第26話 転身万版仰鮮
ボーっと夜空を見ているといつの間にか、朝になっていた。
夢心地のままで、ろくに回転しない頭でボーっと目の前の景色を眺める。
辺りは一面は森、目の前には古びた小屋という非現実的な景色に、異世界転生でもしてしまったのだろうかと思ってしまった。
だけど、どこからか吹く朝の風が肌を刺し、完全に目が冷めた。
寒い。
何かを考えるよりも先にぶるぶる震える体を両手で腕を抱え、走馬灯のように昨日の出来事を思い出した。俺は、俺をずぶ濡れにしたクソガキ共を許さない。
もはや全裸でいる状況が気持ち悪く感じるので、すばやく服を着る。触った感じ、服は完全に乾いていた。虫刺されの跡無し、服に虫食い害虫の付着無し、身体に異常なし。空を見上げれば、まだ赤みがかってる朝。よし。
瀬名はリュックに付いた土を手で払い、無いとはわかっていながらも忘れ物はないかと軽く見渡す。そして道に戻ろうと、森を抜けた。
木々の隙間を通り抜け、瀬名を出迎えてくれたのは綺麗な朝焼けだった。何度見ても美しい。
このまま喜びジャンプでもしようかと思ったが、腹痛を起こされたら堪らない。絶対安静。せっかく学校に間に合うであろう時間に起きれたのだ。ただでさえ最近は不運。
今年は厄年だと思っている。なので俺はこれからどれだけ災害から逃げられて、どれだけ損害を減らせるかの勝負年なのだ。
そういえば日の出連続観察記録は終わってしまったな……特に記録更新を目指していたり、記録していないからどうでもいいけど。
朝日が昇りかけているということはすでに6時ぐらいか。さすがに一度家に帰る余裕はなさそうだ。残念。
まぁ、覚悟はしていたのでいい。さぁ出発、登校の時間だ。
中学校がある恵宜地区についた。駅で時間を確認して、公園で髪を洗ってさっぱりする。適当にそこら辺を散歩しながら定期的に時計の針の位置を確認する。そうしていたらあっという間に学校は始まった。
今は朝の会の時間だ。
散歩の最中になにかイベントもなければ、悪いこともなかった。あのクソガキ共を見つけられなかったのは残念だが、厄介ごとがなかったので良しとしよう。
……今日の3時間目終了後、グラウンドに集合するように、」
ん?…いつもと違うな。何かイベントがあったっけ?
そんな疑問に組埜先生は答えることなく、話を進めていく。声を上げる勇気も、質問する気も全くない。だけど知りたい。なんとも難しいウロボロスに呑み込まれていた。
だが、答えはなんともあっけない所でわかった。それは同刻、教室内。朝の会の途中…
最前列で座っていた瀬名は、背後からこそこそと話が聞こえてきた。最前列であるここからでも聞こえているということは、組埜先生も聞こえているということだろう。
「……楽しみだな歓迎会。」
「今年は焼肉だろ?」
「授業中に焼肉…最高じゃねぇか。」
「俺っちたくさん食べちゃうもんね。」
「えぇ…親睦会だぞ?友達作れよ。」
「ハッハ!面白いことを言うね。ならお前は憧れのあの子に彼女に挨拶でも行けよ?」
「アッ??出来るわけないだろ。馬鹿か?」
「お前が言ってるのはそんなことだろうが。」
「…言ってて悲しくないか?」
「……悲しい…」
ほうほうなるほど。もはやこそこそ話でもなくなってやがる。…じゃなくて、状況を把握すると、4時間目は歓迎会として焼肉をグラウンドで行いますってか。
…ちょっと待て。歓迎会?聞いてないんですけど…俺……
わずかな記憶によると、こういう会には参加費なる物があったはずだ。……払った記憶がない。しょうがない。朝の会が終わったら聞いてみるか。
残りの話は右から左に聞き流すように、朝の会が終わるのをじっと待つ。そして組埜先生が教室を出ていき、教員室に戻る途中を見計らって声をかける。
「すみません組埜先生。」
「瀬名か、どうした?」
「4時間目のことがよくわかっていないので教えてください。」
「すまない。しっかりと伝達すべきだった。」
ほう、つまり昨日説明があったのだろう。はたしてそれは朝の会の時にあったのか、放課後にでもあったのか。もしかして昨日プリントとか配られたのだろうか。…つまり机の中にその伝達プリントが入っているのでは?……あっれ?いっけな~~~い!確認不足!…机の中に手を突っ込んだ記憶がないな。筆箱は朝にロッカーから取り出し、帰るときにロッカーに突っ込む。教科書はロッカー。プリントはリュック(のファイル)にダイレクトイン。最後に机の中に触れたのいつだ?
瀬名は返答もなく静かなままだったが、組埜先生は気にせず言葉を続ける。
「4時間目は校外でささやかながら歓迎会を行う。全学年参加だ。最初に同じクラスで適当に班を作ってもらう。伝えるべき点はこれぐらいか。あとは、流れでわかるはずだ。」
ほう。全学年で焼肉。楽しそう。でも校外ってどこだろ。グラウンド集合で3時間目終了後から移動だから移動時間は10分以内。そこまで遠くはないはずだ。もしかしてバスとかあったりします?
