第87話 ずっと一緒じゃないと家なんて買えませんよ
ベンゲルハウダーで家を持とうってなったら普通は貸家なんだって。買い取ることもできるみたいだけど、それでも家の場所代は領主さまに払い続けなきゃならないんだ。地面も領主さまのモノらしい。
「やあ、よく来たね」
「待っていたわ」
メンヘイラさんと再会した二日あと、ボクたちはまた領主邸にやってきた。こんなとこ二度と来ることないだろうなあって思ってたのにね。
いるのはシエランとボク、『ラーンの心』のレアードさん、そしてメンヘイラさんだ。
あいさつしてくれたのはホーウェンさんとブラウディーナさんだったよ。
街の土地やお金に関係することはホーウェンさんで、育成施設はブラウディーナの係なんだって。『一家』の人たちもお仕事大変だ。オリヴィヤーニャさんが全員で迷宮に潜りたいって言ってた意味もわかるね。
「僕たちもサワ嬢みたいに周りに任せたいよ」
「それがわたしたちの役目ですので」
なんだかメンヘイラさんが胸を張ってて、ホーウェンさんは苦笑いだ。
「西側の土地の件だったね。こちらとしては大歓迎だよ」
ホーウェンさんの手元にはメイヘイラさんから手渡された手紙がある。
「一切値引き無しで、十年分を即金払い。断りようがなくて、怖い話だよ」
「サワノサキ領が『オーファンズ』に貸し付けただけです。当然返してもらうことになっていますので」
「その資金力が恐ろしいね」
会話しながらお互いに笑ってるけど、なんかビリビリしてるね。ちょっとしっぽが動くよ。
「それと君たちも良かったね」
ん? なんでこっち向いて言ってるのかな。
「もし『おなかいっぱい』が土地を希望するなら、法に触れない限りで融通してほしい、だそうだ」
「ええっ!?」
「『メニューは十五個』『十九の夜』『二十三の瞳』『ライブヴァーミリオン』『ブラウンシュガー』の連名だ」
シャレイヤたち、なにしてくれてるの!? それにシローネたちも!
「これじゃあ陛下でも断れないだろう」
陛下ってなに? シエランは青い顔してるけど。
それとレアードさん、なんで可哀相なモノを見る目をしてるのかな。
「そしてもちろん『旅人』も大歓迎だ。ベンゲルハウダーに新しいクランが誕生するんだ。喜ばしいことだね」
「あ、ありがとうございます!」
ホーウェンさんはちゃんとレアードさんのことも見てたんだ。よかったね。
「では区割りと料金についてだね。ブラウ、いいかな?」
「ええ、それじゃあわたくしから説明するわね──」
うん、ボクには遠い話だからシエラン、ちゃんと聞いててね。あ、このお茶甘くておいしいよ。
◇◇◇
「レベル19になったぞ」
「いいなあ」
「ラルカも明日がんばれ」
「だねえ」
ボクとシエランがほとんど一日かけて偉い人の説明を聞いてる間に、ウルたちはレベルを三つ上げてたよ。四人だからってあんまりムリしなかったんだって。
六人揃って宿でお話し合いだ。
「ラルカとシエランを仲間外れにできないわ」
「ミレアもありがとね」
どうやらボクとシエランを待っててくれてたらしいよ。
「それよりどうだったの?」
ミレアがシエランの方をむいた。ボクを相手にしないあたり、わかってるねえ。
「条件は悪くないと思います。十人くらいが住める屋敷が軽く納まる土地で、年十万ゴルド」
「けどそれって土地代だけでしょ」
「そうです。家を建てるお金も必要ですし、維持するお金だって」
ボクなんかはだいたいの答えを知ってるからただ聞いてるだけだけど、ザッティとかウルは首を傾げてるね。会話してるミレアもだ。フォンシーだけはどこ吹く風でいつも通り。
「『ライブヴァーミリオン』からの紹介もあったんでしょ? それじゃ断るわけにもいかないわね」
「ん? 断ったよ?」
「なにしてんの、ラルカあぁぁ!」
「いやいや、断ったっていうか、そんなの関係ないっていうか」
おうおう、ミレアが髪をぶわさって振り回してるよ。ウルのしっぽみたいだね。
「だって横にレアードさんもいたんだよ。えこひいきはダメだし、土地を買うかどうかだって決まってなかったでしょ」
「そ、そりゃあそうかもしれないけど」
「だからお話だけ聞いて、あとで返事しますってこと。紹介もなにもないよ」
「そうなのシエラン?」
だからなんでシエランに訊くかなあ。
「最初は通りに面した一等地だったんです。けどラルカが、そういういいところはクランの方がいいって」
「ラルカ……」
そっちの方がいいじゃない。
「お金も融通してくれるっていうお話もあったんですけど、それもラルカが」
「そりゃそうでしょ。知り合いだからって、そこまでしてもらうわけいかないよ」
ホーウェンさんとブラウディーナさんは苦笑いだったけど、メンヘイラさんは変に嬉しそうだったし、多分大丈夫だよ。なんか、土産話ができたんだって。
