第84話 貴様らは冒険者より価値ある存在なのか?
ヴァルハースたちが信じられないって顔してるけど、あったり前じゃない。たしかにこの人たちは謝ってくれたかもしれないけどさ、それだってフォンシーが偉い人だったってだけじゃない。
そりゃ『エーデルヴァイス』に冒険を続けろって言ったのはこっちかもだけど、だからってねえ。
なんでこんな面倒なことしてくれた人たちのメンターやるのさ。引き受けるわけないよ。
「ほ、報酬を上乗せしよう」
時間が止まってる『エーデルヴァイス』の代わりに、ルーターン子爵が言ってきた。
「やです。お金の問題じゃないです」
「そこをなんとか」
食い下がられたよ。けどダメなものはダメ。
「とてもじゃないが今はムリだ」
フォンシーが真面目な顔でキッチリ断ってくれた。
「あたしたちは今、前衛と後衛を入れ換えてる最中だ。マスターまではともかく、コンプリートには時間がかかる。前衛本職が下手くそサムライのあたしと、初めて素手になったシエランだけなんだ」
そこまで言うならサムライの練習しようね。フォンシーってMINを上げるためだけにサムライやってるわけじゃないでしょ。このあとちゃんとケンゴーまでやってもらうんだから。
「それと繰り返しになるけどな、さっきラルカが言ったとおりで、あたしたちは『エーデルヴァイス』が嫌いだ」
「ぐっ」
ヴァルハースたちがのけ反ってるけどさ、ホント冗談じゃないよ。
「血に誇りを持つのはかまわない。だけどそれを力に使うならやりようがあるだろう。平民が自分の言うことを聞くのは当然だという考え方は、ハッキリ言おう、大っ嫌いだ」
ホンキで顔をしかめてるフォンシーを見て『エーデルヴァイス』ががっくり頭を下げた。
「ほらフォンシー、言い過ぎだよ。ボクもイヤな人たちだなって思ってるけどさ。これから変わるかもしれないし」
「さすがはラルカだ。いい追い打ちだな。ほれあんたら、変われるのかい?」
「くっ」
さっきからぐっとかくっとかしか言えてないヴァルハースだけど、この人たちが変わる? ムリなんじゃないかな。
「仕方あるまい。メンターの件は諦めよ」
「はっ!」
横で聞いてたオリヴィヤーニャさんがトドメを刺してくれた。元気よく返事したのはお父さんたちだよ。むしろ『エーデルヴァイス』は悔しそうに、ただ黙ってる。
「そして個人的に言っておかねばなるまいな。都合よくここには子爵男爵家当主が七人もいる。その子息たちもな」
七人っていうのはミレアと『エーデルヴァイス』のお父さんたちってことかな。
急にマジメな声になったオリヴィヤーニャさんの迫力で、みんなが固まってる。やっぱりすごいよね。ボクはだいぶ慣れたけど、それでもシッポが反応しちゃうよ。
「まずだ、本日の審議、たとえフォンシーが『フォートライズ』であろうとなかろうと、『エーデルヴァイス』の意など聞き入れるつもりはなかった」
「そ、それはどういう」
ルーターン子爵が引きつった顔をしてるよ。事前に聞いてたけど、こういう場合ってよっぽどの証拠がない限り、平民より貴族の方が正しいってことになるんだって。へんな決まりだよね。
「貴様らはもう少し現実を知れ」
貴族の人たちに現実って、オリヴィヤーニャさんはなにを言ってるのかな。
「こやつらは先の氾濫でラストアタック……、最後にモンスターを打ち破ったパーティだぞ。なにがあろうと貴様らごときに渡すはずがなかろう」
「確かにそれは……」
「本当に貴様らは甘いな。われの言う現実とはその程度ではない」
納得した感じのルーターン子爵にオリヴィヤーニャさんがかぶせた。なんかこう目がギラギラしてるよ。
◇◇◇
「この一年で迷宮探索は大きく変わった。それはわかるな?」
「えっと、マルチジョブですか?」
オリヴィヤーニャさんがこっちを見て言うもんだから返事をしたけど、なんでボクかなあ。
「そのとおり。そして関連があるかはわかっていないが、もうひとつだな」
「迷宮異変、でしょうか」
次に視線を送られたのはシエランだ。ちょっと、シエランはこういうのに一番向いてないんだけど。
オリヴィヤーニャさんはおっきく頷いてるけど、こっちは疲れるよ。全部そっちで話せばいいのに。
「そも、われも含め貴族とは何者か?」
偉い人って意味じゃないんだろうなあ。
「……古き冒険者の末裔にございます」
答えたのはミレアのお父さん、モータリス男爵だ。ここに来てからずっと疲れたお顔だね。
「わかっているではないか」
それからオリヴィヤーニャさんが話してくれたのは、貴族についてだった。
ここにいる貴族って人たちは、昔々、ずっと昔に冒険者をやってた人たちの子孫なんだって。ステータスなんかなかった時代に強い冒険者が迷宮から素材を獲ってきた。自然とそんな人たちが偉くなったのは、まあわかるよ。
けどさ、強くて偉い人の子供がなにもしなくても偉くなるのは、ちょっとなあ。そんなことなら『誉れ傷』の人たちの方がずっと偉いって思っちゃうよ。それが貴族なんだって言われたら、そうなんですかってしか返せないもん。
「今まさにわれらは変革の時を迎えている。いや、二十年前にはもう始まっていたのであろうな」
ステータスのことだね。
「それがこの一年で一気に花開いただけのことよ。もはや迷宮異変は止まぬであろうし、冒険者が強くなり続けることもとどまらん」
もう誰も口を挟めない。相槌すら出てこないんだ。完全にオリヴィヤーニャさんの演説になっちゃってる。
「われはな、此度の一件で思ったのだ。血筋だけを誇る貴族は、どうなっていくのであろうな」
ボクでもなんとなくわかる。とんでもないこと言ってるよね?
