第66話 三毛猫耳は飾りじゃないぞ




「フォンシー、ちょっとだけでいいから、足止め!」


「ああ。『スタンクラウド』」


 フォンシーが使ったのはビショップの魔法で、むこうが使ってきた遠吠えみたいに、一瞬だけ敵を麻痺させて動きを止めてくれる。

 状態異常魔法を残してたの、ちゃんと知ってたんだからね。


「ぐらぅあぁぁ!」


 すかさずウルが飛び込んで三頭の足に傷をつけてくれた。それだけで十分だよ!


「ふっ」


 軽く息を吐いて踏み込んだ。


 目の前にはボクの背丈くらいのところにモンスターの頭がある。でっかいねえ。

 さっきまでは剣の間合いだったけど、今はもう目の前だ。なんでかな、やってやるって決めたからかな、全然怖くないや。


「『掌打』」


 正面から突っ込んできた一頭の首元に手のひらを押し込んで、ちょっとだけ動きを止めってやった。


「『フロントスープレックス』!」


 そのまま首をひっつかんで、のけ反る。投げ飛ばされたココハウンドがシエランの目の前に落ちたってとこで、すぐに横から衝撃がやってきた。体当たりかあ。わかってても痛いものは痛いよね。

 投げた方はシエランがやってくれるから安心だね。ほら、ザクって音が聞こえたし。


「『キュリウェス』」


 体当たりしてきたポチハウンドにしがみついたまま解毒だ。毒だってわかってるから解毒魔法でいけるんだよね。引っ掻かれた腕が痛いけど、怪我は誰かが治してくれるでしょ。

 だから今やることは。


「『三戦』んん……、『裡門頂肘』」


 ぐって踏ん張って、そこから肘を突き出した。これでもまだ倒せないかあ。


「うおうらぁ!」


 左フックを腹に叩き込んだとこでポチがおとなしくなってくれたよ。スキルを使っても二撃は要るね。やっぱりトドメは後ろに任せた方がいいや。

 さあ残りは一頭。ウルがいなしてくれてるモモハウンドに飛びかかるよお!



「ねえフォンシー、あれなに?」


「『ファ=オディス』。どうした」


 ねえ、治してくれるのは助かるけど、うしろでのんびり会話ってなにさ。


「あ、こんどはミレアが倒した」


「そうだな」


「勘違いじゃなかったらだけどね、ラルカ真ん中で暴れたら、自然とトドメがみんなにまわってる? 勝手にそうなってるっていうか」


「あたしはやってないけどな。まあそうだ」


 そりゃそうするでしょ。ウルが崩してボクが投げれば、あとはみんながやってくれるんだから。ボクひとりで戦えるわけないじゃないか。スキルがもつわけない。


「わたしラルカってもっとこう、真っすぐにえいやって感じだと思ってたんだけど」


「あのなあシャレイヤ。ラルカはウチのリーダーだぞ?」


「……しっぽがイカす」


「あいつは全部を見て、聞いてるんだ。三毛猫耳は飾りじゃないぞ」


「……くりくり動く」


 ザッティ……。それとフォンシー、今やってるのとリーダーかどうかって、あんまり関係なくない?



「それにラルカはな、自分はのんびりしてたいもんだから、そのぶん人使いが荒いんだ」


「ちょっとフォンシー! ボクは前線でがんばってるんだけど!」


「わかったわかった。人の使い方が上手いんだ。決めゴトでも戦いでもな」


 パーティで戦ってるんだから、助け合うのは当然でしょっ!

 くすくす笑うのやめてよ。シャレイヤまで一緒になってさあ。



 ◇◇◇



「ぶっはあ。疲れたぁ」


「おつかれラルカ」


「ミレアもありがとね。助かったよ」


「飛んできたハウンドに剣を突き立ててただけなんだけど」


 がんばってそうなるようにしたからねえ。


「フォンシーに投げたら怒られそうだったからさ。だってほら──」


「あたしのMINは13だ。ミレアとそう変わらないぞ」


 そういやそうだったね。だから怒った顔しないでいいから。

 いやあ、それにしても疲れたよ。けっこう危なかったし。


 毒は自分で治したけど、麻痺と睡眠がねえ。

 どっちもどっちなんだけど、ボクは睡眠が効いたかな。モモハウンドがきゅわ~んって鳴いたら、なんかふにゃあって感じで眠くなっちゃうんだよね。とろんってしたところでドカンって体当たりされたもんだから、すぐ目が覚めるしさ。痛いだけ損だなあってなっちゃうんだ。麻痺の方が危ないんだけどね。


「変な会話してないで、さっさと休んできて!」


「ごめんごめん」


 シャレイヤの言葉が背中に刺さったよ。入れ替わりで『十九』も戻ってきてくれたし、ちゃんと休もう。



 ◇◇◇



「調子はどうだ?」


「まあまあ対応はできてます。もうちょっとレベルが上がればなあってとこですね」


「そうか……」


 休憩砦で出迎えてくれたのは『夜空と焚火』のみなさんだ。他にもう一組だね。たしか『鷹の翼』だったっけ。

 ここにいるパーティはうしろで助けてくれる組なんだ。後方支援、だっけ? 大事な役割だってわかってるんだろうけど、それでもちょっと悔しそうだね。こうやって安心して眠れるのって助かるんだけどな。


「二時間の予定です。よろしくお願いしますね。『ピフェン』」


 とにかく安まないと。



「──ちっ! 回復頼む!」


 すぐ近くで戦ってる声が聞こえた気がした。って、夢じゃないよ! ホントに戦闘じゃないか。


「ギリーエフさん!」


 一頭だけだけどヘルハウンドが流れてきたんだ。『オーファンズ』はなにやってんのさ!


「起こしちまったか。すまない。それでもそろそろ二時間のはずだ」


「それはいいから、『確定逃走』──」


「ははっ、俺たちにもレベリングさせてくれ」


『確定逃走』は『ラング=パシャ』つまり奇跡のひとつだ。パーティのAGIが高いとバトルフィールドから逃げることができるんだけど、奇跡を使えば絶対に逃げられる。氾濫のど真ん中と違って、今回みたいな一頭だけの相手ならって思ったんだけど、レベリングする気なんだ。戦いたいよね。

 考えたら『鷹の翼』も黙って見てるし。


「ほら、終わったぞ」


「……やりましたね! レベルはどれくらいですか?」


「俺は44だ。おこぼれはしかたないけど、これでも大変なんだからな」


 まったくほら、傷だらけじゃないか。スキルもバンバン使っちゃってもう。

 でも、嬉しそうなんだよね。レベルもいっぱい上がったみたいだし、ボクらもうしろにいたらこんなのだったのかな。


「ははっ、一頭くらいずつ流しますか?」


「それでもオレらはいいけどな」


 横で見てた『鷹の翼』の人たちも笑ってる。本気にしてないよね?

 実感するなあ。いろんな冒険者がいろんなとこでがんばってるんだ。


「そら『おなかいっぱい』は出撃だ。さっさと行って氾濫終わらせてこい」


 だよね。ボクたちにはボクたちの役割がある。さてやるかあ。



 ◇◇◇



「戻ったよ。どう?」


「レベル62」


 ファリフォーがちょっと自慢げだ。ボクたちより上じゃないか。いいなあ。


「こっちはレベル64だ!」


 ガッドルまで。こりゃあ負けてらんないね。ところであれって。


「宝箱? 開けていいよ。使えそうなのあったら教えて」


「おう!」


 嬉しそうにウルが宝箱に向かったね。三つもあるもんねえ。


 ここまで何回か出てるんだけど、前で二つのパーティが戦ってる隙に残りで開けてるんだ。

 ミレアの剣なんかは『鋭いショートソード+3』になってたりするんだよね。さすがはレベル70のモンスターだよ。


「いいのが出たぞ!」


「なになにウル」


「『紅のクナイ』だ!」


 とたん『十五個』と『十九』がこっち向いた。全員だよ、全員。

 あ、ピョリタンがモンスターに吹っ飛ばされた。ちょっとなにしてんのさ!



「前向いて! まだ戦闘中でしょっ!」


「そ、そうだったわ! いいウル、装備するのはいいけど、ジョブチェンジはダメよ!?」


「ウルはもうハイニンジャだぞ?」


 いいから前向けって。


「ニンジャになりそうなのは……、ラルカっ!? ラルカ、使っちゃダメよ!? あとで話し合いだからね!?」


「シャレイヤさあ、どれだけ必死なのさ。使わないでウルが装備でいいんだよね? だから前向いてって」


「ぐあっ!」


 ああもう、こんどはディジェハが体当たりされてるし。



「はい、じゃあ『十五個』は一時間休憩ね」


「ニンジャになっちゃダメだからね」


「わかってるって」


 クナイ騒動から五分で戦闘が終わって、ここで『メニューは十五個』がお休み。入れ替わりで『おなかいっぱい』だ。

 それにしたって『オーファンズ』ってどれだけニンジャ好きなんだろうね。混乱したお陰で最後の方、ムダに回復スキル使ってたし。



「となり、よろしくね」


「おう」


 ガッドルが返事してくれたけど、目がウルの手元にいってるんだよねえ。


 氾濫が始まって六時間くらいかな、全然収まらないよ。むしろ増えてるくらいだ。

 ヘルハウンドが半分くらいで、ポチ、モモ、ココがのこり半分。いっぺんに十頭以上も流れ込んできてる。最初のころみたいに戦闘の間に休むこともできなくなってきちゃったね。


「でもまあレベルも上がったし、やれるかな」


 ボクのレベルも60を超えちゃって、もう64だ。他のみんなもそんな感じだね。

 基礎ステータスもあるから、レベル70くらいになってるかな。


「……スキルもいける」


 だねえ。特にザッティは盾スキルが大事だもんね。盾スキルかあ。もう盾が使えるジョブってないもんねえ。



「ねえちょっと」


「あれ? シャレイヤ、戻ってたんだ」


 いつの間に、ってもう二時間経ってたんだ。けど、どしたの? 声が震えてるけど。


「これ……」


「背中だから見えないよ」


『オーファンズ』とは違うんだからね。なんだってーって振り向いたりしないよ?


「『白の聖剣』よ。これ」


「なにっ!?」



 なんかフォンシーがびっくりしてるけど、なにそれ?


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