第21話 次のイベント
会長達がステージ横の定位置に戻った。それに気がついた様子を見せる生徒を、俺が見つける事が出来ないぐらいには、生徒達は楽しく雑談しているようだ。
会長はマイクを使っているにもかかわらず、とても大きな声で呼びかけた。
「はいはいちゅーーもーーく。一時中断です。まだ話したいことがあるなら後日しなさ………よし。静かになりました。と言うことで次のイベントに進みます。次は…猛獣刈りです。なっつ、1年の時にやった記憶あるなー。」
「…そんなに記憶に残るゲームでしたっけ?」
副会長は問いかけるような声だった。だがそれを異常だというように、至極当然のように会長は言う。
「え?残るでしょ?幼稚園の頃にもやったよね?」
「まぁルールぐらいは覚えてますが。」
「じゃ知らないお友達のためにルール説明!でっきっるかなぁ?白石ちゃんにちゃっかりしっかり説明できるかな?」
まるで煽るようだ。だが副会長は気にも止めず、即座に言い返した。
「できないので説明お願いします。」
声に強弱がついていない。酷く単調で興味がなさそうな声音だった。
「……いやぁ…それはちょっと違うかなって…」
少しの間体育館に謎の沈黙が流れた。
副会長は会長を睨む訳でも無くただ見ている。
会長は副会長から目を逸らす。
先に折れたのは副会長だった。マイクが聞き取れないほど小さなため息を吐き、まるでまったく……とでも言いたそうな様子で、とても不服そうに始めた。
「…それではルール説明に移ります。」
「さっすが白石先生!!頼りになるぅ!!」
とつぜんの豹変っぷりに、つい尊敬してしまいそうになった。
ここからはダイジェストでどうぞ。
「まずは前置きを私たちが言います。その後に皆さんが同じ言葉を繰り返します。」
「これは儀式なので欠かせないですね~~」
「そして司会者である会長が、てきとうに動物の名前を言います。」
「アリクイ、オオオオハシ、アホウドリ!」
「動物の文字数と同じ人数でグループになり、揃えばその場に座ります。例を上げると、ナマケモノ、であれば5文字なので5人でグループを作り、その場に座ることが可能となります。その上でルールは1つ。同じ人と連続でグループになってはいけません。」
「ランダムなところで罰ゲームを開催するので本気を出してくださいね!!」
「ルール説明は以上です。」
「とりあえずやってみましょう!やりながら覚えたらいいのです。さぁさぁ、スタンドアフターミー!!」
「それは私に続いて立ってくださいって意味ですよ。」
「……スタンドアッププリーズ!」
……もしかして俺と同じ英語できない民か?ちょっと親近感。
そして猛獣刈りが始まった。またの名、陰キャ刈りとも言う。もしも俺があそこにいたら死んでた。
見学最強。
あとは終わるまでボーっとするだけか、と思っていた。
だが違ったようだ。
まじふざけんな。
「……という訳で、見学少年。前へ!」
突然、聞き覚えがある声で、聞き覚えのあるあだ名が、先ほどまでよりも少し大きな声で聞こえてきた。
だがいつものように、勘違いだと無視していると、虚ろに向けていた視線の先に居る生徒グループから視線を感じる。……気のせいだよね?
