第77話 キミたちは平民で冒険者にしては見所がある
「『BFW・SOR』『DBW・SOR』。どうぞ」
「よし、やるぞ!」
シエランのバフとデバフが飛んだ。
それを確認してからフルプレートのお兄さんが二人、モンスターに飛びかかる。パーティ名にあわせてるんだか、白く塗ってあるんだよね。
「『ダ=リィハ』!」
そこにもうひとりのお兄さんが魔法を撃ちこんだよ。
「うわっ! なにするんだ、ヘラジャーン」
「悪い悪い」
味方が攻撃してるとこに魔法を出して、それでもぜんぜん悪びれてないねえ。もしかしてこの人たちって仲悪いのかな。
11層まで来たけど『エーデルヴァイス』って、ずっとこんな感じなんだよね。連携できてないっていうかする気がないっていうか。
前衛はただ剣を振り回すだけ。後衛はなんも考えないで魔法を撃つだけ。
「あれでパーティを名乗るのが、いっそ清々しいわね」
「半分の三人だからじゃないかな」
「倍になったら倍以上酷くなると思うわ」
「だねえ」
レベリングなんだから、もちろんパーティを分けて組み直してる。ひとつはボク、シエラン、ミレアとナイト二人とウィザード一人。もう一個はフォンシー、ウル、ザッティだ。
『エーデルヴァイス』のリーダー、ヴァルハースさんはこっちだね。
ボクとミレアはお兄さんたちに聞かれないようにコソコソ話だよ。
「本当なら今頃15層、いえ20層だったかもしれないわね」
「まあまあ。あせらずにやろう」
「そう言えるラルカを本気で尊敬するわ」
リーダーだからねえ。
「おい! 回復よこせ!」
「はい。『ファ=オディス』」
お兄さん、口調が荒くなってるよ?
最初は言ってたんだよ。『連携が大事』とか『冷静に』とかね。全部笑って流された。そしてこのザマってことさ。ははっ。
喉が渇いてないのに、なんで乾いた笑い方になっちゃうのかな。
「レベル5からで助かったわ。できれば今日で終わらせたいわね」
「だねえ」
面倒だったからさ、全部ボクたちでやっちゃおうって最初はそうしてたんだ。
そしたら『エーデルヴァイス』が自分たちにもやらせろだって。ナイトさんがレベル8で、ウィザードさんがレベル9になったあたりで、気が大きくなっちゃったんだか見てるだけなのに飽きたんだか。
しかたないから魔法でモンスターを減らしてから、バフ、デバフして、それから戦ってもらってるってわけ。ウィザードを二人ずつに分けたのもこのためだよ。ボクは回復があるからいいけど、ザッティはホントにやることないね。
◇◇◇
「はい、これが迷宮ごはんです」
「ほう。野趣ではあるが、おもしろね」
フォンシーが言ったんだよ。どうせあいつらごはんなんて持ってきてないって。だから水を多めに持ってきてたんだ。炭とお肉はいっつもインベントリに入れてあるからね。
「みなさんが狩ったお肉、おいしいでしょ、ですよね」
「うむ、悪くはないよ」
さっきやっつけたばっかりのホーンラビットのお肉だ。お兄さんたちは嬉しそうだけどさ、ボクはね、冒険迷宮弁当を楽しみにしてたんだよ。
態度が悪いのも、冒険を甘くみまくってるのもどうでもいいんだけどさ。ボクの弁当が食べられないのはちょっと許せないかなあ。
「ラルカ、落ち着いてください」
「だってさあ、シエラン」
「メンターが終わったらお弁当にしますから」
「今日中に終わらせよう」
これは固い決意ってやつだよ。
ボクたちは干し肉をかじりながら見張りをしてるとこだ。こっちの会話が聞こえないように遠巻きにしてね。
「あれはあれで懐かしいな」
「懐かしい?」
フォンシーが変なこと言いだした。
「いや、態度は悪いけどな、やってることは三人だったときに似てないか?」
「あー、カースドーさんたちの」
「そうですね。迷宮ごはんで喜んでました。でも、連携はもう少し取れていたような」
「シエランとフォンシー、最初怖がってたもんね」
「お弁当なしにしますよ?」
そりゃないよ。
◇◇◇
「そろそろ切り上げの頃合いだね」
なにがそろそろだか。疲れちゃっただけでしょ。そもそもそれを決めるのはメンターの役割なんだけどねえ。
「えっと、レベル11でしたよね?」
「ああそうだよ。ヘラジャーンとギスヘンバーはレベル12だね」
ナイトよりウィザードの方が軽いもんね。あと二つかあ。だったら。
「ここからはボクたちに任せてもらえますか。今日中に終わらせちゃいましょう。ウィザードの人たちなんて、レベル14になっちゃうかもです」
「……ふむ、まあいいよ。キミたちは英雄なんだから、ね」
「じゃあ19層です。行きましょう」
なんかお兄さんたちの目つきが変なんだよね。けど、近くに誰かがいる感じもないし、『エーデルヴァイス』がボクたちに悪さできるわけないし。
「『ティル=トウェリア』」
19層は楽勝だ。こっちはハイウィザードが四人だからね。キラーゴーストを狩ってるだけでなんも問題なしだよ。当然ボクとザッティは見てるだけ。
「これはすごいね。もうレベル12だ」
「もうちょっとですね」
「ああ……、できれば魔法以外の戦いも見てみたいかな。どれ20層に行ってみよう」
ちょっとちょっと、ヴァルハースさん。なに勝手に歩きだしてるのさ。
「もういいわ。全員で殴って終わりにしましょう」
「ミレア、殴るってどっちを?」
「モンスターに決まってるでしょ!」
はいはい。じゃあ急いで終わりにしよう。
どかんどかんって音が迷宮に響く、なあんてね。
たしかに殴ってるだけだからそれっぽい音はしてる。なんたってボクとウル、それにザッティがメイスを振るってるからねえ。それとカラテカになってるシエランがドカドカ蹴ったり殴ったりしてる。残念だけどサムライのフォンシーとシーフのミレアはあんましかな。ステータスならやれるんだろうけど、長いカタナと逆に短いダガーに慣れてないのがおっきいよ。
「がんばろうね、ウル」
「おう!」
ウルはあんまり口をきくなって言われてたから、声をかけられて嬉しそうにしっぽを振ってるよ。
この場で一番強いのはボクとウルだ。AGIとDEXが違うし、前衛慣れしてるからね。グレーウルフくらいならウルのSTRでも十分だ。
「避けて殴るだけだから、楽だねえ」
「そうだな!」
氾濫でドロップした『デモンメイス』が大暴れだ。なんか緑色だけどさ。
さあさあ殴りビショップが二人と殴りプリーストが一人、ついでに殴りカラテカが、ってカラテカが殴るのは当たり前だね。サムライとシーフは見てるだけだよ。
「帰りがあるから魔法とスキルは温存だよ」
◇◇◇
「……たしかにレベル14だ。それにキミたちの強さも見せてもらったよ」
いやいや、アレってただ殴ってただけだから。強さとかあんまり関係ないし。
夕日が当たる道を『おなかいっぱい』と『エーデルヴァイス』は街にむかって歩いてるとこだ。
ヴァルハースさんたちナイト四人はレベル14でウィザードの、えっと名前忘れちゃった。ウィザードの二人はレベル15だ。これでメンターは終わりだね。
ちなみに『おなかいっぱい』は、シーフのミレアがレベル12、シエランとザッティがレベル11、ボクとウル、フォンシーはレベル10ってトコだ。こんな感じならジョブチェンジしても、一日でマスターはなんとかなりそうだね。
「今日はお疲れさまでした。じゃあ、ボクたちはこれで」
教導課で書類にサインしてお金ももらったから、これでメンターはお終いだ。
嫌な感じの貴族さまだから出し渋るかと思ったら、なんと、なんとだよ、ヴァルハースさんはレベルがひとつ余分だからって、メンター代をちょっと増やしてくれたんだ。意外だよ、ホントにさ。感じ悪かったけど、思ったよりいい人たちだったんだね。
「ああ、待ってもらえるかな」
「はい?」
ホクホクで夕ごはんを食べに行こうとしたボクたちを呼び止めたヴァルハースさんは、今日一番の笑顔だった。そしてとっても気持ち悪い目をしてたよ。
「キミたち、ああ、ミリミレアとドワーフはどうでもいい。子爵家の私兵になりなよ」
なに言ってんだろ?
◇◇◇
「まだら猫に、縞犬、エルフにヒューマン。キミたちは平民で冒険者にしては見所がある。だからルーターン子爵家で雇ってあげるよ」
「ズルいぞヴァルハース、あのエルフはウチで飼おうと思ってたんだ」
雇う? 飼う?
ねえ、なに言ってるの? ヴァルハースさん、エルジャントさん。
「お待ちなさい! あなたたち、なにを言って──」
「ほう、ソレはモータリスのモノなのかい? それともキミの?」
「そんなわけないでしょう!」
ミレアがなんか叫んでる。それにヴァルハースさんが返事してるけど、ボクにはあの人たちがなに言ってるか、意味がわかんない。たしかモータリスって、ミレアの家の名前だっけ。
「ならば先に言った俺のモノだね。さあキミたち、明日にはウチに来るように準備をしておくといいよ」
「ダメよ!」
「なにがダメなのかがわからないね。それともモータリスはウチのモノを横取りするとでも言っているのかな」
モノ?
「いい加減に──」
「邪魔だなあ!」
両手を広げて前に出たミレアだったけど、ヴァルハースさんは鞘ごと剣を振りかぶった。なにしてんの?
「……」
がんって音がした。ヴァルハースさんが叩きつけた剣は、いつの間にかミレアの前にいたザッティの肩に当たってた。その音だったんだ。
あんなへなちょこ剣でザッティがどうにかなるわけない。だけどザッティは黙って下を向いたままなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます