第2話 ゲームみたいな設定
ある程度、みんなが異世界にノリ気になったところで、ちびっ子女神が言う。
「勇者様には今のうちに、できる限り、異世界の常識を身に着けてもらいたいです」
ちびっ子女神がそういうと、真横に椅子と机が現れた。その上には、タブレットが置かれている。
……タブレット?
「それは勇者様の世界の道具を魔法で再現してみたものです! やっぱり、使い慣れたものが一番いいですよね? その道具で表示される情報は、すべて異世界に住む誰かの常識になります」
椅子に座り、タブレットを見てみると、真ん中には地図が表示されている。
左側はメニューになっていて、『地図』『勇魔大戦のルール』『戦闘力について』『その他一般常識』と書かれていた。今は『地図』が選択されている。
「勇者様はこの空間に長くはいられません。あと30分ほどで転移することになります。時間は非常に貴重なので、その道具を使ってできるだけ異世界の常識を学んでください」
30分……
「デフォルトでは神の都――神聖国の首都に転移するようになってますが、別の場所にしたいという方は『地図』から転移先を選択してくださいね」
時間は限られている。
何を学ぶべきだろう?
タブレットを触ってみる。少し見てみた感じ、かなりの情報が詰まっているようだ。
つまりこれは『異世界に住まう誰もが持つ常識』ではなく、『異世界に住む誰かの常識が集まったもの』というところか。
「質問してくれたら、私はいつでもお答えします」
ちびっ子女神がそう言うと、さっそく誰かが質問し始めた。
「あの、異世界の言語ってどうなっていますか?」
「日本語ですよ。なので心配ありません。かつて言語を統一すれば世界は平和になるかと思い、日本語に統一したのですが――」
ちびっ子女神が答える。
言語は日本語でOKと。なかなか都合のいい世界だ。もしくは都合がいいから私たち日本人が呼ばれているのか。
……それは、今考えることじゃない。
私は首を振り、視線をタブレットへと向ける。
さて。
とりあえず、4つの項目『地図』『勇魔大戦のルール』『戦闘力について』『その他一般常識』について一通り目を通そうか。
まずは『地図』。
異世界は大きな大陸が一つと、その周りに小さな島がいくつかあるという感じだった。
中央の巨大な大陸を左右に分けるように、東側が人族の領域、西側が魔族の領域ととなっている。地図で見ると若干人族の領域の方が大きく見えるけど、まあだいたい半々くらいに分かれている。
大陸の東の端には神聖国があり、その最東端、海に面してところに首都『神の都』がある。特に変更しなければ、ここに転移されるようだ。
一番東に本拠地があって、人族は西へと攻める。逆に魔族は西から東へと攻める。なんとまあ分かりやすい構図だろうか。
あと気になることとしては、神の都からさらに東に行くとどうなるのか? ってところだ。一周回って大陸の反対側に出るのか、それとも別の大陸が出てくるのか。タブレットにはこれ以上表示されないため、異世界の常識では世界は平面だと思われているということだろうか……そもそも異世界だから、本当に平面な可能性もあるけど。
ちびっ子女神に質問しようと、顔を上げる。
「物理法則に関しては、地球と変わりません。それに加えて魔力というものがあるという形になります」
「ありがとうございます」
質問をしていたらしい50くらいの男性は、丁寧に礼を述べた。
チャンス! と、私も手を挙げて質問する。
「あの、いいですか?」
「はい、どうぞ」
「異世界って球体なんですか? 地図を動かしても、右に行こうと思っても、それ以上いかないというか」
「球体ですよ。ただ、異世界の常識では未だに世界は平面だと思われています。一部、球体だと主張している学者もいますが……」
なるほど。
私の認識は正しかったようだ。
そして、ガリレオ・ガリレイの異世界版みたいな人もいると。
「ちなみに、大陸のちょうど裏にあたる部分には小さな大陸があり、そこには神龍リヴァイアサンが住むと言われてます。言われているというか実際に住んでいるんですけど。周辺の海域には強力な魔物が多数生息しており、一周するのはかなり難しい状況になっていますね……そんなわけで、実質、地球球体説を証明することができないような状況になっています」
神龍リヴァイアサン……
「ありがとうございます」
私は礼をして、視線を下に戻す。
『地図』についてはおおよそ分かった。
次に『勇魔大戦のルール』を見てみる。
すると、つらつらとルールが表示された。
……なんなの、これ。
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・平和期10年、戦争期10年を交互に繰り返す。
・戦争期の開始時には勇者と魔王が100人ずつおり、ちょうど10年後の時点で生き残っている人数が多い方が勝ちとなる。また生き残った人数比に応じて戦後処理を行う。
・勇者、魔王、どちらかが0人となった場合、勇魔大戦を終了する。0人となった陣営は滅亡する。
・勇者とは光魔法を使うことができる存在のことである。光魔法を使わなければ一般の人族と何も変わらない。
・魔王とは闇魔法を使うことができる存在のことである。闇魔法を使わなければ一般の魔族と何も変わらない。
・神殿で祈りを捧げることで、勇者と魔王が世界に何人いるのかを知ることができる。
・勇者もしくは魔王が致命傷を受けた場合、光魔法もしくは闇魔法が自動使用され回復する。ただし、致命傷を与えた相手が勇者もしくは魔王の場合は自動使用されない。
・勇者は最大4人を勇者パーティメンバーに任命することができる。ただし、勇者や他の勇者パーティメンバーを任命することはできない。勇者パーティからメンバーを追放した場合、その1か月後まで新たなパーティメンバーを追加できない。
・魔王は一度だけ、4人を選択し四天王に任命することができる。ただし、魔王や他の四天王を任命することはできない。一度決めた四天王の変更はいかなる理由があってもできない。
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……これが『常識』?
そんな疑問を抱くけど、一旦置いとこう。
内容としては、平和と戦争が10年ごとに入れ替わると。
そして、戦争では、勇者と魔王の生き残りサバイバルというところか。いかに勇者の数を減らさず、魔王の数を減らすか。魔王を倒すには勇者がトドメを刺さないといけないようだが、勇者を魔族領域に送り込むのは勇者を失うリスクもある。とはいえ箱入り娘のように大事にしすぎても魔王を倒すことができない。
これはそういうゲームなんだろう。
そう、本当にゲームみたいな設定だ。
他にもいろいろ書かれてはいるが……ん~、やっぱりゲームみたいだね。
私が一番気になったのは、『勇者とは光魔法を使うことができる存在のことである。光魔法を使わなければ一般の人族と何も変わらない』という記述だ。
『何も変わらない』とはどのレベルで何も変わらないのか? 見た目だけなのか、それともどんな方法を用いても勇者と判断することはできないというレベルなのか。
ここの部分がどうなっているのかで、私の今後が決まると言ってもいいくらい重要な部分だと思った。
また質問しようかな……ここは誰も質問しないかもしれないし。
顔を上げると、30くらいのメガネをかけた男性が質問している。
「東大で助教をやっております橘孝輔と申します。勇者は100人いるということですが、この場には60人くらいしかいないように思いますが……」
そう質問すると、男はメガネをくいっとした。
……自己紹介って必要だった?
というか、え?
ここに100人いるんじゃないのか。
「そうですね、この場にいるのは65名ですね。残りの35人は前回の大戦で勇者だった方が続投したという状況です」
とちびっ子女神は言った。
そっか。
100人と言われて、ここにいるのが100人かと思い込んでいたが、そうではなかったらしい。
「その35人は、私たちと同じく地球出身の方でしょうか?」
「いえ、転移者はいません。こうして他の世界から人を呼んで勇者になってもらうのは初めてです。異世界からの転移者もここ100年はいなかったはずです」
「そうですか。それと35人が続投ということですが、大戦における生存率はそのくらいということでしょうか」
「いえ……前回は70人ほど生き残りましたね。そこから半分ほどが引退したという形です」
メガネの男は、メガネを軽くくいっとして「なるほど、ありがとうございます」と言った。
生存率70%。
高いとみるか低いとみるか、それは人によるだろう。
私?
30%で死ぬなら、地球に帰れなくてもいいや派だね。
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