第95話 さあ、明日からもがんばりましょう。ジョブチェンジしたら稼ぎが減りますから
「さあさあミレアの番だよ」
「わたくしはこうよ。……です」
最後はミレアなんだけど、『一家』の二人をチラって見てから、ちょっと敬語を付け足した。ザッティの自慢をしてたときと大違いだよ。
==================
JOB:ELDER=WIZARD
LV :71
CON:NORMAL
HP :159+263
VIT:55
STR:68
AGI:45
DEX:71+207
INT:72+323
WIS:49+71
MIN:14
LEA:15
==================
「すごいINTね。シエランも──」
「お母さん……」
シェリーラさんは『業火の魔女』だからねえ。ウィザードのお母さんとソードマスターのお父さんにはさまれて、シエランも大変だよ。
それよかミレアだよ、ミレア。合計INTがほとんど400だもんね。
ボクたちが冒険者を始めたころにオリヴィヤーニャさんのステータスを見せてもらったことがあったっけ。初めてのバッタレベリングのとき。オリヴィヤーニャさんの合計STRがたしか400くらいだーって驚いた。それが今は、だよ。
「意地を張ったかいがあったじゃないか、ミレア」
「ぐっ!」
フォンシーが意地悪く笑って、ミレアは悔しそう。
今のボクたちは60層まで潜れるようになってる。つまりレベル60手前くらいが効率いいジョブチェンジのタイミングなんだよね。氾濫とかなら別だけど、レベル71まで引っ張ったミレアはけっこう意地っ張りなんだと思うよ。
「うん、ミレアは『おなかいっぱい』最強ウィザードだよ! でもジョブチェンジするの?」
「……するわ」
「やっぱりやるんだ」
「ジョブ数ならわたくしが一番少ないし、レベル上げも停滞してる。それに、上位三次ジョブだってあるのよ。しない理由がないわ!」
「だねえ。やっぱりニンジャ?」
「そう思っていたけど、エンチャンターを挟むわ。もちろんレベル50で止めるけど」
なるほどなるほど、エンチャンター持ってないのミレアだけだし、INTとAGIも上がるもんね。いいんじゃないかな。
「あなたたちもいよいよ一流一歩手前ね」
「どういうことです?」
なんかブラウディーナさんが言いだした。一流? ボクたちが?
「最初は少ないジョブで役割分担。次は全員が基本的なことを出来るようになる。『おなかいっぱい』はウィザードが足りていないけれどね」
ぐぬっ、ボクとザッティのことだ。
「それはまあいいわ。そしてあなたたちは次を目の前にしているの」
「それは?」
フォンシーがもうわかってるみたいな顔で返事した。
「それぞれの持ち味と言っていいかしら。フォンシーとミリミレアなら硬い魔法使い、シエランは後衛ができる剣士、ザッティは抜けない盾、そしてウルラータとラルカラッハは前衛で大暴れするアタッカー」
うんうん、たしかにそれがボクたちの目指してる形だね。
いつの間にかみんなが静かにブラウディーナさんの話を聞いてるよ。
「『おなかいっぱい』は六人全員がプリースト、ビショップ、エンチャンターを持っているわ。ミリミレアのエンチャンターはこれからだけど、それも五日もかからないでしょう? そう、あなたたちは深く長く戦えるの」
「下地ができたっていうことか」
「そうよフォンシー。これからのあなたたちは得意なことを好きに伸ばせばいいの」
「自由か。最初のころに戻っただけかもしれないな」
これでもけっこう自由にやってきた気がするけど、気が付いたらこうなっちゃってたねえ。
「あら、わたくしばかり言いたい放題でごめんなさい。今日の主役はあなたたちなのに」
「あはは」
ブラウディーナさんのこういうとこ、オリヴィヤーニャさんに似てるかも。親子だし、次の公爵さまだもんねえ。ボクには笑うことしかできないよ。
けどなんとなく思うんだ。さっきフォンシーが言ってたいろんな面白さって、パーティも一緒なんじゃないかって。みんなにいろんな力があれば、それだけやれるコトが増える。うん、『おなかいっぱい』はいいパーティだ。
「パーティハウスの完成祝いだ。いい話を聞けたと思うよ」
「ありがとうフォンシー。あなたも優しいわね」
「よしてくれ」
照れてるし。
「じゃあ最後にちょっとだけ付け加えるわ」
まだお話し続いてたんだ。
「この一年くらいで冒険者はどんどん強くなっているわ。あなたたちは強くなっているけど、周りも同じくらい。だからね、あなたたちがどうなるのか、どんな面白いパーティになっていくのか、わたくしはそれを楽しみにしているの」
