第85話 ただ自分がなりたいだけ
「見事な品ですな」
「であろう?」
ミレアのお父さんがおべんちゃらしてるけど、たしかにすごい。なんかこうカッコいい?
テーブルに置かれて輝いてる『ヴァルキリーアーマー』は、どっからどう見ても普通のフルプレートじゃなかった。
見た目は白くてカッコいい鎧なんだけど、腕とか足とかにゴテゴテした箱みたいのがくっ付いてる。肩や胸の部分もごってり盛り上がってるし、それと一番目立つのは背中にもっと大きな箱が二つ。その部分だけ赤と黒で色分けされてるんだよね。
これを着込んだら重たいだろうなあ。あ、そもそも『フォウスファウダー一家』って革鎧なのに、コレ使うの?
「これはな、ジョブチェンジアイテムにして、ジョブ専用装備でもあるのだ」
「すごいな!」
自慢げなオリヴィヤーニャさんにウルが素直に返事した。そんなウルにペルセネータさんも嬉しそうだ。ホント、ウルってみんなに好かれてるよね。うむむ、ボクももうちょっと素直になろうかな。
「なんになれるんだ?」
ウルが瞳を輝かせてる。ニンジャになったとき、嬉しそうだったもんねえ。
「『アーマードヴァルキリー』。ロード系超位ジョブ」
「超位ジョブ!?」
珍しくシエランが声を上げた。ここにきてからほとんどしゃべってないのにね。
「そうだ。貴様らも上位三次ジョブは知っておろう」
「はい……。『おなかいっぱい』はザッティがガーディアンをやっていましたから」
目だけで返事しろって言われたシエランがちょっと可哀相。がんばって。
「初心者講習で習ったのは、超位ジョブがあるということだけです。上位三次ジョブを全部マスターして、それから取れるジョブ」
「そうだ。それに加えてジョブチェンジアイテムとカレントジョブがレベル100、だな」
カレントジョブっていうのは、今やってるジョブのことだね。ジョブとかステータスって言い回しが多くて大変だよ。それにしたってレベル100かあ。
「レベル100はいつか達成できる。三次ジョブが全部は大変だな」
フォンシーも会話に入ってきた。
たしかにボクたちはこないだの氾濫でレベル90くらいまでいったからねえ。大変だろうけど、レベル100が絶対ムリとは思わないよ。『一家』だったらもっと簡単にやれるはず。
「そこなのだ、フォンシー。ロード系三次ジョブは三つ。ロード=ヴァイ、ホワイトロード、そしてヴァルキリーだ」
「たしか前々回の氾濫のとき、ホワイトロードだったはずだな」
ああ、『ファイナルホワイトアタック』だっけ。そんなことやってたねえ。
「そして残念ながら、われはヴァルキリーを持っていないのだ」
逆にロード=ヴァイは持ってるってことかあ。
あれ? たしかナイトとかロードならレックスターンさんだって。
「ふふっ、ラルカラッハは気付いたか。だがな、ヴァルキリーは女性専門ジョブなのだ」
「そんなのあるんですか!?」
「そうだ。故にわれよ」
「お母様はそんなこと気にしていないわよ。ただ自分がなりたいだけ」
「そのとおりだ、ポリィ!」
ポリアトンナさんが茶々を入れてきたけど、オリヴィヤーニャさんは全然動じないねえ。さすがだよ。
「ヴァルキリーへのジョブチェンジアイテムは『ニーベルングの指環』だ。われは手に入れるぞ」
「あはっ、あはは。オリヴィヤーニャさんならすぐですね」
「しかり!」
オリヴィヤーニャさんが笑ってる。これって不敵な笑みって言うのかな。ポリアトンナさんとペルセネータさんもだ。
半年も前、ボクたちが六人になってすぐに、この人たちはボクたちを背中に乗せて運んでくれた。もしかして、今度は手を引っ張ろうとしてくれてるのかな。『ヴァルキリーアーマー』を見せつけてさ。
「くだらないことに時間を使ってる暇はない、か」
フォンシーの視線は『エーデルヴァイス』を向いてる。ヴァルハースたちが俯いてるよ。なんか髪の毛の色が薄くなったみたいだ。
「のう『エーデルヴァイス』よ、これこそが冒険者だとは思えるか?」
「……思うと言うには、早いかと」
「よくぞ申した!」
へえ、ヴァルハースだってやるじゃない。ちょっとだけ顔を上げただけだけど、言い方間違ってたらまた怒られてたんだろうって思う。ボクも気を付けないと。怖い怖い。
「貴様ら『エーデルヴァイス』には、われ直々に紹介状を用意してやろう」
「あ、ありがとうございます!」
ああ、ヴァルハースたちの髪の毛がもっと白くなってる。絶対きっつい内容のお手紙だもんね。
けどうしろの子爵たちは逆に開き直ったのかな、頷くだけでそれ以外はなんにもしない。
「オリヴィヤーニャならこれで終わりにして、あとでグダグダは言わないだろうさ」
「そだね」
フォンシーの言うとおりだと思うよ。面倒なお話はこれで終わりかな。
「雑事は終いだ。どれ、潜るか」
『ヴァルキリーアーマー』をインベントリにしまったオリヴィヤーニャさんは、もう立ち上がってる。
「ポリィ、ペルシィ、今日は三人だ。まったく、事務仕事が多くて六人が揃わぬのはやっかいだな」
やれやれって顔でオリヴィヤーニャさんが部屋を出てこうとして、それからこっちを振り返った。ポリアトンナさんとペルセネータさんも。
「どれ今日は『おなかいっぱい』も加わるがいい。行くぞ!」
「はい?」
「ついてまいれ」
あれー?
