亀裂?
「……ここは?」
ふと、不思議な空間に自分が居る夢を見ることはあるはずだ。
といっても最近の俺はどうも夢見が良いというか……輪廻や黄泉に連なる昔の夢を何度も見てしまう。
それはまるで過去の足音はもう俺を捉えているんだと言わんばかりに、そして二人のことをもっと考えさせるかのようだ。
「あれは……昔の俺たち?」
俺の目の前に現れたの一人の男の子と二人の女の子――それが俺と彼女たちであることはすぐに理解出来た。
三人で遊ぶ俺たちの姿、それは周りの人々が微笑ましくなるほどの仲の良さだ。
「オレ、ちょっとあっちのサッカーに混ざってくる!」
「あ、よーちゃん!」
「……行っちゃった」
公園で遊んでいるからこそ多くの子供たちがその場には居た。
基本的に知り合いで集まるのが普通だけれど、黄泉はその天性とも言うべき人懐っこさを活かすようにサッカーをする子供たちの輪の中に入り込む。
「……昔から凄かったんだな黄泉は」
思わずそう呟く。
これが単に存在しない妄想の可能性も捨てきれないが……ここまでハッキリとこれが昔の光景だと考えられるあたり、これはきっと現実だったんだろう。
男の子と間違うほどに活発なのは性格だけでなく見た目だってそう――そんな黄泉が居なくなった後、見た目だけなら黄泉にそっくりな輪廻の傍に俺は控えている。
「砂遊びでもする?」
「うん! あっくんとならなんだって楽しいもん!」
……昔の俺、こんなことを真っ直ぐに言われていたんだな。
それにしても、過去の自分たちをこうして客観的に見つめることが出来るというのも不思議な感覚だ。
キャッキャと楽しそうに騒がしい黄泉の声をBGMに、俺は砂遊びに興じる過去の自分自身と黄泉を見つめる。
「りーちゃんはよーちゃんが大好きなんだな」
「うん! 私が居ないとダメなの! 私があの子を守るんだから!」
この時から輪廻は黄泉のことを守りたいと願っていた。
幼いながらも明確にその言葉を口にできる彼女は素晴らしいと思うし、本当に優しさと思い遣りの塊であり、多くの人たちに好かれるような子だ。
そんな輪廻とベクトルは違うまでも多くの人に好かれるという面においては黄泉も同様で……お互いがお互いにない物を補うような理想的な関係――それが輪廻と黄泉の姉妹関係なんじゃないだろうか。
「……ねえあっくん」
「うん?」
「……本当にお引越ししちゃうの?」
「……うん」
「いや!!」
二人の姿を見守るように俺は座っていたが、そんな俺の目の前で輪廻が大きな声を上げて幼い俺に縋りつく。
「嫌だよ……どうして居なくなっちゃうの? こんなに仲良くなれたのに……」
「……ごめんりーちゃん」
それから輪廻は泣き始めてしまった。
こんな時、無駄だと分かっていても何も出来ない自分がもどかしい……でもこういう姿を見ると、あんなにも俺に対して抱きしめて安心させてほしいと言ってくる彼女はやっぱりこの子なんだと分かる。
「……結婚の約束ねぇ。本当に小さな少年時代って感じだわ」
幼い頃に結婚の約束をする……漫画やアニメだと良くあるシチュかもしれないが、それを実際にリアルで経験するのは稀なことだろう。
この夢だけでなく、輪廻と会っている時に思い出した……これは間違いなく現実にあったことなんだ。
「大丈夫だって! 絶対にまた会えるからさ!」
「……ほんと?」
「おう!」
その約束……ちゃんと果たせたなと今だけは、過去の自分を褒めてやりたい。
思い出すまで長かったけれど、それでも俺たちはお互いに昔のことを思い出しこうして出会えたのだから。
▽▼
「……ふわぁ」
「凄い大欠伸じゃないか」
「まあな」
「夜更かしでもしたか?」
「別に……普通に寝たつもりだけど」
学校での朝はどうしてこんなにも眠たいのか、それは長く続く疑問だろうか。
平日は目を覚ましてから眠たい時間が続くのに対し、休日は何故か睡眠が浅くても特に眠たくならない不思議体質……う~む本当に不思議だ。
(ま、あの夢を見た後にしばらく起きてたからな……やれやれだぜ)
夢を見てすぐに起きたわけだが、その時間は五時……あまりにも早すぎる。
いつもなら目を覚ますのが六時半とかなので、流石に眠れなかったとはいえその時間から起きていた代償だこれは。
「……ふわぁ」
「授業中、バレないように寝ろよ?」
「寝て良いのかよ……」
「眠たかったら寝ちまうからな。まあ仕方ねえって」
いやそれは……まあ、確かに仕方ないかもしれないな。
まだ一限目すら始まってないのにこの地獄のような眠たさ……今日一日、どうなるんだと不安を抱く俺だったが、そんな俺の眠気も早々に吹き飛ぶことになる。
何故ならそれ以上に気になる事件が飛び込んできたから。
「おはようございます」
「あ、おはよう!」
「おはよう……あれ?」
挨拶をしながら教室に入ってきたのは輪廻だった。
……ただ、いつも一緒に居るはずの黄泉の姿が見えず、先にトイレにでも行ったのかなと俺は思っていた。
だがそうではなかったようで、少し遅れる形で黄泉もやってきた。
「おはよう」
クラスが誇る美人姉妹の登場に当然ながら教室の色めき立つ……しかし、輪廻の傍を黄泉は何も言わずに素通りし、輪廻も特に反応を返さない。
いつもなら友人を交えて仲良く姉妹揃う二人が何も言葉を発さず、更には視線すら合わせずに席に座って各々の時間を過ごす――それは別に珍しいことではないかもしれないけれど、あんなにも目を合わせないというのがあまりに異質だったんだ。
(……なんだ?)
その光景は内心で俺が疑問に思うほど、おかしなものだと直感した。
二人の間にある何かは分からないまでも、確実に良くない方向で何かが起きていることを感じさせ、朝から俺は眠気を忘れるほどに不安を抱いた。
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