第99話 見ててください。ボクたちがすごいトコ
「パワーレベリング中だったんですか」
「ああ、ウチは稼がないとだからね。あそこは金払いがいいって聞いて請け負ったんだよ」
ブスくれた『エーデルヴァイス』から離れたトコでレアードさんとコソコソ話だ。
まあ理由はどうでもいいんだけどね。レベリングして帰る途中、20層で『層転移』に巻き込まれたってだけでさ。『エーデルヴァイス』と三日も一緒って、面倒だったろうなあ。
「そうでもなかったよ」
「へ?」
「話に聞いてたほどじゃなかったよ。けっこう普通に話してくれたし。心を入れ換えたのか、それともラルカラッハたちとは相性が悪かったのかな」
なにさそれ。
「まあいいや。それでレベルは上げれました?」
「それがな、ここの上が77層だなんて今初めて知ったとこだぞ。見たこともないモンスターばかりで、何回『確定逃走』使ったか」
レアードさんがグチをこぼした。『エーデルヴァイス』はもちろん、『ラーンの心』もちょっとしかレベリングできてなかったんだね。ジョブチェンジなんてありえないし。
こりゃ帰りは大変そうだよ。
「帰りの心配にはまだ早い」
「ディスティスさん?」
「モンスターが入れ替わり始めているな」
「うぇあ?」
ディスティスさんが向けた視線の先から、ああ来てるよ。あれは絶対20層のモンスターなんかじゃない。ヴァンパイア系かな。
「ガードヴァンパイアだな」
「どうします?」
「逃げるか。パーティを組み直す」
大賛成だよ。
「『ヴィランダー』『おなかいっぱい』、二人ずつ受け入れてくれ」
「えーっと、フォンシー、ウル、抜けてもらっていい?」
「ああ」
「おう!」
とりあえず二人に抜けてもらって、それで誰が入るのかな。
「ヴァルハース、ギスヘンバー。『おなかいっぱい』だ」
うえー、ヤダなあ。ほら、あっちもイヤそうな顔だよ?
「……仕方ない。入ってやる」
「あの、それってこっちのセリフなんですけど」
「くっ」
ヴァルハースがめちゃくちゃ悔しそうなんだけど。ヤなものはヤだよね。
「引くぞ。ゆっくりになるだろうが上を目指す」
急いでパーティを作り直して、ボクたちは来た道を引き返すことになった。
帰りは長くなりそうだけど、できたらすぐに終わらせたいねえ。
◇◇◇
「長かったねえ」
「そうね、気疲れしたわ」
「だねえ。ボクもだよ」
「貴族子息相手に適当だったクセに」
ミレアは呆れてるけど、ボクの中じゃあの人たちって貴族扱いじゃないからねえ。ツルピカお兄さんだよ。
「迷宮ごはんは楽しかったぞ」
「ウルは元気だな」
「おう!」
横にいるウルとフォンシーが楽しそうだよ。
行きは三日だったけど、帰りは五日もかかっちゃったよ。それもこれも『エーデルヴァイス』のレベルが低かったのと、27層から下にある昇降機のカギが無かったからなんだよね。おかげでずっと歩きで登ってきたんだ。
途中でバッタレベリングに放り込んで、46層から上は一日だったけどさ。
「アイテムも手に入ったし、良かったじゃないか」
「でもさフォンシー、レベリングが中途半端だよ」
「まあな。あんなのを連れて70層なんて、二度とごめんだ」
「まったくだよ」
帰り道じゃあんまりレベルが上がんなかったんだよね。70層台は逃げるばっかりだったし、60層から上だと経験値が足りないしでさ。結局ボクはレベル71。ここからどうしよっかな。
その代わりってワケじゃないけどアイテムはけっこう手に入った。『紅いクナイ』とか『黒鉄の太刀』とかね。他にもジョブチェンジアイテムがたくさんだけど、それは地上に戻ってからだね。
「けどやっぱりおかしいよね」
「そうですね」
「……誰も来ない」
シエランとザッティが言うとおりでさ、もうあとは21層までの昇降機に乗るだけなんだけど、結局誰も降りてこなかったんだよ。
『層転移』が起きてからもう八日だし、地上組が元78層の20層を抜けててもおかしくないんだよね。『白の探索者』ならやれるだろうし。
「なにかが起きているのかもしれないわ」
「変なコト言うのやめてよ、ミレア」
「けど、おかしいじゃない」
とにかく今は21層だね。
◇◇◇
「やあ、どうだった?」
「やっと戻ってこれました。『ラーンの心』と『エーデルヴァイス』が巻き込まれてましたよ」
「そりゃあ大変だったねえ」
新しく出来た20層への階段手前でオランジェさんたちが出迎えてくれた。ちゃんと『錨を上げろ』もいるね。それにパーティも増えて、ここには合計十パーティも集まってる。
なんか階段の周りに砦みたいのまで造っちゃってるよ。
「上からは来てないのか」
「ああ、なんでだろうねえ。アタシらじゃロードやプリンセスは危ないからねえ。その先も続かないから安全策さ」
「そうか」
みんな代表する感じでディスティスさんとオランジェさんが話し合ってる。けど、ここまできたら、まあやることはひとつだ。そうだよね? ディスティスさん。
「登るしかないな」
だよねえ。いつまでも待ってても仕方ないし、もう『ファーストライド』なら勝てるだろうし。
「『ファーストライド』で行くのかい?」
「ああ、と言いたいところだが……、ここは『おなかいっぱい』だ」
「うええ!?」
前にもこんなことあったっけ。
「なんでです?」
「お前たちならやれるだろう」
「そりゃできますけど」
「『おなかいっぱい』と『エーデルヴァイス』の件は聞いている」
そう言ってディスティスさんは『エーデルヴァイス』を見た。それとこれと関係あるの?
「あいつらに本物の冒険者を見せてやれ」
「うへえ」
「……」
黙ってないでなんとか言いなよ、ヴァルハース。
「やるわ!」
ミレアが言い切っちゃった。周りのパーティは、なんだか楽しそうだね。これじゃ見世物だよ。
「ザッティ、いいわね?」
「……ああ、やるぞ」
ミレアはザッティの肩に手を乗せて、そろって『エーデルヴァイス』に視線を向けてる。しかも笑ってるし。まったくもう、二人がそうならやるしかないじゃないか。
「ヴァルハースさん」
「……なんだ」
「これからも冒険者やるんですよね?」
「ああ」
それがボクたちの出した条件だし、オリヴィヤーニャさんがそこに釘刺したんだけどさ。だけど今回おっかない思いして、それでも続けられるのかなって。
だから訊いてみたんだけど、それでも『エーデルヴァイス』は頷いた。迷ってなんかないみたい。
「見ててください。ボクたちがすごいトコ」
「わかった」
チラって横を見たらフォンシーとシエランも納得顔で、ウルは気合を入れてたよ。
「じゃあ、いこっか!」
◇◇◇
下から登ってきたから、上がったすぐ先にあるのはゲートキーパー部屋だ。モンスターも前回と一緒でガードヴァンパイアが二体、それとヴァンパイアロードとヴァンパイアプリンセスだね。
本当だったら78層のゲートキーパークラスで、レベルなら80ちょっとくらいかな。ハッキリ言って前の氾濫で戦ったマスターデーモンより弱い。ただあのときボクたちは全員レベル80以上になってたし相手の数を選べたから、今回が楽勝ってワケでもないけどね。
「全力でやるよ。『エーデルヴァイス』の目で追えないくらいで、やる」
「あいつらが絡むとラルカは意地が悪いな」
フォンシーが苦笑いだ。
階段を登りながらみんなでステータスを確認しあって、簡単な手順を決めた。あとはやるだけだね。
==================
JOB:VAHAGN
LV :71
CON:NORMAL
HP :227+404
VIT:71+115
STR:79+131
AGI:91+227
DEX:118+183
INT:53
WIS:40
MIN:32
LEA:16
==================
これがボクのステータス。上位三次ジョブのレベル71ってなると、補助ステータスがちょっとすごいね。合計AGIとDEXが300超えちゃったよ。もちろん仲間で一番だ。
STRも200以上だし、今回のアタッカーはボクだ。全力でやっちゃうからね。
「じゃあやるよ」
階段を登り切って、そのまま広間に足を踏み入れた。先頭はボク。うしろにシエラン、ウル、ザッティ。そいで最後に並んでフォンシーとミレアだ。
そのすぐあと、ブワって感じにバトルフィールドが広がった。戦闘開始!
「『BF・AGI』!」
最初はボクのAGIバフだ。相手はフォンシー。
合計AGIはミレアとフォンシーが200ちょっとで、残り三人が150くらい。当然ボクが一番速いんだけど、オーバーエンチャンター持ちのフォンシーを早く動かしたいんだ。
「『BFS・INT』」
続けてフォンシーが自分にINTバフを掛けた。『BF・INT』の上だね。
「ぐっ!」
先手を取れたのはそこまでだったよ。ウルの盾にヴァンパイアプリンセスの爪が突き立ってた。
「うわっと!」
ボクのお腹にもロードのパンチが飛んできて、それをあわててかわしたよ。危ないなあ。だけどうん、できる。速さじゃ負けてない。
「『BF・INT』!」
今度はミレアが自分にバフを掛けた。これでINTバフは完成だね。
「『活性化』『一騎当千』」
「『ハイニンポー:ハイセンス』」
「『芳蕗』!」
シエラン、ザッティ、ウルがそれぞれ自己バフを掛けてく。もちろんボクもそれに続いたさ。
その間でもヴァンパイアの攻撃が来るんだけど、ボクはかわしてシエランとウルは盾で受け止めてる。
「……『ラ=オディス』」
ザッティはどうしても攻撃を受けちゃってるけど、すぐに自分で自分を回復させてる。モンクだからレベルドレインを食らわないのがせめてものだ。
「『BFWS・SOR』」
「『BFW・SOR』」
そしてついに、フォンシーとミレアの前衛全体バフがきた。力がみなぎるよぉ!
「『芳蕗』」
MINが30上がるカラテカのスキルを使う。そしてえ。
「『炎の髭』えぇ!」
ヴァハグンの最強スキルを叫んだ。ボクの鼻の周りに右と左で合わせて六本、赤いヒゲがピンって伸びた。
STRとAGI、DEXがどかんって上がったのがわかる。ああ、世界がゆっくりだね。さあ敵に飛び込もう。
ところでこのスキル、三毛猫セリアンのボクだからこうなのかな?
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