第3話 嫌悪
自店での日常に戻った撫子は今日も働く。
さまざまなことに、気持ちを傾けながら、注意しながら。
今日は1月中旬であるから、特に急ぎの仕事はない。
いつも後回しにしてしまっている仕事をしようと、撫子は自分の担当売り場に向かった。
「すみません、マスクってどこですか」
30代半ばだろうか、しっかり化粧しているが、あまり似合っていないように思えるような、ちょっと老けた印象を持ってしまうような化粧をした女性に声をかけられた。
とても嫌な気持ちになる。
マスク売り場なんて少し探せばすぐ見つかるのに、なぜ探そうとしないのだろう、と。
内心悪態をついているが、それを表に出せばクレームに繋がりかねないので、いつものように声を明るめにして「ご案内いたします。」という。
顔までは嘘をつけないと真顔で撫子がよくやる手法だ。
案内したはいいが、そいつは感謝のお礼もなく商品を取り、レジに向かっていく。
車に轢かれて苦しめばいいのにな。
今日もそんなことを思ってしまうことが、撫子は嫌だった。
今日の業務が終わって帰る際、ふと転職がよぎった。
私が常に自信がなくてイライラしてしまうのはこの仕事のせいなのではないか、
だって今日も客に声をかけられただけで不快そのものだった。
そうだ、きっとそうに違いない。
仕事を変えればきっと私も変われる。
転職サイトを開いて検索してみるが、自分になんのスキルもなければやりたいこともないことにまた絶望する。
どこにも行けない。どこにも必要とされない。
そもそも必要とされないことが苦であることがおかしいのだと。
自分の好きなことや趣味があればそんな悲しい結果にはなってないのではないかとまた凹む。
仕事をしていると自分を見直さなければならないことが多いにあるが撫子はそれが過剰だった。
そして自信を自らの手で奪っていく。
それに気付くのが遅すぎた。
マリーゴールドの行末。 月雪 こう @madao1111
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