話を聞こうと決めたから

「……………」


 昼休みになり、俺は改めて弁当を食いながら姉妹の二人を見ていた。

 以前はこうしていると友人二人に何見てんだよと揶揄われはしたものの、やはりあの二人の微妙な雰囲気は周りに伝染してしまっているらしい。


「……マジで何かあったのかな?」


 聞きに行きたいところだが……かといって教室だと目立つからな。

 俺は二人の友人……だからこそ何か悩みがあったり、問題でも起きているのだとしたらそれを解決したい気持ちはもちろんある……でも、やっぱり普段と違うからこそ俺もビビっているのかもしれない。


「あ……」


 そんな中、輪廻と話していた友人が彼女から離れた。

 おそらくお手洗いに行くものだと思われるが、俺は少し悪いかなと思いつつ彼女を追うように教室を出た。

 流石にトイレに付いていくような馬鹿はしないので、即座に声を掛けた。


「ちょっと待ってくれ!」

「え?」


 俺の声に彼女――進藤さんは振り返った。

 声を掛けたのが俺と分かると、彼女はどうしたのかと純粋な視線を投げかけてきたので、俺は素直に聞いてみることに。


「輪廻と黄泉のことなんだけど」

「……あ~」


 これだけで彼女には十分だったらしい。

 ちょっとトイレに行ってくるから待っててと言われたので、思った通りだとは思いつつも分かったと頷き彼女を待つ。

 それからしばらくして戻ってきた彼女と俺は向き合った。


「それがねぇ……私も詳しくは聞いてないんだよ。明らかに様子がおかしいのを見てどうしたのとは聞いたけどさぁ。二人して何でもないとしか言わないもん」

「……そうか」

「でも何かあるのは確実なんだよねぇ……姉妹喧嘩でもしたんじゃない?」

「喧嘩……なるほど」


 確かにあの二人があそこまでなるとしたら喧嘩の線は濃厚だろう。

 あんなに仲が良くて、お互いにお互いを思っていて……でも黄泉はちょっと輪廻に対してコンプレックスを抱いてはいたけど、それでもそのコンプレックス以上に姉妹の仲は良かったのだから。


「その様子だと長瀬君は一切知らないんだ?」

「あぁ……俺も周りのみんなと一緒でなんだあの雰囲気はって思う側だよ」

「……そっかぁ。ワンチャン長瀬君なら何か知ってると思ったんだけどねぇ」


 流石にそんなことはないんだけどな……。


「そんな風に笑わないでよ。私たち女子は特に長瀬君のことは信頼してるから」

「信頼?」

「うん」


 強く頷いた進藤さんから続く言葉が気になり、俺は一言も聞き逃さないようにと集中した。

 進藤さんはそっと体の向きを窓の方へと向け、外の景色を見つめながら続けた。


「輪廻と黄泉さ……たぶん思った以上に長瀬君の話してるよ? 私たちが困ったようにもう良いからって顔をしても次から次へと話しちゃうんだから」

「そ、そうなんだ……」


 輪廻ー! 黄泉ー! 俺の居ない所で何を話しているんだ!

 きっと今の俺はかなり顔が赤くなっているはず……いやなってたわ薄らと窓に映る自分の顔で確認出来たし。


「正直、私たちからすれば長瀬君を知らないからどうしてそんなに気になるのかは分からないんだけどね」

「……ま、そうだよね」

「うん……でもあの二人があんなに楽しそうにしてるからね。それなら友人を信じるのは当然だし、その友人が信じる君を信じてみたいって思うのも普通でしょ?」

「……ありがとう進藤さん」


 ……やっぱり、あの二人は凄く良い友人に恵まれているみたいだ。

 俺も進藤さんに並ぶように横に立ち、窓の外の景色を眺めながら言葉を続ける。


「輪廻も黄泉もやっぱり素敵な友人に囲まれてるんだな。俺にも凄く仲の良い友達は居るけど、本当に大切な友人なんだ――本当に幸せなことだよ」

「……あ」


 家族や友人のことを考えると俺の場合は自然と笑みが零れるらしく、俺の表情で何を考えているのか当てられることも割と少なくない。

 だから今回もその例に漏れず、俺はきっと笑顔で進藤さんにそう言えたと思うんだが、肝心の進藤さんはポカンと目を丸くして俺を見つめている。


「えっと……どうした?」

「……あ~うん。その……凄く良い笑顔だなって思っちゃった」

「……そうなんだ?」

「うん……良いね。そんな風に真っ直ぐ言えるの素敵だと思う。友達とか家族のことをそんな風に言えるのは長瀬君の魅力だね」

「……ありがと」

「あははっ、照れてやんの~」


 ええい! そんなことを言われたら誰だって照れるだろうが!

 顔に集まる熱と恥ずかしさが顕著に出てしまう表情を隠した俺を見て、キャッキャと笑いながら進藤さんが背中を叩く。

 そうこうしているとチャイムが予鈴が鳴り、俺たちはマズいとすぐに教室へと戻ることに――ただ教室に入る直前、進藤さんはこう言った。


「確かに二人のことは心配しているんだけど、そこまでかなって気はしてるの。何だかんだあの二人はとても仲良しだし、長瀬君って人も居てくれるからね!」

「俺はそんな風に言われるような奴じゃ……」

「ううん、全然その通りだと思ってるよ。だから今の二人の様子も長瀬君がきっかけでいつも通りに戻るんじゃないかなってガチで思ってるから!」


 それじゃあねと手を振って進藤さんは教室へ入って行った。

 俺もその後に続くように教室に入ったけど、その時に見た輪廻と黄泉はやっぱり互いに視線を合わせるようなことはなかった……そして、俺とも目が合うことはなかったんだ。


(これはかなり根深いな……本当に何があったんだろうか)


 気になる……気になって仕方ないのなら動くしかない。

 俺は放課後にでも二人の内どちらからか話を聞こうと思ったのだが、意外とそのチャンスは昼休みの内に訪れた。

 トイレの帰りに一人で廊下を歩く輪廻を見つけたからだ。


「輪廻!」

「……明人君?」


 俺は輪廻を連れてまた屋上へと向かう。

 だが……俺も輪廻も気付かない――そんな俺たちを彼女が、黄泉が見つめていたことに最後まで気付かなかったんだ。






「私じゃなくて姉貴なんだ……」

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