「そりゃあもう、ウチらしく楽しくやらせてもらうさ」
フォンシーが言いきったけど、それが『おなかいっぱい』だからね。
◇◇◇
「みなさん今日はありがとうございました!」
それからしばらくして、お客さんたちが帰ることだ。ボクたち『おなかいっぱい』とパリュミとサータッチャで表に出て、みんなでお見送りだね。
「これからも娘を頼む」
「わたくしは立派な冒険者よ!」
ボクたちが平民なのにモータリス男爵さまが頭を下げて、ミレアはプリプリしてるよ。
「……がんばれ」
「……おう」
ドワーフの二人は相変わらずぶっきらぼうだねえ。
「シエラン、がんばれよ。それと──」
「あなた、帰るわよ」
フィルドさんがなにか言いかけたけど、シェリーラさんがそれをさえぎって二人で腕を組んで帰ってった。はいはいソードマスターね。二人とも酔っ払いだったね。
「あなたたちの今後に期待しているわ」
「お姉様、この子たちは自由よ」
「それでもねえ、ポリィ」
「はいはい。戻りますよ」
そんな感じでブラウディーナさんとポリアトンナさんも帰ってった。
「夜風が気持ちいいねえ」
「酔い覚ましになるわね」
「ああ、ちょっと飲み過ぎたかな」
ミレアとフォンシーはお酒飲みだもんね。
「楽しかったな!」
「……おう」
ウルとザッティは満足そうだ。お菓子も食べれたし。
「さあ、明日からもがんばりましょう。ジョブチェンジしたら稼ぎが減りますから」
そいでシエランが世知辛いコトを言うワケだ。
「美味しいごはんを作れるように、もっとがんばります」
「レベリングもしてほしい」
パリュミとサータッチャも今日から一緒だね。こっちこそよろしくだよ。
「さ、入ろっか」
ちらっと入り口の扉を見たら、その横にちっちゃな看板がぶら下がってる。これだけはってザッテクが言って、一生懸命作ってくれた『特盛』看板だ。ちょっとだけ吹いてる風に揺られてゆらゆらしてる。ふふっ、見るたんびにここがボクたちの家なんだって思えちゃうね。
◇◇◇
「さあ、やるぞお!」
そいで次の日の朝、ボクたちがジョブチェンジしてさあ迷宮だってなったとこで、事務所で騒ぎが起きた。
「朝から騒がしくしてすまぬが、伝えておくことができた」
ざわざわしてる冒険者たちに話しかけたのはオリヴィヤーニャさんだ。
しかも『フォウスファウダー一家』だけじゃない。傍にいるのは『フォウスファウダー・エクスプローラー』が全員。『メニューは十五個』『十九の夜』『二十三の瞳』、つまり『サワノサキ・オーファンズ』。そしてなんでかカースドーさん、アシーラさん、ウォムドさんまで。
「先ほどヴィットヴェーンより急報が入った。またも迷宮異変だ」
ああ、だから『オーファンズ』もなんだ。けどこないだより物々しくない?
「内容だが黒門でも層転移でもない。多数のモンスタートラップが発生したらしい」
なにそれ。
「これまでにない事例である。よってわれらは『白の探索者』を残し、今よりヴィットヴェーンに急行する」
「それならボクたちもっ!」
思わず叫んじゃったよ。だってボクたちにだってもう、ヴィットヴェーンに知り合いがいるんだ。『ブラウンシュガー』に『ライブヴァーミリオン』、メンヘイラさんだって。
ああもう、みんながこっち見てるし、どうしよう。
「ありがとう、ラルカ。でも大丈夫」
「シャレイヤ……」
「大丈夫なの。わたしたちは念のために行くだけだから。だってヴィットヴェーンにはね」
「『訳あり』たちがいるからの」
オリヴィヤーニャさん、悪い顔で笑ってるけどシャレイヤに最後まで言わせてあげて。いい感じで感動的だったんだから。
ほらセリフ取られて、シャレイヤが面白くなさそうだよ。
「悪かった悪かった。実のところ、われもそう心配はしておらぬのだ。着いたときには終わっている方を心配しているくらいよ!」
「そうですね。わたしもそう思ってます」
シャレイヤがため息吐いた。たしか前回もそうだったっけ。
「よいか残されし冒険者たちよ、われらが心置きなく出張れるのは貴様らがいるからだ。われが信頼する者たちがいるからよ!」
あ、またオリヴィヤーニャさんの演説状態が始まった。
「お母様、時間がちょっと」
「……そうであったな」
ブラウディーナさんがちょっと申し訳なさそうに話を打ち切ってくれた。やるね。
「われらは今より出立する。あとは任せたぞ!」
そんな風に言い残してヴィットヴェーンに向かうパーティは走って出て行っちゃった。残されたボクらはいきなりすぎてポカンだったよ。あの、ボクってヴァハグンになったんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます