第67話 名前のとおり『守る者』よ。前提ジョブはヘビーナイト
「『白の聖剣』?」
「講習ではやってませんでしたね。でもジョブの名前だけは習ったはずです」
いやいやシエラン、それじゃわかるわけないでしょ。って、ジョブチェンジアイテムなの?
シエランはどうして知ってるのかな。
「いや、あたしだって資料は読んだぞ?」
「わたくしもよ」
えーっと、フォンシーとミレアも知ってたんだ。
「……知ってる。知らないはずがない」
ザッティもっ!?
「知らないぞ」
よかった、ウルはこっち側だったんだ。ホントによかった。ところでザッティ、なんか変な空気出してない?
「……『白の聖剣』は『ガーディアン』に必要だ」
「ガーディアン?」
「……知らないのか」
「ごめんザッティ、ホントにごめんね」
なんとなく名前で想像はできるんだけどさ。
「上位三次ジョブ、ガーディアン。名前のとおり『守る者』よ。前提ジョブはヘビーナイト」
おおっ、やっぱりそうなんだ。ミレアって物知りだよね。
そしてなんと上位三次ジョブだって。ウチで今、上位二次なのはケンゴーのシエラン、ハイニンジャのウル、そしてロードのミレアとザッティだね。もちろんレベルだったりジョブごとに特徴はあるけど、その上ってちょっと想像できないや。
「必要アイテムは『白の聖剣』。レベル条件は現行40。必要ステータスは……、忘れたわ」
忘れちゃってるんだあ。
ところで前提ジョブがヘビーナイトって、この場にひとりしかいないじゃないか。
「まあ、ザッティなら問題無いわね」
だよねえ。レベル条件はらくらくで超えてるし、ステータスは大丈夫なんでしょ?
ザッティは、うん。やる気だね。目がキランってしてるよ。
「シャレイヤ、ガッドル。提案があるわ!」
「想像つくけど、どうぞ」
ミレアがなんか言いだして、シャレイヤが笑って答えた。リーダーの立場はどこにいったのかな。
「『紅のクナイ』を『オーファンズ』に譲るわ。代わりに、ね」
「いいよ!」
「おう!」
おおうっ、シャレイヤとガッドルが完全に食いついてるよ。ホント、ニンジャが大好きなんだねえ。
「ごめんなさいウル。いいかしら」
「おう! ザッティが強くなるんだな?」
「……ああ、絶対だ」
まったくもう、ボクが置き去りだよ。
だから今やってる戦闘をちゃっちゃと終わらせないとね。バトルフィールドがあるから武器の受け渡しもできないよ。
「そりゃあっ! シエラン!」
「はいっ!」
目の前まで来てたココハウンドに足払いして、ちょっとだけ空に浮かんでもらった。飛んでく方向は調節したよ。そこはもちろんシエランの間合いだ。
「『一閃』!」
シエランのカタナがハウンドをたたっ切って、今回の戦闘はお終いだ。
「シャレイヤ!」
「ザッティ、受け取って!」
バトルフィールドが消えてすぐ、ウルが『紅のクナイ』をシャレイヤに放った。逆にシャレイヤが『白の聖剣』をザッティに向けて投げる。
シャレイヤはかっこよく逆手でクナイを受け取って、しゅばって感じでポーズをとった。なにしてるのかな。ザッティは逆に盾を持ってない方の右手で、ぶっとい剣の鞘をひっつかんだよ。こっちもこっちでかっこいいね。
「ザッティ、次の戦闘が終わる直前にやるよ!」
「……おう」
「『ラング=パシャ』は、えっと……」
「わたくしよ!」
レベルが二つ下がるんだけど、それでもミレアが名乗り出た。一番レベルが低いのはウルの60だけど、まあいいか。やっちゃえ。
手頃な敵がやってきたよ。ヘルハウンドが四でモモが一だ。
「シャレイヤ、あとで話し合いだからな!」
「わかってるって、けど『紅のクナイ』をジョブチェンジに使うのって、もったいなくない?」
「そりゃそうだが」
「だから当面わたしが使うわ!」
「ずるいぞ!」
「わたしはベンゲルハウダー出張部隊の総隊長だからね」
なーんか横で揉めてるけどさ、聞こえないことにしよう。そっちだって戦闘中なんだけどなあ。
◇◇◇
「さあてあと一頭。ザッティ、いくよお?」
「……おう! ミレア、頼む」
「わかったわ。『ラング=パシャ』!」
上位三次ジョブ。全部の上位ジョブに揃ってる、アイテムが無いとなれないジョブだ。名前とかアイテムとかは憶えてないけど『フォウスファウダー一家』くらいになると、当たり前みたいにいくつも持ってるらしいね。これを一個でも持ってたら名前が通った冒険者の仲間入りなんだって。
そんなのに今、ザッティがなろうとしてる。
「……ガーディアンにオレはなる」
口に出してまでなりたかったんだね。
右手に持った『白の聖剣』がピカって光った。けれど壊れたりしない。聞いてたけど、ジョブチェンジのときに壊れないアイテムもあるんだって。『白の聖剣』はそうなんだ。
外見は変わんない。けどわかる。ザッティはガーディアンになったんだ。
じゃあ戦闘を終わらせよう。せっかくだから最後はっと。
「『無拍子』『崩し』『フライング・メイヤー』。ほら、ザッティ!」
ボクに飛びかかってきたヘルハウンドの攻撃をいなして、首に腕を回してて体ごとキリモミ回転だ。地面に叩きつけられたハウンドのすぐそばに、盾を持ったザッティがいる。もちろん狙ってやったんだよ。
「……『ヘヴィ・シールドバッシュ』」
小さな体のザッティが精一杯踏み込んで、斜め下に『闇のヒーターシールド』を押し付けるように繰り出した。
ずんってにぶい音を立てて、盾がハウンドを押しつぶしちゃったよ。ははっ、使ったスキルはヘビーナイトのだけど、ガーディアンになって初仕事だね。そりゃまだレベル0だもん、スキル使えなくって当たり前か。
すぐにバトルフィールドが消えて、ザッティを銀色の光が包み込んだ。当然レベルアップだね!
「……レベル9。オレはレベル9のガーディアンだ」
抜き取ったステータスカードをチラっとボクたちに見せてから、ザッティは盾を構え直した。かっこいいじゃないか。
==================
JOB:GUARDIAN
LV :9
CON:NORMAL
HP :122+59
VIT:64+32
STR:79+39
AGI:38+10
DEX:54+10
INT:16
WIS:21
MIN:16
LEA:14
==================
ロードをレベル60くらいまでやってたお陰でVITとSTRがすごいや。ガーディアンの補正も入ってレベル9なのに前に出れそうだよ。いやいや、まだちょっと早いかな。
「ザッティ、まだよ。もう一戦したらマスターレベルだし、それから前ね」
「……わかった」
なんかミレアが仕切ってるけど、まあいっか。マスターになったらVITが100超えてるだろうしね。
◇◇◇
「ねえラルカ、ハウンドが減ってきてない?」
「うん、そう思う」
シャレイヤがそう訊くもんだから返事したけど、うん、間違いなく減ってると思うんだ。広間の方はまだガシャガシャって戦ってる音が聞こえてるけど、こっちの通路に流れてくるのは少なくなってる。
「これで終わりなら最高なんだがな」
フォンシーはそう言うけど、そうはいかないんだよね。もちろん彼女にだってわかってる。
「ははっ、ボクなんてレベル71だよ。ザッティは?」
「……33だ」
フォンシーがレベル72で、シエランが67。ウルは66で、ミレアが65だね。もちろんボクたちの最高記録だ。深層のモンスターをちゃんと勉強したら80層まで行けちゃうんじゃないかな、これ。
「氾濫が終わったら最深層更新もいいかもね」
「あのなあラルカ、そんなこと『一家』が許すと思うか?」
「んーん。あの人たちが真っ先に行くだろうねえ」
それに今回の氾濫でレベルが上がったのはボクたちだけじゃないもんね。これから深いとこまで潜れる冒険者が増えてるんだろうなあ。
ととっ、そんなのは全部が終わってからだね。
「おい、通路組は押し上げて、広間が見えるとこまで来てくれ」
「あれ? はい、わかりましたあ」
『白の探索者』のイェラントさんが声をかけてきた。わざわざここまで来たってことは、広間の方も楽になったってことかな。
「もうひとつを見ておけってことか」
「だろうねえ」
フォンシーと話しながら『おなかいっぱい』は前に出る。たまにハウンドが流れてくるけど、それも二、三頭くらいずつだから、いまさら苦戦もしないね。もちろん『メニューは十五個』と『十九の夜』もいっしょだよ。
けどまだ、もうひとつの黒門が残ってる。
◇◇◇
「黒門が消える……」
ボクたちが広間に着いたちょうどそのとき、そこにいた誰かの声が聞こえた。
うん、前みたいに黒門が暗い光の粒になって消えてく途中だ。ハウンドが少し残ってるみたいだけど、そっちもすぐに終わるんだろうね。
「そしてあちらが開くってことね」
ため息みたいな声でミレアが言った。ああ、ホントだ。またギギギって音をたてて、もうひとつの黒門が開いてく。
「警戒せよ!」
オリヴィヤーニャさんが広間中に響き渡る声で叫ぶ。
そのとおりだ。いま開いた門の方が最初は色が薄かった。真っ白なくらいだったもんね。てことはだよ。
「もっと強いモンスターなんだろね」
あったりまえのコトを言っちゃったよ。そしてソイツが出てきた。
「なに……、あれ」
横にいたシャレイヤが一歩下がって呟く。声がかすれてるよ。そりゃあ、あんなの見たらそうなるか。
ソイツは緑色をしてて、人型で、なんでか黒い服を着てるけど、間違いなくモンスターだった。
ああ、迷宮異変はまだ半分も終わってなかったんだ。
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