第107話 ホントにラルカは邪魔をするのが得意よね
「氾濫らしくなってきやがった」
「『マル=ティル=トウェリア』! そうね」
フォンシーとミレアがずけずけ言ってるけど、余裕半分強がり半分ってとこかな。
一列目のトップパーティはさっきから増えてきたサムライジャイアントで手いっぱいみたい。当然ほかのサムライモンスターがこっちに流れてくるわけで、一回の戦闘で相手する数が増えてるんだよね。
しかも『一家』とか『天の零』はまだまだやれそうだけど、それ以外『白の探索者』なんかはスキルが危ないみたい。そろそろパーティを入れ替えなけなきゃならないってことは、それだけ二列目からが大変になっちゃうんだよ。
「これならちょっと前に休んどけばよかったよ」
「余裕がありませんでしたから」
シエランが苦笑いだ。もともとそんな暇、なかったもんねえ。
ボクたちはまだ一回も休めてない。そのぶん横のパーティにくらべてレベルは上がってるんだろうけど、いいかげんスキルが危ないよ。
「なに、これ」
ちょうど戻ってきた二列目のパーティと入れ替わろうってしたとき、しっぽがぶわって膨らんだ。
「ウル!」
「『聞き耳』……。ジャイアントじゃない。足音が違う」
ウルに階段の方を確認してもらってすぐ、ソイツが姿を現した。
「サムライヴァンパイアってか。90層の下層クラスじゃないか」
「ちがうよフォンシー、そうじゃない」
「ラルカ?」
たしかにサムライヴァンパイアは強い。麻痺とか魅了とかレベルドレインを使ってくるヤバいモンスターだ。資料に書いてあったのを読んで憶えてる。なんでボクが知ってるかっていえば、ヴァンパイアがサムライ種で一番強いモンスターだから。
だけどそんなあいつらの後ろから、なんかくる。サムライヴァンパイアよりずっと強いのが。
「……見たことねえな」
「知らぬのか。キールランターの探索層は?」
「122だ。けど、知らねえ」
殿下とオリヴィヤーニャさんがめちゃくちゃ物騒な会話をしてる。取りこぼしもあるかもしれないけど、アレって120層より下のモンスターだってこと!?
サムライヴァンパイアの後ろからやってきたのは、人型のモンスターだ。
さっきまでのジャイアントと違って大人の人より大きいくらいだけど、横幅もあってがっちりして冒険者みたいな雰囲気だ。なんか普通のフルプレートと違って、紐みたいので飾り付けた赤黒い鎧を着てる。たぶんアレって鉄だけじゃなくって木とか皮でできてるのかな。兜も派手な飾り付けで、額のところに金色のツノみたいのがくっ付いてるね。
なにより目を引くのは顔に付けてるお面みたいのだ。怒ったおじさんみたいな形で、目のとこにある穴からギラギラ赤い光がこぼれてる。
「ねえアレって」
「うん、ミレア。普通にサムライだねえ」
それに相手はおっきなカタナを持ってるんだ。あれって『大太刀』だ。
つまりアレも『サムライ』。しかもまるでそこらのサムライ冒険者が、派手なカッコしてそこにいるみたいな。
けど空気は違う。アレはモンスターだ。それだけは間違いない。
「まあ、強いのであろうな。ラルカラッハ、どうだ?」
オリヴィヤーニャさんがこっちを見ないまんまで話しかけてきた。隠してるわけじゃないけど、ボクが強さをだいたい想像できるって言ったことあったっけ?
「……オリヴィヤーニャさんたちよりか弱いです。けど、マスターデーモンより強いって思います」
「ならばよし。いや、たとえわれの方が弱かろうとも、やることは変わらんか」
だよね。アイツは今のボクたちより強いけど、それでも『おなかいっぱい』は逃げたりしない。『一家』だって絶対そうする。なんたって冒険者だからね。
「アレは仮呼称『ノーマルサムライ』だ。すまんがヴァンパイアは後ろに流すぜ。二列目、気張れよお!」
「うーっす!」
殿下が叫んで冒険者たちが一斉に返事した。
「ラルカ。スキルを使い切ります」
「ん、シエラン。みんなも出し惜しみ無しで。一気にレベルを上げて、やるだけやったらお休みしよう」
ちょうど両隣のパーティが戻ってきたばっかりだ。『ノーマル』に立ち向かうなら、スキルを戻しとかなきゃだからねえ。
今も階段からは『ノーマル』が上がってくる気配があるんだよ。これって絶対あふれかえるよね。
「そいじゃボクからだね。『リンポチェ』!」
ラマのスキル『リンポチェ』は相手の動きをちょっとだけ止めることができるんだ。ビショップの『スタンクラウド』とかと違って魔法じゃないから、軽減とか無効化を持ってるモンスターにも通用するよ。WISが高いと格上でも抑えられるし時間も伸びるんだ。
「ホントにラルカは邪魔をするのが得意よね」
「……しっぽを揺らすのも得意だ」
ミレアとザッティはなにを言ってるのかなあ。
でもま、たしかにボクの得意はかっちゃまわすことだし、トドメはみんなにまかせてやるだけやるかあ。
「『炎の髭』!」
鼻の両側から赤いおヒゲが生えて周りがゆっくりになりだした。
気が付いたらレベルも60台だし、スキルさえ使えばなんとかなるかな。
◇◇◇
「こりゃひどい」
「ごちゃごちゃだな」
まったくもってフォンシーとウルの言うとおりだ。残りの三人も頷いてるね。
あれからちょっと戦ってレベルを上げてから三時間の休憩をもらった。そいで戻ってきたら、階段前の広間はひどいことになってた。
「ほとんど『ヴァンパイア』と『ノーマル』じゃない」
「……『ノーマル』より強そうなのもいる」
「あれだな!」
ミレアたちが見てるのは『ノーマル』より体がおっきくて、鎧がもっと派手になってるサムライだ。
ノーマルサムライよりちょっとだけど、強いと思う。ヤだなあ。まさかここからもっと強いのとか出てこないよね?
「やるしかありません」
氾濫が始まってからずっとだけど、シエランの気合がすごいね。将来はすごいサムライになるんだってがんばってるシエランだし、あんなのに負けてらんないのかな。
「お待たせしましたぁ」
「やっと戻ってくれたか、助かるぜ!」
「もう普通に『ノーマル』の相手してるんですね」
「ああ。レベルがガンガン上がって、最高だぜ」
そういう冒険者さんの鎧はボロボロだ。
回復魔法があるから体は治るけど、鎧はそうはいかないもんね。たぶんクリティカルをもらうスレスレで戦ってたんだろうな。
「ぐっ!」
「お父様! 『ファ=オディス』!」
『ノーマル』相手に戦ってたら、前の方からポリアトンナさんの叫び声が聞こえてきた。あっちはずっと戦いっぱなしだし、いくらなんでもそろそろ。
「お母様、回復スキルが」
「やむをえんか。オーブルターズ!」
「こっちもやべえ。すまん、切り替え時を失敗したなあ」
一列目でも『一家』と『天の零』は休みをはさんでない。もう十二時間以上もだよ。
「一時間持たせろ」
「ああ、やるしかねえな」
「あのっ!」
思わず声を出したちゃったよ。けど言ったからには仕方ないよね。
「『一家』のところ、『おなかいっぱい』が埋めます。だから三時間、休んじゃってください!」
「よいのか?」
「お母様、わたしはまかせられると思う」
難しそうな顔をしたオリヴィヤーニャさんにポリアトンナさんが笑って言った。
「わたくしも賛成です。顔を見ればわかります」
「そうだなペルシィ。『おなかいっぱい』よ。ベンゲルハウダーの誇りをみせろ!」
なんか大袈裟だよ、オリヴィヤーニャさん。ペルセネータさんが太鼓判だけど、ボクたちってどんな顔をしてたんだろうね。そりゃもうやる気マンマンだけど。
んじゃあ、ちゃっちゃと下がってね。あとはスキル満載のボクたちがやってるからさ。
◇◇◇
「『
ボクのはおったマントがシュバって動いて敵の一体に絡みついた。これはラマの拘束スキル。マントを武器に戦うのがラマだからね。
「そっからの。『裡門頂肘』!」
動きが止まったモンスターに肘を叩き込んで、そこでお終いだ。
「やるじゃねえか」
「そっちこそ、倍くらいやっつけてますよね」
「我はキールランター最強の冒険者だからなあ」
オーブルターズ殿下が元気に返してくれたけど、もうスキルが無くなってて回復だっておぼつかないはずだ。こりゃマズいよね。
まだ『一家』が休みにいってから三十分も経ってない。その上ボクたちはスキルを使いまくらなきゃ勝負にもなってない。長くは戦ってられないんだ。もうちょっとだけでもレベルが欲しいなあ。
「しかもなんかさ、もっと強いのが近くまで来てるし」
「なにい!?」
呟いただけだけど殿下には聞こえてたみたいだ。
「『ノーマル』だけでも二種類いますよね。強いのともっと強いの」
「ああ、面倒だから名前で区別してないけどな」
そんな場合じゃないもんね。派手なのともっと派手なのですぐにわかるし。
「おいまさか」
「はい。それよりもっと強いのが来ます」
そして姿を見せたのはやっぱりサムライだ。大きさも『ノーマル』と変わんない。違うのは黒い鎧の上に肩から垂らしてるだけみたいな紫色の上着をはおってて、兜から金色の飾り棒がたくさん生えてるってとこかな。
一番大事なのはすごく嫌なんだけど、ソイツがとんでもなく強いってことだ。
「やるしかねえ」
「ですねえ。フォンシー、悪いけど『EXバフ』ね」
「ああ。やるさ」
フォンシーにお願いしたのはオーバーエンチャンターの『EXバフ』。普通のバフより効くんだけど、レベルがふたつ減るんだよね。なるべくだったら使いたくなかったんだけど、そんな場合じゃないね、これ。
「ほう。貴様らここで笑うか」
「あ、ボクたち笑ってます?」
オーブルターズ殿下がめちゃくちゃ楽しそうにこっちを見てる。
「ああ、冒険者だ。貴様ら、冒険者だなあ」
「そっちこそじゃないですか」
「おうともさ。さて、やるかあ」
「へ?」
いよいよ強そうなサムライと戦闘だって瞬間、しっぽどころか背筋まで全部がゾワゾワってなった。
「これって、これって」
「どうしたの、ラルカ」
「これってとんでもないよ、ミレア」
「そりゃ強いモンスターでしょうけど」
違う、違うんだよ。
とんでもなくって、すさまじいのは後ろからなんだ。氾濫の真っ最中だってわかってるけど、どうしたって無視できない。ゆっくりゆっくり振り返るしかないんだよ。急に振り向いて目があったりなんかしたら、死んじゃうかもしれないから。
「へえ、『ハタモト』に『ダイミョー』か。おっと『ミフューン』までいるよ。こりゃあ、じつにおいしいねえ」
やたらお気楽な声が広間に響いた。
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