理解が出来ず固まっていると、催促が入る。
「さぁ見学少年!前へ!」
もう逃げる事は出来ないみたいだ。先生方だって、組埜先生以外はみんな会長側のような顔をしている。組埜先生大好きです。
さて、なぜこうなったかは、少し時間をさかのぼる。
・・・
「罰ゲーーーームッ。はい拍手。」
何回か目の罰ゲームの開催が宣言された。パチパチと野次馬のような奴らが拍手をしている。
そんな中、2人の女子生徒がイラッとしながら会長を睨んでいる。その2人は、罰ゲーム参加者だった。
「おぉぉ~~~2人とも知ってる人だ。ということでいつもよりハードな罰ゲームにします。」
「はッ?」
「オボエテオケヨ…」(常人では聞き取れないほど小声)
そんな罰ゲーム参加者の言葉など耳に届かせていないであろう会長は、悩んでいる様子を見せた。
「うーーー………ん。決めた。やはりオリエンテーション。みんな仲良くするべきだと思います。なのでこの場で唯一仲間はずれな見学している少年。約して見学少年を罰ゲームに組み込もうと思います。」
最後のその一言辺りで、沢山の人に?が浮かんだ。
「異論は認めない。」
この一言で半分ぐらいの人の?が納得に変わった。(主に3年生)隣の副会長は何も言わない。どうやら罰ゲームは会長に一任しているようだった。
「見た感じ多くの賛同が得られたので、続けます。」
その言葉に、俺は賛同してないぞ。巻き込むな。会長のばーかばーかと罰ゲーム参加女子生徒の仲間と思われる人達が反論を上げる。
だがその言葉は会長の耳に届いてしまった。
「……ええい、うるせぇい!お前達も罰ゲームに参加させてやろうか??」
丁寧に、先ほど反論を上げていた生徒達を1人1人指さしながらそう言った。反抗勢力は一気に静かになった。
「……という訳で、見学少年。前へ!」
・・・
という訳で、現在に至る。
もう寝てる設定にして無視しようか、と思っていた。だがあらゆる視線を集めているのが感じられた。てか単純に先生方に怒られる気がする。止めよう。
間違いない。この場で今、一番視線を集めているのは俺だ。もう寝ているふりも、無視も無理だろう。俺のメンタルというか、社会的イメージが取り返しのつかない所までいく。
瀬名は諦めて、顔を司会者の方へ向ける。すると自信満々の表情で手をこちらの方へ伸ばしてくる会長がいた。
イラッ
瀬名は諦めるのは止めて、怒りながら立ち上がる。逆ギレかもしれないが、そんなことはどうでもいい。長い髪のおかげでわからないと思うが、俺は怒っている。眉間にしわを寄せて、不満げな顔をしながら、心の中で中指を立てている。親指を地面に突き刺していないだけまだマシだろう。
一歩一歩と会長がいる場所に、前へと向かって歩き出す。その一挙手一投足に全生徒+先生方の視線を釘付けにしている。これでそれ相応の給与もなければ、黄色い歓声もないときた。ちょっとクソ過ぎませんか?別に求めてはないが、無いよりはあった方がいいだろう。特に給与。
前へ進む途中、全生徒を差し置いてたった2人だけ立っている女子生徒をすり抜ける。……なんか片方見た記憶があるな。
女子生徒からは明らかに、何だこいつ。と思っているだろう。安心してくれ。俺もだ。なので一緒に生徒会長ぶっ飛ばさない?ね?……だめ?
瀬名は必死に(一緒に生徒会長ぶっ飛ばさない?ね?……だめ?)とアイコンタクトで合図する。だがその必死のウインクは前髪で届くどころか見えてすらない。
もしも見えていたら、何やってんだこいつと思われていただろう。
だがそんなことはつゆ知らず、あまり慣れないウインクを続けていると突然叫び声が聞こえてきた。
「いたぁぁぁぁぁっ!!」
それはマイクより大きな音量で、本人以外はみんな驚いていた。あの会長でさえ驚いていた。目の前の女子生徒に至ってはビクッと肩を震わし、声の主を見る。そして両方ともため息をついた。さらに説明すると、片方は頭に手をあて、やれやれと、より一段上のため息をついていた。
瀬名は、まるで見てはいけない物を見るような、そう、まるで心霊現象に遭遇したみたいに、ゆっくりと体をそっちに向ける。
なぜならば、その声は聞き覚えがあったからだ。
栗鼠色の髪、薄い灰色の瞳。目の前にいる罰ゲーム組の女子生徒2人と司会者と先生方以外で唯一立っている女子生徒。仁王立ちで、片腕をピンっと瀬名の方向け、口をなんとなくパクパクとさせている。
その名はふみのという。
例のメロンパン事件の主犯だ。
見つかっちゃった(泣)、とでも言えば良いのだろうか?だが断る。俺は無視する。
数秒間、ふみのと目があった気がするが、プイッと顔と体を前に戻し、司会者の居る前の方へ進む。
「ちょっとまてぇぇっぃ!!無視……離せ!邪魔をするな!私は彼を捕まぁ…ちょ!?たたみん!!?邪魔しない、っかなほ!?ムゴムゴフギューーーーッ!!」
堕ちたな。音から判断するに、俺に飛びかかろうとしたところを、背後から近づいてきていた、たたみんとふみのに確保されたのだろう。口まで塞ぐのはナイスプレイです。ありがとう。やはりたたみんは常識人枠。
そのおかげ、とは言いたくないが、そのおかげで、罰ゲーム参加者の女子生徒の片方に覚えた既視感の理由がわかった。
そう、それはメロンパン事件の関係者の1人。ショートカットの荒っぽそうな女性。「おう、困ったらいつでも来いよ。俺でも相談ぐらいならできる。」と最後の方に優しくお声をかけていただいた、優しい人だ。次からは姉貴と呼ぼう。
何だ何だとざわめく観客を無視して、司会者から一定の距離を置いて立ち止まる。
「……見学少年。なにがあったん?」
ちょっとだけ小声で会長はそう言った。その一言にざわめく観客達の視線が1つに集まる。やはり、注目を浴びるのは嫌いだ。引きこもりたい。
「ノーコメント。」
仏頂面でそう言う。やはり前髪で見えていないが、声とたたずまいでなんとなくわかるだろう。
「えーー、何それ。気になるじゃん。ねぇ、お姉さんだけに教えてくれない?」
「ノーコメント。」
一瞬、本人に聞いてください。と言いかけたが、止めた。ふみのに聞いても嘘、虚言を吐かれるだけだ。危ない……あることないことあられもないことを言われてしまう所だった。(ただの被害妄想)
「ふーーん、まっ後で聞くとして、これからゲームを行います。」
なんかまーた怖い言葉を聞くな。後で聞くってなんだよ後でって。遠慮します。そして遠慮してください。いやふみのの方に聞いてください。もう何とでも言われても良いんで、今日は帰らせてください。もう疲れたんです。精神的に酷使してるんです。これは心霊番組を見て中和するべきか?いや、ほのぼの系音声作品?日常系アニメ?……それは後で決めるとして、
「ゲーム?」
今、猛獣刈りの罰ゲームがなんちゃらこんちゃらって流れじゃなかったっけ?
「ふっふっふ、今から君達にはデスゲームをしてもらいます!」
会長はしたり顔でそう言う。もう何もかもが嫌になった俺はとある行動に移ろうととした。
だが、やめた。ちょっと完璧で究極な死んだふりをして周囲の空気を凍らせようと思ったが、さすがにやめた。
底辺組に居た頃の感覚であれば、迷うことなくやっていた気がする。引っ越しで都会から離れた数ヶ月。それは自分を見返すいい時期だった。
底辺組なら、初対面でもドロップキックかましてくる野郎がいるからなぁ。こっちも踵落とししてやらねぇと失礼って奴だ。そして死にかけてる奴には追い打ちをかけるのが底辺流。ちゃんとトドメを刺さなきゃな。
全く動きがない瀬名に、しびれを切らした会長は言う。
実際は瀬名どころか周囲の生徒、並びに隣にいる副会長ですら知らん顔だった。副会長さん。首根っこを掴んでいるのではなかったのですか?そうではなかったのですか?
「ちゃんと反応してよ。寂しいじゃん。」
その台詞は明らかに、見学少年という1人の固有人物に向けていた気がする。ならばそのたった1人の固有人物は、さらに他の皆に向けてその台詞を送ろう。「ちゃんと俺の代りに反応してやれよ。知り合いだろ?」
「さて、今から行うのは鬼ごっこ。鬼はそこの女子2人。逃げる人は見学少年。制限時間1分。先に見学少年を捕まえた方が、罰ゲーム回避です。」
……つまり特別イベント。罰ゲームの前に罰ゲーム回避チャンスゲーム?を始めるって感じ?なんてクソシステムだろうか。なんだよその二重課税システム。罰ゲーム回避という点であれば、その女子生徒には嬉しいのだろう。だが俺はただ無駄に面倒くさいことだけだ。そしてなぜ俺を巻き込んだのだろうか。はなはな疑問である。何にも嬉しくない。せめてジュースの1本でも奢って欲しい物である。
「それじゃあ、開始です。スタート!」
え?
唐突な宣言に、首をかしげる。副会長は不動の構えだ。副会長……。試しに2人の女子生徒の方へ体を向ける。やはりその女子生徒も理解できていないようで、一歩も動かない。
「ほら!もう始まってますよ!」
会長からお怒りの催促が聞こえてくる。……知らね。もうこのままタイムアップしとけ。俺はもう知らない。
そうして瀬名は立ち止まっている。もうどうにでもなれと思っている。
だが女子生徒の片方、姉貴は動き出す。瀬名の顔を見たり、隣のもう1人の女子生徒の顔を見たり視線が右往左往している。
だが俺は眉毛一つ動かさない、そしてもう片方の知らない女子生徒は微動だにしない。たぶん俺達は同じ事を考えているのだろう。
姉貴は、恐る恐るといった様子で瀬名に近づき、その肩に触れた。
「アーーツカマッチャッタ。」
一応、周りに聞こえる程度には大きめの声で、更に片言にして瀬名はそう言っておく。これでミッションコンプリートってやつだろう。
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