第110話 レーベール! レーベール!




 十八人の冒険者たちが迷宮を進んでいる。なんて言えたらカッコいいんだろうけど、ボクたちはまだ一回も戦ってない。

 先頭は『ルナティックグリーン』で『おなかいっぱい』を間にはさんで、うしろを警戒してるのが『クリムゾンティアーズ』だ。途中で十字路とかがあったら、『訳あり』が両脇を守ってそのまましゅばばって先に進む感じ。


「あの、ボクたちなんにもしてないんだけど」


「今はまだその時じゃないの」


「いずれその時がくる」


 サワさんとターンがキリリってした顔で言ってるけど、『その時』がカブってるよ。


「……時は近い、か」


 ザッティ……。


 162層を出発してからかれこれ一日なんだけど、地図なんてあるわけないし、昇降機のカギももちろんない。なんで上への階段を探しながらだからけっこう時間がかかってるんだよね。

 途中の敵はもちろん全部『ルナティックグリーン』と『クリムゾンティアーズ』がやっつけてくれた。どうしても避けられないゲートキーパーもパーティを組み直してあっさりだったよ。おかげでレベルが少し上がったね。


 下層に飛ばされちゃったこっちも大変だけど、氾濫の方は大丈夫かなあ。


『よっぽどのことがない限りリッタたちがやってくれるから、大丈夫大丈夫』


 なあんてサワさんは言ってたけどさ。お知り合いもけっこういるし、なんたって『夜空と焚火』が参加してるからねえ。



「さて、時はきた」


「ふむ、お待ちかね」


「早いねっ!?」


 さっきの会話から十分くらいしか経ってないんだけど。えっと、ここって150層くらいだったっけ。


「それでなんなんです?」


「あれか?」


 ウルが通路の向こう側を睨んでる。暗くて見えないし音も聞こえないから、ボクにはちょっとわかんないかな。もしかして匂い?


「へえ、よく気付いたね」


「サワ、適当言ったでしょ!」


「ターンはわかってたぞ」


 サワさんがズィスラに怒られてるよ。ターンはなんか胸張ってる。ちょっとの付き合いだけど、面白いパーティだよね。


 だんだん見えてきた。なるほどあっち側にモンスターがいるね。あれが標的なのかな。162層からこっち格上ばっかりだから、もう強さ比べしても意味ないよ。



「それであたしたちはどうすりゃいいんだ?」


 そうだったよ。フォンシーの言うとおり。なにやらされるんだろ。


「フォンシー、それをわたくしが教えてあげますわ!」


「姉さん……、すごく不安なんだが」


「よくお聞きなさい。奇跡で魔法無効化を解除、それから『モンサイト』で魔法を封じ込めたら、あとはデバフして戦い抜くのですわ!」


 ええ? レベル捨てなきゃ勝てないようなモンスターなの!?


「付け加えるとね、全部倒しちゃダメなの」


「はい?」


 サワさんが話に入ってきた。どういうことかな?


「ジョブ遍歴を聞いて思ったんだけど、『おなかいっぱい』って長期戦に向いてるパーティでしょ」


「はあ」


「それにラルカラッハはナイチンゲール持ちだから、毒とか麻痺に強いし。あ、レベルドレインは気合で避けてね」


 なに言ってるんだろ、この人。ちょっと早口になってるんだけど。


「それでね、最初は宝箱狙いでいこう。メインはジョブチェンジアイテムだね。大丈夫、もしダブったらわたしたちのと交換してあげるから──」



 ◇◇◇



「レーベール! レーベール!」


「経験値~! 経験値~!」


「宝箱ー! 宝箱ー!」


「デバフてんこ盛りで弱体化させたし、イケるイケるー!」


 なんか後ろから、よくわかんない歌みたいのが聞こえてくる。歌ってるのはもちろん『ルナティックグリーン』と『クリムゾンティアーズ』だ。ドールお姉ちゃんまで。

 そしてボクたちといえば──。


「ふぎゃっ!?」


「『ゲイ=オディス』」


「ありがとシエラン。あ」


「くっ、レベルをやられました」


 モンスターに殴られたボクにすかさず回復をかけてくれたシエランだけど、その隙に別の方から叩かれてレベルドレインを食らっちゃった。

 戦いが始まってからもう二時間くらいになるんだけど、まだ一回目が終わんない。だからレベルも上がんないし、むしろドレインされて減る一方だ。


 相手は『グレーターデーモン・コバルト』。全滅させないとずっと仲魔を呼び続けるモンスターだ。前に戦ったマスターデーモンに似てるけど、こっちの方が速くてずっと強い。


「レベル150相当だからね。終わったらズドンってレベルが上がるから。まあ今回はアイテム目当てみたいなものだけど」


 サワさんに言われたとおり、ボクたちは相手を全部やっつけないようにして戦ってる。目安は回復魔法を使い切るまでだって。


「ほら、ラルカ。パンチは腰と背中で打つのよ!」


「フォンシー、動きなさいまし。前衛の足を引っ張る魔法使いは半人前ですわ!」


 なんかもう応援じゃないよね。フォンシーなんか目が死に始めてるし。


「レベルを上げて……、今は戦闘中だから上がらないけどね。慣れて!」


「おう!」


 サワさんの声にウルが元気に返事するけど、それって慣れろってだけじゃないか。いやまあ、それが大事なのは知ってるけどさあ。


「見切れ」


「……見切りか」


 ターンがそれっぽいこと言って、ザッティがニヤリってする。なんかすっごい相性よさそうだね。ターンは嬉しそうにむふって顔してるし。


「ふっ! 慣れてきました」


「やるわね、シエラン」


 敵をズバズバ斬り裂いてるシエランをミレアが応援してる。この状況だとミレアって、あんましやることないよね。大魔法は使い切っちゃったし、バフとデバフは掛け終わってるし。



「ポリン、今いくつ?」


「二十三個」


「もうレベルも上がりにくいだろうし、そろそろいいかな」


 サワさんとポリンがなんか言ってるけど、二十三ってなんのことかな。けど今はそっちより──。


「あの、回復危ないし、もういいですかあ?」


「うんいいよー。終わらせちゃって」


 やった。許してもらえたよ。戦ってるのはボクたちなのに、なんでこんな流れなんだろね。



 ◇◇◇



「ぶがー、疲れたあ」


「おつかれラルカ」


「なんかフォンシー平気そうだねえ」


「盾持って守ってただけだしな」


 そういやそうだったよ。

 けど、体が軽い。戦闘が終わったとたん、とんでもなくレベルが上がったもんねえ。ボクなんてレベル129だよ。一番上のミレアとザッティなんてレベル141だって。


「ねえラルカラッハ、いいかな?」


「なんです?」


 なんか深刻そうな顔したサワさんが話しかけてきたよ。まさかこれ以上なんかあるの?


「宝箱なんだけどね、『おなかいっぱい』に専属で開けるメンバーっているの?」


「えっと、ウチはウルです」


「半分、いや十個。十個でいいから、ポリンに開けさせてあげてもいいかな」


 ポリンがじっとこっちを見てるねえ。


「えっと、ウル?」


「おう、半分こにしよう!」


「ありがとう」


 ウルがニカって笑って、ポリンがへにゃって笑った。そのまま二人でたくさん転がってる宝箱に突撃してったよ。さっき二十三個って言ってたの、アレのことだったんだね。

 そいでポリンは宝箱が大好き、ってかあ。



 けっきょく開けた宝箱はウルが十二個でポリンが十一個だね。なんかいいのは出たかな。


「めぼしいジョブチェンジアイテムは『黒の聖剣』と『ポホヨラの杖』『五輪の書』、それと『ジャービル文献』ね」


 ウルとポリンが持ってきたアイテムをミレアがより分けてくれた。

 シュリケンとかカタナもあるし、ほかにも強そうな武器がいくつもあるね。


「シエラン?」


「それぞれ『ロード=ヴァイ』『ロウヒ』『ミヤモト』『ジャービル』です」


「『ジャービル』だけまんまだね」


「『ミヤモト』……」


 ああっ、シエランの目が怖い。なんかギラギラしてるよっ!?


「ね、ねえフォンシー。『ミヤモト』って?」


「サムライ系の上位三次ジョブだな」


 なるほど、シエランが燃え上がるわけだね。


「けれど」


 いきなり表情が変わったよ。さっきからシエラン、どうしちゃったの?



「これはウルが使うべきです」


「ウルか? ウルはニンジャだぞ?」


 シエランの言葉にウルが首を傾げてる。ボクもなんでって思ったけど、ちょっと考えて気が付いた。


「上位三次を持っていないのはウルとフォンシーだけです。だからこれはウルが」


 そういうことなんだ。けれどオーバーエンチャンターを持ってるフォンシーは『ジャービル』になれる。だから、ウルだけ。


「……いや、『黒の聖剣』だ」


 こんどはザッティだ。だよね。ザッティは上位三次ジョブを二つ持ってるし、そう言いだすよね。

 なんかびみょーな空気になっちゃったよ。



「いいね、いいねえ」


 それをぶち壊したのはサワさんだ。


「アイテムが偏って分配で悩んじゃう。いやあ、実にいい」


 もう何回も思ったけど、なんだこの人。

 ほかの人たちといえばだけど『クリムゾンティアーズ』は諦めたみたいな顔で、『ルナティックグリーン』はうんうんって頷いてるよ。『訳あり』ってだけでもけっこう違うトコもあるんだね。


「じゃあこうしよう。シュリケンとカタナって余ってる? 普通のやつだけでいいから」


「シュリケンが二個でカタナが三本です」


 サワさんに返事したのはシエランだ。アイテム管理係だからね。


「それ全部とこれを交換ってことでどう? ターン」


「ふむ」


 鼻を鳴らしたターンがインベントリから取り出したのは、一本のスクロールだ。


「『イガニンジャの心得』だ。『イガニンジャ』になれる」


 そしてそれをウルに突き出した。


「ウルにくれるのか?」


「むふん。『イガニンジャ』はターンが最初になった上位三次だ。やってみせろ」


「おう!」


 スクロールを受け取ったウルはしっぽブンブンだ。ターンもしっぽ振ってるねえ。ついでにがっつり握手もしてるよ。なんだかいい空気だけど、ボクにはよくわかんない世界だね。


「ターンはああいうのが好きなの」


「そうなんだあ」


 耳元でキューンがこっそり教えてくれた。二人が喜んでるなら、まあいいか。



「アイテムトレード。ほかの冒険者がいるからできること。うんっ、『ヴィットヴェーン』じゃできない醍醐味だね!」


 ヴィットヴェーンでもできる気がするけど、サワさんはなに言ってるんだろね。


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