「参加費とかってあったりするんですかね。」
「入学金に含まれているはずだ。」
え?それっていいの?一種の詐欺じゃね?…まぁいいか。俺免除だし。流れに身を任せよう。
「ありがとうございます。よく理解できました。」
「それはよかった。1時間目に遅れないようにな。」
そして眠気とは無縁で優雅な授業時間を過ごした。ただ一つ優雅じゃない点を挙げるのならば、休憩時間ごとにトイレで水分補給をしていたことだ。水道は目立つし、目立たない場所にある外の水道は遠い。しょうがないことだ。…腹減ったなぁ……焼肉たのしみ……み?…絶食…あっ(察し)。
襲撃者が現れない幸せ?な時間を楽しんだ後、例の時間は来た。
下駄箱へと流れていく人込みに紛れて歩き出す。一発で靴を履き替えグラウンドへ。そして当然のごとくクラスごとに並び始めている。すごい。小学校では見られなかった景色だ。
そして校長先生からのありがたい小言をもらってから、規律良く歩き始める。
数分ほど歩いていると、先頭の列がどこかの土地に入っていくのが見えた。我らのクラスもそれに続いていく。そして簡易的な先生の指示の元、流れ着くままに数多く点々とあるバーベキューコンロの周辺で立ち止まる。
コンロの周りには机に紙皿やら割りばしやら肉やら野菜やら飲み物が置かれ、まるで野外パーティのようだ。…いや一応歓迎会という名のパーティか。
その会場は公園だった。俺が最初に時間つぶしに行ったとても大きな公園。なかなか縁があるな。
数々の遊具に、小山に広場、砂場にはらっぱ、椅子に噴水。そこにバーベキューコンロに机が追加された公園。
無駄にだだっぴろい公園には三百以上の人が集団をなしている。だが、それでもなお余裕がある。遊具ゾーンには先生方がいるが、原っぱゾーンには誰もいない。原っぱが寂しそうにこちらを見ている。あとで遊びに行こうか。
しばらくして先生の合図で飲み物を持ち、うずうずしながらも生徒が静かになったころ、体育の先生が司会を始めた。今度は生徒会の介入もなく、しっかりとその仕事を成し遂げた。祝いの場うんむん、仲良くすることうんぬん、いろんな人に話しかけてみよううんうん、近所迷惑うんぬん、ささやかながらうんぬん、乾杯!うんぬん、かんぱぁーーーい!!’sうんぬん。
で始まった歓迎会らしきもの。最初からクライマックスだぜぇ~とでも言いかねない雰囲気の中、俺がいるコンロの周辺だけはお通夜ムードが漂っていた。
そしてその原因は俺にあった。いやね、俺も穏便に済ませようと思ったんだけどね、たぶん行き違いってやつだね。
最初、俺はひっそりとコンロを囲む集団の中に孤立していた。居心地が悪いので、体育の先生が音頭をとっている最中にしれっと、コンロから遠ず、離れずの距離をとった。その基準は先生から見ておかしいと思われない程度の距離だ。
そして時は進み、乾杯一歩手前。俺は完全に空気になれていた。だけど乾杯後。それは違ったようだ。
乾杯後、人々はアゲアゲな空気と共に、流れるように会話へと繋がっていた。俺がいたコンロ周辺も例外ではなく、ハイテンションだった。だけどその中の誰かが気が付いたのだ。離れたところで、こちらを見ている陰キャがいることに。
俺も素早く立ち去って、原っぱへ散歩にでも行くつもりだった。だけど周囲に、その場から動く人が誰もいないので移動すると目立つなーとその場に立ち止まり続けている時だったのだ。
最初は誰かの「あ」だった。そして次は「あ」もしくは笑顔で気まずい顔だった。そこには乾杯に乗り遅れた(であろう)陰キャが紙コップを見ながらこっちを見ている(ように見えた)のだ。
俺は当然のようにその集団の乾杯には参加しなかった。いやできなかった。
てっきりその場でグラスを掲げてかんぱ~~い~~とでもするのだと思っていた。だけど現実は違った。示し合わせたように、誰かとグラスとグラスを震わせ、乾杯していた。
急な出来後に焦り、みんなが紙コップを掲げているのに、一人周囲をキョロキョロすこととなった。
最悪だ。気分もそうだし、焦って周囲を見渡す途中で名も知らぬ先生と目があった気もした。その事実が、より俺を焦らせた。
その集団とは最初の飲み物分配の時に、俺がいることは認知されてしまっていた。なので俺は別のコンロのキョロ充です、とごまかすこともできなかった。それに俺も自分で思っている以上に焦っていた。素早く切り替えることもできず、ただ呆然と、乾杯をしている集団を見ていることしかできなかったのだ。
失敗だった。
陰キャの仮面を被りつつ、自分の身を守るための行動があったというのに、ただ眺めることしかできなかった。
そのせいで、周囲が騒がしいに関わらず、なぜか静かで互いに無駄に気まずい空気を出すことになってしまった。
俺の事は無視して楽しんでくださいよ。気にされる方が気まずいんだよ。無視するのも一種のやさしさだろ。このガキ!バカ!陽キャ!わからずや!
しばらくたってもコンロに肉が置かれない。それを怪しんだのか先生が一人近づいてきた気配がした。
今こそ絶好の機会だと、俺はそっとジュースをごくごくと飲み干しながら、別のコンロの近くにある机の上にある飲み物へと向かい、その集団とは距離を置いた。運がいいことに何処のコンロとも一定の距離を置いた場所にいるおかげで、自然と離れることができた。
この歓迎会はまだ始まったばかり、ここから挽回する!
そう覚悟を決めたながら新たなジュースを紙コップに注ぐ。そして、まるで誓いの盃のようにジュースを一気に飲み干す。そして更に2,3杯ほど楽しんだ。久しぶりのジュースはうめぇ。果汁が喉に染み渡る。これなら休憩ごとに水分補給するんじゃなかったな…
やけ酒じゃーと無理やり7,8杯ほど腹に叩き込んでいると、ぽつぽつと自分の持ち場とは違う別のコンロへ向かう人がチラホラと見えた。これなら目立たないと、紙コップをゴミ箱にバシッと投げ捨てながら、原っぱの方へ歩きした。
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