第102話 なら一緒に行ってみるか?
「『月と暁の星』!」
ミレアが叫んだと思ったら、天井あたりにお月様が登場してそこから岩がたくさん落ちてきた。
ラドカーンの魔法だ。ヘウハウンドの集団がどんどん消えてってる。
「そして『グリフィン』!」
こんどはなんか鳥だか犬だかよくわかんない動物に化けたミレアが残りのモンスターに突撃したよ。これもラドカーンの魔法なんだよね。いやあ、すごいねえ。動物になれる魔法なんて、物語の中だけだって思ってたよ。
「ねえフォンシー、やることないんだけど」
「楽でいいじゃないか」
ミレアが敵の群れに大穴あけたとこにシエラン、ザッティ、ウルが飛び込んで大暴れしてる。
72層なのに戦ってるのは四人だけなんだよねえ。
「『ヤクト=ティル=トウェリア』」
「あ、ずるいよフォンシー!」
「あたしもちょっとくらいは参加しとかないとな」
まーた出番なしで終わっちゃったよ。
「はい。ボクもたまに戦わないとだめだと思います!」
「ラルカは回復ジョブじゃない」
「殴りナイチンゲールやってもいいって言ったのみんなでしょ」
「ウルたちの方が速いぞ」
ミレアとウルの言葉が刺さるよ。容赦ないなあ。
ボクやってるナイチンゲールってAGIが上がんないからさ、こないだまで一番だったのに今じゃあ五番目なんだよね。六番はエルダーウィザードで、これまたAGIが伸びないフォンシー。
「だいたいウルとシエランってレベル40台なのに、こんなとこ来て大丈夫なの? って、全然大丈夫だったねえ」
「わたくしとザッティがいるわ!」
ミレアがババンって胸張ってるよ。
全員でジョブチェンジしてからだいたいひと月くらいかな、ボクはナイチンゲールのレベル62になった。フォンシーはエルダーウィザードのレベル64で、ミレアがラドカーンのレベル62、ザッティはグラディエーターのレベル62だね。もう、ミレアとザッティはノリノリだよ。
ウルはサムライからケンゴーになってレベル43。そしてシエランはソードマスターからジョブチェンジして、ついにスヴィプダグのレベル41だ。
「シエランは調子どう?」
「いいですね。しっくりきます」
長めの両手剣、『勝利の剣』を持ったシエランがにっこり笑ってる。ちょっと怖いかも。
『勝利の剣』はスヴィプダグになれるジョブチェンジアイテムで、専用装備だったりする。ウチのパーティには『勝利の剣』より強い両手剣があるんだけど、スヴィプダグに限ってだけ上乗せがあるんだって。本人にしかわかんない感覚だよね。
「……『マクシムス』もいいぞ」
なんて言うのはザッティだ。ザッティがやってるグラディエーターもジョブチェンジアイテムの『マクシムス』が専用装備なんだよね。こっちはそれほど長くない片手剣。左手に『デーモンシールド』を持って、大楯片手剣っていうザッティらしい格好になってるよ。
「ケンゴーも楽しいぞ」
『黒鉄の太刀』を肩にかついだウルも笑ってる。こっちはシエランと違っておっかなくないねえ。
ボクも一応『デモンメイス』を持ってるけど、出番が全然ないや。
「ほらほら、次は一頭残してラルカに回してやれ」
「フォンシー、そういうの要らないよ」
「ラルカもたまにめんどくさいな」
◇◇◇
「いろいろ助けてくれてね」
今日は『オーファンズ』と一緒に『旅人』のクランハウスにお呼ばれだ。つい三日前に完成したらしくって、ボクたちは二回目のお客さんなんだって。なんと一番は『エーデルヴァイス』とそのお父さんたち偉い人。
どうやら子爵さまとか男爵さまがお金を出してくれたらしいんだ。
「『層転移』騒ぎのときに78層で守ってやったからさ、お礼だってね」
「そういえば言われましたね」
「『おなかいっぱい』は断ったそうじゃないか」
「なんかヤだったから」
「そういうところ、ラルカラッハはすごいよ」
レアードさん、それって褒めてないでしょ。
あの迷宮異変のあと、ヴァルハースのお父さん、ルーターン子爵たちからお礼をって言われたんだよね。けどなんかほら、いろいろあったから断っちゃったんだよ。
『必要ない。冒険者が当たり前にしたことだ』
なあんてディスティスさんは断って、それを見たザッティがすっごい目をキラキラさせてさ、ボクもそうやって断ったらよかったなあって後悔しちゃった。カッコいい断り方もあるんだねって。
逆にリーカルドさんはあっさり受け取るって言ってたし、そこらへんはいろいろだね。
「王都?」
「ああ、あっちの知り合いを誘いにな」
ギリーエフさんが面白いコト言いだした。そういや『夜空と焚火』はキールランターから来たんだっけ。
「あっちはまだステータスカードに金がかかるだろ。『旅人』もそれなりになってきたし、声をかけようかってな」
「へえ、王都か。面白そうだ」
「興味あるのか。なら一緒に行ってみるか? こっちは大歓迎だが」
なんかフォンシーが乗っかったね。ボクもなんとなく楽しそうかなって思っちゃってるよ。
「まあな。こりゃ仲間と相談かな」
「わたくしは行ったことがあるわ。案内くらいならできるわよ」
おお、ミレアまで。しかも自慢げだし。
「そういやミリミレアは偉いとこのお嬢さんだったな。俺らは下町くらいしかわからんよ」
「わたくしは貴族の前に冒険者よ」
「へいへい」
すっかり冒険者に染まってるねえ。いや、ミレアって最初っからこうだっけ。
「ボクは楽しそうだし行ってみたいなあ」
「……オレも行ってみたい」
「パリュミとサータッチャも一緒がいいと思うぞ」
なるほどウルの言うとおりだよ。あの二人も連れてってあげたいな。
「移動はどうするんですか?」
「そりゃ徒歩だ。そうだな、荷車くらいは使おうか」
そうやって訊くってことはシエランも乗り気なのかな。そっか歩きかあ。一度くらい馬車っていうのも乗ってみたかったけど。
「ヴィットヴェーンの連中は走って王都まで行ったらしいぞ。な、シャレイヤ」
「そうね。こないだの異変のとき、『訳あり』は二日で着いたって言ってた」
話を振られたシャレイヤがなんてことないって風に言うけど、王都とヴィットヴェーンってそんなに近かったっけ。
「馬車だと十日くらいだって聞いてるわ」
「シャレイヤ、なんで馬車より速いかなあ」
「わたしたちでもできるわ。『おなかいっぱい』なら大丈夫でしょ」
ホントかなあ。
「なら一緒に行くか。こっちは明後日の朝イチで出発の予定だけど、いいか?」
「はい、大丈夫です。荷車を一台出せますけど、載せるものはありますか」
「そうか、助かる。なら土産とかを──」
こういうときはやっぱりシエランがキメてくれるね。打ち合わせよろしく。
◇◇◇
「旅の夜空も久しぶりだな」
「ウチのパーティだと他所から来たのボクとフォンシーだけだもんねえ」
「あたしが行き倒れてたところを拾ってもらったな。ラルカは命の恩人だ」
「やめてよ。大した悪いって思ってないクセに」
「出会いに感謝してるだけさ」
パチパチ音を立てて燃えてる焚火を見ながら、フォンシーがちょっと変なコト言ってる。
背中が痒くなりそうな言い方、わざとらしくってよくないよ。
ボクたちは旅の途中だ。旅って言っても王都、キールランターまでは四日くらいだって。走りっぱなしってワケじゃなくて、だいたい速足ってとこかな。
パリュミとサータッチャも一緒で、走ったり荷車に乗ったり、たまにウルとザッティが肩車したりしてる。ザッティと二人は背丈変わんないから、ちょっと面白い見た目になるよ。
「天井がないけど、ごはんが食べれていいな。パリュミ、サータッチャ、これもおいしいぞ」
「焚火もあります」
「うん。おいしい」
ああそっか、ウルたち三人は孤児だったから、夜の空は苦手なのかな。
できたら楽しい思い出に変わるといいんだけどなあ。でもまあ、笑ってるから大丈夫か。
「せっかくだから、コカトリスも食べましょうか。『夜空』のみなさんもどうぞ」
「いいのかよシエラン。それって何層だ?」
「これはたしか72層ですね」
「げえっ!?」
ギリーエフさんたちがビックリしてるけど、せっかくの夜空だし楽しくておいしい方がいいよね。
「食べても石化なんてしないから、安心して食べてくださいね」
「怖いこと言うなよ」
シエランって時々おっかないよね。けどコカトリスはホントにおいしいから大丈夫だよ。
◇◇◇
「でっかいねえ」
「だろう? あれがキールランターの石壁だ」
三日目に王都が見えてきたんだけど、いやあ、これはおっきいよ。ベンゲルハウダーもそこそこの石壁があるけど、造ってる最中で迷宮側しかできてないし、高さも違う。王都の壁ってボクの背丈の五倍くらいあるんじゃないかな。
「こっちは北門だ。ベンゲルハウダーとのやり取り専門みたいなもんだな」
「へえ、じゃあギリーエフさんたちもこの門から?」
「ああそうだ。あのときはこんな風になるとは思ってなかったよ。迷宮でラルカラッハに会ってなかったら、今頃どうなっていたか」
「やめてくださいよ」
おとついのフォンシーといい、なんでそういう風になるかなあ。
「わたしたちは感謝してるってことでいいじゃない。さあキールランターよ。ようこそ王都に、ってね」
ニクシィさんがこっちを向いて笑ってる。
さあいよいよ王都だ。おいしいものがたくさんだといいなあ。ほかにも楽しいものとかさ。
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