第76話 MINを上げたいんでしょ?




「列がさばけてるな」


「こういうときだと、小さいことでも嬉しくなれるねえ」


「まったくだ」


 フォンシーとボクは階段の一番うしろを歩いてる。なんでも貴族さまは前を歩くんだって。迷宮でも同じこと言うのかな。まさかねえ。

 メンターのお話をしてる間に、ジョブチェンジや装備の貸し出しはすっかり終わったみたいだ。さてじゃあボクたちもだね。


「えっとヴァルハースさま。ボクたちは装備を借りるから、あっちの席で待っててもらえますか」


「ふむ、装備か。自前ですらできていないのか」


「氾濫で壊れちゃったんです。あはは」


「ふぅん。なら早くしてくれ」


 ヘラヘラ笑いながら『エーデルヴァイス』は先に歩いてった。ボクたちが自前装備じゃないの、そんなに楽しいのかなあ。そういう笑い方しなきゃ、それなりにカッコイイお兄さんたちなのに。


「……ジョブチェンジのこと、黙っておいてよかったの?」


「あいつらどうせ、あたしたちのジョブなんて知らないだろ。どうでもいいじゃないか」


「たしかにそうね」


 ミレアのため息が止まらないね。まあレベル13までならすぐだろうし、長くても明日までの付き合いだよ。



「大変みたいですね」


「あ、サジェリアさんも知ってたんですか」


「一応ですね。以前からルーターン子爵を通してポリアトンナ様にお願いしていたみたいですよ」


『ステータス・ジョブ管理課』の窓口でサジェリアさんが苦笑いだよ。噂になってたんだね。


「さてジョブチェンジですね。今日はどなたが?」


「そりゃもう、全員ですよ!」


「あの……、ザッティさんもですか?」


 あ、びっくりしてるね。ザッティはレベル75のガーディアンだからねえ。

 それでもボクたちは決めたんだ。


「……ああ、オレはプリーストだ」


「今日はこういうジョブチェンジが多いんですよ。この一年でここも変わったものです。ザッティさん、がんばってくださいね」


「……ありがとう」



 最初はザッティのジョブチェンジからだね。


『……プリーストとエンチャンター、できればビショップもだ』


 なあんて言ってザッティはついに盾を捨てることにした。捨てたっていうか、次を考えてる途中だね。ガーディアンを止めちゃったら、すぐになれる盾職はない。ナイト系とロード系の上位三次ジョブがあるけど、アイテムがないからどうしようもないんだよ。

 もちろんザッティは盾職に戻る。もっと強くなってパーティの盾になるんだって言い切ったんだ。氾濫のときにロードのままでいることだってできたのに、それでもガーディアンを選んだザッティだ。今度はもっとすごくなるに決まってる。


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :172


  VIT:87

  STR:109

  AGI:45

  DEX:66

  INT:16

  WIS:21

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 そんなザッティのステータスがこれ。

 ついにだねえ。STRが三桁だよ、三桁。ガーディアンの補正ステータスがすごいから、こんなになっちゃってる。DEXも高いし、AGIだって悪くない。後衛ステータスはここからだね。

 といっても、ザッティはウィザードを目指してるわけじゃない。取るかもしれないけど、魔法スキルは自己回復やバフのために使うって考え方なんだ。だからまずプリーストだね。



「いやあ、フォンシーの『スタンクラウド』がうらやましくってさ」


「ウルもだ!」


 ボクとウルが選んだのはビショップだ。ボクはウィザードでもよかったんだけど、回復魔法を増やしたかったんだよね。それにフォンシーが使った状態異常魔法だよ。『スタンクラウド』『アシッドレイン』『パニックサウンド』『スリープミスト』なんていうのがあって、使い勝手がよさそうでさ。ほら、ボクとウルならAGIがあるから先手を取れるんだよ。


 ==================

  JOB:BISHOP

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :151


  VIT:61

  STR:74

  AGI:57

  DEX:78

  INT:23

  WIS:25

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 これがボクのステータス。

 ザッティのを見たあとだとそこそこかなって思うけど、じつは結構すごいんだ。DEXはウルと一緒で仲間で一番、AGIはウルの次、VITとSTRはザッティの次だから、前衛ステータスは全部一番か二番なんだよね。これからは殴りビショップをやるんだ。


