第90話 カッコいい三毛猫セリアンさんに憧れる
「明日はジョブチェンジですねえ」
「ああ、噂以上に早いな。これが君たちの力か」
「うへへ、まだまだです」
ハイパーレベリング二日目で男爵さまとザダッグさんはコンプリートした。男爵さまがレベル21で、ザダッグさんはレベル25だ。ザダッグさんはソルジャーだから経験値が軽いんだよね。
これで明日からはそれぞれプリーストとファイターだね。二、三日でコンプリートまで持ってく予定だよ。
ただレベリングするだけならここまで短くできるもんなんだ。
ボクたちの場合はジョブのたんびにスキルとか動きとか戦い方なんかを練習しながらだから、ゆっくりだったんだよ。
「仕上げに34層で石材まで稼いだものね。さすがはシエランだわ」
「わたしたちはそこまで行けると、いい経験になりましたね」
ミレアは笑ってるけど、実質三人パーティで34層はキツかったよ。けっこう痛い思いもしたから、回復魔法使いまくりだったもんね。魔法やブレスを食らっても、背中の二人は文句も言わないで我慢してくれてた。すごいと思う。
「お疲れ様。待っていたわ」
「あれ? ブラウディーナさん。どうしたんです?」
事務所に戻ったら、ブラウディーナさんがボクたちを待ってた。
それとえっと、なんか小さい子たちが四人。ブラウディーナさんの後ろに隠れるみたいにしてる。全員ヒューマンで男の子と女の子が二人ずつだね。
「ほら、ごあいさつなさい」
「ケビングだ」
一人目は黒髪の男の子。
「ホジェイだよ」
こっちは茶色い髪の男の子。
「パリュミです」
そいで金髪の女の子。
「サータッチャ」
最後は黒髪の女の子だった。
全員小さい。っていっても背丈はボクと同じくらい。歳はたぶん11歳とか12歳くらいかな。この子たちってまさか。
「想像のとおりよ。この子達は育成施設にいるの」
やっぱりかあ。
「全員ソルジャーのレベル0よ。さっきジョブに就いたばかりね」
ふええ、こんなに小さいのにソルジャーになれたんだ。育成施設で運動とか勉強してるからかな。
「ウルが知ってる子?」
「会ったことないぞ」
ならここ半年で施設に入ったってことかあ。
そいでここでこうやって紹介するってことは、そういうことかな。さっきブラウディーナさん、待ってたって言ってたもんね。
「レベリングをやれってことか?」
「そうね。お願いできるかしら」
「理由を聞かせてくれ。なぜ今、そこの子たちなんだ?」
フォンシーがボクたちの想いを代表して訊いてくれた。
「モータリス卿から聞いたわ。家を建てる職人さんをレベリングしているそうね」
「ブラウディーナ様、まさかこの子たちを」
男爵さまが驚いてる。この子たち?
「職人ひとりで家を造るわけにもいかないでしょう?」
ああそういうこと。職人さんも育てろって話あったもんね。だけどこんな小さい子たちで大丈夫なのかなあ。
「四人も職人さんですか?」
「職人希望はケビングとホジェイね」
男の子二人ね。じゃあ残りの二人は?
「パリュミとサータッチャは家のお手伝いさん。二人ともお料理が上手らしいわよ」
「お手伝いさんもですか!?」
それってさすがに気が早すぎない?
「『おなかいっぱい』に育成施設から冒険者になったお姉さんがいるって聞きました」
「おう。ウルだぞ!」
ウルが元気に答えたよ。パリュミもわかってて言ったんだろうけどさ、ウルを見てるおめめがキラキラしてるよ。
「カッコいい三毛猫セリアンさんに憧れる」
「よしっ、採用! サータッチャはいい子だね!」
「……ラルカ」
なにさミレア。こんなに正直でかわいい子たちなんだよ? 雇わなかったら損だよ。もったいないじゃない。
「ケビングとホジェイは?」
二人も三毛猫に憧れてたりして。
「俺は金を稼げるようになりたい」
「好きにごはんを食べたいよ」
ああ、そっちね。でもまあ気持ちはよくわかるよ。
「ザダッグさんはどう思います?」
「……ワシか」
まず確かめないといけないのは一緒にお仕事できるかどうかだもんね。
ザダッグさんは黙ったまま男の子をじっと見つめてる。二人も二人で目を逸らさないでいるね。ザダッグさんってけっこう強面なんだけどな。
「……いいだろう。家を一軒建てるまでは面倒見てやる。そこからはお前ら次第だ」
「わかった」
「やるよ!」
いいんだってさ。よかったね、二人とも。
「それはいいんだけど、レベリング代は出るのか?」
実も蓋も無いけど、フォンシーの言うことももっともだね。そこんとこどうなんだろ。
「育成施設の予算から出すわ。正直レベリングが間に合っていないの。冒険者志望を優先しているから」
「それはまあ、そうなんだろうな」
どうしても迷宮異変が先だからねえ。
けど冒険者が怖いって子だっているだろうし、別のお仕事がいいって人もいると思う。当たり前だ。だったら、これもまあいい機会かな。
「シエラン、どう?」
「いいんじゃないですか。ふふっ」
「どしたの?」
「いえ、わたしたちが人を雇う立場になるなんて、ちょっと楽しくなりました」
ははっ、たしかにそうだね。最初に六人が揃ったときなんて、お金が心配だーってお話し合いもしたっけ。
「一人前の冒険者パーティから、もっと一人前だね」
「そうですね」
じゃあ決まり。明日からレベリングだね。
◇◇◇
「うーん、あっちは大丈夫かな」
「……心配ない」
次の日もボクは男爵さま、ザッティはおじいちゃんを背中にしょってレベリングだ。
男爵さまはプリーストで、ザダッグさんはファイターになったよ。
レベリングの相手が六人になったから、新しく二パーティを組み直したんだよね。こっちは男爵さまとザダッグさん、ボク、ウル、ミレア、ザッティ。あっちはフォンシーとシエランだ。背負子なしでちびっ子四人と一緒になってもらったよ。
なんでこうなったかってだけど、フォンシーとシエランがなんでもできちゃうっていうのが理由だね。ウルもそうなんだけど、こっちのパーティの方が深くまで潜るから、彼女の速さが大事だってことになったんだ。
「六人パーティになったし、目標は三日かな。男爵さま、効率でいきますね」
「実質四人パーティじゃないか」
「だからこそ効率ですよ」
四人の二パーティより経験値効率悪いからねえ。ここはミレアの大魔法に期待だよ。
「『ティル=トウェリア』」
てなわけで迷宮19層だ。魔法が弱点のキラーゴーストの群れにミレアの魔法が炸裂した。
ミレアは今、エルダーウィザードのレベル17なんだけど、ウィザード最強魔法の『ティル=トウェリア』を二十七回撃つことができるんだ。ウィザード、ハイウィザード、エルダーウィザードで九回ずつだね。もちろんそれより上の『マル=ティル=トウェリア』なら十八回、『フォルマ=ティル=トウェリア』はまだコンプリートしてないから六回くらいかな。
要は19層はもう、ミレアとウルにお任せってコト。
「ミレアってINTいくつ?」
「合計で163よ」
「うわあ。エルダーウィザードの補正ってすごいねえ」
攻撃魔法は威力がINTで決まるから、ミレアのはすんごいことになってるんだ。
だから全員が前衛ジョブだからいいってもんでもないんだよね。現役のウィザードとかエンチャンターは柔らかいけど、魔法攻撃力とかバフの効果がすごいってことになる。もちろん前衛ジョブを取っておいて、硬くて速いウィザードが最高なんだけどね。
ここらへんがマルチジョブのいいとこなんだ。
「あー、なんだミレア」
「なに? お父様」
「こんど事務仕事を手伝ってもら──」
「わたくしは冒険者よ」
ダメだよ男爵さま、ミレアはウチの大事なウィザードなんだからね。そうそう貸してなんかあげないよ。
「それで、お父様のレベルはいくつかしら」
「じゅ、12だ」
「そ。ラルカ、24層でいいかしら」
「いいんじゃないかな、あはは」
お父さんの威厳がどっかいっちゃったねえ。
◇◇◇
「もぐもぐ、レベル12になった」
「おー、やったねえ」
ホジェイが嬉しそうにごはんを食べながら教えてくれた。
レベリングが終わったら事務所に集まって、みんなで夕ごはんだ。レベリングの期間はなんと男爵さまも一緒なんだよ。
しかもごはん代は全部男爵さまが出してくれてる。ずっとレベリングしてくれないかな。ミレア、心を読んで睨むのやめてよ。
「男爵さまとザダッグさんは、あと二日ですね」
「ふむ」
「……そうか。レベリングが終わったら素材は受け取っておく」
ロックバイパーもいるし、仕上げは35層くらいいけば大丈夫でしょ。そこで二人のレベリングはおしまいだね。
ザダッグさんはそのままパーティハウスの設計をしてくれるんだって。背負ってレベリングしてるときに、いろいろ希望を出しておいたんだ。楽しみだなあ。
「こっちも二日ですね」
「四人はそれまでに次のジョブを考えておけよ」
「おう」
「うん」
「はい」
「ん」
あっちの六人はちょっと仲良くなったのかな。もうちょっとでボクも合流だから、そのときはよろしくね。
「うにゃあ、それにしてもここまで一気に話が進むなんてねえ」
「そうですね。家の話が出てから二十日くらいですか」
しばらくは場所だけ予約って話だったのに、職人さんとお手伝いさんまで決まっちゃったよ。しかもレベリングまで。
「……本気でお前たちも手伝うのか?」
「もちろん。ボクたちの家なんですから」
レベリングが終わったら、ザダッグさんとちびっ子四人は家造りを始めることになってる。パリュミとサータッチャは簡単なお手伝いだけどね。
そいで『おなかいっぱい』はレベリングついでの材料集めと、力仕事のお手伝いだ。
VITとSTRには自信があるからね。特にザッティが張り切ってるんだよ。おじいちゃんと一緒に家を建てるんだって嬉しそうだもんね。
あと五、六日はレベリングかな。ふふふ、冒険者なのに家造りかあ。なんだか楽しみになってちゃったよ。
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