第83話 そいつらまだ全然弱いぞ




「ぶはっ! ふははは!」


 最初に大笑いしたのはオリヴィヤーニャさんだ。

 それから偉い人たちだとポリアトンナさん、会長さん。ペルセネータさんは普段通りみたいだけど、口の端っこが吊り上がってるね。あ、サジェリアさんはお腹に手をあてて俯いてる。肩が震えてるけど。


「いいな。さすがはラルカだ」


 こっち側だと笑ってるのはフォンシーだけだね。ウルは笑ってるっていうか、楽しそう。


 そいで当の本人たちなんだけど、ヴァルハースたちは意味がわかんないって感じでつっ立ったまんまだ。

 ボクが言ったのって笑うようなことかな? いいじゃない、村で悪さした子供たちみたいでさ。


「ぷふっ、まあいいんじゃないかな」


 レックスターンさんまでっ。


「フォウスファウダーとしては、ラルカラッハの提案は問題ないと判断するよ。ぷひっ」


「……我々はその提案を受け入れたいと思います」


 レックスターンさんがそう言ったら、『エーデルヴァイス』の六人が諦めたみたいに頷いた。ただなんでだか、決死の覚悟で氾濫に立ち向かうみたいなノリになってるよ?

 周りのお父さんたちは、すっごくホッとした空気だけどさ。



「それだけでいいのかな?」


 これでまあいいかなって考えてたら、レックスターンさんが追い打ちかけてきた。坊主頭じゃ足りなかったかなあ。

 あらら、あっち側の顔がまた青くなっちゃったよ。ビビった感じでこっち見てるし。


「うーん、ザッティはなんかある?」


「……オレか」


「うん。叩かれたのはザッティだし」


 フォンシーは手を出した方だからナシだよ。笑ったのもあるんだからね。


「……レベルアップを無駄にしなければ、それでいい」


「ほう!」


 ザッティのセリフに反応したのはオリヴィヤーニャさんだ。こういうの好きだもんねえ。


「……『おなかいっぱい』はオレをレベリングしてくれた。だから冒険者をできてる」


 しっかりオリヴィヤーニャさんを見ながらザッティが言った。


「……無駄にするのはよくないと思う」


「うむっ、そのとおりだ」


 うんうんって頷いてるオリヴィヤーニャさんだけど、答えをだすのはレックスターンさんだよね。



「私としては『エーデルヴァイス』がベンゲルハウダーの力となってくれれば、嬉しく思うよ」


「わかりました。私たちも力を付けたく思います」


 さっきの坊主頭のときと違って、やたら爽やかにヴァルハースが言い切った。そんなに髪切るの嫌だったのかな。


「そうか。ならば──」


「そいつらまだ全然弱いぞ」


 ウル……。



 ◇◇◇



「ポリィ、どう思う?」


 レックスターンさんがポリアトンナさんに振ったね。苦笑いしながらだけど。


「レベル14のナイト四人に15のウィザードが二人……。仮にだけどあなたたち、コンプリートしたらどうするつもり?」


「ジョブチェンジをするならば、ロードとハイウィザードになりたいと考えています」


 堂々と答えたのはいいんだけどさ、ヴァルハース。けど、なんだそれ。ほらポリアトンナさんがげんなりしてるじゃない。


「ラルカラッハさん、元メンターとしてどう思うの?」


 なんでボクに訊くかなあ。


「えっとじゃあ、ミレア」


「なんでわたくし!?」


「あんまりしゃべってないじゃない」


 シエランもなんも言ってないけど、平民だし、ここでなんか言わせるのは可哀相だよ。フォンシーの出番かもだけど、意地悪いこと言いそうだしなあ。

 大丈夫、ミレアならやれるやれる。


「……ミレア、言ってやれ」


 ほら、ザッティだってそう言ってるし。


「……わかったわよ」


 ミレアがチラってお父さんを見たら、男爵さまは頷いた。次に向かいにいるルーターン子爵に確認する視線を送ったよ。念入りだねえ。


「あー、ミリミレア嬢。ここに至っては、家同士の間柄は気にしなくていい。忌憚なく息子たちが力を得るための方策を示してもらえるかな」


「わかりました」


 ほら言っちゃいなよ。ボクを睨んでる場合じゃないよ。



「新人講習受ければいいのに。じゃあ言わせてもらうわ」


 あ、口調が変わった。やる気だねえ。


「まずウィザードの二人はウォリアーかファイターね。なれないならソルジャーでもいいわ」


「なっ!?」


 ウィザードの二人、えっとヘラジャーンとギスヘンバーが驚いてるよ。ミレアは当たり前のコト言ってるんだけど。


「ハイウィザード? なにを考えているのかしら。柔らかいウィザードなんて話にならない。そういうのは硬くなるか速くなるかしてからよ」


 絶対にダメだってわけでもないけどね。ほら、シエランのお母さんみたいに。けどシェリーラさんって何年もウィザードやってたからできたことだし。


「ナイトは三人がプリースト、一人がシーフね。WISは足りてるかしら?」


「あ、ああ、足りている。足りてはいるが」


 ヴァルハースがとっても悔しそうだけど、プリーストは絶対だよ?


「回復がいないパーティなんてありえないでしょう」


「それは……、ロードになれば」


「ジョブを舐めないで。専門職に勝てるわけないじゃない!」


 おおう、なんかミレアがすごい。


「で、ではシーフは。シーフなど」


「わたくしは現役のシーフよ。レベルは36」


 食い下がろうってしたヴァルハースを遮って、ミレアが言った。そしてステータスカードを取り出したね。見せつけちゃえばいいと思うよ。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :36

  CON:NORMAL


  HP :125+138


  VIT:52+25

  STR:68

  AGI:33+96

  DEX:52+99

  INT:52+30

  WIS:36

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


「基礎AGIが33はパーティで一番下よ。シーフが終わればフォンシーを抜かすけどね」


「なっ!?」


 ねえ『エーデルヴァイス』って、さっきからそればっかりじゃない? 驚くのはわからないでもないけど、マジメに聞いてよ?


「シーフは宝箱だけじゃないわ。移動系、索敵系、ずっと使えるスキルばかりよ。わたくしは六人目。パーティで一番遅れたわね」


 その割にはちょっと自慢げだよね、ミレア。


「ほうほう、なかなか積み上げたではないか」


 オリヴィヤーニャさん、いつの間に横にいるのかな。



 ◇◇◇



 そのあともアレしたほうがいいとかこうしたほうがいいとか、いろんな話が飛び出した。

 すっかり冒険者会議になっちゃってるね。


「こんなところかしら。あなたたちもいい?」


「……はい」


 けっこうな時間お話してたら、ポリアトンナさんがまとめてくれた。ヴァルハースが力の入ってない返事をしたよ。自分たちのことなんだからもっと元気にならないと。


 いやもう『エーデルヴァイス』のジョブなんだけど、次の次まで決まって、その次も半分決まっちゃってるみたいな感じなんだよね。ヴァルハースたちの目が死んでる気がするよ。お父さんたちは一応座ってるけど、一切会話に参加してない。好きにしてくれーって感じ。


 話に参加してるのは『おなかいっぱい』とオリヴィヤーニャさん、ポリアトンナさん、ペルセネータさんだ。レックスターンさんはあとは任せたよって途中で出てっちゃったよ。お仕事が忙しいみたい。

 会長さんとサジェリアさんもだね。気が付いたらいなかった。


「審問のはずだったのに、初心者講習みたいになったわね」


「いいんじゃないですか。やっぱり大切なんだし」


「ラルカラッハさんは素直でいいわね」


「うへへ、そうでもないです」


 なんかポリアトンナさんが褒めてくれた。やったね。となりでペルセネータさんがウルの頭を撫でてるけど、なんでかな。ちょっとズルくない?



「それであなた方は大丈夫なの?」


「決まったことです。やってみせましょう」


 ポリアトンナさんが真剣な目でヴァルハースを見てる。答えたヴァルハースたちの顔も大真面目だ。けどさあ。


「繰り返しになるけど、あんたらは弱い」


 フォンシーがズバっていったね。『エーデルヴァイス』は不満顔だけど、ホントのことじゃないか。


「……マスターレベルの冒険者、ですよ」


「敬語は要らない。レベルの問題じゃない。気構えだ」


 面白くなさそうな顔のまんまでヴァルハースがフォンシーに言い返したけど、ダメなのはダメのまんまだよ。この人たち、どうして自分が弱いかってわかってないんだから。


「冒険者はレベルとジョブだけでやってるわけじゃないんだ。どうしてパーティを組んでると思ってる」


 ひとりひとりの剣や魔法は慣れればいいんだろうけど、『エーデルヴァイス』って仲間を頼る戦い方が全然なんだよね。

 ボクたちが教えようとしても無視されちゃったしさ。思い出したらまたイライラしてきたよ。


「あたしやシエランは最初、まともにモンスターに立ち向かえなかった」


「ラルカが敵の隙を作ってくれました。わたしたちはそこを攻撃しただけです」


 フォンシーとシエランはそうやって言うけどさ、あの時のボクはそれくらいしかできなかったんだよ。


「あんたたちはできてない。六人がバラバラに戦うなら、どんなジョブでも意味ないだろうな」


 フォンシーは厳しいこと言うねえ。


「ラルカが提案した手前、あんたらに死なれたら寝覚めが悪いからな。忠告だけはしておいたぞ」


「……覚えておく」


 ヴァルハースたちは一応納得してくれたかな。ホントに一応なんだろうけど。



「やっぱりメンターが必要ね」


 ちょっと重たい空気の中でポリアトンナさんがため息っぽく言ってから、ボクたちを見た。ペルセネータさんもオリヴィヤーニャさんもだ。そしてとっても悔しそうな『エーデルヴァイス』も。

 まったくしょうがない人たちだなあ。


「みんな」


 ボクは目線で仲間たちに確認した。みんなが頷いてくれる。うん、気持ちはひとつだね。

 だったらちゃんと宣言しなきゃね。



「その人たちのメンターなんて、絶対にイヤです」


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