◇◇◇
「先代のアレか。人の縁は面白いの」
迷宮41層でトロルをぶった斬りながらオリヴィヤーニャさんが言った。
『おなかいっぱい』と『一家』を合せて九人なんで、パーティは五人と四人に分かれてる。こっちはオリヴィヤーニャさんとミレア、フォンシー、そいでボク。
先代っていうのはミレアのお爺ちゃんのコトだね。実はその人、ベンゲルハウダーの西に領地を持ってる男爵さまだったんだけど、なんかやらかして没収されちゃったみたいなんだ。実はそれがフォンシーのお姉さん、えっとフェンサーさんが絡んでたんだって。
「まさか姉妹そろってモータリス家に関わるとはな」
「あたしは関係ないぞ。個人的にミレアと付き合ってるだけだ」
なあんてフォンシーは言うけどね。
『ラルカラッハ殿、ウルラータ殿、シエラン殿、ザッティ、そしてフォンシー様、ミレアをよろしく頼む』
部屋を出るときにモータリス男爵が頭を下げたんだよね。様づけは止めろってフォンシーは嫌そうだったけど、それでも任せとけっても言ったんだ。もちろんボクたちもね。
「それでの、ラルカラッハ」
「は、はいっ!」
「そう構えんでよい。われはどうしたらよいか」
そんなの知るわけないでしょ!
オリヴィヤーニャさんは今、ヤギュウのレベル98だ。ヴァルキリーを目指すのは当然だけど、ここでジョブチェンジするかどうか悩んでるみたい。
「今さら後衛というのものう」
「えっと、ボクたちから言うのはちょっと。ただ、これからだって異変があるかもだし、オリヴィヤーニャさんは前衛ジョブのままで、それとレベルもかなって思います」
「わかっておるではないか」
嬉しそうだねえ。オリヴィヤーニャさんってジョブ談義が好きなんだ。うん、ホントに冒険者だよねえ。
「残してあるアイテムを考えれば……、うむ、『ツカハラ』か『ベルセルク』か。どちらがよいかの」
たしかツカハラがソードマスター系でベルセルクはウォリアー系だっけ。どっちも上位三次ジョブだね。あったりまえにそういうアイテムを取ってあるのがすごいよ。
「あの、両方取ればいいんじゃないですか」
「そうだ。もとよりそのつもりであった」
じゃあなんでボクに振るかなあ。
「お母様は自慢したいだけよ。それとあなたたちも……、いえもう、わかっているのね」
「そりゃまあ」
いつの間にか46層に着いてたから『一家』の三人とはここでお別れだ。
最後にポリアトンナさんが言ったこと。自分たちはもっともっと強くなるから、ボクたちもがんばれってことなんだろうなあ。それでもボクらは『一家』みたいにガツガツ強くなるつもりはないんだけどね。
「それでもわたしたちなりに、強くならないとですね」
遠くになった三人の背中を見ながらシエランが言う。今日は偉い人たちばっかりで大変だったもんねえ。
「ミレア、黙っててすまなかった」
「いいのよ。これからも呼び捨てでいいのよね」
「ああ、もちろんだ」
横でフォンシーとミレアがなんか言ってるけど、いまさら『フォンシーさま』だなんて言うわけないでしょ。フォンシーはフォンシーなんだからね。
◇◇◇
「よう、これからか」
「はい。おつかれさまです」
「ははっ、お前らもここの常連になるんだな」
なあんて話しかけてきたのは『なみだ酒』のザッカスさんだ。モンスタートラップ部屋から『赤ワイン』が出てきたとこだね。
ボクたちはこれから夕方までの予定ってことになってる。そのあとは『ナイトストーカーズ』なんだって。あの人たちって相変わらず夜だねえ。
「一時間待ちか」
「だねえ」
『赤ワイン』を見送ってから、ボクたちはモンスターのリポップ待ちだ。時間が経たないと扉を開けられないんだよね。
「今日でレベル40いっちゃうね。みんなってこのあと決まってる? ボクはエンチャンターだけど」
「ウルはパワーウォリアーだ!」
そだね。ウルはSTRが欲しいし、後衛はこれで終わりにしてこっからは全部前衛かな。
ボクはエンチャンターのあとどうしよう。ウィザードかなあ、それとも。
「時間だね、そろそろ行こっか。今日は疲れたけど、最後にひと踏ん張りだ」
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