第98話 俺たちも頻繁に行くわけじゃない
「シエランとウルはヘビーナイトで、ボクもヴァハグンのまんまだね」
「そうですね」
「そうだな」
迷宮を歩きながらこれからどうするかを相談中だよ。
「フォンシーはハイニンジャでミレアはニンジャだね。ザッティは?」
「……モンクだ」
フォンシーとミレア、ザッティはジョブチェンジ組だけど、なんでモンク?
「……ヴァンパイアが相手だ」
「モンクはレベルドレイン無効よ!」
「……体当たりでもなんでもする」
ああ、なるほど。けどなんでミレアが自慢げかなあ。ザッティが絡むといっつもそれだよ。
ザッティってカラテカとニンジャをやってるから、接近戦はそれなりなんだよね。うん、モンクは悪くないと思う。
「あたしとミレアはとにかくAGIを上げたいからな。それに殴りジョブはちょっとムリだ」
フォンシーが肩をすくめた。そりゃまあウチでまともに殴れるのってボクとウルくらいだもんね。ザッティは新米カラテカだし。
「なんで、あたしがコンプリートしたとこで三人一緒にジョブチェンジだ」
奇跡を起こさなきゃだからね。やるならいっぺんにだ。
「ふっ」
「なんです?」
ディスティスさん、なんか笑ってたんだけど。
「迷宮を歩きながら冒険を語る。いいな」
「……おう」
ああ、ザッティがあっち側だよ。
「ザッティ、エインヘリヤル、ホワイトロード、ホーリーナイトを目指せ。お前ならやれるさ」
「……ああ」
ディスティスさんがニヤって笑って、ザッティもニヤってしたよ。ああもう、どうしよう。
「ドレイン無効ジョブです」
ひっそりシエランが教えてくれたけど、流れでだいたい想像できてたよ。
◇◇◇
「『ラング=パシャ』」
ヴァンパイア相手に奇跡を使っちゃってたフォンシーがコンプリートしたとこで、こんどはシエランが奇跡を起こした。ジョブチェンジするのはフォンシー、ミレア、ザッティだね。
「迷宮でジョブチェンジするのは、やっぱり落ち着かないな」
「フォンシーだって何回もやってるじゃん」
「異変の最中だし、しかたないか。とっととレベルを上げよう」
ボクたちは昇降機を二つ乗り継いで、31層にいる。コンプリートレベルでジョブチェンジするならこのあたりがいいかなって話になったからだね。
『ファーストライド』と『錨を上げろ』はジョブチェンジする気ないみたいだけど、『ヴィランダー』も二人ジョブチェンジした。もちろん一回パーティと組み直してこっちの三人と合流してからね。
「奇跡を使わせちゃって悪いね」
「いえ、こっちの方がレベルが低かったですから」
リーカルドさんとシエランが頭を下げ合ってる。丁寧な二人だねえ。
「さて、時間が惜しい。パーティをどうしよう?」
「『おなかいっぱい』はこのままでも」
とりあえずの目標は46層でレベリングなんだけど、こっちは三人いっぺんにジョブチェンジしちゃったからねえ。せっかく『ファーストライド』も『錨を上げろ』もいるんだから、誰かと入れ換えてパーティを組み直すってこともできるんだ。
けれどシエランは大丈夫って言い切った。ちょっと意地張ってる感じあるけど、言うよねえ。
「大丈夫ですよ、リーカルドさん。ボクが全部殴り倒すから」
「ははっ、なら行こう」
次の昇降機は34層だ。そこまで一気に突き進むよ。レベルを上げながらだけどね。
「『火の髪』パンチ!」
べつにボクの髪の毛が燃えてるわけじゃないけどね。スキルの名前だからしかたない。それでもトロルを一撃だ。
「うん、力のノリが違うよねえ」
「もうめちゃくちゃね」
ミレアが呆れてるよ。まあ自分でもすごいよなあって思ってるしね。
「相手が少ないとラルカが目立つわね」
「ふふん。力と速さの両方だからね」
ヴァハグンはカラテカ系だからAGIとDEXが伸びやすいし、元々ボクは殴りスキルに慣れてるからね。トロルみたいに大きくて強いけど、数が出てこないモンスターには相性がいいんだよ。
その代わりジャイアントローカストみたいなウジャウジャって出てくるのは苦手なんだけどね。
「46層はわたくしの出番よ。AGIも上がってきたし、活躍させてもらうわ」
「はいはい、大魔法使いに期待してるよ」
ミレアだけじゃなくってフォンシーもAGIを上げてきてるし、バッタレベリングは二人におまかせかな。
ここはまだ41層で、四つのパーティは先頭を入れ換えながら迷宮を突き進んでる。当面の目標は46層だ。そこでバッタレベリングをやってから深層だね。
◇◇◇
「俺たちは21層に戻る。気をつけてな」
そう言ってレベルを40台まで上げた『錨を上げろ』の人たちは上に戻ってった。イザってときのために『誉れ傷』と待機ってことだね。
ここからは『ファーストライド』『ヴィランダー』と三パーティで下を目指すんだけど、何日かかるんだろ。それでも行かなきゃならないし、誰もいないのが一番だってのがね。
「『ファーストライド』がいてくれてよかったです」
「俺たちも頻繁に行くわけじゃない。道筋とあらかたのモンスターを知っているくらいだ」
「油断はダメだってことですね」
「ああ」
ディスティスさんたちが先頭に立って、ボクたちは迷宮を進んでる。行き先は78層だけど、『おなかいっぱい』だって65層までは行ったことあるし、レベルが上がればなんとでもなるでしょ。
「こういう時、『おなかいっぱい』はいいね」
「はい?」
横にいるリーカルドさんがなんか言いだした。褒めてくれてるの?
「全員がプリーストは上位パーティなら当たり前だけど、ビショップまでっていうのは聞いたことがないよ」
「はあ」
「しかもメイジとロードが五人ずつだろう?」
「ああ、回復ですか」
メイジとロードって言われてやっと意味がわかった。回復魔法の数ね。
「『おなかいっぱい』は長く潜れるパーティだ。ウチも見習わないとね」
「あはは」
そういうつもりじゃなかったんだけどね。
ビショップは最初フォンシーが使って、ボクとウルが気に入って、それからじゃあみんなもだねってなっただけだ。ロードはナイトを持ってたから、とりあえず取っとこうってくらいだしねえ。いつの間にかこうなっちゃってただけなんだよ。
あ、なんかボクだけロード持ってないのが悔しくなってきた。
「異変向きのパーティだと思うよ。今まさに、なんだけどね。最前線でも狙ってるのかな?」
「違いますよぉ」
とんでもないこと言われたし。
「ウチは早上がりして、みんなで夕ごはんを食べるのが好きなんです」
「あはは、やるときはやるパーティだね」
だから違うって。パーティ名でわかるでしょ。
◇◇◇
「結局誰にも会えなかったねえ」
「間が悪かったのかなんなのか」
ボクとフォンシーが同時にため息だ。今日は55層でいったんお休みだけど、ここまで別のパーティを見かけなかったんだよね。
『ナイトストーカーズ』と『センターガーデン』は半分がお休みで、半分が帰る途中だったみたいだし、なんだか迷宮がワザと意地悪してる気分だよ。
3時間ずつ交代で今は『ヴィランダー』が休んでる。
反対側で『ファーストライド』が見張ってるけど、なんか片膝ついてじっと迷宮の奥を見てるんだよ。ザッティに言わせるとアレもカッコいいらしくって、マネしてる。ほどほどにね。
「今頃は19層と21層で大騒ぎになってるかもな」
「元78層をはさんで上と下からかあ。みんな無事だといいんだけど」
夜になっても戻らないパーティがいくつもいるんだし、地上だって層転移には気付いてるはずなんだ。
「トップパーティだっているんだし、もしかしたらもう78層をなんとかしてるかもしれないね」
「だな。なんにしたってあたしたちのやることは変わらない」
『層転移』した層は元のモンスターがいるんだけど、時間をかけて本来になってくらしいんだ。今回だったら元78層で新しい20層は、じわじわ20層のモンスターに入れ替わってくってことだね。
なので強い敵をたくさんやっつけちゃえば、新しく出てくるのは弱いモンスターになるんだ。
「元20層がどうなってるかだね」
「そのためにはレベルアップしかないさ。地上と違って迷宮はわかりやすい」
「フォンシーってこないだの貴族のコト、まだ引っ張ってるんだあ」
「悪いか」
「べっつにい」
目の前でチャコールウッドの炭がチラチラって燃えてる。
ボクたちはそれを背中にして通路の奥を見ながら、交代を待ってるとこだ。55層でキャンプなんて、冒険始めたころには考えもしなかったよ。
それから六時間、ボクたちの休憩時間がくるまで六人で何でもないことを話してたんだけど、たまにだったらこういうのもアリかもね。迷宮異変の真っ最中だから不謹慎かもだけどさ。
◇◇◇
「やっとこさだねえ」
それから二日、異変が始まってから三日かけてボクたちはついに77層までやってきた。
途中でヘルハウンドとかヴァンパイアの群れとか初めてみるモンスターとか、かなり危ない目にもあったんだよね。正直パーティが三つじゃなかったらやってられなかったよ。
何回か奇跡を使って逃げたり、レベルドレインされたこともあったけど、それでもレベルはギュンギュン上がった。適正レベルとか階層とか無視して突き進んだからねえ。
「強くなったな、ザッティ」
「……ああ」
ディスティスさんとザッティ、仲良くなっちゃってるし。ほら、ミレアが恨めしそうだよ。
そんなボクはヴァハグンのレベル67だ。フォンシーはハイニンジャのレベル58、シエランがヘビーナイトで72、ウルもヘビーナイトで73。ミレアはニンジャのレベル61で、ザッティがモンクのレベル62だね。
正直77層にいるのにレベルが足りてないけど、そこは積み上げてきたマルチジョブとスキルでゴリ押しだよ。
「この先だ」
ディスティスさんが先導してくれて78層に降りる階段を目指してる。ここはゲートキーパーもいないみたいだし、ゴールは目の前だ。
◇◇◇
「来て、くれたのか」
「……貴様ら」
で、78層、前の20層に降りたすぐのトコにその人たちがいたんだよねえ。
「えっと、二パーティだけですか?」
「そうだ。助かった」
「……ちっ」
嬉しそうなレアードさんとバツが悪そうなヴァルハース。頭がキラキラしてるねえ。異変から三日経ってるのにそれって、もしかして髪の毛抜いたの?
そこにいたのは『ラーンの心』と『エーデルヴァイス』だったんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます