第100話 おかえりなさい。ラルカ、みんな
「『BFS・INT』。やれ、ミレア」
「『フォルマ=ティル=トウェリア』!」
たっぷりINTバフが乗っかったミレアが、エルダーウィザード最強魔法を敵にぶち込んだよ。あっつい風がボクの目の前に吹き荒れた。危ないし近いって。
「50層くらいまでなら、これで終わりなのにね」
ため息みたいにミレアが言ったけど、あいつらは『ノーライフキング』持ちだ。相手の守りを貫くくらいの攻撃じゃなきゃ攻撃が通らないんだよ。
だから最強魔法も足止めくらいにしかならないんだ。
「フォンシー、ミレア、バフ続けて。シエラン、ザッティ、ウル、ガードヴァンパイアはお願い」
これが今回の作戦だ。前衛は四人。そいでロードとプリンセスは、ボクがやる。
「『継ぎ足』『八艘』」
「『疾風』」
シエランとウルが飛び込んで、ザッティはそのままカウンター狙いだね。このあたりからはみんな役割をはたせば自由にってことになってる。
攻撃力が落ちるから、だれも分身は使わないよ。あ、シエランが盾をしまって、両手で剣を構えてる。
「『一閃』」
シエランが横に剣を振り抜いたら、ガードヴァンパイアが真っ二つだ。
ヘビーナイトのシエランは合計STRが350を超えてる。そこにバフが乗っかってるからねえ。
「『一気呵成』!」
それはウルだってだよ。一撃のシエランとずばばって手数のウル。どっちもすごいや。
「……むん。『神撃』」
ザッティはザッティで片手に相手の爪を食い込ませたまま、それでも拳を振り抜いた。レベルドレイン無効だからって、やりすぎだよ。左手が盾の代わりなんだね。
そのあいだボクがなにしてるかって、ロードとプリンセスの攻撃をひょいひょいかわしてるんだ。フォンシーとミレアに手を出させないようにワザとそうしてる。今のAGIとDEXならこれくらい、ワケないよ。もちろん耳もしっぽもおヒゲも全開だ。
初めて会ったときのオリヴィヤーニャさんくらいの攻撃力が、今のボクたちにはあるんだ。背中が遠くて見えないくらいの強さだったけど、『おなかいっぱい』はそれに届きかけてるんだよ。たぶん『一家』はもっと強くなってるんだろうけどさ。
「『BFS・STR』」
「『BF・DEX』」
最後の仕上げにフォンシーとミレアのバフが降りかかってきた。二人ともINTがすごいから、バフの効きもとんでもないや。
「すごい、な」
背中の方からヴァルハースの声が聞こえてきたよ。ちゃんと見てるかな?
だけどごめんね。こっからは見えないと思う。
「『無拍子』」
前動作無しで踏み込んだらヴァンパイアロードはもう目の前だ。あわてて攻撃してくるけど、全然遅いよ。
「『クロスカウンター』」
相手の突き出した爪をギリギリでかわして、その外側から左フックを脇腹に叩き込んでやった。
「『発勁』」
拳が触った瞬間、体全体を捻ってそのまま腕を振り抜いた。うん、力が乗っかったねえ。『ノーライフキング』を相手にしない一撃だよ。それだけでヴァンパイアロードは消えてった。
「これで最後! 派手にいくよお! 『跳躍+2』!」
迷宮の天井近くまで跳んだら一体だけ残された敵、ヴァンパイアプリンセスが下に見えた。こっちを見上げてるねえ。さあ勝負だ。
「『稲妻』あぁぁぁ!」
とんって天井に足をつけて踏ん張って、勢いつけて飛び降りるよ。
おおう、プリンセスの爪は長いねえ。だけどさ、もうそんなのは関係ないんだ。
「キイィィィック!」
爪と相手の右手ごと、ボクの右足が全部を砕いてそれでおしまいだからね。
ビシって着地を決めて、ワザと振り返らないでスチャって立ち上がったわけさ。こういうのがカッコいいってザッティが言ってたんだよ。
当然敵の気配が消えてくのがわかってるから、平気な顔してるだけなんだけどね。
「ていうわけで、大勝利だよ」
「おう! すごかったぞ、ラルカ」
すぐに飛んできたウルと拳をコツンだ。
「ウルならすぐにできるでしょ」
「やるぞ!」
ウルは今回の騒ぎが終わったら、ね。ウルだけじゃないけどさ。下でいろいろアイテム手に入れたんだし。
「ラルカ」
「ん? どしたの?」
なんかミレアの声が震えてるんだけど。手に持ってるのって本?
「これ……『オルトゥタイ民話集』よ」
「へえ、宝箱開けたんだ」
いつの間にか宝箱の蓋が開いてるね。ザッティあたりかな。
で、『オルトゥタイ民話集』ってなに?
「『ラドカーン』」
えっと、ウィザード系だっけ?
「よかったじゃない。それよりこの部屋出ないと。階段の人たちが待ってるし」
「ラルカはもうちょっと喜んで!」
「わかったから、ほら行くよ」
◇◇◇
「シルバーウルフだね。20層に戻ったってことかな」
「そうですね。『層転移』で間違いなかったと思います」
シエランが言うならそういうことかな。ボクたちがゲートキーパー部屋を出て、新しく出てきたモンスターはシルバーウルフとグレーウルフの群れだった。元通りってことだよ。
そいでシルバーウルフなら下にいたパーティなら楽勝だね。『エーデルヴァイス』は怪しいけど、そこはパーティを組みかえるなり、助け合いでなんとかするでしょ。
「問題は誰も来ていないってことだね」
「フォンシーはどう思う?」
「正直、わからないな」
20層のゲートキーパー部屋を出ても、それでも誰もいないっていうのはさすがにおかしいよね。
「みんなが集まってから動くしかないかあ」
「だな」
フォンシーと話しながらだけど、今はえっと『錨を上げろ』がシルバーウルフと戦ってるとこだ。あ、終わったね。
「こうして見ていると、酷い光景だな」
「ちょっとウルフが可哀相になっちゃうよ」
階段の下からパーティが登ってきて、シルバーウルフが現れて、それをどかんってやっつけるのを繰り返してるからねえ。
いつもはパーティがバラバラだけど、こうやって順番待ちしてるの見てると流れ作業みたいだなあって思っちゃうよ。パーティハウスを造るときに石を積んだみたいでさ。あ、しばらく戻れてないけどパリュミとサータッチャは心配してくれてるかな。
◇◇◇
「うおおおお。『イ・タノサーカス』!」
オリヴィヤーニャさんがスキルを叫んだとたん、体中から短い槍みたいのがたくさん飛んでった。うねうねしてるねえ。飛んでる槍と一緒になってオリヴィヤーニャさんもモンスターに突っ込んだ。
「あのモンスターってなんだろ」
「ヴァンパイアなんだろうけど、随分と派手だな」
紫と赤の中間みたいな色したドレスを着てる、青白い顔で真っ赤な唇に二本牙をむき出しにしたモンスター。ヴァンパイアなんだろうけど、強そうで偉そうだね。
「あ」
「こりゃ酷いな」
フォンシーと一緒になって声が出ちゃったよ。
オリヴィヤーニャさんが撃ちだした槍が、もう全部いっぺんにモンスターに突き刺さったんだ。見てるだけでも痛そうなくらい。
20層に上がってきたパーティは全部で十組だったわけだけど、なにがあるかわかんないから全員一緒で調べようってことになって、最初の広間に出たらコレだったんだ。
たくさんのパーティが集まってて、いつもみたいに一番目立つ『フォウスファウダー一家』がボスっぽいなんかと戦ってたってワケ。
「助けが降りてこなかった理由なんだろうな」
「だねえ」
消えてくヴァンパイアの親玉を見ながら、どうして誰も降りてこなかったのかなんとなくわかっちゃったボクたちだ。
「氾濫の首魁、『ヴァンパイアエンプレス』はわれが退治した! われらの勝利である!」
アレって『ヴァンパイアエンプレス』っていうんだ。
「やれやれ、アタシたちはなんだったんだろうねえ」
状況がやっとわかってきて、オランジェさんもため息だ。すっごい気持ちわかるよ。
なんでみんなして20層で盛り上がってのかな。しかも『一家』ってヴィットヴェーンに行ってたはずなのに。
「ラルカ! 無事だったんだ。よかったあ」
「シャレイヤも戻ってきてたんだね」
「昨日ね」
シャレイヤたち『オーファンズ』がこっち見てビックリしてる。
ヴィットヴェーンに行ってたパーティは結局異変に間に合わなかったみたいで、三日くらい迷宮に潜ってから帰ってきたんだって。
「戻ってみれば大騒ぎだったの。20層がヴァンパイアだらけで、しかも居場所がわかんないパーティが十個もあるって」
「ウチもその中のひとつだもんねえ」
「でも78層どころじゃないよ。アレってレベル80以上のモンスターだし」
シャレイヤが首を傾げてる。
「シエランわかる?」
「もしかして最初に78層で氾濫が起きて、それから層転移したのかもしれません」
「そんなのアリなの? いやいや、迷宮のやることだし、なんでもかあ」
迷宮異変っていろいろ謎ばっかりだって聞くし、なんか意地悪だよね。
「お、おい。アレって!?」
「行方知れずのパーティじゃねえか!」
「無事だったのかよ。よかったなあ」
ヴァンパイアエンプレスをやっつけて喜んでた冒険者たちが、こんどはこっちを見つけて大騒ぎになっちゃったよ。
『夜空と焚火』とか『オリーブドラブ』なんかも『ラーンの心』が無事で喜んでる。『センターガーデン』や『傷跡』は泣いちゃってる人までいるねえ。
「おかえりなさい。ラルカ、みんな」
「そっちこそおかえりなさいだよ、シャレイヤ」
そんな感じで『層転移』から始まって八日もかけた、ボクたちのちょっとした大冒険は終わったんだ。パーティハウスに戻ってゆっくり寝たいねえ。もちろん、ちゃんとごはんも食べないと。
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