Victim And Witness ―被害者と証人―

「片付けを手伝った代わりに僕らも塩焼きを貰ったから」

「そのお礼に事件への貢献を許可いたします」

「お巡りさーーーんっ、人攫いでーーーすっ」

「何してんだ」


 犠牲者しょうにんに選ばれたのは丁香花だった。墨黒と対照となる白純なのもあって、苦手意識が強いらしい。……兄一郎と妹子が特殊だからという理由が最大手だろうけどな。


 双子に担がれて泣き叫ぶ生徒をボーッと眺める。そうしていたら「不良教師の裏切り者ーーーっ」とか喚かれた。誰が不良教師だ、誰が。


「先生の心証が当てにならないのは分かっているから」

「オイコラ」

「身近な生徒である貴方の意見をお伺いしたいのです」

「……財布……先生のを……使ってえ……」

「お前は何しれっと教師を売ろうとしてんだ」


 内申点下げてやろうか。

 それはそれとして、べそべそ泣いて「何が聞きたいんすかあああ」と腹をくくっている。


「さっきのギャグ空間を連発していた」

「貴方を含めた4名と先生の関係性は」

「教師と生徒です早く陰キャを離してください顔面偏差値ハーバード大学推薦生のお二人!」

「個人の掘り下げを」

「お願いいたします」

「僕といそみんこと青薔薇五十美さんはゲーム同好会でピンクヤンキーの蘇芳仰とザ・委員長兼僕と同類だと勝手に思っている菫崎七実さんは先生が担任ですごめんなさい逃がしてええ」

「先生」

「翻訳」

「頼る前に会話を成立できるようにしてくれ」  


 丸投げしやがったこの双子。俺の教科が英語だからか? 何度目か分からない頭痛の気配を感じながら簡潔に分かりやすく伝えた。


「こいつと青髪モデル体型が俺の顧問をしているゲーム同好会。身長エレベストピンクと伊達メガネ三つ編みが担当クラスの生徒。

 補足すんなら、身長エレベストピンクは去年も担任をしていたぞ。……つったって、あんまり来ていなかったけどな」


 蘇芳は家庭環境に問題があって、本人のメンタルを含めてゴタゴタしていた。その辺りに介入したこともあるが……今は(補習はサボるものの)普通に登校してくるし、関係ねぇか。


「ああ、通りで……見慣れない人だと思っていたんだよ。分かりやすく目立つのに」

「そうですか、去年いらっしゃらなかったのですね。1年生かと思っておりましたわ」


 ちょっと黙ってから、妹子が「すみません」と軽く挙手する。


「白純丁香花さん、蘇芳仰さんは先生に対してどのような印象を抱いていると思いますか?」

「それ本人にしか分からない気が」

「白純丁香花さん」

「さーーーせんしたっっっ」


 弱いよお前……。

 丁香花は担がれっぱなしで頭を捻った。それから少しして「ピンクヤンキーは」と苦々しそうに語り始める。



「前よりはマシだけど、多分まだ先生に依存してんじゃないかなー……なんて」



 は?


 妹子は口角を上げて「依存とは?」と深掘りした。


「なんかこう……先生に関する反応が重いっていうか……目がマジっていいますか……先生の前では普通だけど、この間ここの卒業生が先生に会いに来た時なんかすっごい顔していたしで……うん、メンヘラみが強い気がする」


 初耳だぞオイ。

 兄一郎は「へえ」と楽しげに微笑む。サラ、と流麗な黒髪が彼の胸元を滑った。


「容疑者候補の筆頭ってことかい」

「動機が他の方より強力ですから」

「え、何、何事? 何の事情聴取だったの?」

「分からん。つーか、依存は言い過ぎじゃねぇのか? 流石にちっと重いぞ」


 思わず確認すると丁香花から渋い顔を返される。かと思えば、イタズラを仕掛けた後のような表情に豹変した。


「でも先生が見捨てることはないんでしょ?」


 ……確かにそうだけどよ。見透かされていることに若干の心地悪さを感じる。


 兄一郎と妹子はしばらく2人で話していた。やがて、兄一郎が振り返る。絵画並の顔立ちと玩具を見つけた子供の目が輝いた。



「今回の作戦は【蠱毒】で行くことにしたよ、先生。頑張ってね」

「は?」

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