小さな勇気とラッキースター

長月瓦礫

小さな勇気とラッキースター


2023年が幕を開けた。

除夜の鐘が鳴った数だけ流れ星が降り、欠片が大根に落っこちた。


根っこの体を振り絞り、手足のように使って、大根はコンクリートからはい出た。

ほんの少しの勇気を振り絞って、コンクリートジャングルを抜け出した。


寒空の下、たったと駆け出す。行く先もないが、とにかく走り出した。

大根は一晩中走り続けた。しゃきしゃきと体を動かし、あてもなく走り続ける。


大根は朝の光を感じ、住宅街にある花壇に穴を掘って休憩することにした。

まっすぐ伸びた大根の葉は、光合成をすることでエネルギーを得ることができる。


道路はにぎやかになり、近くにある空き地に車が止まった。

少女が目の前に現れた。無造作に葉を握り、一気に抜いた。

大根はじたじたと動くが、少女は笑うばかりだ。


「ママー!」


近くにいた大人の女性に大根を見せる。


「何これ、どうしたの?」


「うちの花壇に生えてた!」


大根を両手で持ち、じっと見つめた。ママも無言で見つめ返していた。

沈黙が下りる。


「誰がやったのかは知らないけど……気味悪いわね。

とりあえず、捨てましょうか」


大根は必死に頭を振り、葉をちぎってその場から逃げ出した。

少女はすかさず大根に飛びついた。

両腕に抱えられ、逃げられない。


「かわいいでしょ? 私の部屋に置いてもいい?」


「……好きにしなさい」


ママは頭を抱えた。少女に部屋に連れていかれ、大根は棚に置かれた。

日のあたりのいい場所だったが、頭の葉からエネルギーを得ることはできなかった。

数日間、ずっと放ったらかしにされ、枯れたのは言うまでもない。

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小さな勇気とラッキースター 長月瓦礫 @debrisbottle00

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