第80話 ではタイルバッツ卿。冒険者協会としての見解を
「すごいかっこいい部屋だねえ。ミレアは来たことあるの?」
「何度かね」
「やっぱり緊張してる?」
「そりゃあね。でもラルカたちがいるから大丈夫。ありがとう」
うーん、ミレアらしくないなあ。ここはもっとツンってしてなきゃなのに。
『フォウスファウダー一家』がヴィットヴェーンから戻ってきて二日、ボクたちはフォウスファウダー公爵邸にいる。今は待合室ってとこでみんなが集まるのを待ってるとこだ。お茶も出てきてすごいよ。ウルはすぐ飲んじゃうんだねえ。
「お父様こそ大丈夫なの?」
「あ、ああ、もちろんだ」
そいでここにはミレアのお父さん、モータリス男爵もいる。ハンカチで汗拭いたりして落ち着かないねえ。それでもチラチラってフォンシーを見てるのはさすがだと思うよ。フォンシーは完全に無視だけどね。
『エーデルヴァイス』の方もお父さんたちが来るらしいから、こっちもなんだって。とはいってもモータリス男爵だけだね。ザッティのおじいちゃんやシエランの両親は平民だからダメなんだってさ。
「お待たせしたわね」
「これはお嬢様この度は」
「男爵もご足労ありがとう」
「いえ」
一時間くらい待ってたら、ポリアトンナさんが扉を開けて入ってきたんだけど、もうミレアのお父さんがすごい勢いで立ち上がったね。AGIが高いのかな。
「じゃあ行くけど、向こうが変なことを言いだしても気にしないでね」
「変なこと言われるんですか?」
もうそれだけで疲れそうだよ。
「あっちもいろいろ困惑しているみたいよ。おおごとになったってね」
「はあ」
だったら最初っからあんなことしなけりゃよかったのにねえ。
「さ、こっちよ」
◇◇◇
審問? お話し合いなのかな、それをするっていう部屋は協会の会議室をおっきくして、なんかビカビカにした感じだった。
壁とか真っ白でなんか模様描いてあるし、天井も高くて窓もおっきい。扉と反対側にある壁には旗が飾ってあるね。シルバーウルフと剣って、あれってたしかフォウスファウダーの紋章だっけ。
部屋の真ん中にはおっきいテーブルがあって、椅子が並んでる。左右の壁にも細いテーブルが置いてあるね。どういうことかな。
「貴様らが面倒ごととはな」
テーブルの向こう側、壁から旗がぶら下がったすぐそこにオリヴィヤーニャさんが座って、そしてニヤニヤ笑ってた。
「なんかおおごとになっちゃったみたいで、ごめんなさい」
「よいよい。われは今、機嫌がいい上にイライラさせられているからな」
どっちさ。
あと、ミレアのお父さんだけど、娘さんの後ろに隠れるのは止めた方がいいと思うよ。
「終わった後で存分に聞かせてやろう」
「はあ」
なにをなんだろうね。
「サジェリアさんもですか?」
「ええ、そうですね」
テーブルの向こう側に座ってるのはオリヴィヤーニャさんだけじゃなかった。二つ席が空いてるけど、ほかにいるのは会長さん、今座ったばっかりのポリアトンナさん、最後に受付のサジェリアさん。なんでサジェリアさん?
「参考人として呼ばれました」
「ごめんなさい」
「いえ」
なんかすっごい暗い顔してるよ。ここにいたくないんだろうなあ。ホントごめんなさい。
「ほらみんなも座って」
ポリアトンナさんが指さしたのは入り口からむかって左側の席だ。
一番偉い側がミレアで、それ以外は自由になんだってさ。なので、ボク、フォンシー、シエラン、ザッティ、ウルの順番だった。
ミレアのお父さんは壁際のテーブルだね。あそこってお父さん席なんだ。
「お待たせしました」
ボクたちが座った後から入ってきたのはペルセネータさんだ。
うしろからヴァルハースを先頭にして『エーデルヴァイス』の六人が続いてる。それとおじさんが六人。綺麗な格好をしてるし、貴族さまなんだろうけど。
ペルセネータさんがすました顔で偉い人の席に座った。会長とポリアトンナさんの間だね。
『エーデルヴァイス』はボクたちの正面、そしておじさんたちは壁際のテーブルだ。てことは、あの人たちってヴァルハースたちのお父さん?
なんか暗ーい顔した人とか怒ってる人とかいろいろだね。
「待たせたかな」
みんなが座ってすぐ、別の扉からあらわれたのがフォウスファウダー公爵さま、レックスターン・うんちゃら・フォウスファウダーさんだ。金髪で青い瞳のかっこいいおじさんだね。白いズボンに灰色で銀色の刺繍が入った上着が似合ってる。
ボクたちはいっつもの革鎧だよ。それでいいって言われてたから。
とたん、ざざって音を立ててみんなが立ち上がった。座ったまんまなのは、ボクとフォンシー、シエラン、ザッティ、それとサジェリアさんだ。なんでウルまで立ってるのかな。ノリ?
「合せた方がいいんだろうな」
「そうですね」
フォンシーとシエランも立ち上がったし、ボクもそうしよっか。ほらザッティも。サジェリアさんも青い顔して立ってるね。
「よい、皆も座ってくれ」
カツカツって歩いてから、多分一番偉い人の席に座ったレックスターンさんが座っていいよって言ってくれた。いいんだよね?
あ、みんな座った。ボクもすかさずだね。AGIが高いから心構えさえあったら反応速いよ。
「さて、今回の審議は冒険者パーティ『エーデルヴァイス』と『おなかいっぱい』の間で起きた不幸な行き違いについて、だったね」
レックスターンさんはそう言うけど、不幸な行き違い、ねえ。
◇◇◇
「──『おなかいっぱい』から聴取した、協会事務所と迷宮であったやり取りは以上だよ。メンター契約のときはアタシが、事務所でのやり取りはそこのサジェリアが確認して、齟齬が無かったことを保障するよ」
「間違いありません」
バーヴィリア会長とサジェリアさんは、ボクたちの言ったことに間違いはないんだって、そう言ってくれた。
「ありがとう。ではヴァルハース君、『エーデルヴァイス』としてはどうだい?」
「はっ! そこな『おなかいっぱい』を名乗る者たちは終始反抗的であったものの、概ね発言のとおりでございます」
ヴァルハースが立ち上がって叫ぶように言った。ボクたちって反抗的だったんだ。迷宮ごはん食べさせてあげたんだけどな。
「ではタイルバッツ卿。冒険者協会としての見解を」
「メンター契約は履行されてるね。契約通り『エーデルヴァイス』のレベリングは達成されて、『おなかいっぱい』は依頼料を受け取ってる」
「そうか」
うん、会長言ってたもんね、冒険者としては問題ないって。
「ただしだ。事務所でヴァルハースがやらかした暴力行為、あれはダメだね。協会会長として厳重注意だよ。これは記録に残す」
「なっ!? 父上!」
会長さんがきっちり叱ったら、ヴァルハースが立ち上がって後ろを向いた。父上って言われたおじさんは静かな顔のまんまだ。
「……タイルバッツ卿?」
「アタシはベンゲルハウダー冒険者協会の会長だ。冒険者に貴族なんぞは関係ないよ。たとえよろしくと言い含められてもね」
ああ、ヴァルハースのお父さんがえこひいきしろって言ったのか。そういうことするんだ。
「では会長。そのあとにあったエルフの暴行は!」
今度こそヴァルハースがハッキリ叫んだ。
「訓練場であったことだし、誘ったのは『エーデルヴァイス』だろ? 訓練自体はアタシも見てたよ」
「……」
「情けないモノだったよ。少しは鍛えた方がいいんじゃないかい?」
うわあ、会長さんって容赦ないねえ。
「タイルバッツ卿、息子たちを侮辱してもらっては──」
「事実だよ」
『エーデルヴァイス』のお兄さんたちは顔を真っ赤にして怒ってるし、うしろのお父さんたちの表情はいろいろだ。一応落ち着いてるようにみえるのは、ヴァルハースのお父さんだけかな。
「今後のこともあるし、ハッキリ言っておくよ。冒険者同士の暴力沙汰はご法度だ。訓練場なら話は変わるけど、それでも喧嘩と見なしたら罰はある」
もうズバって感じで会長さんが言い切った。
「アンタらが新人講習を受けてないのは記録に残ってる。だけど基本は紙で渡してあるはずだよ。知らなかったではすまないね」
「……わかりました」
ぜんっぜん納得してないよ、この人たち。
「レベルがしっかりした冒険者は見た目なんか当てにならない。こっちのお嬢ちゃんたちがちょっと本気を出してみな、アンタらは全員頭が吹き飛んでおしまいさ」
「ちょっ!」
そんなことしないよって言おうとしたら、会長さんに睨まれた。なんでそういうこと言うかなあ。
「ナイトのレベル14だったかい? ちょっとSTRが伸びたからってそれがどうしたんだい。そこのラルカラッハ、ジョブは?」
「えっと、しゃべってもいいんですか?」
「アタシが指名したんだ。言いな」
「ビショップです」
なんでボクのジョブなのさ。
「ほう? 後衛に回ったか」
そしてオリヴィヤーニャさん、こういうときだけ反応するの止めて。
「前衛ステータスの話であろう。STRとAGI、DEXはどうなのだ?」
ああもう。仕方ないからステータスカードを見るしかないね。
「合計ですよね? 順番に74、57、えっと134です」
「なるほど、全てが貴様らより上であろうな」
ヴァルハースたちが肩を震わせてるよ。ナイトで強くなったって喜んでたのに、この言われようだもんね。
「ビショップがこれだ。少しはマルチジョブの怖さを知るがいい。ああ、話を奪ってすまないな。続けてくれ、会長」
「つまりはだ、こんな小さなお嬢ちゃんが、そこらの大人より強いんだよ」
なんか酷い言われようだよ。
「アンタらと直接訓練したフォンシーは現役でサムライなんだからもっと酷い。これが冒険者同士が喧嘩しちゃあダメな理由だ。身をもって勉強できたと思いな」
会長さんが悪い顔で笑いながらトドメを刺した。もしかしてだけど、ボクたちの味方してくれてる? いやいや、悪いのはあっちなんだから味方もなんもないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます