ep13/故郷を夢見て(ラピア)
そんな帝都の城壁の上に人影がある。もうすぐ夏だというのに、
きょろきょろと周囲を見回していたリゼータは、
大きく鋭い眼に草色の瞳。ボサボサに跳ねた栗色の髪。幼さが残る
「……よぉ、ラピア。何をしてるんだ?」
夢中になって郊外を見詰めていたラピアに、リゼータが背後から声を掛ける。
しかしラピアは獣じみた勘のおかげか、すでにリゼータの存在に気が付いていたようで、驚くこと無く質問に答えた。
「おっす、リゼ兄ぃ……見て見て。あそこら辺が良さげなんだよね」
ラピアから手渡された双眼鏡を覗き込むリゼータ。言われた先に
「村を作るなら、土は何よりも大事でしょ? もしも
ラピアの笑顔には、
彼女の故郷であるビスタ村は、十年前に発生した
幸か不幸か、村民の大多数は生き
ラピアは道中で盗賊に襲われ、親兄弟や村の仲間たちと引き裂かれ、どうにか逃げ延びて
そこから色々あったが――ラピアは空猫ノ絆に入り、今は
このままいけば神還騎士団に入り、
得意気にしているラピアの頭を
「……うん、あたい頑張るね。えへへっ……」
するとラピアは撫でられるままに、くすぐったそうに笑うのだった。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。ゴーン。ゴーン。
やがて帝都中に鐘が鳴り響く。時計台に置かれた午前九時を知らせる鐘だ。
鐘の音を耳にしたラピアが、尾を踏まれた猫のように跳び上がった。
「やっべ! リゼ兄ぃ、そろそろ約束の時間だよっ!」
ラピアは慌ただしく騒ぎ立てて、壁塔からするすると滑り降りる。
そして歩廊を
「ていやあ~~っ!」楽しげな叫びを上げるラピアは、五回転ほど宙返りを決めた後、羽根のように民家の屋根に飛び乗った。
それからリゼータを振り返り、大きく手を振りながら声を張り上げる。
「ほら、リゼ兄ぃも急いで急いで~~!」
リゼータは「了解だ」と呟き、同じように城壁を飛び降りるのだった。
モノトーンの街並みを、背広姿の
そしてその一角に
世界的豪商であるボルザール・ベヒードラムが管理するこの銀行は、世界各地に多くの支社を持っており、その影響力は経済界において計り知れない。もしもウィラード銀行が倒産すれば、世界的恐慌が吹き荒れるとまで
そんなウィラード銀行の、最上階に作られた応接間。
広々とした部屋には、金巨虎の
そんな
やがてノックが鳴らされると、重厚な音色を立てて扉が開かれる。
そして現れたのは、
その脇には、重要な書類が入っているであろう
「お待たせ致しました。ラピア様にリゼータ様。本日はどのような御用でしょう?」
黒髭紳士は
彼もリゼータが罪紋者であることは承知だが、それでも敬意を崩さないのは彼自身の品格もあるのだろうが、
社会的知識に
「これを……いつもの所に振り込んでおいてくれ」
リゼータが
「かしこまりました。では、振り込み先を確認させて頂きます。レイゼンバーク市のフワラ孤児院、グロッサム市のピルネア孤児院、ウォドリック市のキャントリー教会。その三個所に二千五百万シェルガずつ、合計で七千五百万シェルガを送金
「ああ。名義はいつも通りにラピア・ビスタで」
「
リゼータは
「ラピア、ここにサインをしてくれ」
「うん! わかった!」
ラピアは元気よく返事すると、不器用にペンを握ってサインを記入する。
書き上がったその文字は、ミミズがのたくったような
「それと……ピルネア孤児院より、ラピア様
黒髭紳士はクイと眼鏡を持ち上げた後、
するとラピアは「本当っ!?」と、
「リゼ兄っ! 読んで読んでっ!」
「そんなに
ラピアは文字が読めないので、よくこうしてリゼータに代読を任せていた。
リゼータは手紙を取り出して、一つ咳払いをすると、
× × × × × × × × × × × × × × × ×
今回も、多大なる
ラピア様のおかげで、ピルネア孤児院の皆々は非常に助かっております。おかげさまで今年も子供たちは、病気も無く、飢えもせずに済みました。
そしてビスタ村出身の子供たちだけではなく、他の子たちの分まで気を回していただき、子供たちの代わりに
話は変わりますが、先に帝都を
けれど、あまり御無理はなさらないで下さいね。ラピア様方に何かあれば、私自身もそうですが、何よりも子供達が悲しみますので。
まだまだ感謝の言葉を語り尽くせておりませんが、このぐらいにしておきます。子供たちが語りたい分を奪ってしまいますので。
そして最後に。これからも空猫ノ絆の皆様の更なる御活躍と、無事を祈っています。母神アルメイダ様の加護がありますように。
【ピルネア孤児院院長、サーラ・ドレアムより】
いつも色んなものをありがとう。ラピ姉ぇは私たちのヒーローだよ!
でも怪我には気をつけてくださいね。いつも院長先生と一緒にお祈りしています。
【ターニャ・ビスタより】
僕もラピ姉ぇみたいな立派な
それと、恐ろしい竜を倒したって聞きましたが本当ですか?
今度会った時に聞かせてください。すごく楽しみにしてます。
【ジェイル・ビスタより】
ラピねぇがおくってくれたサツマイモ、すごくおいしかったです。
またたべたいです。チーズもすきです。ドライフルーツもすきです。
でも、トマトはあんまりおくらなくていいです。
【ポーリン・ビスタより】
× × × × × × × × × × × × × × × ×
「へへへっ……みんな元気そうで良かった……!」
リゼータが手紙を読み上げた後も、ラピアは手紙を眺め続けていた。
その瞳には、じんわりと涙が浮かんでいる。たとえ文字が読めなかったとしても、親しい人たちが書いてくれた手紙が嬉しくてたまらないのだろう。
そんなラピアの喜びは、家族同然であるリゼータにとっても嬉しいものだった。
空猫ノ絆で七年以上も苦楽を共にしたリゼータにとって、もはやラピアは実の妹のような存在となっていたのだから。
「リゼ兄ぃ! あたいのことヒーローだって!」
「ああ。良かったな」
「えへへへ……しかたねーなぁ、あいつらは! やっぱりあたいがいないとダメだな!」
「ラピアは
「リゼ兄ぃもやっぱそう思う? へへ~~ん!」
これが大人ならば情けない話だが、まだラピアは幼さを残す十四才。調子に乗る様子すら微笑ましく、つい調子を合わせて
「よ~~し! この調子でガンガン稼いで、すぐにビスタ村を再建してやるぜ!」
「ああ、そうだな。この調子で頑張ろう」
「リゼ兄ぃも、新ビスタ村に住んでいいよ! リゼ兄ぃなら
「…………ありがとう。そいつは楽しみだな」
――のどかな農村で、ラピアと
そんな未来を想像して『悪くない』と、リゼータは微笑みを浮かべるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〈作者コメント〉
どうも。クレボシと申します。
『あたい』って一人称、古いかもしれないけど好きなんです。
応援・感想・評価などをつけて頂けると嬉しいです。
誤字脱字の報告もしていただけると助かります。
※タイトル(ABYSS×BLAZER)はアビスブレイザーと読みます。ブレザーじゃないですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます