Four Suspects ―4人の容疑者―

「今度は墨黒共に巻き込まれてんのかよ?」

「あいつら曰く俺が巻き込んでいるらしい。課題出せたか?」

「……ちょっと無理だった」

「そうか」


 俺はまた首を痛める角度を保ったまま会話していた。今度の対象は俺公認のストーキングを始めた双子じゃなくて、素行不良が見られがちな生徒だけどな。


「最近の高校生は発育がいいな」

「お前は平均くらいか? チビ先公」

「世の中の平均身長男性全員を敵に回したぞ」


 ピンクの髪を触りながら、蘇芳すおうあおぎは俺の背後にチラチラと視線をやる。


「アイツら結局何してんだ?」

「容疑者選考会だとよ。そういやお前、補習はなかったのか? 確か今日だろ」

「委員長に引きずり出されそうになったから逃げてる」

「そこは最低限のラインだから出といてくれ。後から俺がどやされる」

「知るか」

「知れや」


 一応担任なんだが。癖が強いやつばっかり集まってくるのはなんなんだよ本当に。

 ふと、遠くから「せーーーんせーーー」という声と2人分の足音が聞こえてきた。


「いそみんがまたゲーム機を故障させたんですけど!」

「丁香花先輩が部室で塩焼きするせいでお腹空くんだって!!」

「何してんだ揃いも揃って!!!」

「クソウケる」


 俺が顧問をさせられているゲーム同好会の2人、白純しらすみ丁香花はしどい青薔薇あおばら五十美いそみ。俺の中での別名は金持ちトラブルタイフーン組。


「塩で焼けば世界は平和になるという信条に従ったまでで」

「故障はわざとじゃないもん、ちょっと配線をオシャレにしたかっただけだもん」

「逃げ回っていれば諦めっかなって」

「まず丁香花は部室で火気を使うな、お前の場合だと塩分過多で生活習慣が乱れまくる。

 次に青薔薇、電気関係は知識がない中で好き勝手弄るな。また爆発を起こされても困る。

 ラストの蘇芳はせめてそっち側になるな。ただでさえツッコミが足りねぇんだから」

「知るか」

「知れや」


 後ろの双子は笑うんじゃねぇよ。妹子に至っては撮影すんな。

 またまた更に「すーおーうーーー」と怒り混じりの呼びかけが耳に入ってくる。その瞬間に蘇芳がパッと顔を上げた。


「先生! そのド不良、捕まえてください!」


 真っ青な顔で息切れしている委員長、菫崎すみれさき七実ななみが早歩きでこっちにやってくる。


「おう。つー訳で頑張れ」

「え何、ピンクヤンキーは補習? 補習なの? 補習食らったの? あのテストで? ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」

「ドンマイです仰先輩! 頑張っ」

「そこの長身美少女もお願いします!! さっき先生に呼ばれていました!!」

「いやお前も補習あったのかよ!? サボって何やってんだ青薔薇!!」

「あ゛ーーーーーっ」

「いそみーーーんっ」

「クソウケる」


 双子が後方で崩壊していた。特に兄一郎のはまりようがひどくて、柱をドゴンドゴン殴りつけている。設備破壊は止めろマジで。


 サボり魔共が委員長に引き渡された後、成績だけは優等生の丁香花が裏声で「2人ともかゎぃそぉ」と呟いた。1拍して、本人の肌が鳥みたいになる。自業自得で自爆しやがった。


「とりあえず部室見に行くぞ。塩焼きの後始末は自分でなんとかしろ」

「うへえ」


 場所を移動し始めると、長い影が3つ並ぶ。チラッと背後を見やれば変な動きで双子がついてきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る