この部屋にいる偉い人たちの顔が真っ青だ。いや、白までいってるかな。
「なにも執政者としての貴族は否定していないぞ。だがな、貴様らは冒険者より価値ある存在なのか?」
「オリヴィヤーニャ様っ!?」
もう悲鳴だ。しかもよりによってミレアだよ。
ミレアは叫んでから両手で口を覆った。涙目になっちゃった。チラチラってお父さんを見てる。
「よい、ミリミレア。われはなにも貴族を否定するわけではないのだ。なによりそれに縋っているのがわれなのだからな」
あ、なんとなくわかった。オリヴィヤーニャさんは怒ってる。なんかに怒ってる。モンスターと対決してるときみたいなわかりやすい気迫じゃないけど、静かに目が燃えてるんだ。
「われはあくまで迷宮総督ゆえ、ベンゲルハウダーの統治はレックスの管轄であることを重々承知しておる。だがな、先ほどわれの目の前で起きたことはなんだ?」
「ひっ!」
ヴァルハースだけじゃない。偉い人たち全員が椅子から転げ落ちそうになってる。ビビりまくりだよ。
「そうだ。これは私情であろう。もうわかっておろうが、われは憤っている。法の外で、個人としてだ」
ああもうダダ漏れだよ。『エーデルヴァイス』なんかは泣いてるし。
それにしたってオリヴィヤーニャさん、自分が怒ってるってバラすまでが長いよ。
「なに、いろいろと思うところがあってな。鬱憤を晴らしたかったのだ」
台無しだった。
けどたぶんオリヴィヤーニャさんは本気なんだろうなあって思う。自分が偉い人ってわかってて、それで冒険者もがんばってやってるから怒ったんだろうな。
「さて、ヴァルハースよ、エルジャントよ、ウィラーウィンよ、デッタリアスよ、ギスヘンバーよ、そしてヘラジャーンよ、貴様らは今後どうする?」
「こ、ここ、これからは二度と、『おなかいっぱい』には無体を、は、働き──」
「『おなかいっぱい』、には?」
「あひぃ!?」
ヴァルハースってここまで言われてまだわかんないのか。大丈夫かなあ。
「全てにだ。なにも冒険者だけではない。協会の職員、宿屋の者、食堂、農業に従事する民、全てだ。その中には行政としての貴様ら貴族も含まれる」
「かっ、畏まりましたぁ!」
叫んでるけど、ヴァルハースってなにをしちゃいけないのか、ホントにわかってるのかな。
「卿らもだ。これ以上は言わんぞ。最後と思え」
回りくどくてすっごく大きなオリヴィヤーニャさんのお説教だった。
◇◇◇
「さて、つまらぬ話は終わりだ」
ちょっとオリヴィヤーニャさん、切り替えるのはいいけど、そこで崩れ落ちてる偉い人たちはどうするのさ。ミレアのお父さんまでだよ。もういいから早く帰りたいって伝わってきてるんだけど。
「ごめんね、わたしも同じ気持ちだったから黙ってたの」
「わたしもでした」
ついでみたいにポリアトンナさんとペルセネータさんがトドメ刺すし。
「終わった話はどうでもいい。それよりコレだ」
オリヴィヤーニャさんがすんごい嬉しそうにしてる。さっきまでお説教してたのにこれだよ。
そいでインベントリから出したのは、うん、鎧だね。フルプレートなんだろうけど、なんかごてごてしてるなあ。
「言ったであろう、われは機嫌が良いと」
言ってたね。機嫌がよくって、イライラしてるって。
怒ってたのはさっきまでのお話で、嬉しいのはコレってことかな。なんなんだろう、インベントリから出てきたってことは迷宮産の鎧だよね。
「ヴィットヴェーンに着いたときには、もう異変は終息していた」
うん、だけど二週間もあっちにいたんだったっけ。
「99層に出向いてな。ワイバーンを倒してきたのだ。われら『一家』は100層に到達した」
自慢げだねえ。けどまあわかる。こないだのマスターデーモンなんかはレベル100以上だっていわれてるけど、だからってボクらは100層に行ったわけじゃないし。
「コレはそこで得たものだ。『ヴァルキリーアーマー』という」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます