ようやく
こういう時、どんな言葉を掛ければ良いのだろうか。
まるで運命に導かれるようにこうして彼女たちとこの場所で会った。目を丸くして俺を見つめてくる二人の様子に俺は苦笑し、取り敢えず朝に出会ったらまずは挨拶だと口を開いた。
「おはよう――輪廻さんに黄泉さんも」
「……おはようございます明人君」
「おはよう……明人君」
……………。
えっと……本当にどう言葉を掛けようか。
建物に続く道のど真ん中で俺たち三人は立ち止まっており、流石に通行人の邪魔になるだけでなく、唖然とする美少女二人に見つめられる俺という組み合わせは不思議なほどに視線を集めるようだ。
「えっと、二人は何か用があったのか?」
「いえ……私と黄泉は特に何もありません。でも……何かある気がして」
「そうね……どうしてかここに来たくなったのよ」
二人の言葉に、こう言っては少しキザかもしれないけど運命を感じてしまった。
何も用がないのなら周りの人の邪魔にならないように移動しようと伝え、俺は二人を連れてある場所までやってきた。
その場所は昨日も訪れた公園で、黄泉さんにとっては昨日ぶりだ。
少し離れるだけならあの近くでも良かったのだが、輪廻さんが少し静かな場所に行きたいとボソッと呟いたため、ここまで歩いてきた。
(思った通りあまり人は居ないな)
やはりこの公園も朝だと人影は少ない。
子供の姿はないし、散歩をしている老人夫婦くらいしか見られないので本当に静かだった。
「ごめん二人とも。ここまで連れてきちゃって」
「いいえ。構いませんよ」
「私も全然構わないわ」
まあ離れたと言ってもそこまでの距離があるわけではない。
遠くを通る車の音くらいが聞こえる静寂の中、その静けさを楽しむような二人の姿を俺はしばし見つめていた。
(……さてと、そろそろ本題に入ろうかな)
早速話してみるか、そう考えた瞬間に二人も自然と俺の方へ視線を向けた。
まるで何か言葉を待つかのようなその姿に、俺はどこかあの懐かしい何かを感じてしまい、本当の意味で昔に戻るかのような感覚に身を委ねる。
すると気分はさっきよりも遥かに落ち着き、俺はゆっくりと語り出す……その前に黄泉さんが先に口を開いた。
「あ、待って明人君」
「? なに?」
「……もしかしてさ。明人君って私たちのこと……どっちか分かるの?」
「……あ~」
そういえば黄泉さんには結局言ってなかったなと思い出す。
チラッと輪廻さんを見るとクスッと笑っており、俺がどういう反応をするのか楽しんでいる様子だ。
元々まだ伝えないでほしいと言ったのは輪廻さんなのに、中々に良い性格をしているじゃないかと俺はため息を吐く。
「ちょっと……その反応だともしかして姉貴?」
「ふふっ、少し前に気付きましたよ私は。黄泉が気付かなかっただけです♪」
あ、黄泉さんの視線が鋭くなった。
それでも特に何かを輪廻さんに問い詰めたりするわけでもなく、彼女は俺の方に再び視線を向けてこう続けた。
「その……昨日ここで会ったでしょ? その時に私だって教える前に分かってくれたことを後々になって疑問に思ったのよ。話し方とかで察したかもとは思ったけど、もしかしたらってね」
あぁ確かに昨日はそうだったな。
木の上に登ってからすぐのことだったので、特にその辺りのことは気にせずに黄泉さんの名前を呼んでいた。
あの場所に彼女が居たこと自体の驚きが大きかったからだ。
「その……ごめんな?」
「良いわよ別に。どうせ姉貴がまだ言わないでくださいとか、驚かせたいと思ったからとか言ったんでしょ?」
「あら、そこまで分かるんですか?」
「姉貴のことで分からないことなんてそうそうないわよ」
「あらあら嬉しいことを言ってくれますねこの子は」
やっぱり喧嘩などになるようなことはなく、姉妹間のじゃれ合いに落ち着いたようで一安心だ。
ただ、やはり黄泉さんも輪廻さん同様に気になったらしい――俺がどうして二人のことを見分けられるのかその秘密に。
「少し長くなりそうだ。二人とも、時間とか大丈夫?」
「はい」
「えぇ」
大丈夫とのことなので、俺は今度こそゆっくりと話し始めた。
