第105話 しっかし若い娘さんたちだけのパーティですかい。まるで『訳あり』みたいですな
「じゃじゃん。『ラマ』だよ!」
この時のために用意しておいたマントをずばばってして、ビシって決めた。
このマント、マスターデーモンの皮で作ってあるから丈夫で魔法にも強いんだ。ラマ専用装備で仕立ててあるから、長くてゆったりしてる。
「おいおい、ラマって上位三次かよ」
「ほとんど冗談だったのに、マジモンじゃねえか」
「こりゃあ本物の『女神』か」
へぇ、さっきの冗談だったんだあ。
『ラマ』はプリースト系の上位三次ジョブだ。っていっても回復じゃなくって、前衛ジョブ。モンクの上位ジョブってことだね。ほかに『シュゲンジャ』と『ウラプリースト』があるけど、ラマは素手とマントで戦うんだ。ビショップみたいに相手の動きを悪くするスキルも持ってる。
ちなみにジョブチェンジアイテムは『
「AGIとDEXにWIS。ラルカ向けのジョブだな」
「フォンシーは三次ジョブ持ってないのに。ウルはよかったの?」
「ん? ウルはニンジャ系になりたいぞ」
「そっか。早くアイテム見つけないとね」
似たような会話は何回もしたんだけどね。ナイチンゲールを持ってて殴りジョブだから、ラマはボクってことになったんだ。
これでボクは上位三次ジョブが三つ目ってことになるから、まだ持ってないウルとフォンシーに悪いなあって思ってる。二人とも全然気にしてないみたいだけど、それでもね。
「久しぶりの盾と剣だ。重いな」
フォンシーはオーバーエンチャンターからしばらく盾無しのジョブだったもんねえ。
でもヘビーナイトならすぐ慣れるでしょ。もともとナイト系は得意なんだし。
「こっちもいいぜ」
『夜空と焚火』も準備できたみたいだ。
さてじゃあレベリングだね。
「俺たちも負けてらんねえなあ」
「いっちょやるかあ」
「よそ者にばっかいいとこ持ってかれてもな」
おうおう、王都の冒険者さんたちも盛り上がってるねえ。
さあ氾濫前、最後のレベリングだ。
◇◇◇
「ベンゲルハウダーから来てくれたのか。キールランターをよろしくたのむ」
豪華な建物の真ん中あたりにキールランター迷宮の入り口があった。おっきな扉があってさ、ベンゲルハウダーと違い過ぎてどっちが普通なんだかわかんなくなったよ。
そこにもいた衛兵さんに教会でもらった木札みたいのを渡したら、軽く頭を下げられちゃったんだ。キラキラの鎧をつけて、偉い人に見えたんだけどなあ。
「へへっ、王都でグダグダしてた俺たちに衛兵様がたのむ、だよと」
「意趣返しか?」
ちょっとくすぐったそうなギリーエフさんにフォンシーが意地悪いこと言ってる。
「まさか。俺たちはベンゲルハウダーの冒険者だぜ。そんなセコいこと考えるかよ」
「そうか。変なことを言ってすまん」
「俺たちのメンターは『おなかいっぱい』だぜ。カッコ悪いマネできるかってな」
あらら、フォンシーがやりこめられちゃった。
「『夜空』と一緒は久しぶりですね」
「あのときは世話になった。けど今は」
「遠慮しないで進んで。必ずついてくから」
ギリーエフさんとニクシィさん、気合入ってていいね。二人だけじゃない。『夜空と焚火』の全員か。
「でも、ボクも足手まといなんだよね」
「あたしもだ。しばらくはシエランとウルにお任せだな」
「まかせてください」
「やるぞ!」
仲間の中でAGIが高いのはウルとシエランだ。一番速いのはザッティなんだけど、ウィザード持ってないからねえ。深いとこまで行って強い敵が出てきてもミレアに任せられるし、ボクとフォンシーは見てるだけってね。
「フォンシーはちゃんと地図見ててね」
「はいよ、リーダー」
協会で地図はもらってきたから43層までは最短で行くつもりだけど、けっこうギリギリかな。できたらレベル30くらいにはしたいんだけど。
「経験値譲ってくれて助かるよ。そっちはいいのか?」
「こっちは四人、そうそうレベル上がりませんから。20層くらいから本気でいきます」
目標が43層だから、『おなかいっぱい』はボクとフォンシー以外レベルは上がんない。なので浅いうちはなるべく『夜空と焚火』にモンスターを譲ってる感じだね。あっちはジョブ数が少ないから、そのぶん今のレベルを上げとかないとだよ。
それでもそれなりにモンスターはやっつけたしゲートキーパーだっていたから、レベルは上がってる。ラマには面白いスキルもあるし途中でいろいろ試しとたいんだけど、休む時間ももったいないからほとんどぶっつけ本番かな。
◇◇◇
「なんとかたどり着いたわね」
「予定まであと五時間か。スキルを戻す時間は取れそうだ」
「責任者はどこかしら」
ミレアとフォンシーがやれやれって顔して話してる。一日近くかかったけど『おなかいっぱい』と『夜空と焚火』はなんとか43層まで降りてきて、階段前の広間に向かってるとこだ。
けっきょく休む時間がなかったから、ラマのスキルは一回ずつしか試せなかったよ。
「おう、見ない顔だけど参加者ですかい?」
「あ、こんにちは。ベンゲルハウダーから来た『おなかいっぱい』です」
「俺たちは『夜空と焚火』だ」
「そりゃあどうも。助っ人ですな。感謝しますぜ」
なんか面白いしゃべり方する人が現れたよ。けど、この人強い。『一家』まではいかないかもだけど、たぶん『フォウスファウダー・エクスプローラー』くらいは。てことはつまり、ベンゲルハウダーでも二番目くらいってことだ。
まさかこの人がオーブルターズさん?
「こっちも名乗っておかなきゃですな。あっしは『雲の壱』のマクティってモンでさ」
違ったよ。
「ベンゲルハウダーからってこたあ、『一家』のツレですかい?」
「えっと、いちおうそうです」
「そうですかい。んじゃあ、姐さんたちのとこまで案内しますぜ」
「あ、どうも」
姐さんって、オリヴィヤーニャさんのことだよね。なんかすごいノリのおじさんだよ。でも、けっこうおもしろいかも。
とりあえずここはついてくしかないかな。
「来たか。レベルはどうだ?」
「21です。ぎりぎりコンプリートはなんとかなりました」
「あたしは23だ。こっちもコンプリートしてる」
「お、俺たちもコンプリートは終わってます」
広間に入ってすぐ、オリヴィヤーニャさんたち『一家』に会えた。
ボクはレベル21でフォンシーは23だ。コンプリートが間に合ってよかったよ。あと、シエランとウルがひとつ上がってレベル44と47だね。残念だけどミレアとザッティはそのまんま。
「ならば一度休息だな。マクティといったか、案内してやってもらえるか」
「へい。おまかせくだせえ」
「ああ待て。配置だが『夜空と焚火』は通路組で、『おなかいっぱい』は前線二列目だ。オーブルターズに伝えておくといい」
オリヴィヤーニャさんが、なんかまたおかしなコト言いだしたよ。ボクたちが二列目?
「いいんですかい?」
「『おなかいっぱい』は強い。しっかり修羅場もくぐっているしな」
「姐さんがそう言うなら」
で、ボクたちは置いてきぼりと。
「しっかし若い娘さんたちだけのパーティですかい。まるで『訳あり』みたいですな」
「アレと一緒にしてやるな。こ奴らはこ奴らで、なかなか面白いのだぞ」
「楽しくなってきましたなあ」
だからそっち側だけで勝手に盛り上がらないでよ。
「ずいぶんと期待されてるな。同情するぜ」
「まったくもうって感じです」
広間のすみっこに木で造った砦があって、そこに休憩室があるんだって。そこに案内してもらってるわけだけど、途中でギリーエフさんがボソって話しかけてきた。
「それでもお前らは強い。信じてるぞ」
「それなりにやってみるさ」
フォンシーがニヤリって笑った。なんかボクたちも氾濫に慣れてきちゃったよねえ。
「あっしらも期待してますぜ」
「あ、はい、がんばります」
前を歩いてたマクティさんに聞こえっちゃってたね。あ、そうだ。
「あの、マクティさんたちも『訳あり』とお知り合いなんですか?」
さっきチラっと言ってたよね。
「あっしらは殿下と一緒にヴィットヴェーンに行ったことがありましてね」
「殿下?」
「オーブルターズ殿下よ。メッセルキール公爵のご子息で、現王陛下の甥にあたる方」
こそっとミレアが教えてくれた。さっき会った王様の親戚かあ。
「最初は変に強い冒険者がいるって話だったんですがね」
「変?」
「そうでさあ。何でか知らないけど強いって噂だったんです。ネタをばらせばジョブチェンジだったんですけどね」
ああなるほど、ジョブチェンジがまだ当たり前じゃなかったころに行ったんだ。
「気が付いたらジョブチェンジしてて、レベリングまでしてもらってたんでさあ」
「あははっ。面白いですね」
「お嬢さんたちもいつか行ってみるといいでさ」
「はい。いつかきっと」
そうだね。氾濫が終わったら王都を見て歩いて、それからこんどはヴィットヴェーンに行ってみるのも面白いかも。
「さ、ここが休憩室でさ。作戦まであと四時間。時間になったら鐘を鳴らしますんで、寝ぼけてないで起きてくだせえよ?」
四時間かあ。迷宮異変のたんびに寝る時間が短くなるし、早く終わってゆっくりしたいね。
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