 ==================

  JOB:BISHOP

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :153


  VIT:47

  STR:45

  AGI:78

  DEX:78

  INT:49

  WIS:21

  MIN:32

  LEA:17

 ==================


 次はウル。

 もう、AGIとDEXがはっきり目立つね。AGIが78ってボクの57より20も高い。たぶんだけど40層くらいまでなら、全部先手を取れちゃうんじゃないかな。しかもINTだって高いから速いウィザードそのものって感じだ。それとMINが32っていうのも一番だね。

 STRはパーティで一番低いけど、バフとかスキルでなんとかできるよ。



「ウルには負けられないわ」


「そうなのか? ミレアはウルより力があるぞ」


「くっ!」


 なあんてやってるミレアなんだけど、AGIが気に入らないのは昨日も言ってたね。それと自分だけシーフ持ってないのもだよ。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :125


  VIT:52

  STR:68

  AGI:33

  DEX:52

  INT:52

  WIS:36

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


 ミレアのステータスだけど、AGIが33で一番低いのはたしかにそうだね。それでも普通の人の倍以上なんだけど。だけど考えたらさ、初めてボクたちと会ったときって、ミレアのVITは9でSTRは8だったんだよ。それが今じゃねえ。


「シーフの次はニンジャになってAGIとMINを上げるわ!」


 それはシュリケンを誰が使うか相談してからだね。エルダーウィザードの話はどうなったのかな。



「わたしは足さばきを考えてます。それとできれば……、ニンジャも」


 シエランが選んだのはカラテカだ。


 ==================

  JOB:KARATEKA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :140


  VIT:39

  STR:54

  AGI:41

  DEX:71

  INT:55

  WIS:27

  MIN:28

  LEA:14

 ==================


 シエランのステータスをボクと比べたら、INTが高くてAGIが低いって感じかな。VITがちょっと低いけど、全部がそれなりって数字になってる。前衛寄りでなんでもできるってことだね。

 ニンジャになりたいってまさかニンポーとかじゃなくって、まだMINを上げたいの?


「ところでソードマスターになる気ないの?」


「そのうち、ですね」


 ああ、シエランって次はグラップラーとか言いだしそうだよ。フィルドさん、ごめんなさい。



「シエランの『強靭なカタナ』が余るだろ?」


 いちばんびっくりしたのはフォンシーがサムライになったことだよ。

 てっきりロードかカラテカだって思ってたからねえ。


 ==================

  JOB:SAMURAI

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :139


  VIT:44

  STR:54

  AGI:38

  DEX:65

  INT:76

  WIS:39

  MIN:13

  LEA:14

 ==================


 フォンシーのステータスはシエランと似てる。違うのはフォンシーの方が後衛型ってとこだね。特にINTが76っていうのは、もちろんメンバーで一番だ。

 サムライならまあ前衛ステータスが全部伸びるし悪くないんじゃないかな。でもボクは知ってるよ。


「MINでしょ」


「なんのことだ?」


「MINを上げたいんでしょ?」


「……悪い話じゃないだろ?」


 うんうん、そうだねえ。だから睨まないで。


 それとだけど、みんなの基礎HPが全員三桁になったよ。

 前に見せてもらったオリヴィヤーニャさんのステータス、あのときは意味不明だったけど、今はなんとなく遠くに背中が見えた気がするんだよね。



 ◇◇◇



「ここからのジョブチェンジはレベル40台ってことでいいんだよね?」


「おう!」


 ウルが元気に答えてくれた。

 これも昨日相談したんだ。理由がない限りコンプリートレベルでジョブチェンジするのはもう止め。せっかく46層にモンスタートラップがあるんだから、そこでレベリングするんだ。狙いはもちろん基礎ステータスをちょっとでも上げようってことだね。


「46層に行くまでが一番大変そうね」


「今ならレベル30くらいで行けるんじゃないかな?」


「そうかもしれないわね」


 ミレアも気合を入れてるよ。シーフでガンガンAGIを伸ばすんだってさ。


「だけどその前に、だよ」


「そうね。ジョブチェンジに浮かれてて忘れてたわ」



「遅かったじゃないか」


「ごめんなさい」


「ちっ、まあいい、早く行くぞ」


 だったら先に行って5層あたりで狩ってればいいじゃない。レベル5と6だったよね。



 革鎧を借りて戻ってきたボクたちを、イライラした感じで待ってる『エーデルヴァイス』のお兄さんたち。この人たちを早くなんとかしちゃわないとだね。


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