良く冷めた茶が用意されている。猫舌が故の配慮だろう。
コマは猫の手で器用に湯飲みを持ち、茶を一口飲む。
その瞬間、飲んだ茶を勢いよく吹き出す。コマの口から出た液体は目の前の白夜にかかる。弥生が「あ」と小さく呟いた。
「これは玄米茶ではないか! 吾輩は緑茶しか飲まん!」
白夜は無言で札を取り出し、自分の頭に貼る。すぐに札が溶け出し、それと同時に白夜の身体が乾いていく。
「も、申し訳ありませんでした」
理不尽に思いつつも弥生はとりあえず謝り、コマの湯飲みを下げる。
「すぐに取り替えてまいります」
「うむ。この饅頭だが、粒あんかね?」
「いえ、こしあんですが」
「にゃら、これも替えてくれたまえ。カリカリとちゅーるのトッピングも頼む。かつお味が良い」
「か、かしこまりました……」
客猫の注文に半ば呆れながらも弥生は厨房に戻る。
弥生が去った後、残された白夜とコマの間に僅かな沈黙が生まれた。
「さて、猫又風情が中々生意気な口を利くではないか」
白夜の発した低い声と妖気を感じ取ったコマの毛が逆立つ。
「……ご、ごめんだにゃ?」
コマは子猫のような潤んだ瞳で白夜を見つめる。
「ふん」
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