第101話 芝生に池が欲しいな!




「えー? ボクなの?」


「いいじゃないか」


 フォンシーは楽しそうだけど、いいのかなあ。周りも頷いてるし。

 なにしてるかっていえば、ボクたちはパーティハウスの食堂で次のジョブを相談してるとこだね。いつもの六人部屋でボクとウルとザッティの部屋じゃないのは、パリュミとサータッチャも聞きたいって言ったから。


『層転移』騒ぎが終わってまず、パーティハウスに戻るまでが大変だったよ。

 20層でオリヴィヤーニャさんの演説を聞いてから地上に戻ったら、たっくさん人が待ってたんだ。シエランのお父さんとお母さん、ザッティのおじいちゃんのザダッグさん、ミレアのお父さんのモータリス男爵さま。ほかにもお知り合いがいっぱい。

 もちろんパリュミとサータッチャもいて、もう大泣きだった。せっかくお家ができたばっかりなのに九日も空けてたからねえ。


 迷宮から戻った次の日、ジョブ談義をしようとしたら二人が一緒したいって言ってきたのもそのせいかな。

 昨日の夜は疲れちゃってったからすぐに寝て、朝ごはんしながらっていうのもあるけどね。



「ラルカは速いし、範囲回復だから大した考えなくてもいいわ」


「ミレアの言い方、ボクが考えなしみたいなんだけど」


「いいじゃない。殴りナイチンゲールとか、素敵だと思うわ」


「そうかなあ」


 今回の78層行きで拾ってきたアイテムの中には、いろんなジョブチェンジアイテムがあったんだ。そのうちひとつが今お話になってる『ナイチンゲール誓詞』。ビショップの上位三次ジョブ『ナイチンゲール』になれるアイテムだよ。

 ナイチンゲールはすごいプリーストみたいな感じで、特徴は全体回復スキルがあるってジョブなんだ。しかも時間で勝手にHPが回復するのとか、状態異常をあらかじめ効きにくくするスキルとかがあるんだ。


「まあ速い人がやるのが一番っていうのはわかるけどさ」


「そういうことよ」


 全員がレベル70くらいになっちゃったから、今回もいっぺんにジョブチェンジすることになったのはもちろん賛成だよ。じゃあ基礎AGIが一番高いのは誰かって話になったんだ。

 今まではウルだったけど、ヴァハグンやってるうちにボクが一番になっちゃったんだ。なんとジョブチェンジしたら114。ウルが100だから、ダントツでボクなんだよね。


「わかったよ。殴りジョブもアイテムが無いし、ボクがやるよ」


 ヴァハグンと一緒の上位三次ジョブは『スクネ』と『フェイフォン』なんだけど、アイテム持ってないからね。どうしようかなあって思ってたんだ。だからまあいっかってトコ。



「ウルはサムライをやるぞ」


「いいんですか?」


「……いいのか?」


「おう!」


 サムライになるって言いだしたウルに訊き返したのはシエランとザッティだね。じつは二人とも次のジョブはほとんど決まってるんだ。


「ザッティはグラディエーターでシエランがスヴィプダグだな。カッコいいぞ」


 そういうことだね。グラディエーターはパワーウォリアー系で、スヴィプダグはソードマスター系の上位三次ジョブだ。ウルが目指すっていうのもできるんだけど、だけど誰が似合うかってなれば、ねえ。


「ありがとうウル。わたしはソードマスターからですね」


 シエランはソードマスター持ってないから、そこからだね。お父さんのフィルドさん、喜ぶと思うよ。ウチのパーティでソードマスター取ってるのってボクだけなんだよ。ワザとじゃないんだけどさ。


「……盾を持つ、か」


 んでザッティがニヤリだ。その笑い方、だんだん似合ってきてるねえ。

 なんにしてもザッティが盾持ちになるのは大賛成だ。VITとSTRはザッティがパーティで一番だから、どんどん前に出るタンクになれるね。本人もやりたがってるみたいだし、やりたいことをやるのが一番だよ。


「わたしもやっぱり両手剣が楽しみです」


 シエランもだね。でもなんとなくだけど、シエランはいつかサムライ系になりそうな気がするなあ。



「で、あたしがエルダーウィザードでミレアはラドカーン、と。ハイニンジャはいいのか? ミレア」


「後回しでいいわ。ラドカーンでもAGIは上げられるし」


「まあな。これでしばらく、あたしたちは後衛が基本か」


「ふふふ、わたくしは大魔法使いを超えるのよ!」


 なあんてフォンシーとミレアがワイワイやってるけど、それもこれも『大魔導師の杖』と『オルトゥタイ民話集』が手に入ったからだね。エルダーウィザードとラドカーンになれるってコト。

 後衛組の二人がもっとすごいウィザードになるんだから、これはもう決まりも決まりだよ。



「シュリケンやカタナも予備ができました。わたしもニンジャは取りたいですね」


「ウルはニンジャの三次ジョブになるぞ」


「ふふ、がんばって探しましょう」


「シエランのサムライもだな」


「そうですね」


 あ、やっぱりシエランってサムライ系でいく気だ。フィルドさん、可哀相に。



「シエラン、お金は大丈夫なの?」


「パーティハウスに使ったぶんは素材とひとつ前の装備を売ってまかないましたけど、貯金が減りましたね」


「ごはんは?」


 ごはんはすごく大事だからね。


「それは大丈夫です。けど、しっかり稼がないとですよ」


「パリュミとサータッチャのお給金も大事だしね」


「ごはんとお掃除がんばります」


「ちゃんと留守番する」


 あはは、お金を出して誰かに家のコトお願いするのって、なんか不思議な感じだね。



「本棚も欲しいな」


「フォンシーって本読むんだ」


「そりゃな。ラルカもだろ?」


「物語は好きだよ。難しいのは苦手かなあ」


「わたくしはもっと大きいクローゼットが欲しいわ」


「……飾りを作りたい。それとお菓子も」


「芝生に池が欲しいな!」


 みんなが勝手なこと言いだしたよ。なんだか楽しいねえ。これがフォンシーの言ってたウハウハってやつなのかな。



 ◇◇◇



「『切れぬモノ無し』」


 シエランの剣がズバってブラックリザードを叩き斬って、バトルフィールドが消えてった。戦闘終了だね。


「ホントに治っちゃったねえ」


 戦いが始まってすぐに『ラン・タ=オディス』、全員の怪我が治り続けるっていうスキルを使ったんだけど、回復とか全然気にしないで終わりにできたんだよね。まあ攻撃を食らったのってシエランだけだったから普通の回復魔法でもよかったんだけど。


「魔法攻撃とかブレスを使ってくる相手なら、これは有効ね」


「ミレアの言うとおりだね。ええっと今速いのってシエランかミレアだっけ、最初に言ってくれたら助かるけど」


「そうね、そうするわ」


「甘えすぎないように気を付けます」


 シエランの気持ちもわかるよ。コレに慣れたら雑になっちゃうような気もするし、イザってときに使うようにしないとだね。

 避けようがない攻撃のときとか、回復が間に合わないくらい速い敵とかだけにしといた方がいいと思う。



 ジョブチェンジしてから今日で三日。『おなかいっぱい』がいるのは31層だ。

 ボクはナイチンゲールのレベル18、みんなもだいたいそんな感じだね。適正レベルより10層以上も下の階層だけど、それでも全然余裕で戦えてる。増えた基礎ステータスとたくさん持ってるスキルのお陰だよ。


「バッタレベリングの予約も考えないとな」


「フォンシーはどれくらいでいけると思ってるの?」


「レベル25、かな。明後日くらいにはいけるだろ。バッタは楽だけど、46層に行くまでの方が面倒だ」


「慣れちゃったねえ」


 46層のジャイアントローカストレベリングは一応予約するルールみたいのがあるんだ。ドロップが稼げないから誰もやってないときも多いけど、かちあっちゃったりしたら気まずいからねえ。

 なのでよっぽどの理由がないと、予約したらちゃんと使いなさいってことになってる。三日後にレベル25になれそうだからって、今日のうちに予約っていうのはナシなんだよ。ちゃんと行けるって自信がついてから、ってことだね。



「そろそろ戻ろっか。準備できてるかなあ」


「パリュミとサータッチャなら大丈夫だ」


「お? ウルは自信満々だねえ」


「あいつらのごはんはおいしいからな!」


「だねえ」


 ウルのしっぽがブンブンで、ボクのはゆらゆらだよ。


「あいつらレベリングとジョブチェンジしたいって言ってたぞ」


「そうなの? ジョブチェンジってどうする気なんだろ」


「ソードマスターだ」


 ほえ? いやいや確かにソードマスターはDEXとSTRがいい感じで伸びるけど。


「フィルドが勧めてたぞ!」


「……ウル。詳しく聞かせてください」


「なんだ? シエラン、ちょっと怖いぞ」


 あーあ。


 今日はこれから『オーファンズ』とごはん会だ。パーティハウスに招待したかったんだけど、ヴィットヴェーンとベンゲルハウダーで続けて異変が起きたからさ、伸び伸びになってたんだよ。


「さあさあ、戻ってごはんだよ」



 ◇◇◇



「じゃああらためて、みなさんお疲れさまでしたあ!」


 ミレアのお父さんからもらったテーブルを囲んでるのは、『オーファンズ』から三パーティで十八人と『おなかいっぱい』、パリュミとサータッチャだから全部で二十六人だ。おっきいテーブルが三つ。普段は一個だけ使って、残り二つはすみっこに置いてるんだけどね。


 テーブルの上にはたくさんのお皿の上にいろんな食事が載ってる。ウチで作ったのと『オーファンズ』が持ってきてくれたの、それと街で買ってきたのもだ。

 ウルが獲物を狙う目してるね。ボクも負けないぞ。


「そっちお家も、もうそろそろ出来上がるんだよね?」


「もう少し。てかあと二日」


「そっかあ。お祝いするの?」


「やる。そのときはもちろん誘う」


 ボクに返事してくれてるのは『十五個』のメンバーでエルフのファリフォーだ。話し方、面白いんだよね。


「ボクたちもこれから、たぶん五日に一回くらいずつだけど、お世話になった人を招待するつもりなんだ」


「お金だいじょぶ?」


「そこらへんはシエランにお任せかなあ」


「ラルカらしい」


 ウチは役割がハッキリしてるからね。そこが自慢のひとつだよ。



「ねえねえシエラン、なんでニンジャじゃないのさ。アンタだけなんでしょ?」


「いろいろ考えましたから。そのうちです」


「ニンジャはいいよお」


 あっちでシエランにニンジャを勧めてるのは兎セリアンのピョリタンだね。元気でいいね。


 まあそんな感じでいろんな話題が出てきた。

 クランハウスとか冒険者の話とかがあったし、それにヴィットヴェーンのこともいろいろ教えてもらったよ。『ブラウンシュガー』も元気で大活躍らしい。『ライブヴァーミリオン』も仲良くしてくれたけど、やっぱり歳が近い方がね。



 お酒を飲んだフォンシーがミレアに絡んでるね。この中で飲むのってあの二人だけなんだよね。ミレアはめんどくさそうな顔してるけど、なんだかんだで仲良しなんだよ。ウルやシエランも楽しそうだし、ザッティは『十九』のガッドルとなんか話してる。ドワーフ同士で気が合うのかな。

 うーん、楽しいなあ。村の生活もよかったけど、冒険者もいいよね。ベンゲルハウダーに来てよかったなあって、そんな気分だよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る