第11話 プレゼント…

「どんなプレゼントが良いと思う?」


少女はそう言った。どんなプレゼントが良いのかと。つまり案を出せと。追加オーダーで良い感じのプレゼントを、俺が選ばないといけないらしい。まぁ事態がややこしくならないだけマシと考えよう。


それに対し、俺の作戦は数打ちゃ当たるぜ豆鉄砲。色んな物を言っていけば最終的に良い感じになるんじゃないの、です。


爽健美茶で回復して、爽健美茶で失った気力を限界まで引きしぼって頭を動かす。最初くらいはヤケクソにならずに考えてみよう。


プレゼントの相手は名前も知らない少女のお姉さん。

これは晩ご飯何が良い?の答えが何でも良いというように、お菓子買ってこいと言われてどんな種類か、チョコ系かスナック系かアイス系かすら教えてくれず、気に入らないなら文句を垂れる姉。

これがお土産なら簡単だ。適当にご当地なお菓子でも買ってくれば良い。だがこれは立派なプレゼントだ。誕生日プレゼントだから欲しい物買ってあげるやら、バレンタインだからチョコあげるなどとも違う。


つまるところ、情報不足。

だが少女に質問して、情報を引き出すなどはしない。情報を知る=距離が近づくのは言わずもがなだ。そもそもの話俺が少女の姉が何を好きなどを聞いても、良い感じのプレゼントが思いつくとは思えない。その姉もまた上級国民なのだ。欲しい物は自分で買えるのだ。


前世とは違う。前世の姉であれば適当に珍しい物でも買ってくれば許してくれる。目新しいのなら何でも良かった。まずくても許される。楽だった。


瀬名はため息のように息を軽く吐き出し、姿勢を正す。


ここまでが絶望。ネガティブはここまででいいだろう。ここからが希望だ。


このプレゼントは妹が、姉にプレゼントする入学祝い。ほらこれだけで情報が2つもある。

まずは入学祝い、4月。なんかそれっぽい……それっぽいお祝いなプレゼントって何だ?文房具?…そもそも俺は年頃の子供が喜ぶプレゼントを知らなかった…次、妹が姉にプレゼントするだ。わざわざ護衛から逃げ出してまで買う相手だ。もはやシスコンだろう。つまりお姉ちゃん大好き的なプレゼントを買えばいい。


で、そんな感じのお姉ちゃん大好き的なプレゼントってなんだ?ぬいぐるみ?でもぬいぐるみは姉が妹にプレゼントする感がある。

妹らしい……妹らしい……妹…シスコン……上級国民…お金持ち、プレゼント、気持ち……もういいや、考えるのはやめよう。1人で考えていても意味が無いというやつだ。脳死連打しよう。案外フルコンボぐらいならいける。パーフェクトコンボは知らない。


「ぬいぐるみ。」


もう少しでバナナとでも良いそうな声音だった。


「…だめね。」


少女は机に肘をつき、手で顎を当てて少し考える様子を見えた。即座にダメと言わなかったことに疑問を持ち、その理由を聞くことにした。


「なんで?良い感じなのでは。」


「確かに大切に使われるでしょうね。でもぬいぐるみはいずれ捨てられるわ。もう中学生よ?特別ぬいぐるみが好きって訳ではないし、出来れば最後まで使えるような物がいいの。」


至極真面目にそう答える。その言葉に少し冷たい印象を感じた。どうやら少女は真面目モードになったらしい。これからおふざけ無用、もしも冗談でも言おうものなら冷たい目線が飛んでくることになるだろう。そんなのはごめんだ。

瀬名は脳死を捨て、もう少しだけ真剣に考えることにした。


大切に使われる、最後まで使える、長い間、捨てられないってことは壊れても良いってことかな。ぬいぐるみが好きでは…どうでも良い情報だ、忘れよう。


「抱き枕。」


「他は何かある?」


どうやら少女は気に入らなかったようだ。これでわかった。長くなる。


「文房具。」


「それは入学前にプレゼントしたわ。」


被り禁止?この世に、先駆者と被らないものが存在するのか。そもそも何が被らないというのだ。逆に何を持っていない。是非教えて欲しい。


「夕ご飯を作るってのは。手作りお菓子とかも。」


「時間が無いわ。秒で渡せる物にしてちょうだい。」


それは即座にお説教が始まって時間がないからなのだろうか。それか、家に帰ったら姉がいるから作れないって意味なのか。生憎と料理が出来る場所を知らない。中学校の調理室ぐらいしか。


「服やポーチ、ハンカチなどは?」


「それは2人で一緒に買いたいからだめ。あと特別感がない。」


特別感って…まぁ一緒に買いに行きたいってならしょうがないな。理解。

考えを変えるか。俺が貰って嬉しい物にしよう。今俺が貰って嬉しいもの…オタクじゃないもの…電化製品?中学生のプレゼントじゃない。もっと子供っぽくて…実用的で…


「USBメモリ。」


「そんな物使わないわ。」


なんで!?案外使うじゃん。沢山あっても困らないし?…普通の中学生はあまりパソコンを使わないのか?…


「将来を見越してもだめなのか?」


今は使わなくても、いずれ使うことになると思うんけど。


「今喜んでもらえる物を渡したいの。」


そりゃそうだ。


瀬名は素直に納得した。そして同時に俺が欲しい物は、役に立たないことがわかった。更に瀬名は、まるでコンサルタントだと思った。

案外俺に合ってたりするのかな?前世と違う点を探して、良い感じに説明すれば良いだけの仕事……候補として考えておこうか。

まぁ結局の話、給料が欲しい。


次は学校で考えるか。


「弁当箱、コップ、水筒。」


「弁当箱なんて使わないわ。わざわざ早起きしてまで作る気になれないもの。残りの2つに関してはもうあるし、コップに関しては一緒に買いに行くわ。」


弁当箱は使わないと?やっぱ料理士とかが作っているのかな。


そしてまたでた、一緒に買い物。今回最大の敵になりそう。一緒に買いに行くほどでもないけど、大切に使えて、長く使えて、持ってなくて、今使う物で、パパッと渡せる物。

マインスイーパーか?難しすぎる。


「キーホルダーやグッツは?」


「特別感がない、そして特別好きな訳でもないわ。」


そういえば、好きな物は自分で買うんだった…


「イヤホン、充電器、スマホケース。」


「…違うわね。次。」


一瞬靴、帽子、ネックレスなどの装飾品と言いそうになったが、服の類い…装飾品は別の種類では?


「ネックレスなどの装飾品は?」


「プレゼントするほどじゃないわ。」


……ほど?ネックレスがほど?それって好きじゃないって意味だよね?言葉の綾だよね。別にそんな雑貨いらないわって意味じゃないよね?このブルジョワめ。


試しに瀬名はこんな物をあげることにした。それは両親が進学祝いとしてあげる可能性があるものだ。


「金。」


「そんな物貰って嬉しいの?」


「……」


少女の声は変わらず、真面目な声だった。そのとても真面目な声で、そんな物と、金をそんな物と言い捨てた。世界は価値で動いているといるというのに、その価値があるものをそんな物と、まるで小馬鹿にするように言った。


俺は嬉しかったぞ…お年玉とかめっちゃ喜びながら悩んでたぞ…学生がどれほど金欠なのか知っているのだろう。欲しい物沢山で…それが買える世界だったな。


いったい我らがどれほど金が無くて困ったか知っているの……それは別の話。


そろそろプレゼントのネタが無くなりそうだ。プレゼントごときにこんなに考える羽目になるとは思わなかった。もっと勉強的な何かをしとけば良かった。


「財布。」


「時期が違うわね。」


時期?財布を買う時期があるのか?占いを踏まえてみたいな感じなのかな。そこら辺の物は蛇の皮でも挟んでおけばいいじゃないのか?わからないな。


「タオル、家具、電化製品、本。」


「違う、違う、違う。何か良い本を知ってるの?普段読書なんてしない姉にぴったりな本を。」


「……ないです。」


俺は人に勧めるラインラップがあるほど本ガチ勢ではない。俺はライトな方で、3つある趣味の1つなだけだ。

いや待てこの手のお祝い事の本は伝記だと聞いた記憶がどこかにある。


「偉人の伝記とかは?」


「…そもそも本が入学プレゼントに合わない気がするのだけど。」


「そうですか…」


ならそれを最初に言って欲しかった…本格的に在庫不足だ。案がない。候補がない。後何があるよ。


一緒に買いに行くほどでもないけど、大切に使えて、長く使えて、持ってなくて、今使う物で、パパッと渡せる物で、食べ物系でなくて、通販で買うほどでもなくて、金銭的価値より感情的価値が高い物で、万人受けしそうな物で……女性?


「化粧品、日焼け止め、ハンドクリーム。お揃いの何か。」


「それは一緒に買いに行くわ。」


一言で消された。


「額縁、一眼レフカメラ、鏡、手紙、メッセージ。」


「…違うわね。写真は良い案だと思うわ。今後勝手に使わせて貰うわ。」


勝手にどうぞ。それはそうと良い案であるなば、今はだめなんですか?すでに何個案出したよ。で、その間少女は何個出したんだよ。少なくとも少女は0だぞ0。


「髪留め、櫛。」


「…他は?」


だめとは言われなかった。初めてだ。はたして少女が気に入る物はこの世にどれだけ存在するのだろうか。

最終手段ができた程度で意味が無い。欲しいのはたった1つの結果だ。手段がいくら増えようとも、迷いが増えるだけで意味が無い。


「マッサージ器?」


「それってプレゼント?」


……入学おめでとうプレゼントでもないですね。どちらかというと電化製品ですね。だめだ。俺のセンスがない。本当に何があるんだ。何が残ってる。


今度は女子で考えてみよう。


「花束、花瓶、瓶、貝殻を詰めた瓶、香水、入浴剤、茶葉。」


「花って、ほとんど関係じゃないわね。他は全部違うわ。入学っぽくないわ。」


入学っぽくない……入学ねぇ。花は違うのか?結構お祝い感があるのに。


「傘。」


「傘……他にないかしら?」


おめでとう。2回目の最終手段が生まれた。なぜだろうか…本来であれば希望に近しい感情が生まれれるはずだが、瀬名にその感覚は全くなく、別の感情が生まれてるのだった。


ちょっと腹が立ってくる。


頭ごなしにだめだめ次々と。さすがの俺でも機嫌が悪くなってくる。もしもここがネットだったらこのメスガキィと顔真っ赤にしてキレ散らかすところだっただろう。だがここは3次元、その現実の瀬名は


…デコピンくらいなら許されないかな?ビンタぐらい許されないかな?拳骨ぐらいいいだろ?ね?一発だけでいいんだ。


と考えていた。決して言動には出さないが。

その理由は女性だからというのが一番だろう。もしも小学生時代であれば、言葉や表情筋よりも先に拳が出ていたことだろう。わがまま小僧は鉄拳制裁。幼い頃にわからせないまま大人になるととんだクソ野郎になる。これも経験則だ。あのクソ共も今では真面目なクソガキだ。


瀬名は過去を思い出し、気分が落ち着いた。


目の前の少女は、過去に存在しているクソガキよりも全然まともだ。そもそも目の前の少女は子供なのだろうか?いわゆるロリババアだったりしないのか?もしもロリババなら俺は全てを許せる。ぜひわし、わっち、わらわなどを一人称にして頂いて、のじゃ、わっぱ、うつけなどと言って貰いたい。


