第58話 ……オレはみんなの盾だ




「まあなんだ、あっちにもいろいろあるんだろ。だからシエラン、落ち着いてくれ。頼むから」


 がんばれフォンシー。でもあっちの都合って、ニンジャになりたいだけだよね、多分。

 こんなので『おなかいっぱい』と『メニューは十五個』が仲たがいとかやだからね?


「時間も勿体ない。『十五個』も聞いておいてくれ。まずはどこまでやるかだ」


「どこまで? ジョブチェンジとレベリングってこと?」


「そうだ。下層にすぐ開く黒門が見つからなかったとして──」


 ほかにも黒門なんて、それはかんべんだなあ。


「まずはここで三セット。そのあと五日はレベリングできるな。もちろん、目一杯使いたい」


 ここのモンスタートラップなら二セットでコンプリートが狙える。なら本番までに二回はジョブチェンジできるってことかな。うーん。


「相手はヘルハウンドみたいなのかもしれないんだよね?」


「そうだなラルカ。黒門が開くとき、レベル50は欲しい。絶対とは言わないがな」


 それって最後の五日のうちにもう一回このあたりまで来るってことじゃないか。


「さ、これが前提だ。あとはパーティごとに決めるしかないな」


「わかったわ」


 シャレイヤたちが頷いて、『十五個』はちょっと離れたとこで、輪になった。



 ◇◇◇



「さて、誰がどうするかだけど、まずザッティの考えを訊いておきたいな」


「フォンシー……、あなた」


 なんでザッティからって思ったけど、ミレアがすごい顔してる。怒ってる。これは怒ってるぞ。


「……このままレベルを上げて、盾を持ち続ける」


 けれどザッティは言い切った。

 そこでやっと気づいた。ザッティにはジョブチェンジ先がないんだよ。


 ==================

  JOB:POWER=WARRIOR

  LV :42

  CON:NORMAL


  HP :61+192


  VIT:40+117

  STR:46+120

  AGI:22+41

  DEX:33+48

  INT:8

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 いやあるよ? ソードマスターでもサムライでも、カラテカだってシーフだって。けど、みんな盾が持てないジョブなんだよ。理想はロードなんだけど、WISが足りてない。

 時間がないんだよ。迷宮異変がなければすぐにジョブチェンジしてさ、シーフでよかったんだ。それからメイジをやって、プリーストだってウィザードだって。


「……オレはみんなの盾だ」


 だからってザッティ、無理して笑わなくたってさあ。



「ロードになればいいじゃないか」


「フォンシーっ!」


「まあ落ち着けミレア」


 いやいやフォンシー。追い打ちかけるようなこと言ったらミレアだって怒るよ。とっくに怒ってたけどさあ。それにザッティだって落ち込むし。


「シーフになればINTが増える、そうしたらメイジになれる。メイジならWISが伸びる。ほら、ロードだ」


 そんなことみんなわかってるよ。それを今、こんなときにってのがさあ。


「レベリングが間に合わないかもしれないわ」


「それを言ったら全員そうだろ」


「……戦闘中に最低二回ジョブチェンジ。……危ないわよ」


「本人を置いてきぼりにするな。ザッティには積み上げてきたHPとVITがある」


 そうだね。ザッティはずっと前線でがんばってきたもんね。


「……やるぞ」


「ザッティ……」


 ミレアは心配そうだけど、ああ、もうザッティの目は座ってる。それに口元がさ、ゆるんじゃってるよ。


「ザッティがやる気だぞ? ミレアは応援しないのか?」


「もうっ、わかったわよ!」


 ウルの言葉がトドメになっちゃった。



「わたくしは速くて硬くなるしかないわね」


 ミレアが自分のカードを差し出した。


 ==================

  JOB:HIGH=WIZARD

  LV :42

  CON:NORMAL


  HP :53+156


  VIT:25

  STR:32

  AGI:19

  DEX:25+95

  INT:35+172

  WIS:22+46

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


 うん、ハイウィザードってINTの伸びがすごいや。ここから硬くなるっていうのは当然だよね。ただAGIがさ。


 それからミレアはザッティに危ないことをさせるんだから、自分はシーフを挟むって言いだしたけどそれは全員で止めた。


「ザッティには素の前衛ステータスがある。よく聞けミレア」


「なによ?」


「ザッティが後衛の間、ミレアが前だ。ザッティだけじゃない。パーティを守ってくれ」


 なんかフォンシーがおかしなこと言いだしたぞ。なんでミレアが前衛?


「フォンシー、あなたまさか」


「ザッティに無茶をさせるんだ。焚きつけたあたしも、まあな」


 軽く笑ってフォンシーがステータスカードを取りだしたよ。


 ==================

  JOB:BISHOP

  LV :42

  CON:NORMAL


  HP :68+157


  VIT:26

  STR:28

  AGI:27

  DEX:40+60

  INT:48+136

  WIS:24+129

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 INTがすごい。ここからジョブチェンジしても61だよ。



「そうですね。じゃあわたしも──」


 今度はシエランだ。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :48

  CON:NORMAL


  HP :70+181


  VIT:25+22

  STR:32

  AGI:17+117

  DEX:34+115

  INT:36+56

  WIS:24

  MIN:15

  LEA:14

 ==================


 シエランも悩みだったAGIもだいぶ良くなるよ。ジョブチェンジしたら28だね。INTも40超えるし、剣と魔法の両方でいい感じじゃないかな。


「わたしもちょっと無茶をしてみます」


 なんでシエランまで燃えてるのかな。



「やるぞ!」


 ウルまで。


 ==================

  JOB:KARATEKA

  LV :39

  CON:NORMAL


  HP :85+148


  VIT:33+41

  STR:32+71

  AGI:39+81

  DEX:47+79

  INT:33

  WIS:18

  MIN:19

  LEA:17

 ==================


 いつの間にか速くて上手いバランスタイプになってたねえ。INTもちゃんとしてるし。


「ウルにも考えがあるぞ!」


 それってたぶんしっかりしてるんだろうなあ。もうウルのジョブチェンジで心配なんていらないね。



 えっとつまり、フォンシーとシエラン、ウルには考えがあって、じゃあボクはどうしたらってことだよね。


 ==================

  JOB:POWER=WARRIOR

  LV :43

  CON:NORMAL


  HP :77+203


  VIT:33+135

  STR:36+148

  AGI:38+43

  DEX:43+50

  INT:23

  WIS:25

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 最後はボクだ。HPの補正が200だよ。VITとSTRもすごいよね。すっかり前衛だよ。

 問題はこの後。もう殴りジョブがないんだよ。ウィザードでもやっちゃう?


 けどボクはリーダーだからしかたないね。ここはみんなに合せるよ。


「ラルカには頼みたいことがある──」



 それから五分でボクらのやることが決まった。

 さて、『メニューは十五個』はどうなったかな。



 ◇◇◇



「いくよ?」


「いいよ!」


 シャレイヤが気合の入った声で返してくれた。他の十人も大丈夫だね。それじゃ、まあ。


「おらあぁぁ!」


 ボクは扉を蹴っ飛ばして、モンスタートラップ部屋に飛び込んだ。あとには十一人が続く。



「初戦はスキル温存だよ!」


「おう!」


 大事なのは最初じゃない。二戦目からだ。だけど、だからこそ素早くだ。

 部屋のあちこちにある召喚陣が光り始めた。そして出てくる出てくる、バッタの群れ。


「なるべく多く引き込め」


「わかってるって」


 フォンシーの考えは聞かせてもらってるからね。だからボクは突っ走ってなるべくモンスターをいっぱい引き込んでやる。なんたってSTRとAGIはボクが一番だからね。

 バトルフィールドに入る敵の数は、いちおう狙える。そこらへんは氾濫でさんざんやったからね。


「『ダ=リィハ』」


 大きく踏み込んで、なるべくモンスターが集中した場所に魔法をブチこむんだ。

 ほーら、二十匹はいけたでしょ。


「やるじゃないか」


「へへん。それよりこっからだよ」


 長くなるからね。スキルは出し惜しみして、だけど急いでやっつけないと。



「残り一匹!」


「『ラング=パシャ』!」


 ボクが叫んだとほとんど同時に奇跡を起こしたのはウルだ。理由は簡単、この中で今のレベルが一番低かったからだよ。

 奇跡の中身は『ジョブチェンジ』。だけど今回はいままでとちょっと違うんだ。前に使ったのは『迷宮内のジョブチェンジ』で、今回は『戦闘中のジョブチェンジ』。効果は一緒だし減っちゃうレベルも一緒なんだけど、戦闘中の場合はちょっと違ってくるんだ。


「おらあぁ!」


 奇跡が叶ったすぐ後に、ボクが敵を倒して戦闘は終了だ。


 当然経験値が入ってくるよね。その経験値は『戦闘中にジョブチェンジした後のジョブ』に全部行っちゃうんだ。戦いが終わったあとで一気にレベルが上がるから、なぜかそうなるんだって。

 実はこれ、『十五個』のピョリタンが教えてくれたんだ。ヴィットヴェーンでそれをやった人がいるんだって。もちろんあの人だよ。すごいねえ。


「……レベル9」


「レベル7よ!」


 今回ジョブチェンジしたのはザッティとミレアだ。最初は二人だけ。いっぺんにたくさんジョブチェンジしたら全員が弱くなっちゃうからねえ。しかたないよ。

 ザッティがシーフになるのは当然で、ミレアはナイトだね。とにかくミレアは柔らかいから、急いでレベルを上げて硬くしないと。



「シャレイヤ、どう?」


「予定通りよ。大丈夫!」


 すぐに次の戦闘が始まったけど、あっちも大丈夫そうだね。

『メニューは十五個』はウィザードのピョリタンとファリフォーがパワーウォリアーだって。

 これであっちは全員前衛だ。カラテカとウォリアーの自己バフもあるし、レベル以上にやれるはずだよ。ほんとバランスいいよね。



 さあさあ、『おなかいっぱい』も負けてられないよ。こっからボクたちはすごいジョブチェンジするんだからさ。


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