第12話 アルラウネ-4
当然、アルラはエリザの発言に対し、
「何か根拠があるのですか、エリザ?」
「彼を発見した場所を中心にして、辺りの広い範囲の魔力反応を探知しました」
「それは、測定のスキルを使ったということですか?」
「……いえ、違います。私は特別、魔力の匂いを嗅ぎ取れるので……」
「ああ、そういうことですか。で、その結果は?」
「周囲には何匹かの魔境蜂と思われる魔力と、元々森に生息するモンスターの魔力反応しかありませんでした。もちろん、高レベルの盗賊職が隠れていた可能性もゼロではありませんが、盗賊職ではダークナイトのように戦えないでしょう」
アルラは少し考える素振りを見せて、
「つまり、こうですか。消去法で、他に該当者がいない。だから魔境蜂の群れを倒したのは、彼で間違いないと」
「はい。それに彼の魔力量が非常に多いことも、その事実を補強しています」
「……確かにエリザの言っていることは、筋が通っているように思えますね」
そう言って、アルラは俺の方へと向き直り、
「これまで出てきたすべての情報を踏まえると、要するにあなたは、正体不明の力を持つ、戦闘能力の高い怪しい人物ということになりますね」
「……………………え?」
俺の処遇について考え直してくれるのかと思いきや、アルラの考えは変わっていなかった。
「戦闘能力の高い怪しい人物なんて、尚更危険で恐ろしいです。それに、占いの結果のこともあります。あなたを村に受け入れることで厄介事に巻き込まれるのも、勘弁願いたいです」
「それは……! でも、俺の力があれば、魔境蜂ってのを退治する手助けも――」
俺が一番アピールしたいことはこれだった。
詳しい事情はわからないが、これまでの話を聞く限り、ユズキやエリザ、それにクリスも、あの巨大な蜂を退治しにこの村へやって来たようだ。
俺もそれを手伝うと名乗りあげれば、信用が得られると思ったのだが……。
「ねえ、アルラ。ケイトさんに魔境蜂の退治を手伝ってもらおうよ! 占いで酷い結果を出しておいてこのまま追い返すだなんて、ケイトさんが可哀想だよ!」
「占いをして欲しいと言ったのは、アンナじゃありませんか……。それに、私だって意地悪で彼を受け入れられないと言っているわけじゃありませんよ」
俺にはとてもそうは思えないが……。
とりあえず、黙って続きを聞くことにする。
「高レベル冒険者のお二人なら、身分のよくわからない者を受け入れられない理由はわかりますよね?」
「……ただでさえ高い戦闘能力を持つ高レベルの冒険者は、人々に警戒される。その上で、身分を証明しないとなると――」
「間違いなく、犯罪歴を隠していると思われますね」
エリザはそのまま言葉を続ける。
「レベルや職業、スキル取得状況を示すアドデバイスは、その冒険者がブラックリストに記載されているかを示す役割も持っています。なので、後ろめたいことのない冒険者は、アドデバイスを見せて信用を得ようとします」
「もちろんブラックリストに記載されていなくても、その冒険者が必ず安全とは限らないわ。逆に、ブラックリストに記載されていても、危害を加えてくるとは限らない」
ここでユズキは一度言葉を区切り、
「だからね、人々の中にはアドデバイスや依頼許可証による身分証明を軽視して、善意で身分のよくわからない冒険者を受け入れる人もいるの。その結果、受け入れた宿屋や村が略奪などの被害を受ける事件が発生していて……」
「そのような悲惨な事件が多く続いたこともあり、今はほとんどの宿で身分証明が義務付けられています。少なくとも、高レベルで犯罪歴がなければ、これからも犯罪をしないだろうと信用されやすいので……」
……だいたいの事情はわかった。
俺としては大変困ることだが、アルラが正体不明の俺を警戒するのは至極当然だ。
安全への意識がよほど低くなければ、身分証明をしない者を安易に受け入れたりしない。例外を認めないという村長は正しい。
となるとやはり、俺は今から村を出なければいけないのか……?
「……まあ、そういうわけです。アンナも私がただ意地悪で受け入れないと言っているわけではないと、理解してくれましたか?」
「それは、わかったけど……」
「とはいえ、アンナの言う通り、今更村から追い返すのも酷な話です」
「え……?」
話の流れからすると、どう考えても俺を受け入れない方向へ話が進むのかと思っていたが……。
「だいたい今あなたを追い返したとして、間違いなく私はあなたに恨みを抱かれてしまいます。それでこの村ごと危険な目に遭ったら、本末転倒です」
「……それは」
確かに俺は、アルラのことを恨むかもしれない。
かといって復讐こそする気はないが、俺のこの村に対する感情がプラスなものではなくなることは確かだ。
だからやっぱり受け入れると判断したアルラの考えは、理解できる。
でも、だったら、これまでの話は一体……?
「じゃあ、俺を受け入れて……?」
「はい。でもあなたを受け入れるのはこの家ではありません。これまで話した通り、あなたが私にとって警戒すべき相手であることに変わりはないので」
「この家じゃ、ない……?」
「ここから30分ほど歩いたところに、物置小屋があります。あなたにはそこを貸しましょう。村長から許可は取ってあります」
物置小屋というワードを聞き、アンナが驚いた声を上げる。
「ちょっ、ちょっとアルラ! あんなところにケイトさんを泊めるの!?」
「はい。大丈夫ですよ、アンナ。食料や水は定期的に運んであげるので」
「そういう問題じゃないよ! あそこは掃除もしてないし、とてもお客さんを泊められるような場所じゃ……」
「あの小屋が駄目となると、彼には野宿してもらうことになりますが」
「この家じゃ、駄目なの……?」
「私が嫌です」
きっぱりと、アルラは拒絶の言葉を口にした。
「で、どうしますか? あなたは野宿するのと、物置小屋で泊まるのと、どちらが良いですか? どちらにせよ、食事などの世話はしますので安心してください」
「どちらかって……」
野宿と物置小屋。どちらが良いか。
……ぶっちゃけ、どちらも嫌だ。
アンナの話を聞く限り、物置小屋とやらは快適な場所とは言い難いだろうし。
かといって、野宿をするのも……。
「………………………」
アルラから提示された選択肢に対し、俺は――。
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