第93話 宿のお風呂みたいに全員がいっぺんに入れたほうが楽しいし
戦闘が終わったトコでフォンシーとシエランが銀色に輝いた。レベルアップだねえ。
「宝箱、開けていいか?」
「もちろん」
ウルは宝箱が大好きだね。たまにはボクにもやらせてよ。
「なんだこれ。『祝福の笛』?」
「ほう」
オリヴィヤーニャさんが唸った。相変わらず扉の向こう側にいるんだけどさ。ほらここってゲートキーパー部屋だからボクらが出ないと、あっちから入れないんだよ。
「『祝福の笛』ってなんだっけ?」
「ジョブチェンジアイテムよ。『オーバーエンチャンター』ね」
さっすがミレア、物知りだねえ。だけどなんか目がギラギラしてない?
「オリヴィヤーニャさんはどうするんですか?」
「貴様らの戦いは見届けた。今日のところは戻ろうかと思うが、どうか」
「じゃあ一緒に帰りましょう」
「うむ」
回復が足りてないオリヴィヤーニャさんを一人で帰すわけにはいかないよ。ボクたちもゲートキーパーをやっつけてキリもいいしね。
「そいでオーバーエンチャンターって、すごいエンチャンターだっけ」
「ラルカ、あなたねえ」
「違うの?」
「……違わないわね」
ならいいじゃん。
「誰がいいかなあ」
50層からの帰り道でうむむって考えてるんだけど、誰がオーバーエンチャンターになるのがいいんだろ。
「フォンシーよ」
「あれ?」
「なによ」
魔法系でしょ? てっきりわたくしかフォンシーがって言うと思ったよ。もしかしたらウルとかシエランの名前だって。
「オーバーエンチャンターのバフは強力よ。だからこそ効率的に使わないと」
「ならミレアだっていいじゃない」
「わたくしはエルダーウィザードよ。ひとりで両方は非効率ね。それとわたくしはエンチャンターをまだ持っていないわ!」
そういやそうだった。もう誰がどのジョブ持ってるんだかごちゃごちゃになってきてるよ。大雑把な役割はわかってるつもりだけど。
「シエランでもいいのだけど」
「わたしは前衛ですから」
ミレアが軽く振ったけど、シエランはバッサリだよ。
「AGIのあるウルやラルカというのもね」
「相手を選ぶバフは面倒だ。ウルはやらないぞ」
「ボクもだねえ」
ウルとかボクは開幕バフか、あとは自分にかけるくらいだからね。
けっきょくミレアかフォンシーだけなんだよ。
「んじゃフォンシーで決まりだね。いい?」
「リーダーの仰せなら」
フォンシーは変な言い方しなくていいから。
「ミレアにINTで置いてかれてたしな。丁度いい機会だ」
最初っからそう言えばいいと思うよ。
「ミレアのステータスってどれくらい?」
「これよ!」
待ってましたって感じでミレアがステータスカードを取り出したよ。勢いあるねえ。
==================
JOB:ELDER=WIZARD
LV :45
CON:NORMAL
HP :159+168
VIT:55
STR:68
AGI:45
DEX:71+133
INT:72+214
WIS:49+47
MIN:14
LEA:15
==================
なるほどこりゃあ自慢したくもなる。とんでもないINTだよ。間違いなく今まででパーティ最高の数字だね。
こっからジョブチェンジしても93。だけどミレアはレベル70までは引っ張るって言い張ってるから、そしたらたぶん基礎ステータスで100を超えちゃうよ。
「AGI上げないとね」
「わかってるわよ!」
ニンジャがんばってね。
「はははっ。貴様らを見ていると懐かしくなるな。われらも事あるごとにジョブチェンジを語ったものよ」
「そうなんですねえ」
オリヴィヤーニャさんがこういうのなんて言うんだっけ、したり顔ってやつだ。けどさ、オリヴィヤーニャさんって絶対ジョブ談義なんてやってないでしょ? ボクには見えるよ。他の五人がうんうん悩んでるトコ。そいでひとりで勝手な前衛ジョブを取ってるオリヴィヤーニャさん。
「なにか?」
「なんでもないです」
睨むのやめて。
◇◇◇
次の日、『おなかいっぱい』のみんなでジョブチェンジした。あ、ミレア以外だけどね。
ボクとザッティはハイニンジャ、ウルとシエランがロード、そいでフォンシーがオーバーエンチャンターだね。
これでなんとフォンシー、ウル、ザッティは十五ジョブ目だ。べつに目安ってわけでもないけど、なんかすごいよねえ。ちなみにボクとシエランが十四ジョブで、ミレアは十一。ちょっとミレアが悔しそうだけど、INTはすごいんだからこのままがんばって。
==================
JOB:HIGH=NINJA
LV :0
CON:NORMAL
HP :202
VIT:66
STR:76
AGI:75
DEX:105
INT:51
WIS:40
MIN:24
LEA:16
==================
そしてこれがボクのステータスだ。ついにDEXが三桁だよ!
STRはザッティとフォンシーに負けてて、AGIがウルより低いけど、それでも動く前衛ってことなら十分だと思う。ハイニンジャだしこっからAGIをもっと上げて、次はいよいよ本命の『ヴァハグン』だ。
「そいじゃあレベルアップしにいこう」
◇◇◇
「こういうのも楽しいねえ」
「おう!」
「……ウル、粘土がはみ出てる」
「あ。ごめんザッティ」
ボクたちがなにしてるのかといえば、お風呂造りだ。ザッティに言われたとおりに石を積んでるだけだけどね。
なんとなくやってみたいなあって言ったら、ザダッグさんがボクたち六人に任せてくれたんだよ。
「風呂の石材が一番いいやつとはな」
「マーブルリザードですから。ほとんどは王都に流しているって聞いてます」
フォンシーとシエランが言ってるこの石なんだけど、48層にいるマーブルリザードのドロップだ。あんまり数がでないんだよね。何回48層まで行ったんだっけ。ジョブチェンジからもう二十日くらい経っちゃったよ。おかげでレベルは上がったけどさ。
「本当に使っていいのかしら」
「面白い色だな」
「ウルはお気楽ねえ」
そんなマーブルリザードの石は、なんていうか硬くてツヤツヤしてて、白黒のまだら模様なんだ。それをみんなで手分けして積み上げてく。ザッティは腕を組んでふむふむしてるね。
「ここまで大きくすることあったのか?」
「いいじゃない。宿のお風呂みたいに全員がいっぺんに入れたほうが楽しいし」
「まあ、ラルカらしいか」
どんなのさ。フォンシーはけっこうズボラなんだよね。ボクらが引っ張ってかないとお風呂に入りたがらないし。
「ここはベンゲルハウダーなんだから、エルフの里は関係ないよ」
「へいへい」
本人はエルフの里じゃ当たり前って言ってたけど、どうも怪しいなあってボクは思ってる。
「パリュミとサータッチャも一緒なんだから、これからを考えたら十人くらいの大きさがないとダメだよ」
トントンって上から音が聞こえてくる。だいたいだけど一階はできあがってるんだよね。
壁は石を積んで、それに木の板を張り合わせて頑丈にしてるらしい。すきま風なんて絶対にないようにだって。おっきな三角屋根もできてるし、今は部屋と部屋の間の壁とか扉を取り付けたりしてるんだ。
なんだかんだで家を造り始めてからひと月くらいかな。
ザダッグさんが言うには家そのものはあと十日くらいで完成するみたい。
「あとは家具ですね。男爵様には感謝しないと」
「まあ、ありがたいとは思っているわ」
シエランが言ってるのはミレアのお父さん、モータリス男爵さまからの贈り物だ。食堂用のおっきなテーブル、それとそれに合わせた椅子だね。新築祝いなんだって。
「お皿なんかも買わないとだね」
「わかっていたけれど、家を建てるだけじゃすまないものね」
ミレアはため息吐いてるけど、けっこう楽しそうだ。もちろんボクもだし、みんなもなんだけど。
「まだまだ稼がないとだめだねえ」
「ごはんが減るのは嫌だぞ!?」
「そりゃもちろんボクもだよ」
ごはんの話になったらもちろん燃え上がるのはウルとボクだ。よしっ、気合が入ってきたよ。
◇◇◇
「『斬岩』!」
シエランの剣がロックゴーレムを縦に斬り裂いた。
ここは迷宮の55層なんだけど、ゴーレムとかが結構出てくる階層なんだ。最近の『おなかいっぱい』はこの辺りを狩場にしてる。バッタレベリングは一ジョブで一回、それから50層から55層って感じだね。
「いい感じです」
「重いけど威力がある!」
今、シエランとウルが使ってるのは『鋭いバスタードソード+2』だ。ロードでレベル53になった二人はいよいよ長剣に手を出したんだよ。STRがすごいことになってるからね。てか、両手と片手の両方を練習してる。
「なんか勢いでここまでレベル引っ張っちゃったねえ」
「わたくしはそろそろかしら」
ミレアはエルダーウィザードのレベル71になっちゃった。いいかげんニンジャになればいいのに。オーバーエンチャンターになったフォンシーにINTで負けたくないんだって。
「うん? 来たぞ」
お話してたら、ウルがなんかを嗅ぎつけた。うん、なんかがずりずり床をはいずる音が聞こえる。
「ゼ=ノゥだね。今日はツイてるかな?」
近づいてきたのは、人くらいの大きさで紫色した気持ち悪い袋みたいなモンスターだ。いきなり触手を伸ばしてきたり、石化とか毒を使ってくるめんどくさい敵なんだけど、いいとこもあるんだよね。
ゼ=ノゥを倒したらほとんど毎回宝箱が出るんだ。前回はシュリケンだった。
「もう一個シュリケンが出たら、全員ニンジャになれるね」
「ははっ、まるで『オーファンズ』だな」
「いいじゃない。フォンシーだってまたMINを上げれるよ?」
「いいなっ!」
もうちょっとでパーティハウスも完成だ。ごはんのためにもきっちり稼がないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます