第62話 これからはお前らみたいな連中の時代なんじゃないか
「色が濃くなっているわね」
「うん」
ミレアがこぼした言葉にみんなが頷いた。
ボクたちが初めて見たときは白いのと薄桃色だった黒門は、片方がはっきり桃色になっている。もう片方は薄桃かな。
「よう、遅刻娘っ子たち。見物かい?」
「こんにちは」
声をかけてきたのは『フォウスファウダー・エクスプローラー』一番隊、『白の探索者』のイェラントさんだ。変な呼び方しないでほしいなあ。
黒門は『エクスプローラー』とか大手クランが持ち回りで見張ってくれてるんだよね。
「お前らが第一発見者だったな。どうだ、色は」
「全然違う」
ウルがハッキリ言い切った。
「そうか。まあ私たちも交代で見てるから、わかっちゃいるんだがな」
「大規模なんでしょうか」
「シエラン、だったな。まあ規模が大きいのか強いのかは出てこないことにはわからん」
シエランに返事したイェラントさんは半笑いだ。
「私は前々回に参加してるからな。アレはキツかった。めちゃくちゃ強いのが数体とかなら『一家』の皆さまがやってくれるんだろうが」
「見たんですよね」
「ああ、ワイバーンだろ。見たぞ」
ワイバーン。99層ゲートキーパーなんだって。
けど、それをやっつけたのは『フォウスファウダー一家』じゃなかったみたい。ヴィットヴェーンのすごい人たちだ。
「ありゃあすごかった。なにがすごいって、やったのはお前たちと同じくらいの娘っ子だ」
うん、シャレイヤたちが自慢してたもんね。同じくらいかあ。
「……新世代の冒険者ってな。これからはお前らみたいな連中の時代なんじゃないか」
「ボクたちなんて、まだまだですよ。それにイェラントさんたちだって」
「そりゃそうだ。当然私もまだまだ強くなる。これでも若いんだぞ? 30手前なんだからな」
ごめんなさい。ハッキリいって、20代後半から40手前ってあんまり区別つかないよ。
「だから生き残ってレベルアップだ。強くなれ。お互いにだぞ」
「おう!」
ウルが元気に返事して、ボクたちは21層の広間を後にした。
イェラントさん、目をギラギラさせてたなあ。絶対に異変になんか負けてやるもんかって、そんな気迫だったよ。
「覚悟が決まったわ」
「……おう」
ミレアとザッティが気合を入れる。ここに来ようって言ったのはボクなんだ。もう一回ちゃんと見て、ちゃんとしないとねってね。前回はテレポータートラップでそれどこじゃなかったからさ。
「みんなも大丈夫だね。目つきがきまってるよ」
「まあ、な」
「なにさ、フォンシー」
「冒険者になってウハウハするはずが、いつの間にか異変の最前線だ。なんでこうなったのかなってな」
「そりゃもちろん、ボクたちが冒険者だからだよ」
別にフォンシーは不満そうなんかじゃない。いつもみたいにヘラって笑ってるくらいだ。
村に住んでたころなんて、冒険者がこんなに大変なんて思ってなかったよ。物語だとドラゴンと戦うなんて話もあったけど、それは絵本の向こう側だったからねえ。
「そしてさ、冒険者になってやっとわかったこともあるんだ」
「どんなだ?」
「友達や仲間、知り合いなんかがたくさん増えちゃって、なにがあっても全員を守るんだーって気持ちになっちゃうってこと」
「そうだな。あたしもそうかもしれない」
「もちろん冒険の後で食べるごはんはおいしいけどね! そのために冒険者してるんだし」
ここまで来る途中でボクはレベルは10になってる。今日はこのまま31層に突撃だ。
◇◇◇
「大事なことを忘れてました」
ブラックリザードを倒してたら、シエランがなんか言いだした。
「遅刻してまで狩ったトロルなんかの素材、パッハルさんに渡し忘れてます」
「あー、それね」
あの時は全員分はムリでも、誰か一人だけでもなんて考えてたっけ。
「いまさら戻れないし、夜にでも行ってみる?」
「相談だけでもしてみましょうか」
「だねえ。それにしてもシエランって、ブラックリザードやっつけながら素材のコト考えてたんだね」
「わたしの役割ですから」
最初に会ったときはオドオドしてたし、モンスターと戦うときに怖いなんて言ってたっけ。それがもう、今はカタナでザックザク敵を斬ってるよ。しかも薄っすら笑ってるし。
あ、こんどフィルドさんに教えてあげよう。ボクってソードマスターになったんだよって。
「『踏み込み』『斬岩』!」
ボクの攻撃でロックバイパーが消えてった。ドロップは石っていうか岩だね。
ファイターとソードマスターのスキルって、当たり前だけど剣技が多いんだよね。もちろん足さばきとか自己バフもあるけどさ。
このさきどんなジョブにするかまだ決めてないけど、剣を使う練習だけはってね。もちろんスキルトレースは忘れてないよ。
「石材はいいですね。相場が上がってますから」
「ああ、領主さまが集めてるって話だっけ?」
「そうです。ほら、入り口に造ってる壁の材料ですよ」
別に今回の異変にあわせてっていうわけじゃなくって、迷宮の前に壁を造ろうって話はあったみたいなんだ。それなのに今回の異変が起きたもんだから、急げーってことになったらしい。
ボクたちが今、34層でレベリングしてるのも、それなんだよね。ここはロックリザートとロックバイパーが出るからさ。
「『ニンポー:四つ身分身』。とうっ、『投擲』!」
四人になったウルがジャンプしてから投げた四本の短剣が、アタックボアの胴体に全部刺さった。モンスターが消えた跡に残ったのはドロップのお肉と一本だけに戻った短剣だ。ニンジャスキルってすごい。
ウルの使ってる短剣、『切り裂きのダガー』はついさっき宝箱から出たばっかり。カタナ以外だと久しぶりに武器が新しくなったよ。
「肉だな!」
「ウルはモンスターを選んで強くなったりするわね」
「そうか?」
ミレアがため息だ。実はボクもそう思ってるけどね。ウルってお肉関係のモンスターが出ると、なんかこう動きがよくなるんだよ。
「ハイニンジャには慣れたのかしら」
「おう。こんなのもできるぞ!」
言った瞬間、ウルは普通に立ったまんまで真後ろにずざざーって動き出した。なにそれ!?
「『ずり足』だ。足首だけを動かして歩く。そんなだ」
そんなスキルをトレースしちゃったんだあ。モンスター相手で意味あるのかわかんないけど、人が相手だったら驚くだろうなあ。
「やりますね、ウル。わたしも負けていられません」
「おう!」
そんなこと言ってシエランも素振りっぽいことを始めちゃった。
「ほら、行くぞ。時間と経験値がもったいない」
そうだよ。フォンシーの言うとおり。
結局今日はけっこう遅くまで潜っちゃった。
ボクはレベル17だね。うん、いい感じだよ。さあ帰ってごはんを食べよう。
◇◇◇
「やっぱりいつもとは違うね」
「……レベルやジョブの話が多い」
ザッティがチラって辺りを見てる。
事務所の食堂で晩ごはんなんだけど、まわりの冒険者たちがしてる会話がねえ。やっぱりそうなっちゃうんだろうな。装備とかの話も多いし、変なのだとあっちが強いとかこっちがもっと強いとか。
前の黒門のときはレベリングに忙しかったし、すぐに門が開いちゃったから、あんまりこんな空気を感じてる暇もなかったもんね。
「明日からはまた天幕暮らしね」
「だねえ。ボクはけっこう好きだけどね」
ミレアみたいな貴族令嬢だと違うのかな。いやいや、前回のときはお祭りみたいだって言ってたっけ。
今朝の内に知らされてたんだけど、もしもってときとレベルアップの効率をよくするために、明日からは迷宮前に天幕をたくさん張ってそこで寝泊りすることになってるんだ。前回もそうだったね。
宿代とごはんもタダになるし、ジョブチェンジアーティファクトも迷宮前に移動だね。ボクたちはもうジョブチェンジはしないけどさ。
「前回は装備の貸し出し優遇、なんていうのもあったわね」
「全部自前になったもんね」
「わたくしたちもいっぱしの冒険者ね」
ミレアが嬉しそうだ。冒険者って感じになったもんねえ。
「クナイかシュリケンがほしいぞ」
「ウルはハイニンジャだからな。武器で使えるスキルが変わるんだろ?」
「おう。フォンシーも良い剣がほしいか?」
「まあな」
「……盾をもっとよくしたい」
ウルとフォンシーが武器の話をしてたら、ザッティも仲間に入った。
ボクたちの武器ってシエランのカタナとウルの短剣のほかはダークスケルトンシリーズだからねえ。一応レベル40くらいのドロップだから悪くないんだけど、46層でもこれだーっていう武器が出なかったしさ。
「ロングソードとかフルプレートとかはねえ」
「盾の大きさには慣れたけど、わたくしたちの場合、武器の長さね」
ミレアの言うとおりで、ボクたちだとショートソードくらいがちょうどいいんだ。『強靭なカタナ』だけは別で、シエランはあの長いカタナを使いこなそうって必死でがんばってる。
今のトコいい剣が欲しいのはボクとフォンシー、ミレアなんだよね。ザッティはほとんど剣を使わないし。
「ボルタークラリス商店はどうなんだ?」
「ダメですね。わたしたちの『黒きショートソード』や『闇のヒーターシールド』より良いモノはそうそうないでしょうし、あったとしてもお値段が」
「世知辛いな」
フォンシーとミレアが揃ってため息だよ。運が逃げちゃうぞ。
「言っててもしかたないよ。さあパッハルさんに相談しにいこう」
ごはんを食べて元気をだせばいいこともあるよ。きっとね。
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