第111話 いい加減にしておかないと後で怒られるわよ
「あれ?」
「どうしたの、ラルカ」
「それがねミレア。そこにあるジョブチェンジアイテムって五個だよね」
「そうね」
あれ~?
「『おなかいっぱい』って六人だよね」
「そうよ。当たり前じゃない」
おかしいなあ。
とりあえず指を折って数えてみよう。ザッティはロード=ヴァイだよね。シエランはミヤモト。そいでフォンシーはジャービルで、ミレアがロウヒ。そいでウルはイガニンジャだ。うん。
「ねえミレア」
「なに?」
「次のジョブだけど、ボクはどうしよう。イガニンジャくらいしか、なれるのないんだけど」
「ねえラルカ、あれを見て」
ミレアの視線の先でウルがターンになんか言われてる。イガニンジャの心得がどーのこーのって。ターンは腕を組んでふんぞり返ってるし、耳をピンって立てたウルが目をキラキラさせてるね。二人とも、シッポがブンブンしてる。楽しそうだなあ。
「ラルカはウルから『イガニンジャの心得』、もらうのかしら?」
「できるわけないでしょっ!」
「なら決まりね」
ううう……、もうこうなったらウィザードとか取っちゃおうかな。そしていつかミレアを見返してやるんだ。
「ナイトね」
「なんでミレアが決めるのさ」
「VITとSTRが上がるからいいじゃない。そこからロードになれば回復回数も増えるし、WISも上げられるわ」
そりゃそうだけどさあ。
「ほらほらサワ、意地悪はここまでよ」
「意地悪じゃないですって。相応しい人がいるだけです」
『クリムゾンティアーズ』のウィスキィさんが、サワさんの頭をコツンってした。意地悪? どゆこと?
「ほら、ドールアッシャさん」
「ありがとうございます、サワさん」
ドールお姉ちゃんがなんかを手に持ってこっちに近づいてきた。それって、あれ? どっかで見たことあるような。
「『洪家三宝』。『フェイフォン』になれるジョブチェンジアイテムよ」
「えっと、ドールお姉ちゃん、いいの?」
そうだ。『洪家三宝』だよ。前にオリヴィヤーニャさんが見せてくれたことある。
カラテカ系の上位三次ジョブ、『フェイフォン』だ!
「ええ。ただし……」
「ただし?」
「後払いでいいから、ほかのアイテムと交換ね。もちろん上位三次ジョブの。どうせ地上に戻るまでにどこかで出るでしょ」
「そっか、ありがと! 大暴れするよ!」
「それでこそ三毛猫の一族よ!」
そうしてボクとドールお姉ちゃんはお互いの手のひらをペシってくっつけたんだ。
「美しい姉妹愛ね」
「ふむ。うるわしいな」
横でふんふんってしてるサワさんとターンが、微妙にめんどくさいねえ。
「ナイトを勧めたわたくしの立場が……」
ミレアがガックリしてる。こっちもめんどくさそう。
けどまあいいや。なんたって六人全員でジョブチェンジなんだ。しかもみんなが上位三次ジョブだもんね。
あれ? なんかフォンシーが難しい顔してる。
「どしたのフォンシー」
「ん、ジョブチェンジするのがちょっともったいなくてな。いつものことだけど、今回は特に」
そう言いながらフォンシーがステータスカードを取り出した。
==================
JOB:HEAVY=KNIGHT
LV :131
CON:NORMAL
HP :282+742
VIT:73+304
STR:88+492
AGI:82+135
DEX:139+229
INT:133
WIS:50
MIN:38
LEA:14
==================
「すっごいことになってるねえ」
フォンシーの弱点ぽかったVITとSTRだけど、補助ステータスがものすごいや。
「本気でこの補助ステータスを捨てるかと考えるとな」
「そうだねえ。でもこっからジョブチェンジしてもさ、前衛ステータスがほとんど三桁だよ」
「まあな。あたしはここから後衛だろ? 慣れるまでが大変そうだ」
そっか。フォンシー以外の五人は全員同じ感じのジョブになるけど、ヘビーナイトからエンチャンター系のジャービルって前衛から後衛になっちゃうんだね。補助ステータスの伸び方が変わるだろうしなんか大変そう。
「フォンシーなら大丈夫だよ!」
「ラルカ、適当に言ってるだろ。フェイフォンになれるからって浮かれてるだろ!」
半笑いで睨まないで。ちょっとおっかないって。
◇◇◇
「さあさあ、じゃあお楽しみのジョブチェンジタイムだよ!」
パンパンってサワさんが手を叩いた。
けどあれ、よく考えたらさあ。
「あの、ここでジョブチェンジしたら、150層でレベル0になっちゃうんだけど」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
なにが大丈夫なんだろ。
「ちゃんとパーティ組み直すから。えっと『おなかいっぱい・改』はラルカラッハとフォンシー、フェンサーさんとドールアッシャさん、それとズィスラとヘリトゥラでいこうか。リーダーはズィスラね」
「まかせて!」
「姉妹愛だな」
ズィスラが元気に答えて、ターンがうんうんしてる。姉妹愛が気に入ったんだね。
ドールお姉ちゃんと一緒のパーティかあ。殴りジョブだし、うん、勉強しよう。
そいで『ルナティックグリーン・改』はミレアとザッティ、サワさんとポリン、ジェッタさんとウィスキィさん。『クリムゾンティアーズ・改』がシエランとウル、ターンとキューン、アンタンジュさんとポロッコさんってことになった。
「じゃあパーティチェンジの前に、お待ちかねのジョブチェンジだね!」
「はい! 奇跡はボクだね」
さっきジャンケンで決めといたんだよね。負けちゃったけど、フェイフォンになれるならまあいいや。
「いくよー、『ラング=パシャ』!」
ボクたちの体が銀色に光った。
「いやあ、体が重いよ」
補助ステータスが消えたし、それが今回は極端だし。
==================
JOB:FEI=HUNG
LV :0
CON:NORMAL
HP :371
VIT:97
STR:105
AGI:143
DEX:175
INT:69
WIS:101
MIN:32
LEA:16
==================
それでもこれくらいのステータスがあるんだけどね。
自分でもびっくりするくらい強くなったよねえ。『おなかいっぱい』の中だと、AGIとDEX、そしてWISが一番なんだよ。STRは下から二番目なんだけどさ。
いちおう後衛やってるフォンシーの方がSTRが高いってどういうことかな。フォンシーはナイト系を全部持ってるからなんだけどさ。
「……レベルを上げたい」
「そうですね。これはちょっと」
ザッティとシエランが困った顔してる。もちろんフォンシーも。
「レベルアップするぞ!」
ウルは輝いてるねえ。いっつも前向きだよ。
「わたくしは平気よ」
ラドカーンからロウヒになったミレアはVITとSTR、変わんないもんね。
氾濫からこっち順調にレベルが上がってて、162層に飛ばされてからグレーターデーモン狩りをやらされたから、そこでガツンってステータスが伸びたんだ。けど、レベルが上がったとこで戦闘しないうちにジョブチェンジしてレベル0になったもんだから、もうなんかステータスが上がったり下がったりで感覚がごちゃごちゃなんだよね。
「さてさて、ちょっとレベリングしてから、もう一回グレーターデーモンやっとく?」
「いい加減にしておかないと後で怒られるわよ」
物騒なこと言いだしたサワさんを止めてくれたのはウィスキィさんだ。
「はぁい。なんかもったいないなあ。けどまあ仕方ないか。初見階層だし、レベリングしながら上を目指そう」
「やむなし」
ターンは変な言い回しするねえ。
けど氾濫組が心配してるだろうしさ、そろそろ戻らないとだよ。
◇◇◇
「ねえサワさん」
「ん、なに?」
「なんでレベリングしてくれたんです?」
上に行く階段を探しながらボクたちは小走りで動いてる。何回か戦闘したから『おなかいっぱい』はもうコンプリートレベルまできてるんだよね。
ちょっとだけ余裕ができたのもあって、気になることを訊いてみた。
「グレーターデーモン狩りなんてしなくても、ちょっとだけレベルを上げたら戻れたんじゃ」
もっと言えば、今みたいにパーティを入れ換えたら、ほとんどレベリングしないでも帰れたと思うんだ。それこそあそこでジョブチェンジなんて、意味ないよね?
「うーん、なんとなくっていうのがひとつめ。迷宮にこん畜生って思ったのがもうひとつ、かな」
「迷宮に?」
「さっきも言ったかもしれないけどさ、わたしは迷宮に意思があるって思ってる」
そんな感じのコト言ってたよね。
「わたしが冒険者になってからさ、何回も迷宮異変に出会ったんだけど、毎回ギリギリなんとかなってるんだ」
「偶然じゃないってことですか」
「だね。だからってわけじゃないけど、意趣返しをしてやりたくなるんだよね」
それに巻き込まれたボクたちはなんだね。
「でも一番大事なのはそんなのじゃない」
「ふむ」
そこまで半笑いだったサワさんの表情が変わった。なんかキリってしてる。ついでにターンも会話に入ってきたね。
「モンスターがいたら倒す」
「経験値だ」
サワさんとターンが掛け合いみたいのを始めた。
「レベルが上がるわ!」
「強くなれます」
ズィスラとヘリトゥラまで。
「ジョブチェンジしたらスキルが増える」
「そしたらもっと強くなれる」
キューンとポリンが続いたね。
「だから今日は『おなかいっぱい』に体験してもらったの。どうだった?」
ああ、『ルナティックグリーン』と『クリムゾンティアーズ』が笑ってるよ。さっきの真面目な顔はどっか行っちゃってる。この人たちって、まるで強くなることが目標でそれが楽しくってしかたないみたいな、そんな空気なんだよね。
「あたしとしては、そこそこがいいんだけどな」
「そっか。まあそれもそうだよね。次があったらもうちょっと軽くしとこう、そうしよう」
サワさんがちょっと残念そうだけど、ボクは本気でフォンシーに同感だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます