第20話 我が生徒会長

2人は全生徒へ向き直る。


「それじゃあ、改めましてこの時間の間の司会者もとい場の支配権を得ました!生徒会長の綾里です!」


マイクを片手に元気に言った。


「その首根っこを掴む副会長、白石です。」


いつの間にか二本目のマイクを持っていた。……どこから取り出した?この俺が気がつかなかったとは……やるな。さては忍者か?


「で、なんで面倒事に自ら首を突っ込んだの?」


白石と名乗った副会長は会長の方へ、更に向き直した。


「それでも着いてきてくれる萬理華(まりか)ちゃん好きだよ。」


じゃっかんキメ顔(推測)で、綾里と名乗った生徒会長は副会長と向き合いながら言った。声でわかる。絶対イケメン顔で言ってる。そして周囲を全く気にしないその姿勢。さては陽キャだな。それか頭のネジが緩んでるタイプ。


「はぁ……もういいわ。後で覚えておきなさい。」


「と、言うことで、私の精神力と引き換えに許可が得られたので続けます。えっと、まずはーー…事前に決めた班に分かれて自己紹介でしたよね?」


「そうだ。」と先ほどまで司会を務めていた体育の先生らしき人物がうなずいた。……司会変わる必要あったか?そしてその班はいつ決めたんだ。俺は知らないぞ。事前ってなんだよ。事前の意味ちゃんと知ってて言ってんのか?ごらぁ。


「というわ、け、で、じゃ皆さん班に分かれて自己紹介しましょう!趣味とか好きなこと、朝はパン食、目玉焼きに醤油以外許さない。なんでも話し合っちゃいましょう!上級生の人はちゃんと会話盛り上げてくださいよ?」


「……まぁ最低限の社交辞令はしましょうよって事です。さもなくば我々が飛んでいくとになりますので。」


「萬理華ちゃん!!」


「はいはいごめんさい。」


まったく申し訳なさそうに言う。会長はそれに不満そうな表情をした。だがそんな様子はどうでもいいと、会長を無視して副会長は言葉を言葉を続けた。


「まぁ話が盛り上がらなかったら私たちが突撃するから遠慮無く挑戦しちゃいなって事です。友達は来てくれるものではなく、作りに行くものですよ。」


「白石先生のありがたーい言葉も頂いたので、さっそく話し合いへと進みましょう。まずは上級生の皆さんは所定の位置で待機してください。」


その言葉を合図に、まるであらかじめ決めていたように動き出す。質が悪い軍隊のようだ。気持ち悪。特に筋肉集団。そこだけ存在レベルが違う。


「よし、次は1年生だよ。さ、頑張って自分の班見つけてね!」


その言葉で司会者は静かになった。

そして少しして、1年生の諸君は突然の事に戸惑いながらも、少しずつ立ち上がり自分の班を探しに行っている。みんなが動けば自分も動く。世界が変わろうとも性質は変わらないようだ。


それはそうとして、見た感じ班は決めたけど集まる場所は決めてないって感じなのかな?司会者を見てみると、とても良い笑顔だな。


足音という雑音に隠れて会話が聞こえてくる。さらに時間がたつと足音が止む。だがそれと同時に静かになる、なんてことは無くいつの間にか会話で体育館は埋め尽くされていた。


それに合わせてか、司会者は動き出す。それに合わせるように先生方を動きだした。宣言通り、会話が少なそうな所には会長が突撃し、先生方も補助をしているようだ。

一部先生(組埜先生のような格好いい先生)は、他とは違ってまるで監視するような動きだ。一部ふざけそうな生徒の周りに陣取っている(主観)。

実際、何かあれば軽く叱り、無ければ見守っている。


一番ふざけてるのは例の筋肉グループ。筋肉4人に対して他5人。女子が1人もいないことを良いことに、筋肉の良さを語っている。いや勧誘をしている。


見よ!これが我が一番自信を持つ筋肉!僧帽筋!!ここの筋が素晴らしいのだ!!我は大胸筋!!日々鍛錬は行っておらん!!我はハムストレングス、並びに下腿三頭筋!ぁあ服が邪魔で見えぬ。

そこ、服を脱ぐな。

………はい。✕3


ダンベル何キログラム持てる?のせいで大体の筋肉の場所がわかってしまう。そして筋肉共の会話はうるさすぎて他の会話が聞こえずらい。だまれ脳筋。そいで組埜先生、お疲れ様です。尊敬します。


瀬名は、特に意味も無く観察を続けていた。いくつか気になる所が生まれてしまったが、まぁ所詮暇つぶしだし。そういえば腹痛がないな。やったぜ俺の体。よく頑張った。頭は……まだ少し痛いわ。俺の体頑張ってもろて。


瀬名は少しだけニンマリと口元を緩ました。そして座り直す。

完全に壁にもたれ掛かっていた現状から、少しだけ自分の腰で座る。ちょっと腰痛いかも。


笑みが元に戻った。むしろ不機嫌にくの字になる。もちろん、折り目が上だ。への字と言った方が正しいかも知れない。


もう寝転がっちゃだめかな?


そう考えていたときだった。不意に近くから声が聞こえてきたのは。


「お、不機嫌かい?見学少年君。」


ん?


明らかに個人を特定するような内容だ。それも見学、そして少年。先ほどの時間も今の時間も見学者はたった1人。


瀬名が声のする方を向くと、そこには2人の司会者がいた。

片や、綾里と名乗る会長。抹茶のように濃く、深緑色の髪。まるで黒のように濃く、藍色よりも深い青い目。完全に外見と性格が一致していない。さきほどの司会っぷりが嘘のように思える。黙れば美人ってやつなのだろう。


方や、白石と名乗る副会長。肌色のような、いや薄いオレンジ色の髪なのだろう。肌の白さが、彩度を惑わせる。黒い瞳がこちらを見ている。だけどまるで興味がなさそうだ。俺を見ている、というよりもその情景を見ているという説明が似合いそうだった。


しばらくの間、何も喋らなかったからだろうか。無言に耐えかねた会長が言う。


「どうして見学をしているの?暇じゃない?」


……さてどう返すか。このまま無言ってのもありだ。今回は一度も返事をしていない。そして若干やる気の無いジト目だ。このままジト目で無言待機していても、状況的には可笑しくない。


生徒会長が問いかける→無視→笑顔のまま固まって次の言葉で悩む→問いかける→返事がない、ただの屍のようだ→微妙に顔を歪ませながら固まる→横の副会長を見る→副会長も無言→再び悩む→問いかける

の無限ループができそうだ。


楽しいいじりになりそう。ま、面倒くさい事になりそうだからやらないけど。だが死ぬ前に一度やりたいことにリストに含まれてるからいずれやる。だけど条件厳しいからなーー、この機会逃したら二度と出来ない気がしてきた。……多少のリスクは無視してやるべきか?


……止めとこう。相手は生徒会長様だ。敵になったら面倒くさい程度の話じゃ終わらない。大人しくしておきましょうか。


「……ええ、…そう……ですね。」


何とも言えない微妙な返事をした。まさに陰キャ。我、出会いを拒む者なり。


「お~お~お~髪長いね。邪魔じゃないの?」


そう言って目の前に座った。……座った?方や会長お母さん座り。方や副会長正座。同士?…いやそこじゃない。何故座るのだ。

…確か、さもなくば我々が飛んでいくとになりますので。的な発言をしていた気がする。だが同時に話が盛り上がってなかったら的な発言もしていただろ。


俺は喋る相手が居ない。つまり盛り上がりも盛り下がりもない。つまり飛んでこられるいわれはない!

……たしか最低限社交辞令はしましょうよ的なことも言ってたな。くっそ、フェイントか。たかが見学相手にそんな高度な罠仕掛けてくんな。休ませろ。我、見学者だぞ。


だが理由がわかればどうにでもなる。つまるところ最低限のコミュニケーションをとればいいのだ。こちとら人生二週目やぞ。なめるな。相手は美少女。ふん。リハビリには丁度よい相手じゃ。


「まぁ偶に、けっこーー邪魔ですね。そろそろ梅雨の事も考えて切っちゃいましょうかね?」


「そっかー、もうそんな時期が近づいてきてるんだね。いやぁ、嫌だなぁ。雨は嫌いなんだよね。」


話を広げるタイプか。


「そうですよね。傘ささないといけないし、靴下が濡れた日なんて最悪ですよ。」


「わかる。すごくわかる。替えの靴下持ってくるの忘れてたら一日中最悪の気分だもん。雨の日は遊びにも行くのも、嫌になっちゃうからなー。」


こ、こいつ、めっちゃ話を広げるタイプか。ならばこちらは話を狭める。


「でも俺は雨音だけは好きです。雨の日で唯一良い所だと思ってます。」


「雨の音?…そういえばしっかりと聞いたことないかも。今度聞いてみよっと。」


「自分が濡れない環境で落ち着ける場所なら最高の作業用BGMになると思いますよ。」


「へーー、もしかして勉強もはかどっちゃる感じ?」


なかなかやるな。…っで、これのどこが最低限のコミュニケーションなんだ?目と目を合わせられない系陰キャにはなかなかの上級レベルだぞ。


「それはどうだろう?俺はボーっとしたくなっちゃってむしろ手がつけられません。」


「雨の音が良すぎて手が付けられない感じかぁ。うーー、なんか人生損してきた気がするな。」


「人生は長いですから。まだ大丈夫ですよ。」


「それもそうだね。」


会長は納得するように大きくうなずいた。


……どんな流れだよこれ。本当に何しに来たんだよ。そして副会長さん。なんで黙っているんですか?


瀬名が副会長に何か怪しむような視線を向ける。すると副会長は微笑んだ。瀬名は突然の事に、反射的に軽く会釈する。そして視線を戻した。


……なんだこれ。何が起きている?もうわからない。


「意外に話せるんだね。いや~~やっぱり外見はあてにならないね。」


「…そうですか。」


じゃもういいですか?


「で、なんで見学なんてしてるのさ?せっかくの機会なのに、こういうイベントは限られてるよ?」


ダメみたいですね。


「体調不良です。」


「またまた~、冗談はいいって。」


会長はその場で小腹を突くような動作をする。うまいな。役者の才能あると思うよ。


一応本当に腹痛なんだけど…いや腹痛だった、か。じゃあ偏頭痛か?まぁ…いいか。この状況から理解して貰うのはもう無理だろう。いやシンプルに面倒くさい。それに俺は第二の説明がある。お手軽でシンプルでわかりやすい説明が。


「体操服を忘れてしまいまして。」


もはや秘技。「しょうがないな、生徒指導室から借りてきなさい」とでも言われない限り破られることはない無敵の言葉。…体操服って借りられたっけ?


「あちゃーー……準備忘れってよくあるよね。」


「ちゃんと前日に確認しておけばそんなこと、起きることはないはずよ。」


副会長がやっと喋った。


「でも面倒くさいじゃん。明日のことは明日やる。」


さっき見た気がするキメ顔だ。


「それで何回忘れ物してるの?」


「過去のことは忘れたよ。」


「一回ぐらい痛い目みたら?」


「いやだ。」


コントは他所でやって欲しい。いや司会者だろ。そろそろ進行するってのはいかがですか?


「……時間かな?」


心でも読まれたか?そう思ってしまうほど完璧に等しいタイミングで生徒会長がそんなことを言いながら、あらよっとと勢い良く立ち上がった。おかしいな。話の流れが繋がらない。


それに反応するように、副会長が体育館のステージ側にある時計を見る。


「そろそろ次に進んだ方が良さそうですね。」


そこで副会長も静かに立ち上がる。


「と、いう訳だ少年。またね~」


「お邪魔しました。」


その言葉を最後に、司会席へと戻っていく。会長に手をフリフリとされたので軽く振り返しておく。一瞬見えた会長の横顔は、何かを企んでいるいやらしい目をしていた。


それはそうと最近またねという言葉に縁があるようだ。嬉しくない。お別れは嫌いだ。……そうじゃない。意味合いが違う。お邪魔しましたは…意味合い的には正しいのかな?


それはそうと、嫌な予感がするので帰って良いですか?


だめ?


組埜先生………は忙しそうですね。筋肉が止るところを知らない。いい加減にしろ。組埜先生に迷惑かけるな。拳骨するぞ。


そう思いながら、筋肉の顔を覚える。何か問題を起こせば即悪斬してやるぞと心に決めながら。


そしてそこ!!なんか感心したような顔をするな。筋肉に勧誘されるな!最初の戸惑いを思い出せ!!目の前の奴らは変質者だぞ!!


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