ロリババア、可憐な見た目で古風な話し方をする非現実的な存在。年下のようであるが年長者の頼もしさも発揮するという内面と外見のギャップ最高だ。

そして決めた、ここはいわゆる異世界。学校卒業したら全神社お参りの旅に行く。もしかした転生パワーで何か非現実的な事が起きているかもしれない。そう考えると自然とワクワクしてくる。


瀬名はロリババの可能性を求める旅に出よう。そう心に決めたのだった。最低でも6年は待つことになるだろうけど。だがやるだけの価値がある。


ただ、ショタジジイはお帰りください。守備範囲外です。


「君は何か良い案はないのか?」


疲れて狂った精神状態を落ち着かせると同時に、思考がマンネリ化してしまっているので新しい知識を取り込もうと、少女に聞くことにした。


疲れると暴走しやすくなるので困る。考えるより先に妄想が出てくるこの現象に病名はあるのだろうか?


「ないから頼っているんだけど?」


いともたやすく当たり前のように行われるえげつない行為。

瀬名は一瞬だけ手の甲の血管が浮き出た。だが次の瞬間には驚愕の事実に思いついて血の気が引いた。


……ハッ!?奢る=前払い(借り)!?こ、こいつ、最初から計算尽くだったのか。やはりロリババではないのか?…ないよなぁ。


瀬名は勝手に希望を持って、勝手に消失感を得た。


この少女は骨の髄まで絞り尽くすために、借りがあるぞという大義名分を得るために奢るという手段に出たのだろう。目的は完璧なまでに達している。今さらお金返すと言っても意味が無い。これは良心の問題となった。俺の人間性が問われている。


だが残念なことに、先ほどのリフレッシュで思いついた案は一つしか無い。最後の案だ。個人的には良いのではと思っているが、瀬名の感覚は役に立たないことが証明されている。つまりダメ元だ。


次は実地観察に動くしかないだろう。実際にその足で動いて、見て回る。本当の意味で最終手段だ。そんな乱数には頼りたくなかったが、それにしか頼れない俺が悪い。どうか少女が上機嫌で帰ってくれますように。


「時計は?」


「そんな物、プレゼントにならないわよ。」


「腕時計もか?」


「腕時計?」


腕時計。現代ではスマホに役目を奪われた骨董品。もはやアナログ時計と小型、そして手首に装備出来るという点しか利点がないだろう。


一緒に買いに行くほどでもなく、大切に使えて、長く使えて、持ってなくて、今でも使える物で、パパッと渡せる物で、食べ物系でなくて、通販で買うほどでもなくて、金銭的価値より感情的価値が高い物…?で、万人受けしそうな物だ。


物によるが金属が素材であるため長期保存、共に長期使用が可能。腕時計をしている学生など数える程度も知らない、つまり持っていない可能性が高い。使おうと思えば使えて、片手程度の大きさ、最悪タンスの肥やしにすればいい。


少女は悩んでいた。そこに瀬名は期待を持ってしまった。彼にはこれ以上候補がないのだ、ここで決めてしまいたい。なのでスマホで腕時計、可愛いと入力し検索した結果を見せ、追い打ちをかける。特に売り文句が見つけられなかったので何も言わない。


少女はじっとスマホを見る。そして


「…この辺りにお店はあるのかしら?」


そう言った。


「奥にあるよ。」


瀬名はそこでやっとわずかに笑いながら言った。


3階の端の端。このショッピングモールの角にある小さな店だ。だがラインラップは充分!…なはずだ。


「それじゃ見てみましょうか。」


そう言って、少女は立ち上がった。その言葉に瀬名は、やっと終わるという感覚が消えた。これはまだ見てみる段階であって、決まったのではないのだ。

時間は結構たったと思っていたが、空は変わらず青いし、周囲から聞こえる学生の雑談は小さくならない。


さっさとゴミを乗せたトレイを返却し、時計専門店に向かって歩き出す。ここで決まればそこで終わり。もし終わらなければ、数時間追加。


時計専門店に着くまでの間、妄想をして現実逃避が出来なかったので、神頼みすることになった。

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