「俺も元々、どうして二人のことが見分けられるのかは分からなかった。周りの人が悉く間違えていく中で、そんなに間違えることかよって思ったことは何度もある。それだけ俺は二人のことを間違えることはなかったんだ」
既に詳細を知っている輪廻さんの表情に変化はないが、黄泉さんは目をキラキラさせて俺を見つめてくる。
「理由が分からないまま……なんだ。最近になって二人と知り合って……自分でも不思議なほどに話が弾んでさ。本当に仲良くなれたなって思う」
「そうですね」
「そうね」
そもそも彼女たちと言葉を交わすきっかけになったのが普通とは違うので、そこもまた理由の一つではあったんだろう――でも、俺たちには明確に感じていたものがあった。
「その中で感じていたもの……それはどこか二人とのやり取りに懐かしいものを感じていたんだ。高校から出会ったはず……そのはずなのにどこか、二人と話していると感じる懐かしさはまるで――気の置けない友人と接しているかのようだった」
そう伝えると二人も頷いてくれた。
正直なことを言えば、俺はもうこの時点で写真の子たちが彼女たちではないかと勝手に断定している……いや、絶対にそうだと確信を持ってしまっている。
ジッと見つめてくる二人に俺は言葉を続けた。
「よく分からない懐かしさと気を許し合えること、それを互いに感じていたのは決して偶然なんかじゃない。二人と過ごせば過ごすほど……その、もちろん二人のことを凄く綺麗だとか可愛いだとか考えるのは当然だった。でもそれ以上に、やっぱり懐かしいって気持ちが強かったんだ」
「少し、照れますね」
「そうねぇ。でも、それ以上にとても心が落ち着くわ」
そう言ってもらえるなら安心だよ。
でも……本当に今言葉にした通りだった。
一人の男として美人姉妹と言われている二人のことを可愛いだとか綺麗だとか思うのは当たり前だったし、近くで話をすればドキドキして……甘い香りだったり体の感触に色々思ってしまうのも仕方なかった。
「それで今日――夢を見たんだ」
「夢を?」
「……………」
夢を見た、そう伝えると二人の目の色が変わった。
「夢だから真実なのか、それとも都合の良い妄想なのかは分からない。でも俺にはかつて仲良くしていた二人が居た。別々の幼稚園に通っていて、そんな俺たちが出会う確率なんて低いはず……それなのに出会って仲良くなった二人が居た。短い間だったけど、出会い頭に屈伸なんて馬鹿なことをしたのが功を奏したのか凄く仲良くなってさ」
「……………」
「……あ……あぁ」
ジッと見つめたままの輪廻さんと、段々と何かを思い出したかのように目を丸くしながらも口元に手を当てた黄泉さん……俺はあの写真を取り出した。
「これ、家にあったんだ。一枚だけ残されてたその二人との写真が」
そういって俺は輪廻さんに手渡した。
輪廻さんの手元を覗き込むように黄泉さんも目を向け……そして二人は固まり、しばらくしてゆっくりと俺を見上げた。
輪廻さんも黄泉さんもしばらくボーッとしていたが、すぐにその瞳は揺れ出した。
「その二人は……輪廻さんと黄泉さんで合ってるのかな?」
そう問いかけると二人は頷いた。
ようやく……ようやく見つけたというか、再会したというか……でも、一番大事なことは伝えないといけない。
「ただいま――りーちゃん、よーちゃんも」
「あ……っ!」
「っ……!!」
その呼び方が最後の扉を開いた気がした。
実を言うとりーちゃんとよーちゃんって呼び方は意図して口にしたわけではなく、何となく言葉になって出てきたものだ。
「その……必ずまた会いに来るって約束してたからさ」
約束……十年も経ってからになってしまったけど、ここまで来てあの記憶の子たちが全然違うなんて空気の読めない展開を流石に神様は用意していないはずだ。
「あきくん……あきくん!」
「あっくん……あっくんだわ!」
その瞬間、ギュッと二人に手を握られた。
そのまま二人の間に引っ張られるようにベンチへと腰を下ろし、こうして二人に囲まれることすら懐かしい気持ちが勝った。
でもまあ取り敢えず、今日はこれから話をすることがたくさんのようだ。
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