第65話 どうしてボクが今まで剣を使ってきたか、わかるかな?
「ぶふぅー、ぶふぅー」
ウルが荒い息を吐いてる。ほとんどひとりでがんばったもんねえ。
五頭いたヘルハウンドはなんとか倒せた。ウルが掻き回してる間に、ボクとシエランが後ろからばっさりって感じで、残りの三人はバフと防御に回ってもらった。
「ぷふぅー。もう大丈夫だ!」
「ありがとウル」
みんなもそうだけど、こんな程度で疲れるようなVITじゃない。緊張って息が切れてただけだね。
「……すまん」
ザッティが謝るけど、そんなことないよ。
「ザッティたちがロードとナイトをやってるのは、自分を守るためでしょ。もちろんザッティにはみんなを守ってもらうんだけどね」
「わたくしもやるわ!」
「まあ、あたしも慣れるだろうさ。それにレベルがふたつも上がった。さすがはレベル70だな」
ミレアとフォンシーも全然大丈夫だ。うん、相手が強くたって負ける気がしないよ。
このままレベルを上げてけば、いつかは普通に戦えるようになれる。
「見ててくれた?」
「うん。思ったより、かなり速いね」
「ついてけるかな」
ボクが声をかけたのはシャレイヤとガッドルだ。見たことないモンスターだから、キチンと自分たちの目で確認しておかないとね。そのあたり『オーファンズ』はわかってるはずだ。たまたま今回は『おなかいっぱい』だったけど、次は『十五個』かもだからね。
「『一家』の人たちはきびしいねえ。五頭いっぺんとかさ」
「それくらいならってことでしょ。わたしたちもヴィットヴェーンの力を見せてやるわ」
シャレイヤも元気だね。けど言ったとおりで『一家』は甘くないって思うよ?
「ほらきた。こんどは四頭だね? 半分こしようか」
「全部と言いたいけど、しかたないね」
◇◇◇
それから二時間くらいかけて、全部で五十頭くらいのヘルハウンドをやっつけた。
途中からは『十九の夜』にも入ってもらって、ガンガンレベルを上げてるよ。
「前衛は安定してきたね。『十五個』と『十九』はジョブチェンジどうするの?」
「そろそろね。こっちはディジェハとマウィーの順番でいくわ」
「こっちもひとりずつだな」
むこうにはハイウィザードがいるからねえ。ナイトが貼り付いてガードしてるけど、けっこう危ないんだ。硬くなってもらったほうがいいと思う。
「順番は任せるし、『おなかいっぱい』はこのままだから好きにやっちゃって」
こっちはよっぽどがない限り、今のジョブでいくつもりだからね。せいぜいフォンシーがナイトからロードになるかもくらいだけど、あんまり意味ないしねえ。
シーフとかエンチャンターがいたまま戦った前回とは違うんだ。それにほら。
「……いける」
「自分を守って魔法くらいならやれるわ」
なあんてザッティとミレアが自信いっぱいだね。フォンシーもちょっと余裕っぽいし。
まあ三人ともレベルが上がったもんだから、VITが150くらいでSTRなんて200超えてるもんねえ。さすがはナイトとロードだよ。
「力が足りない」
そんなコト言ってるのはウルだ。ハイニンジャのウルはSTRが70くらいなんだよね。たしかに足りないかも。けれどAGIがほとんど200だ。200。バフなしでヘルハウンドの速さに対応できるくらいになってきてる。
STRの足りなさはDEXとニンポーでなんとかしてる感じだね。スキルが足りるか心配だけど、ここはレベルを上げまくるしかないよ。
「切れ味はよくなってきてます」
シエランが笑ってる。怖いから。
STRとDEXが150くらいだもんね。AGIも100以上になったし、楽しそうにモンスターを切り裂いてるよ。けっこう危ない目にあってるんだけど、なんかイキイキしてるんだよね。
「ボクもいい感じだよ。慣れてきたけど剣スキルがもう危ないかな」
==================
JOB:SWORD=MASTER
LV :52
CON:NORMAL
HP :109+247
VIT:52+57
STR:60+88
AGI:44+88
DEX:52+141
INT:23
WIS:25
MIN:19
LEA:16
==================
じゃあボクはどんなのかっていえばこうだ。
ボクの売りはSTRとAGI、DEXが全部高いってトコだね。目立つのはDEXが200近くまできてるってことかな。ペルセネータさんが300以上でビックリしたけど、このまま上げたら届いちゃうかも。基礎ステータスが違うからムリかあ。
「ザッティが守って、ミレアとフォンシーが魔法、あとは三人が暴れまくればいいってことだよ」
「あとはレベルを上げまくって慣れろ、ってね」
「そりゃそうだけど、それってなんなの?」
「サワお姉ちゃんが教えてくれたの」
シャレイヤ……。
「すごい戦い方を思いつくのも、達人? になるのも後でいくらでもできる。とりあえず、とことんレベルアップしたら当たり前に強くなれるんだってさ」
ガッドルまで。ほーらまた『オーファンズ』が自慢げだよ。
「真理だろうな」
フォンシーまで毒されちゃった!?
「そうやって普通に強くなるには、怪我して痛い思いもする、か」
痛いのは嫌だなあ。でも、今までそうやってきたから、いまさらだねえ。
「それが冒険者なんでしょ? ほら、またきたよ。『オーファンズ』はちゃっちゃとジョブチェンジ。ここはボクたちが相手してるから」
◇◇◇
「あ、そろそろムリかな」
「もうスキルが少ない」
そろそろ限界かあ。ウルがそういうってことは、ホントにギリギリなんだ。
エンチャンターのバフとニンポー、自己バフとかを使い切ったらいよいよマズいね。素のステータスだけで対抗できないこともないけど、怪我も増えるだろうし、まだまだつらいよ。
「任せてって言ってから三十分くらいしか経ってないぞ」
「ごめんねガッドル。一時間くらいでいいからお願いできる?」
「おうよ」
「ここからは小刻みに交代ね」
「そうだね、シャレイヤ」
広間のヘルハウンドが増えてるのかなあ。だんだんこっちに来るのが増えてるのは間違いない。
ワザと流してるのか、それともあふれちゃってるのか、ここからだとよくわかんないんだ。
「ポチとモモとココが出やがった。ちくしょう!」
なんか広間から叫ぶ声が聞こえてきた。なんだか可愛い名前だけど、なにそれ。
しかもなんか焦ってるみたいだし。
「ポチハウンド、モモハウンド、ココハウンド! ヘルハウンドの上位種よ!」
「ミレア知ってるの?」
「第二次のヘルハウンド氾濫で出たのよ。ポチは毒、モモが睡眠で、ココは恐慌持ち!」
「可愛い名前で状態異常か。誰がそんな名前つけたんだか」
フォンシー、そんなのどうでもいいよ。それよか、どうするかってことでしょ?
「通路組! こちらは抑えきれん! モンスターを流す。なんとしても倒せ!」
オリヴィヤーニャさんの声が遠くから聞こえてきた。倒せって、ちょっと。
ええっと、ああ、もう!
「状態異常回復は?」
「全部残ってる。回復魔法は半分だな。わかってるんだろ?」
「確認だよ。確認」
『デイアルト』、状態異常を治す魔法は……、使ってるわけないもんね。そんな敵いなかったんだから。メイジとプリースト、ついでにビショップとロードの分もあるからえっと。
「パーティ全部で百十七だ。回復は回数だけなら倍以上残ってる」
そっか。なら、やるしかないかな。
ここで『おなかいっぱい』が休むわけにいかないよ。三パーティでなんとか抑え込みながらレベルアップするしかない。休憩は安定させて、それからだ。
もうこっち側にたくさん流れてきてるもんね。色違いのヘルハウンドなんだねえ。全然可愛くないよ!
「ザッティ、ごめん。絶対にミレアとフォンシーを守って」
「……いつもどおりだな」
そうだよ。最初っからザッティがずっとやってきてくれたことだ。
盾スキルが無くなったって、ザッティならできるよね。
「ミレアとフォンシーはとにかく回復、できればおとりも」
「わかってるわ!」
「まあ、しかたないか」
フォンシーはいやいやって感じな言い方しないでさ。
攻撃魔法とエンチャントが残り少ないんだ。二人にお願いできるのはこれくらい。頼むねホントに。
「シエラン」
「斬ればいいんですね」
ああ、シエランが覚悟した目をしてる。そりゃそうなんだけど、やっぱり変なのに目覚めてない?
「ウルは──」
「走り回るぞ!」
「おねがいね」
ウルはモンスターを混乱させる係だ。スキルが尽きちゃったら、STRの低いウルにできるのは足を使ったスキルトレースだね。ウルならできちゃうんだろうなあって、信じてる。
「ラルカ、やるのか?」
「うん。さあ、やるぞお!」
ウルの声に背中を押してもらって、ボクは手に持ってた剣をインベントリにしまった。ついでに金具を外して両手にはめてあった
別にはめたままでもよかったんだけど、まっさらな素手の方がやりやすいんだよね。ごめんね、パッハルさん。
「ポチ、ココ、モモ。どうしてボクが今まで剣を使ってきたか、わかるかな?」
ハウンドに話しかけても通じないけどね。
「カラテカ、グラップラー、モンク。素手スキルは全部残してあるぞ!」
言葉にしたこれはボクの覚悟さ。おもいっきりやってやるぞってね。
「ボクはここから『殴りソードマスター』だ!」
すごいでしょ。殴りプリーストとかは結構いるし、ボクもやってたけどね。こんなのはそうそういないと思うよ?
「ウルもカラテカのスキルは残ってるぞ?」
台無しだよウル。せっかくなんかこう、かっこよくキメたとこなんだけど。ボクの立場ってのもさあ、ちょっとは考えてほしかったかな?
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