第103話 余らは冒険者パーティ。その名も『ロイヤル』よ




「人がいっぱいだねえ」


「さすがは王都ですね」


 並んで歩いてるシエランがキョロキョロしてる。まあボクもなんだけどさ。すごい人出だねえ。

 歩いてる大通りの両脇にはお店がたくさんで、いろんなものが売ってるみたい。どっかで時間作って見て歩きたいねえ。パリュミとサータッチャもそっちに気がいっちゃってるみたいだし。


「橋がたくさんだね」


「そうですね。街の中に川が流れてるなんて」


 さっきから二回も石造りの橋を渡ったんだよね。普通の道を歩くみたいに丈夫だったよ。


「王都の近くには大きな河があって、それの支流の上に造られたらしいんだ。なので街中川だらけってことさ」


「へえ、すごいんですね」


 ギリーエフさんが嬉しそうに説明してくれた。やっぱり王都が自慢なのかな。

 ベンゲルハウダーはちょっと高いところを流れてる川からなんとか水を引いてるくらいで、ここまですごくないもんね。



「ほら見て、あれが王城よ」


 しばらく歩いてたらニクシィがちょっと左側を指さした。


「あれが……、すごい」


 シエランがビックリしてる。うんうん、ボクもだよ。

 小さな丘になってるのかな、それとも建物の形なのかな、ベンゲルハウダーの領主邸を十倍にしたくらいのおっきな石造りの建物がどかんとそこにあった。三つも四つも塔が立ってて、そこで誰かが見張ってるみたいだね。目がいいボクには見えちゃってるよ。


 みんなが立ち止まって見つめちゃってるね。これだけでも王都に来たかいがあったくらいだよ。


「俺たちには関係ない場所だ。そうだな、まずは──」


「ギリーエフ、ウルは迷宮が見てみたいぞ」


「ウルラータはそうきたか。まあ届け物の通り道だし、寄ってくか。今日は見るだけで、潜らないぞ」


「おう!」


 そんなわけで、ボクたちお上りさんは迷宮を目指すことにした。


「わたくしは慣れてるわ」


「はいはい」


 ミレアだって見てみたいくせに。



 ◇◇◇



「これが迷宮だっていうのか」


「ああそうさ。すごいだろ」


「信じられないな。意味はあるのか?」


「さてなあ」


 フォンシーが呆れた顔で、ギリーエフさんは肩をすくめた。外から来た人と王都の人が似たような気持になるくらい、キールランター迷宮の入り口はすごかった。


「入口っていうか、おっきい建物だね。しかもなんか派手派手?」


「重ねて派手っていう気持ちもわかるわ。わたしたちも小さいころは、アレが迷宮だなんてしらなかったもの」


 ニクシィさんも苦笑いだね。

 だってその建物、真っ白な石造りでちょっとしたお城みたいなんだよ。キラキラした窓がたくさんあって、塔が二本立ってるし。意味あるのかな。


 さっきからいろんな人が出たり入ったりしてる。冒険者っぽい人もいるしそうじゃない人も。なんかベンゲルハウダーと違って慌ただしいねえ。

 けどなんかおかしいぞ、これ。走ってる人の顔が普通じゃない。あれは、あせってるときの表情だ。



「ああ、そこの衛兵さん」


「なんだ?」


 建物の真正面にあったおっきな扉の前には白いフルプレートに赤いマントをつけた、いかにもナイトって感じの人が二人立っていた。門番さんかな。

 なんかこう怒ってるっていうか、ピリピリしてない? 嫌な予感がどんどん大きくなってるんだけど。


「俺たちはベンゲルハウダーの冒険者なんだが、キールランターに潜るとき、なんか手順とかあるのかな。っていうか、なんかあったのか?」


「ベンゲルハウダー、か。……今は難しいな」


 厳しい顔をした衛兵さんが苦しそうに笑って言った。


「どういうことだい?」


「迷宮で氾濫が起きている。協会を経由した冒険者以外は立ち入り禁止だ」


 うええ、王都に来たとたんに氾濫かあ。こっちはひと月ちょっと前にあったばっかりなんだけど。



「悪いが指揮系統があってな、ここを真っすぐ行ったら協会事務所がある。そこで指示を受けてくれれば──」


「その必要はないな」


 うしろから聞こえてきたのは、とってもよく知ってる声だったよ。


「あ、あなた様はっ!?」


「われらは『フォウスファウダー一家』と『白の探索者』だ。キールランターにて氾濫と聞き、参上した!」


 道端に響くような声を聞いて、なんだか力が抜けちゃったよ。オリヴィヤーニャさんたち、なんでここにいるのかなあ。


「『おなかいっぱい』に、たしか『夜空と焚火』であったな」


「は、はひっ!」


 ギリーエフさん、声がひっくり返ってるよ?


