第56話 いったん外に出て、それから考えよっか
「全員戦闘準備! たぶんここは46層だよ!」
「ジャイアントローカストのモンスタートラップよ。魔法は来ない! ただし速くて強いわ!」
ボクに続けてミレアが叫んだ。
そうだよ、召喚陣からバッタが出てくるなんてそれしか知らない。
「っ! 魔法は普通に効く。攻撃力があるから柔らかい奴を守れ! やるぞ」
気を取り直したフォンシーも叫ぶ。モンスタートラップは敵が消えるまで出られない。やるしかないってことだ。
「ラルカっ!」
「アレは……。ボクらより強い」
必死な顔でフォンシーがボクを見た。だから正直に言うしかないよ。
それでもモンスターは待ってなんかくれない。そいつらがゆっくり召喚陣から姿をあらわした。一匹一匹がボクより大きな巨大バッタだ。それがたくさん。
「エンチャンター、フィールドが出たらすぐにバフを盛れ! 全員自己バフもだ!」
うん、フォンシーは大丈夫だ。ちゃんとしてる。
「いい? 戦闘ごとにガッツリレベルが上がるよ。だから最初っから全力だして。どんどん楽になってくはずだからさ!」
「やるぞ!」
ボクの叫びにウルが答えてくれた。そうさ、何回か戦えばなんとでもなる。
「氾濫のときと一緒だよ。慣れて! 『十五個』もいいね?」
「……やるわ。ヴィットヴェーン根性!」
「ヴィットヴェーン根性!」
シャレイヤ、『十五個』のみんなも。いいねえ、いいねえ。こんなの初めてなんだろうけど、『十五個』はビビってない。
「そうこなくっちゃ!」
「……来ます」
シエランがいつもより低い声で言ったと同時に戦闘が始まった。ねえ、シエラン。もしかして氾濫のときみたいなノリ?
◇◇◇
「『BF・INT』『BFW・SOR』」
「『BF・INT』。……『DBW・SOR』!」
現役シーフのシエランが速い。次になったウルもちゃんと違うエンチャントだ。被らないように一拍待ったんだね。
「『BF・INT』『BFW・MAG』」
続いたフォンシーが後衛バフをかけた。
今のパーティで前に出せるのはボクとザッティ。シエランはシーフでウルはカラテカだから自分で避けてもらうしかない。
もう二、いや三匹がザッティの盾にぶつかってる。速いよ。それでもまだ抑え込めてる。
「『マル=ティル=トウェリア』! 『頑強』『活性化』」
最初はミレアの大魔法だ。ハイウィザード最強の攻撃魔法が敵を包んだ。
だけどそれでも油断はしてない。続けて自己バフをかけてるよ。やるねえ。
「『芳蕗』『向上』『頑強』『パンプアップ』『察知』」
さあ、ボクも負けてらんない! 三毛猫耳にはみんながそれぞれ自己バフをかけてるのが聞こえてきてるからね。
「……『ラージシールド』。ぐあっ!」
盾スキルを使った瞬間、ザッティが吹き飛ばされた。けどそこにはちゃんと三匹のバッタが止まってる。スキルは通ってるんだ。
ザッティの回復は誰かに任せるよ。ボクの仕事は前線だ!
「らあぁぁ! 『踏み込み』『神撃』ぃ!」
「『連撃』だ!」
ボクが二匹、ウルが一匹だ。
「『ティル=トウェリア』」
後ろから魔法を撃ったのはフォンシーかな。さあさあ、かかってこい。ボクたちは負けないぞ!
◇◇◇
「……レベル、32よ。まったく」
「やるじゃない。こっちは31」
両手を広げて寝ころんだシャレイヤがぼやいた。
三時間くらい戦ってたのかな。いつの間にかモンスターはいなくなってたよ。
最初の方はもう、ホントに大変だった。バフを使いまくって、魔法も打ちまくり。それでも前衛は何回も体当たりを食らったりした。後衛だってなんども危ない目をみてたよ。
けどみんなのレベルが25を超えたあたりからだったかな、けっこう楽になってきてさ。最後の方はスキルがカツカツだったけど、なんとかなった。
「積み上げたジョブだったな」
フォンシーが疲れた声で言ったよ。
「そうね。マルチジョブじゃなかったら最初で終わってたと思う」
返事をしたのはシャレイヤだ。
「さて、リポップタイムだったか? 一時間くらいでここはまたモンスターだらけだ。どうする?」
「とりあえずさ、アレじゃないかな」
宝箱があるんだよね。三つもさ。
「……開けるか」
フォンシー、ため息なんて吐いたら運が逃げるんだよ? 宝箱の目の前でやったらダメでしょ。
「くっ、わたくしとしたことが」
「……オレはシーフになる」
ここにいる十二人だけど、十人がシーフ持ちなんだよね。シエランなんか現役シーフだし。
で、残り二人が悔しがってるわけ。宝箱開けたかったんだねえ。結局じゃんけんで決めたんだけどさ。
「『鋼の鎧+1』」
ファリフォーが開けたのは大ハズレだ。サイズも合わないし。誰も求めてないよ。
『メニューは十五個』の革鎧なんてキングトロルの皮にジャイアントヘルビートルの甲殻なんだって。ボクたちのよりずっと上等だ。やっぱりサワって人、過保護なんだよ。
「『ロングソード+2』だねぇ」
のんびりした声でメーリャが剣を持ち上げた。うーん、微妙だあ。ボクたちの体格だとロングソードって長いんだよねえ。
ちなみにだけど武器とか防具って、触ったらなんとなく名前がわかっちゃうんだよね。なんとなくの強さとかもだよ。スキルと一緒ってとこかな。
「ふおぉぉ!」
最後におかしな声を出したのはシエランだよ。らしくないけど、当たり引いたのかな?
「カタナ。『強靭なカタナ』です!」
当たりだよ。大当たり。だけどさ、誰が持つの?
「サムライスキルはシエランしか使えないけど、今はシーフ。ペナルティないのはウォリアー系とファイター系だけどさ、わざわざ持つ意味ないよね」
というわけで全部インベントリ行きだよ。
「とりあえずさ、いったん外に出て、それから考えよっか」
ここでじっとしてたら、またバッタに襲われちゃうよ。
「さて、どうしよう」
みんなでトラップ部屋を出てから、チラってフォンシーを見た。お願い。
「最初にやるのはスキルの回復だろうな。上に戻るにしたって……」
「またバッタに挑戦するにしても、ね」
フォンシーに続けてミレアが言った。
そうなんだよ。ボクらにはそれができる。できちゃうんだ。どうしよう。
「先に『十五個』が三時間、食事を挟んでこっちが三時間休憩だ。どうするかはメシのときでもしよう」
「そうね。スキルを戻さないとお話にならない」
シャレイヤたちは当然納得してくれたよ。
◇◇◇
「持ってくるもんだねえ」
「そうですね。助けなしの迷宮泊に憧れてましたけど、こんなので実現です」
苦笑いのシエランがごはんの準備をしてくれてる。どうやってって、ボクたちはインベントリに炭とお肉を入れてあったんだ。しかも背中の腰にくくりつけといたおっきな水筒やちょっとした鍋なんかもあるんだよね。
迷宮宿泊セットってやつだ。またの名を迷宮ごはんセット。当然『メニューは十五個』も持ってるよ。イザってときがあるかもしれないからね。
「さてメシを食べながらでいいから相談だ。これからどうするか。ラルカ?」
「ボクかあ」
フォンシーが振ってきたよ。しかたないなあ。
「一番大事なのは黒門のことだよね?」
みんなが頷いてくれた。
「21層のあそこは一日に何組かは入る部屋だね。そのうち誰かが見つけると思う。けどだからって他の人に任せとくわけにはいかないよ。もしかしたら誰も行かないかもしれないんだから」
それに、ボクたちが46層にいるなんて、誰も知らない。
「目の前にレベリングできる場所があるのはわかるけどさ、ここにはいつだって来れる。戻ったらみんなジョブチェンジだけど、それでもすぐに来れるはずだよね」
「そうね。ラルカの言うとおりだと思う」
シャレイヤが真っ先に賛成してくれた。他の人はどう?
「条件付きで賛成だ」
なにそれフォンシー。
「あたしたちはまだレベル30程度だ。けれどここは46層。マルチジョブとはいっても、ちょっとキツいな。それでもこれから黒門の件を地上に届けなきゃならない。確実にだ。そうだな?」
みんなが頷く。
「つまりはだ。安全に戻るために、やらなきゃならないことがある」
「レベルアップよ! 最高の場所が目の前にあるわ」
「バッタは苦手なんだがな」
ぐっと右手を握ったミレアが立ち上がったよ。気合入ってるねえ。
「ジョブチェンジはどうするんだ?」
ウルのセリフは、たぶんみんなが思っていたけど言いださなかったことだ。そうだよねえ、ここでジョブチェンジして、レベルアップしたいよね。けどさあ。
「やめといた方がいいんじゃないかな? たぶんキリがなくなるような」
「残念」
ちょっとやめてよファリフォー。ホントに勿体なくなってくるじゃない。
「しかたないから、ね? 今日はあきらめてさ、今度にしよう、ね?」
◇◇◇
「レベル43だよ。いやあ、上がるもんだね」
「結局二セットかかったな」
「しかたないよ」
合計三セットだね。
二回目は二時間、三回目も一時間半くらいで終わったかな。最後はもうスキルなんてほとんど使わなかったよ。魔法組なんて手を抜いてメイジ系魔法で足止めくらいになっちゃった。それでもINTがすごいことになってたから、十分威力はあったんだけどね。そしてさあ。
「あの、コレってどうします?」
微妙に震えた手でシュリケンを持ってるのはシエランだ。どうするか聞きたいのはこっちだよ。どうしよう。なんか『メニューは十五個』のメンバーがすごい目をしてるんだけど。
他にも『鋭いショートソード+1』とか出たし、鎧もいくつか。『黒きショートソード』の方が強いんだけどね。
それとジャイアントローカストそのもののドロップなんだけどさあ。甲殻はまだいいんだけど、肉ってどうするんだろ。食べれるの?
「戻ってから相談だねえ。かなり時間も経っちゃったし、帰ろっか」
21層までで一時間、落ちた最初の戦闘で三時間。七時間休んで、二時間戦った。それから一時間待ってまた一時間と半分戦ったから、えっと合計で。
「十六時間くらいか。地上は真夜中だな」
「だねえフォンシー。心配されてるかな」
「ウチは間違いないわね。『十九』と『二十三』が黙ってるわけない……」
そっか『オーファンズ』はもう知ってるんだ。もしかしたら地上は大騒ぎになってるかも。
「ほう、迷宮に吹く風を追って来てみれば」
「あ、ディスティスさん。こんにちは」
いつの間にか『ナイトストーカーズ』のクランリーダー、ディスティスさんがそこにいた。当たり前みたいにいるんだね。
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