第91話 規模は違うけれど、わたくしたちの家も負けていないわ!




「素材持ってきましたよー!」


「……そこ置いといてくれ」


 合せて十日ちかくかけたレベリングが終わって、いよいよ『おなかいっぱい』ハウスが建てられることになった。もちろんザッティのおじいちゃん、ザダッグさんが造ってくれるんだけど、ボクたちもお手伝いすることになってる。


 手始めは素材集めから。タイロン・ウッド、ロックバイパー、クレイスライムなんかがドロップする木とか石とか粘土とかをとにかく集めてるとこだね。


『……深い素材がいいってもんじゃない』


 なあんてザダッグさんが言うもんだからさ、いろんな層を回ってがんばってかき集めてるんだ。もちろん順序とかはシエランにお任せだけどね。なんか採算性? とかいうのが大事なんだって。



「ホジェイ、重くない?」


「平気だよ!」


 渡した石をホジェイが運んでく。育成施設の四人も元気いっぱいだね。みんな仲良くファイターのレベル25だ。ザダッグさんもそうだね。

 ちなみにだけどモータリス男爵さまはプリーストのレベル25になってもらった。なんか勢いでね、全員一緒じゃなきゃ不公平だねー、みたいになったんだよ。向こうから言ってきたんじゃなくって『おなかいっぱい』側からね。


「……後は腕を磨け」


「わかってる」


 ザダッグさんはケビングに木を板にするやり方を教えてる。ノコギリをガガガってやってヤスリでザザザって感じ。なんか村で見たのと違うよね。速さもそうだし、大きさもぴったり一緒なんだよ。


 ファイターのレベル25ってなると、STRの補助ステータスが60くらいで、DEXが35くらいになる。めちゃくちゃ力持ちで、とっても器用だね。

 だから石を運ぶのも木を切るのも簡単だし、板の大きさを合せるのも楽勝ってこと。



「……掘りすぎだ、ウルラータ」


「そうなのか?」


「……限度がある」


 あっちでウルが柱用の穴掘りをやってたけど、調子に乗ってやりすぎちゃったみたいだね。シャベルを使うのが楽しかったのかな。ずばばばって掘ってたらザダッグさんに止められてたよ。


 こうやってボクたちは午前中に素材集めで午後からお手伝いって感じでやってるんだけど、けっこう性格でるんだよね。

 ウルとかミレアは大雑把。逆にシエランとかミレアは真面目っていうか、丁寧だね。特にザッティなんかはこだわりがあるみたいで、ザダッグさんの手元を見てることがけっこう多いんだ。ボクは、まあウルと似たようなもんかな。


「……ラルカ、そこまでだ」


「あっ」


 ボクを見張ってたザッティに穴掘り止められちゃったよ。楽しいんだけどなあ、穴掘るの。



「久しぶりだが悪くないな。里を思い出す」


「フォンシー、あなた族長の娘だったんじゃ」


「あのなあミレア、エルフの里なんてこんなものだぞ。聞いてはいたけど公爵待遇なんてお笑いだ。お偉いヒューマンのすることはわからん」


「わたくしもお偉いヒューマンのひとりなんだけど。それと作業が雑よ。きっちりやりなさい」


「へいへい」


 フォンシーとミレアのやり取りは相変わらずだねえ。


「……やれ」


「はい。ふっ!」


 近くではザッティが抑えた木材にシエランがナタを振り下ろしてる。スパって切れたよ、スパって。

 地上だとスキルが使えない代わりに武器にペナルティがかかんないから、STRとDEXがそのまんま出るんだよね。しかもニンジャとナイトだから補助ステータスがすごいことになってるし。


「やっぱり村のみんなにもステータスあげたいなあ」


「冒険者になるのか?」


「じゃなくてもさ、ウル。ステータスが上がるのっていいじゃない」


「力持ちだな」


 だね。じゃあ次の穴いってみよう。



 ◇◇◇



「自分たちのレベリングがままならないのが、ちょっと残念ね」


「仕方ないよ。それに、家造りだって楽しいじゃない」


「悪くはないけれどね」


 ミレアは念願のエルダーウィザードになったもんだから、とにかくレベルを上げたいみたい。背負子レベリングやってたし、最近は家造りのお手伝いもだから、どうしてもねえ。


 そんな『おなかいっぱい』の今といえば、ボクとザッティはニンジャのレベル33、フォンシーはロードのレベル27、シエランがナイトで29、ウルもナイトで33、そしてミレアはエルダーウィザードのレベル32だ。

 もう40層くらいには普通に行けちゃうんだけど、ジョブチェンジしてからけっこう経つのにレベルアップが遅れてるんだよね。


「素材は大切ですから」


 シエランが当たり前って顔してる。


「それでも、いまさら18層とかは物足りないわ」


 そんなワケでボクらは18層をうろついてるんだ。午前中は素材集めで、昼過ぎからは家造りのお手伝いって感じでね。



「あらら、そっちも」


「シャレイヤたちもなんだね」


 もうちょっとタイロン・ウッドを倒したら地上に戻ろっかなんて話してたら、『メニューは十五個』とバッタリだった。『十五個』が18層ねえ。


「やっぱり素材かあ」


「こっちは『十九』と『二十三』で持ち回り。ラルカたちは一パーティだから大変だね」


『オーファンズ』はお金持ちだから、素材なんて協会で買うもんだと思ってたよ。

 ヴィットヴェーンから一緒に来た子たちをレベリングしてたのは知ってた。そのときついでに素材集めしてたのもね。


「偉いよね。お金あるのにクランハウスの素材は自分たちで集めるんだ」


「全部が全部じゃないから。加工なんかは職人さんにお任せだし。それにね──」


 なんとあの『訳あり令嬢たちの集い』のクランハウスも、自分たちで素材を集めて造ったんだって。育成施設まで。


「だからわたしたちもやるの!」


「素敵ですね」


 シャレイヤたちが元気よく宣言して、シエランはうんうんって頷いてる。けどさ、シエランってそっちの方がお得だからって、それで素材集めしようって話ししてたよね。

 素敵と倹約って両立するんだ。



「ありゃ?」


「やあ。そっちもかな」


 そんな感じで『十五個』と一緒に迷宮を歩いてたら、今度は『夜空と焚火』と『ヴィランダー』にまで会っちゃったよ。ギリーエフさんとリーカルドさんが声をかけてきた。

 なるほどあっちもクランハウスを造ってるもんね。しかも『センターガーデン』はけちんぼだって聞いてるし、『旅人』はまだ貧乏クランだ。そりゃ素材を自分たちでなんとかしようとするのもわかるよ。


 けど、これはマズいね。


「『聞き耳』。ウル!」


「『嗅覚』。あっちだ!」


「いくよみんな!」


 モンスターの取り合いじゃないか。負けてなんかられないよ。


「あ、ずるいよラルカ!」


「待て。ラルカラッハ」


「こりゃあまいったね」


 シャレイヤとギリーエフさん、それとリーカルドさんがなんか言ってるけど、気にしてる場合じゃない。悪いけど、ここは早い者勝ちだよ。

 猫セリアンと犬セリアンを舐めてもらっちゃ困るんだよね!


 ボクたちは迷宮を駆け抜けた。



 ◇◇◇



「あんまり気にしてなかったけど、もう半分くらいできてるんじゃない? これ」


「うーん、それほどでもないみたい。全部で五十人は入れるようにするみたいだから、建物をあとひとつなんだって」


「ほえー」


 なんか余計に疲れて地上に戻ってきた。『十五個』も一緒だよ。

『オーファンズ』のクランハウスは三つの建物をくっつけて建てるんだって。男の子用でひとつ、女の子用でもひとつ、それと会議室とか食堂とかを一緒にした家らしい。お客さん用の部屋とか、おっきいお風呂、屋根のある訓練場まで造っちゃうんだ。


「規模は違うけれど、わたくしたちの家も負けていないわ!」


 おおっ、ボクは圧倒されてたけど、代わりにミレアが反撃だ。


「二階建てで、一階には応接、食堂、ロビー、調理場、大浴場を置くの」


「なかなかやる」


 ファリフォーがふんふんってしてるよ。


「二階は個室と客間、それに秘密会議室を作るわ」


「秘密会議室……、いいな。こっちも作ろう、シャレイヤ」


「ダメだよファリフォー、思い付きで言わないで」


「だけど、秘密っていいと思う」


 ボクらが好き勝手言ってザダッグさんが描いてくれた家の設計図なんだけど、そこには秘密会議室があったんだ。

 二階にある六人部屋で、三段ベッドが二つ。今の宿と一緒だね!

 それがまあ、いっつものお話し合いに使う予定で、なぜか秘密で会議な部屋ってだけなんだよね。しかも、ボクとウルとザッティの三人はそこに住む予定。フォンシーとシエラン、ミレアはそれぞれ個室を持つ予定だよ。ウルはこれからも一緒だってすっごい喜んでた。ボクもなんだけどね。



「ねえねえ、ボクたちも訓練場欲しくない?」


「それは協会事務所でいいだろ」


「フォンシー、ウルは芝生が欲しいぞ!」


「一応訊くけど、なんのために?」


「走る!」


「そうか。ザダッグに相談してみろ」


「わかった」


 フォンシーってウルに甘くない?



 ◇◇◇



「明後日の午前中なら、空いてるな」


「じゃあそれでお願いします」


 次の日の夕方、教導課に行ってマヤッドさんにモンスタートラップの予約を入れてもらった。

 これが終わったらミレア以外は全員ジョブチェンジかな。ボクとザッティはハイニンジャ、シエランとウルはロードだね。フォンシーはヘビーナイトあたりかな。


 そんなときだ。事務所の入り口が騒がしいなって思ったら、やってきたのは『フォウスファウダー一家』の六人だった。六人一緒って久々に見たね。


「皆が揃っているわけでもなかろうが、それでも言っておきたいことがある」


 オリヴィヤーニャさんがいっつものノリでなんか言いだした。どうしたんだろ。顔は笑ってるから迷宮異変とかじゃないと思うけど。


「『フォウスファウダー一家』は先ほど99層ゲートキーパー、ワイバーンを討伐した」


 おおう、それってまさか!



「ベンゲルハウダー最深探索層は更新された。100層である!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る