第30話
今、俺は街を抜け出した。
辺りは森、家への帰路、片道1時間コース。そんな道を瀬名は走っていた。
さすがにここまで来たら、襲われることはないだろう。人目のつかない所で、という話ならばまさに絶好の場所だけど。まぁいいや。今の俺は絶好調。10人程度なら逃げ切れる。そこら辺はいつもと変わらない。
これは第二関門突破と言っても過言ではないだろう。
後は最終関門である自宅前だ。
いや~~ね。それなりに時間がたって感じ始めているんですよ。嫌な予感というやつをね。
どうやら会長との一件は無関係だったらしい。だからあんなにすんなりと終わったわけだ。納得納得。
今でも感じているということは、家に関する嫌~なことが待っているらしい。家とも関係ない可能性もあるが、その場合は候補が多すぎるのでその考えは放置する。
そもそもの話、嫌な予感は絶食の影響による勘違いという可能性もあるしね。うんうん、俺体調が悪いからね。多分間違いだよ。きっと家に帰っても遭難者という爆弾は姿形すらなく、二度と俺の目の前に現れることはないね!
……跡形もないってことはないよね?爆弾が大爆発して家が消失してたりしない?ありえないはずなのに、ありえないと断言できない。なんでだよ。
とりあえず、その可能性を考えてみようか。
まず、爆発して家が消えていた場合。
まずはその原因。火事だな。家に爆発物はないので火災。そうなると台所の火の不始末という線が考えられる。そうなると爆弾が巻き込まれているか巻き込まれていないかの二択が考えられる。
巻き込まれている場合は…考えたくもない。遭難者は女でもあり遭難者だ。2日ぐらい遭難しているらしい。つまり2日間音信不通。女性でありながら、音信不通。その遭難者の事を知っている人たちはそろそろ、いやすでにめっちゃ捜しているだろう。
そんな人物が俺の家で焼死体として発見されたらしい。はい詰んだ。お疲れ様です。人生ありがとうございました。
もう考えたくない。最悪のパターンじゃねーか。どう対処しろと?学校休んで出ていくまで見守っとけってか?そもそも最初から追い出せって話か?ふざけんな。
とりあえず、巻き込まれていない状況も考えてみよう。
まず火災だな。山奥だな。大参事、じゃなくて大火災だな。消防車…むりだな。そもそも携帯電話がないので助けを求める方法がないな。すべてが終わるころにはすべてが灰の下だ。
いや、大火災ならここら辺には消火用のヘリが飛んでいるはずだ。つまり大火災は起きていない。すでに終わってる場合もあるかもしれないが、それならここからでも灰色の森が見えることだろう。見えていないから大火災にはなっていない。
それじゃあ大火災じゃない場合を考えよう。そうなると奇跡的に家だけが燃え尽きた場合か。…どうなるんだ?通報…する必要あるか?公共機関に助けを求めに何になる?そもそも家が燃えてます、助けてくださいと言ったしよう。何言ってんだこいつ、いたずら電話か、ガシャン(固定電話を叩き付ける音)の流れだろ。
そもそも連絡手段がないことは変わらず、金もない。家の残骸から小さな硬貨を探すのは大変そうだ。で、見つけても一枚最大500円。1000円以上は全部燃えているだろう。あ、未成年だからネカフェとかホテルとか使えねぇわ。終わった。死ぬ気で10円玉見つけないと。最悪道行く人に10円玉3枚くださいと土下座するしかねぇ。そして固定電話でお父様に助けて電話しないと。うむ、詰んでるな。
そういえば通帳も燃えてるか。再発行しないと…身分証明書とかも全部灰の中じゃね?……あれ?詰んでない?お父様に連絡しないとどうしようもできないじゃん。詰んでない?
いや待て、最終手段の底辺組がいるじゃない。体一つで突撃して「家燃えた助けろ」と言ったら大丈夫だ。お父様にはさようならの連絡でもしとけばいいや。
まずは灰の下から身分証明書を死ぬ気で探す。そして通帳を取り戻す。底辺組にカツアゲしてPC買う金借りて、死ぬ気で働く。その前に退学か。もう勉学とかそういうレベルじゃねぇ。今日からフリーターじゃボケカス。
住所は一応残ってるし、完璧だな。……意外と問題ないな。歳以外で弊害がないな。オタグッツ無くなったのは痛いが、それ以外は軽傷だ。底辺組の戸籍やら色々借りて、新たな副業として始めて父との関係性を完全に絶つという手段もあるしな。…これってRe.ゼロから始める異世界生活じゃね?……あながち間違ってないないな。
よし、流れに身を任せよう。たとえどのような状況になっても遭難者がお亡くなりになる場合以外、大丈夫だという結論が出された。かかってこいや喧嘩上等。
色々と考えていると思いついた事がある。先ほどの会長の一件に関して、自分と会長という主観を省き、客観視して説明してみるとしよう。
民衆を使って体調不良者を強制的に動かして悪化させた。
簡潔に説明するとこうなるだろうか。こう考えてみると意外とやばくね?会長って最低だったのね。見損なったわ。
しばらく走り続けていると、自分の家がある山が見えてきた。無事、木々の隙間から家の屋根が見えた。どうやら俺の想定はいらない子になってしまったようだ。最悪の流れにはならなくてよかった。
瀬名は安堵した。だが瀬名の気持ちは相変わらず、かかってこいや喧嘩上等だった。恐らく居ないだろうと思いながらも、遭難者は既に帰ったという結果を完璧な事実にするべく、更に先を急ぐ。
走る勢いを保ったまま、家へと続く山道を駆け上る。そして止まることなく家の扉をダンッと開け中へ駆け込む。まずは洗面台次にリビングと近い部屋からクリアリングしていく。
最終的に2階のベランダから屋根の上まで登り完璧に確認する。ついでに周囲の景色を見回し、怪しい人影すらないことも確認した。
良し、爆発物確認できず。帰ったか。よかったよかった。
そう思いながら瀬名は屋根の上からベランダへと飛び降りた。そして洗面台へ向かいながら息を整える。手洗い顔洗いと準備を終わらせ、冷蔵庫からリンゴを取り出しそのまま噛り付く。
絶食?知らん。腹減った。生ものは腐りやすいんだよ。さっさと食べるに限る。
瀬名は無心でリンゴに齧り付き一気に食べる。むしゃむしゃとリンゴの芯まで食べる。
俺は芯まですべてタイプの人間だ。特に理由はない。トマトと一緒だよ。ヘタ以外全部食べる。リンゴは種もあるか。まぁそんな所だ。
瀬名はゴミ箱へ残されたヘタを投げ捨てながら、口の中にある種をタネマシンガンのように吐き出す。うん、全弾命中。
瀬名は流れるように冷蔵庫から2個目のリンゴを取り出す。これで冷蔵庫にあるリンゴは最後だ。
リンゴをむっしゃむっしゃしながらリュックを部屋に置きに行き、リビングに戻る。
リンゴの残骸をゴミ袋へ投げ入れながら、洗い物を終わらせる。あるのはうどんで使った鍋とフォークとナイフと大きな皿、汁物用の器にコップ。
…ふむ。なるほど?
洗い物を終わらせたので、瀬名はすぐ側にあるバナナを取る。
こいつも生ものだ。一房、つまり5つある。今週は一つも食べてない。早く食べないと腐っちゃうよ。
バナナをもぐもぐしながら食料の在庫を確認する。
ふむ、やはりコーンスープ君が無くなっているか。もぐもぐ。この家に味噌汁の元はないので、当然と言えば当然だ。もぐもぐ…次のバナナ。となると俺の冷蔵庫事情からみると、もぐもぐ、食パンかな。もぐもぐ。
瀬名は残りのバナナを一気に食べる。バナナの皮を投げ捨てながら冷蔵庫に向かう。その間に次のバナナを取りながら、新たなバナナの皮を剥く。そのバナナを一口食べながら冷蔵庫の扉を開いた。ながらバナナだ。
やはり食パンが一枚なくなってるな。もぐもぐ。となるとバター、もぐもぐ、いや卵とベーコンか。もぐもぐ…次のバナナっと。なかなか優雅な朝食を食べたじゃないか。もぐもぐ。最高だね。もぐもぐもぐもぐ、次。
先ほど家中を見回った感じ変なものもなかった。大丈夫だろう。そこで瀬名はもぐもぐと5つ目のバナナを食べた。無事に一房食べきってしまったようだ。無事に一日に食べたバナナの本数と一房RTAの記録を更新できた。フルーツだけだったがなかなか腹が膨れた。お腹一杯だ。
瀬名は意味もなく、お腹をポンポンと叩いてみた。満腹感に比べて全然膨れていない。…ちょっと眠くなってきたな……そうだ。父にスマホ壊れたのでしばらく電話使えないってメールしなきゃ。
素早く手洗い顔洗いし、眠気を払った。二階に上り仕事部屋に入る。そしてPCの電源を入れる。そのまま流れるようにメールボックスを開いた。
いつも通り、まずは届いたメールを確認作業に入るはずだった。だが瀬名の腕は止まっていた。それどころか真剣そうな顔でPCの画面を見ていた。瀬名はそっと呟く。
「…お前だったのか。」
PCの画面には273と書かれてあった。それはちょうど、このメールアドレスに届いたメールが273件あることを示していた。
その事実を再確認した瞬間、冷や汗が湧き出てくる。嫌な予感の正体はこれだったのか。俺の第六感とやらは電子世界にまで到達するとは、さすが俺だぜ。
瀬名は椅子に座ったまま力なく天井を見上げた。
「ふーーーーふーーーーふーーーふーーふーふーふふふふふふっふっふっふっふっふ、フッ!!落ち着いた。いや落ち着け。焦るのはすべてを確認してからでいいはずだ。」
意図的に過呼吸になることで、理性を取り戻した。瀬名は素早くマウスを手に取り、目を見開きながらPCの画面を見る。
すすすとマウス移動とクリックを酷使し、11秒で確認した。マウスのサイドボタンの有用性はレベチ。
神経と指を酷使した反動なのか、自然と流れるように椅子にもたれ掛かった。奇しくもまた天井を見上げることとなっていた。
「そこまで大変な事態じゃなくてよかった…」
そこで瀬名はあーーーと脱力した声を出す。
確認した結果、仕事関係のメールは一件もなかった。これが一番心配だった。学校でなんやかんやあったせいで大切な何かを、忘れてたかもしれないと心配でしょうがなかった。
父からのメールもなかった。完璧。さっさとスマホ壊れたのでしばらくの間電話は使えません。学校が始まったのでメールの確認も遅れます。とタタタンとタイピングして送る。
そうなると273件も誰からメールを貰ったんだ?となるが、その答えは簡単。
底辺組だ。あの底辺組。この底辺組。どの底辺組?まぁ色々な底辺組だ。実は俺って人気者なんだよ。良い意味でも悪い意味でも。
先ほど確認したメール内容を簡単にまとめると、沸騰した水のようにグツグツと95件ほどダダダダンと送りつけてきている奴だったり、一言メッセージをまるで日記のように送ってきている奴だったり、きっちり1時間おきに丁寧なメールを送ってきてたり、普通のメールだったり、そんな奴らがいっぱい。数えるのはめんどくさい。
集計した結果、そのメールの内容は2パターンに分けられる。
1つ、いつものメール。相談、交換日記、お誘い、遊びに行こうぜ、おらその座俺によこせ、さっさと俺たちの街に来い、逃げるな、引きこもるな、無視するな、おいそろそろキレるぞと色々だ。後半はほぼ同一人物。
よく3日という短い期間で95件も送ってきたな。ラインじゃないんだぞ。メールだぞ。わざわざ毎回宛先を入力してから内容を書くという苦行を95回。2、3回ならともかく、95回。やべぇ奴だ。近づかない方が良い。
2つ目は、助けてくださいメールだ。名前の通り、何か俺に助けて欲しいことがあるらしい。
正直信じられない。あの底辺組共がそんなメールを騙す以外でする訳がない。だが実際に複数人も、似たり寄ったりのメールが届いている。その中には嘘を吐かないタイプの人間も何人か送ってきている。さすがに嘘ではないだろう。
そこで新たなメールが届いた。その内容を確認する。
『ちょうど今無視されて24時間経ちました。何か言う事あるだろ?』
例に漏れず底辺組関係だ。コイツが送ったメールの一つ前を確認してみると、2つ目に関係しそうな内容だったのでちょうど良いと、即座に返信する。
『で、何か用?』
『謝罪はないですか。そうですか。偉そうですね。ちょっと会わない間にずいぶんと出世したじゃありませんか。』
『最初から天地ぐらいの格差があったと思いますが、そこんとこどう思います?』
『何かあったのか?』
瀬名の送った内容を2つとも綺麗に避けたメールが届いた。
『入学で忙しかった。あとスマホ壊れたからしばらくこんな感じ、皆に伝えとけ。』
『わかった。』
少し待つが、返事が来ない。少しづつ、瀬名の怒りが漏れ出している。
もしやコイツは意図的に手数を増やして、返信を遅くして俺の睡眠時間を削りに来ているのだろうか?
不機嫌になり始めている瀬名は、勢いよくキーボードに指を叩き付け文字をコイツに送る。
『さっさと要件離せ。』
誤字った。クソが。
『とりあえずこっち来い。』
『今すぐ話せ。』
『長い書くのめんどくさいこっち来い。』
『眠い行くのめんどくさい今すぐ話せ。』
ここから底辺組がいる街まではざっと2時間半。往復5時間。コイツは俺を殺しにかかってるのだろうか?時刻はすでに5時50分を超えている。コイツを5分で片付けたとしても家に帰るのは11時。11時!?コイツはふざけているのか?
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