第69話 ボクのレベル、返してもらうよ!




「マスターデーモンにはボクが突っかける。グレイはフォンシーとミレアで焼き払って!」


「ウルはどうする?」


「ウルにはね、大事な役割りがあるんだ」


「わかった」


 まだなんも言ってないよ。


「うしろから速いバフと攻撃魔法。それからテレポートに注意して。マスターが急に別の場所に出たら、そこに予備のナイフを投げてほしいんだ。あとはボクがやる」


「おう!」


 ウルがすぐにインベントリからナイフを取り出して握った。両手にナイフだね。かっこいい。


「わたしはカタナを振るいますね」


「うん、ボクがなんとかして動きを止めるから、シエランが斬って」


 全員が得意なコトをやって、それでも倒せるかどうかなんてわかんない。けど、やるしかない。



「一回でもやっつけたらレベルがすっごく上がるはずだからさっ!」


「ははっ、レベルを上げて慣れる、だな」


「そゆことフォンシー。だから最初からスキルを全部を使うくらいでやっちゃうよ」


 ボクたちの後ろには『夜空と焚火』と『鷹の翼』がいる。それだけじゃなくって階段もあるんだから、20層にいる冒険者だって危ないんだ。絶対に食い止めなきゃ。


「『十五個』と『十九』もいい?」


「おう」


 ガッドルは落ち着いてるね。シャレイヤは?


「……『おなかいっぱい』が最初にやるのよね。ホントにいいの?」


「こっちにはガーディアンもいるからね。いざってなったら逃げだして、そっちに押し付けるよ」


「わかったわ。がんばって」


 そこは笑ってよ。真面目な顔されてると、なんか疲れちゃうんだよね。

 さてはてボクのレベルは77。ほかのみんなも70はとっくにこしてるけど、マスターデーモンってレベル100以上なんだよねえ。スキルマシマシでやるしかない。


「……くるぞ」


 ザッティが盾を構えて踏み出すけど、相手はテレポートを使うんだよね。まいったなあ。



 ◇◇◇



「ぐっはっあぁ!」


 甘かったよ。

 たしかにウルはすごくって、グレイデーモンを相手にしながらマスターのテレポート先に、きっちりナイフを投げてくれた。お陰でボクが近づく隙ができたんだけど、飛び込む途中で一撃もらっちゃったんだ。

 鎧の肩が吹き飛ばされて、ついでにレベルも三つ減っちゃった。


「ボクのレベル、返してもらうよ!」


「『ゲィ=オディス』!」


 相手の足に絡みついたボクにフォンシーが慌てて回復かけてくれたけど、完全回復はもったいないでしょ。状態異常はもらってないよ? フォンシーも焦っちゃったのかな。

 こんなピンチなのに、なんかちょっと可笑しくなっちゃったよ。


「ありがとフォンシー。おぉあぁ、『剛力』『膝挫き』!」


 思い知れっ! 倒せなくたって、怪我くらいはさせられるんだよ。あとは任せるね、シエラン。


「『継ぎ足』! やります『居合』『大上段』!」


 びゅってシエランが動いたかと思ったら、パチンって音がした。カタナをしまった?

 そう思ったすぐあとで、マスターデーモンのふっとい右手が付け根から切れて、どすんって地面に落っこちたんだ。すごいやシエラン。

 なのにコイツはまだ消えない。


「『無拍子』『連脚』『裡門頂肘』……『鉄山靠』!」


 踏み込んでからの連続蹴りと肘を叩き込んで、それから背中で体当たりした。


『クオホォォォ……』


 そこまでやって、やっとこさマスターデーモンが消えてった。もうほんとに大変だったけど、それでもやったよ。ボクたちは勝てたんだ!



「きたきた、レベルアップだよ!」


 みんなの体が銀色に光った。どれどれ……。


「レベル77……? あれ? 上がってないよ?」


「ラルカ、言い難いのだけど、レベルドレインされたからじゃない?」


 ミレアがなんかすっごく困った顔だ。


「……あ」


 そっかあ、レベルドレインされたから77から74になって、そいでレベルアップで77かあ。そっか、そっかあ……。


「すまんラルカ、レベル81だ。いよいよ80台だな」


「あー、フォンシー、今ちょっと笑ったよ!? どういうことさっ!」


「いやいや、獲られたレベルは取り返せばいいんだ。そうだろ?」


 ふしゅー、これはやるしかないね。絶対アイツらに思い知らせなきゃ腹が治まらないよ。



「ラルカ、すごかったね」


「あ、うん。ありがとシャレイヤ」


「それにね、報われたんじゃないかな」


「どゆこと?」


 ボクたち連続で今度はグレイデーモンと戦ってるから、そっち向けないよ。


「これって『ヴィシャップ殺し』よ。今さっきラルカたちが倒したマスターデーモンの宝箱から出たわ。あとで渡すね」


「『ヴィシャップ殺し』?」


 なにそれ? チラっとだけ振り向いてみたけどスクロール?


「はぁ、ラルカは本当に知らないのね。『ヴァハグン』になれるジョブチェンジアイテムだよ」


「ヴァハグン……?」


 うーん、どっかで聞いたことあるぞ、それ。それとシャレイヤ、ため息やめて。


「カラテカ系のジョブだぞ?」


 あ、ウルに言われた。


「……し、知ってたし。もう喉のここまで、もうちょっとのとこまで来てたし。ってカラテカ系!?」


 うええええっ!?


「そ、それって上位三次ジョブってやつ?」


「そうだぞ?」


 ボクってなんでウルに教えてもらってるんだろ。いやウルも勉強してたって知ってるし、これってボクが悪いだけなんじゃ……。

 いや、今はそうじゃないっ!



「えっとね、みんな。さっきのマスターデーモンにトドメ刺したのってボクだよね? 間違いないよね?」


「ラルカ、戦闘中だぞ」


「だってフォンシー、そこはハッキリさせとかないと、ね?」


「わかったわかった。どうせグラップラーやってたのなんて、ラルカしかいないんだ」


「だ、だよね」


 なんだ、ちゃんとわかってくれてるじゃない。そうだよ、ボクしかなれないんだから、当然そうなるよね。


「だけどまさか、ここでレベル0になるとか言わないだろうな?」


「はうっ!」


 うん、ムリだ。


 ==================

  JOB:SWORD=MASTER

  LV :77

  CON:NORMAL


  HP :109+362


  VIT:52+83

  STR:60+121

  AGI:44+121

  DEX:52+215

  INT:23

  WIS:25

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 今のボクのステータスはこう。

 ここから補正ステータスが無くなったら大変なコトになっちゃうよ。ジョブチェンジが流行る前の冒険者さんたちがしたがらなかったのが、すごくわかっちゃうよ。

 合計DEXなんて、基礎の五倍だもんねえ。



「バカやって場合じゃない! くるぞ!」


 ガッドルが焦った声で叫ぶもんだから、はって我にかえれたよ。

 戦ってる途中は集中しなくちゃね。って、うわわわ。


「グレイデーモンがいっぱいで、うしろからマスターデーモンもいっぱいだ」


 ウルが唸った。これってかなりマズいよね。


「パーティを縦に三つだ。せき止めるぞ!」


「フォンシーの言うとおりにしよう。ボクたちが前をやるから『十九』『十五個』の順番で!」


 もうどのパーティが休むとかそういう話じゃない。

 なるべく早くグレイデーモンをやっつけて、うしろから来るマスターデーモンを抑えないと!



 ◇◇◇



「ダメっ、グレイが多すぎるわ!」


「シャレイヤごめん、抜かれた」


 ミレアが叫ぶけど、どうしようもない。レベル80とか100とかのモンスターがあふれてるんだ。うまい具合に調節しながらバトルフィールドを作るなんてムリ。

 急いでグレイデーモンだけでもって思ったけど、その隙にマスターデーモンが後ろに流れちゃった。これはマズい!


「『ラング=パシャ』! 魔法無効化解除!」


 うしろで『十九』の誰かが奇跡を使ってる。レベルを捨ててもマスターデーモンをやっつけようってしてるんだ。


「『ラング=パシャ』」


「『マル=ティル=トウェリア』!」


 ああ、『十五個』まで。


「ラルカっ、あたしたちも」


「うん。やろう!」


 今はレベルとか言ってる場合じゃない。目の前に迫ってるマスターデーモンの群れをなんとかしないと! 十体くらいいるけど、勝てるかどうかなんてわかんないけど、そんなのどうでもいい。



「っ!? アイツら向きを変えたぞ!」


「後ろを目指してる!?」


 いよいよ戦おうってしたとき、マスターデーモンがいっぺんに移動する方向を変えた。代わりにこっちにはグレイデーモンが集まってくる。二手に分かれた!?

 バトルフィールドが作られたけど、中にいるのはグレイデーモンだけだ。数もそんなに多くない。


「だめよ。うしろには『夜空と焚火』が『鷹の翼が』。逃げて。逃げて!」


 ミレアが泣きそうな顔で叫んでる。ああ、どうしよう。もうボクたちには届かないよ。



 ◇◇◇



「んっ!?」


「むむっ!」


「どうしたの!? ラルカ、ウル?」


「シエラン、みんなも構えて。あっちからなんか来る!」


 マスターデーモンが流れてった先、休憩砦の方からなんか来てるんだ。デーモンがわざわざ引き返してきた? 挟み撃ち?

 違う。これってそんなもんじゃない。マスターデーモンなんか相手になんないくらいすごいのがこっちに向かってる。


「ラルカ、あれ冒険者だ」


『遠目』を使ったのかな、ウルがそう言い切った。冒険者?

 ボクも『遠目』を使って、あっち側を見た。



 たしかにあれは人だ。背が高い人からちっちゃい人までいるけど、みんながお揃いの鎧を着てる。

 間違いない。あれは冒険者だ。だけどなんで?


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