「丁度いいところで会った。ついてまいれ」


 これってボクたちの話とか都合とか、絶対に聞かないヤツだ。無理やりでも氾濫鎮圧に参加ってことだよね。


「なに、無理にとは言わん」


「ホントですか?」


「ここはベンゲルハウダーではないからな」


 うーん、ウソついてる目じゃないんだけどさ。けど余裕たっぷりに見えるんだよね。信じてるぞって感じで。


「とりあえず話だけは聞きます。みんなもいいかな?」


『おなかいっぱい』はいちおう頷いてくれた。『夜空と焚火』だけど、あっちはちょっと可哀相な顔してるよ。



 ◇◇◇



 荷車二台は衛兵さんに預けて、ボクたちは迷宮の上にある建物の中を歩いてる。パリュミとサータッチャも一緒だよ。放り出すわけないからね。


「いつこっちに来たんです?」


「二日前にベンゲルハウダーを出た。貴様らは三日前だったようだな」


「なんでそれを」


「出発前にサジェリアから聞いた。王都に行くと書類にあったぞ」


 いやまあ、十日はいなくなる予定だったから、王都に行ってきますくらいは伝えておいたけどさ。なんでいきなりこうなるかなあ。


「ここだ」


 そう言ってオリヴィヤーニャさんは、なんかやたら豪華な扉をノックもしないで開けた。ドパンって音がするくらい勢いよくだよ。壊れたりしてないよね?



「なんと親父殿、ポールにケースまでもか」


 誰それ。


「……陛下っ!? それにあの方々って、まさかっ!」


 横でミレアが絶句してる。あそこにいる三人って、もしかして偉い人?


「それにメッセルキール公とブルフファント侯までもか。これは驚きだ」


 驚いたっていうわりに、オリヴィヤーニャさんは楽しそうだ。不敵な笑みってやつだね。

 メッセルキールって呼ばれた人はおじいちゃんで、ブルフファントさんはおじさんって感じ。最初の三人は座ってて、あとの二人はその両脇で立ったまんまだ。

 それとこの部屋にいるのは、物語に出てくるみたいな恰好した騎士さんたちが十人くらいだね。


 うん、強い人はいなさそう。あのおじいちゃんたちがすごく強かったら、それこそお話みたいだなって思ったけど、そんなことはないみたいだね。



「普段はオーブルターズに任せきりの貴方方が出張るとは、槍でも降るのかな」


「余らは冒険者パーティ。その名も『ロイヤル』よ。いざとなれば前線に赴く所存ぞ」


「……まさかとは思うが、サワ・サワノサキの悪影響か」


「サワノサキ卿は余のメンターでもある」


 陛下っていわれたおじいちゃんが、なんだかよくわかんないけど胸を張った。胸に付けてるバッヂを見せびらかしてる感じだね。


「くくっ、我もあの者たちのレベリングを受け、共に戦ったぞ。これが証だ」


 ポールって言われたおじさんもだ。その銀色のバッヂって意味あるの? なんか女の人の横顔が描いてあるけど。


「ヘリトゥラちゃんは実に健気であった」


 ブルフファントって名前のおじさんの目が、やたらめったら優しいし。なんかこの人たち、強くないくせに怖いんだけど。

 オリヴィヤーニャさんたち、なんで手で目を覆ってるのさ。なんとかして、これ。



「黒門の戦闘報告は聞いていたが、なんということだ。やってくれおったな、サワ・サワノサキ。相変わらず、なんと非常識な影響力だ。複雑ではあるが、同時に愉快でもある」


 うわあ、オリヴィヤーニャさんに非常識って言わせるって、どんだけだよ。

 そして『一家』全員苦笑いだね。


「我々は目覚めたのですよ。ささっ、オリヴィヤーニャ様、そこにいる可憐な戦士たちを紹介していただけますかな」


 ブルフファントおじさんが、ガッツリ『おなかいっぱい』を見てる。ボクは知ってる。優しい目だけど、あれはモータリス男爵さまがフォンシーを見るときの目だ! どういうことさっ!

 久しぶりにしっぽがブワってなったよ。


「ああ、もういい。先にそちらを教えてやる。真ん中の偉そうな爺様が国王陛下、われの父だな」


 へー、王様ね。国で一番偉い人かあ。なんかもうどうでもよくなってきたかなあ。


「横に並んでいるのが弟で第一王子のポールカード、隣が第三王子のケースローンだ」


「『ライブヴァーミリオン』にいたヴィルターナ様とカトランデ様のお父様よ」


 ミレアがコソって教えてくれたけど、じゃあターナとランデってホントのお姫さまだったんだ。


「そしてあっちのじいさまがメッセルキール公爵で、となりはブルフファント侯爵だ」


 オリヴィヤーニャさんの紹介はそこまでだった。まあ騎士さんたち全員はムリか。偉い人たちだけってことだね。そんな人たちをボクたちに紹介する意味わかんないんだけど。



「『一家』と『白の探索者』はもちろん知っておる。残り二つのパーティに挨拶をして貰えるかな」


 ほら、こっち向いちゃったじゃない。まったくもう、王様が言うからにはしかたないよ。


「ベンゲルハウダーの『おなかいっぱい』です。こっちの二人はハウスキーパーです」


「お、俺たちは王都出身で今はベンゲルハウダーの『夜空と焚火』で、ですっ」


 ああ、ギリーエフさんたちが死にそうな顔色してるよ。こっちは、ああ、ミレアがねえ。せっかくMINも上げたんだから、もうちょっとがんばってよ。


「ほう、強いのか?」


 王様が面白そうに訊いてきた。ボクが返事できるわけないよ。


「『夜空と焚火』は中堅一歩手前といったところか」


「では、『おなかいっぱい』は?」


 オリヴィヤーニャさんがニヤリって笑う。ああ、これはマズい。絶対変なコト言いだすよ、この人。


「『おなかいっぱい』はベンゲルハウダーにて十指に入るパーティよ。まあ、最強の座は譲れんがな!」



 だからあ、なんでそういうコト言うかなあ。それと『一家』と『白の探索者』、なんで楽しそうなのさ!


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