「話はわかったけど、シエランはどう思うんだ? ああ、細かい条件はあとで聞くから」
黙って聞いてたフォンシーが口を出してきた。
「長い目で見れば家を持った方が得です。支払いは職人さんと相談ですね」
「へえ、ならあたしは賛成だ」
ニヤって笑ってるけど、これは本気で喜んでるよね。ボクにはもうわかっちゃうんだよ。
「つまりはだ、あたしたち六人は長いことパーティじゃなきゃダメだってことだな」
そうきたかあ。
「ウルはずっと仲間だと思ってたけど、違うのか?」
「……オレもだ」
ウル、ザッティ、心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。
「もちろんボクもだよ! ミレアとシエランはどうなのさ」
「ずっと一緒じゃないと家なんて買えませんよ」
「わたくしが抜けるわけないでしょ」
「はい決まりー!」
まあ最初っから心配してなかったけどね。こっから誰か抜けるなんて考えてもなかったよ。
「あとはシエランにお任せってことでいいよね」
「はい。ただ条件が」
「ん? なに?」
「今後です。できれば60層くらいで稼げるようにしたいなって。それと建物用の素材も集めたいですね」
うーん、ボクたちって一番潜って46層だ。氾濫でヘルハウンドとかデーモンと戦ったけどアレは向こうから来ただけだし、迷宮は実際に歩いてナンボだもんねえ。
「いけるんじゃない?」
「おいおい」
気軽に答えちゃったかな、フォンシーからツッコミがきたよ。けど考えなしってわけでもないし。
「ミレアがエルダーウィザードで、ボクがヴァハグンになれば大丈夫でしょ」
今のジョブが終わればミレア以外は前衛だろうし、あ、ザッティはわかんないか。
「そのさ、ザッティはどうしたいかな?」
「……ウィザードかカラテカで迷ってる」
そっかあ。
『おなかいっぱい』でウィザードを持ってないのはザッティとボクだけだ。『オーファンズ』に言わせたらウィザードは当たり前ってなるだろうけど、ボクらはそうじゃないんだよね。むしろボクたちは全員ビショップを持ってるのが強いって思うんだ。
「ボクはしばらくウィザードはいいかな。それより前衛で殴りたいよ」
「……そうか」
ザッティだって前衛で盾を持ちたいんだろうけど、ジョブがないからねえ。だからって気を使ってボクが遠慮したってしかたない。そういうのはザッティだって嬉しくないだろうしさ。
パーティになってもう半年くらいになるね。『おなかいっぱい』はちゃんと考えてやっていけるって、ボクは信じてる。
「60層くらいになったらさ、ナイトとかロード用のアイテムも出るよね?」
「60どころか50でも十分らしいわ。46層でも出るみたいよ」
ミレアも物知りだね。もしかしてザッティのために調べてたのかな。
「50層のゲートキーパーが狙い目らしいな。キングトロルだったか」
フォンシーまで。こりゃボクもちゃんとしないとダメだね。
「ラルカはニンジャにならないのか? ザッティも」
「ほえ?」
「……む」
ウルが変なこと言いだした。いやいや、変じゃない。シュリケンのこと忘れてたよ。
「ニンジャかあ」
「いいんじゃないか、ウチの前衛はラルカとウルとザッティだ。三人がニンポーを使えるのは頼もしい」
「そういうフォンシーはどうなのさ」
「あたしか? このあとヘビーナイトかロードだな。相手を受け止めてからドカン、だ」
なるほどなるほど、ちょっと前のミレアみたいな感じだね。フォンシーはナイトでそれをやってたから慣れてるだろうし。
「フォンシーって、カタナ使う気あるの?」
「MINが上がったし、自己バフもあるからな」
まったくもう。そのためだけにケンゴーまで取っちゃったんだ。
「じゃあシエランは?」
「わたしはナイトです。フォンシーと同じ感じですね」
シエランも捕まえてドカンをやるんだあ。
「あのさ、ソードマスターは?」
「そのうち取りますよ。たぶん」
「ウルも次はナイトをやるぞ!」
ウルも盾持ちかあ。フォンシーとシエランもだし、ミレアが後ろから魔法でボクとザッティがニンジャ。いいじゃない! これならレベルを上げて、60層でもやれそうだよ。
「ここのとこビショップやエンチャンターで前衛と後衛がごちゃごちゃだったからな。いいんじゃないか?」
「だねえ」
うんうん、なんか面白くなってきたぞ。
「じゃあしばらくの目標は、パーティの家を作るためにがんばろう、だね」
「……ニンポー」
ザッティがニヤってしてるよ。もしかしてニンジャやりたかったのかな。
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