第54話 わたしたちは新人冒険者。幸運で力持ちの新米ね
「こりゃあウチも見習わないとな」
「だねえ」
フォンシーとボクが頷きあった。
なにがって『メニューは十五個』がすごいから。いや、すごいっていうか、ちゃんとしてるって感じかな。
「前衛の技術ならウチが上だな。けど──」
「全員がメイジとプリースト、シーフもできるって、あんな感じなんだあ。こっちももうちょっとだね」
「だな」
確かに彼女たちよりかボクはスキルの繋ぎ方が上手いと思うよ。ザッティの盾だって、ウルの動き方だってそうだ。もちろんフォンシーやシエラン、ミレアも。
けど『メニューは十五個』の戦い方って、見てて安心できるんだよね。
「そつがないっていうのでしょうか」
そうそう、シエランの言うとおり。
戦闘が始まったら魔法とバフがバンバン飛んで、前衛は一斉に襲い掛かるんだ。やらなきゃならないことを、みんなでしっかりやってるって感じかな。基本に忠実ってやつ?
『基本はできたから、あとは自分たちで考えて強くなれって言われたの』
昨日そんなことを言ってたシャレイヤを思い出すね。こういうことだったんだ。
だけどなんだろ、もやもやした感じがあるんだよね。
「やるな!」
「ありがとう、ウル」
シャレイヤがウルの頭を撫でくりまわす。ウルのしっぽがぶんぶんだ。
同世代だし女の子同士ってことで、愛称呼びになってたんだよね、いつの間にかさ。
「20層くらいなら問題なさそうだねえ」
「ううん、そうかもしれないけれど、わたしたちはまだまだ練習ね」
そうなんだ。真面目だねえ。けど、ちょっと固いような気もするかな。
「昇降機は24層までだったよね? ならその辺りまででお願いできるかな」
「わかったけどさ、いいの?」
「うん。わたしたちには足りないことがいっぱいだからね」
◇◇◇
「あんたたちは面白いな」
「なに?」
24層で戦ってる途中でフォンシーがシャレイヤに話しかけた。
「気を悪くしてもらいたくないんだけど、ある意味冒険者らしくない」
「どういうこと?」
あれ? シャレイヤは怒るんじゃなくて困ってる?
「もしかして、あんたらも自覚してるのか?」
「ええ、まあ……、だから教えてもらえる?」
「基本ができてるっていうよりは、しっかりしすぎてる。冒険者っていうより、ジョブを重ねた強い人って感じだ」
言い方はアレだけど、たしかにボクもそんな風に思ってるかな。
「たしかにそうね。しっかり育て上げた貴族の私兵みたいかしら。本当にそんなのがいるかは知らないけれど」
ミレアまで混じってきたけど、シャレイヤたちは黙って話を聞いてるね。
「ここの育成施設やメンター制度がしっかりしたら、あんたたちみたいな冒険者が増えるのかもってな。それで訊いたんだ。ごめん」
ああ、それはそうかも。それなら『夜空と焚火』みたいなことにならないかもしれないね。
「……フォンシーはすごいね。お見通しだよ。わたしたち『オーファンズ』は育成施設でたくさんレベリングしてもらったから、こんななんだ」
『サワノサキ・オーファンズ』がヴィットヴェーンの育成施設から来たっていうのは昨日聞いてた。けど、施設ってここまでやるんだ。
フォンシーが言うみたいに『メニューは十五個』ってあんまり冒険者っぽくない。ああ、さっきボクがもやもやしたのってこれだ。
ベンゲルハウダーに来てからボクが見た冒険者って、なんかこう苦労して積み上げたって感じの人たちばっかりなんだ。ボクたちなんかは恵まれてた方だけど、それでも『メニューは十五個』はなんか違う気がする。
「ははっ、冒険者っぽくないかあ」
シャレイヤは苦笑いしてるけど、ちょっと寂しそうにも見えちゃうよ。元気にしてあげたいけど。
「素晴らしいわ!」
「えっ?」
いきなり叫んだミレアにシャレイヤたちがびっくりしてるね。
「だってそうじゃない。迷宮に潜るなら、最初から強いほうがいいに決まってるわ」
「そ、そうだけど」
シャレイヤがちょっと引いてるよ?
「貴女たちを強くしたのは施設よね? いえ、なによりその制度だわ」
「そうね。食事をもらえて、勉強もさせてもらった。ソルジャーとメイジになるところから、ずっと手伝ってもらったわ」
「わたくしはそれが素晴らしいって言っているの」
シャレイヤたちがチラってボクを見た。助けてって感じだねえ。
だけど大丈夫。ミレアはね、ときどき、けっこう暴走するけど、誰かを傷つけるようなコトなんて言いださないから。ボクは言われたことがあるような気がするけどさ。
「シャレイヤ。貴女は冒険者になるときに体格が良くって力強い人をズルいと思う?」
「……それはないかな」
「そうよね。なら貴女たちは何者?」
「ははっ、そうね。わたしたちは新人冒険者。幸運で力持ちの新米ね」
やっと普通に笑ってくれた。やるねえ、ミレア。
「そうよ。冒険者らしくないなら、これからなればいいの!」
だけどなんか偉そうだよ?
「今の話をできただけでもベンゲルハウダーに来たかいがあったわ」
「そりゃ良かった」
やれやれって感じでフォンシーが肩をすくめるけど、シャレイヤたちが元気になってくれて、けっこうホッとしてるでしょ。ボクもだけどさ。
「これでも今のジョブは自分たちだけで上げたんだけどね」
「へえ。がんばったじゃない」
「そうそう。それで出発のときに言われたの。ベンゲルハウダーでちゃんと冒険者をやりなさいって。こういう意味もあったのかもしれないわ」
面白いこと言われたんだね。それと考えすぎじゃない?
「ならいいんじゃない? 迷宮潜って冒険してるんだし」
「ラルカは前向きね」
シャレイヤが笑ってるけど、どうやらこっちの仲間は違うみたいだよ。
「ラルカはお気楽なのよ」
ほらね。
◇◇◇
「はむはむ」
「むほむほ」
「ウルとラルカは美味しそうに食べるわね」
ごはんはおいしいよ?
「ん? ウルはコンプリートしたぞ。ごはんもおいしいぞ」
「ボクはレベル17だね」
ウルがソルジャーをコンプリートしたんだよ。やったね!
「シャレイヤ、食べてるときにあの二人になにか言ってもムダだぞ?」
「そうなの?」
フォンシー、なんか失礼なこと言ってない?
「ザッティはすごい。ナイト一直線って感じでカッコいい」
「……そうでもない」
そんな風にザッティを褒めてるのはエルフのファリフォー。もちろん『十五個』のメンバーで、今はウィザードだってさ。珍しい褐色肌のエルフさんで、フォンシーとは別のとこから来たみたい。
「やっぱりここからはジョブ構成を尖らせないとね。アタイはやるよお」
気合入れてるのは兎セリアンのピョリタンだ。彼女もウィザードだね。
他には羊セリアンでパワーウォリアーのメーリャ、ヒューマンで同じくパワーウォリアーのマウィー、最後にヒューマンでファイターのディジェハ。これが『メニューは十五個』だ。
「ウルは次、どうするの?」
「カラテカだ!」
「前衛だからいいけど、まだハイニンジャにならないんだ」
「その次はファイターをやりたいぞ」
なんかすっかりジョブチェンジにハマっちゃってるねえ。
「なになに? ウルってニンジャ持ってるの?」
「おう」
マウィーが乗っかってきたよ。
「いいなあ。わたしもニンジャになりたいんだよね」
「ニンジャはいいぞ。ばばばって走れるようになる」
「うんうん!」
ねえお二人さん、それで会話になってるの?
「昨日から不思議だったけど、あんたらのパーティ名って数字が入ってるよな」
「ああ、それね」
「ああごめん、シャレイヤ。言いにくいならいいんだ」
あ、それボクも気にもなるよ。なんかあるのかな。
「そういうわけじゃないの。ウチの一番隊がね『元気が一番』っていうんだけど、それでなんとなく全部のパーティに数字が入るようになったの。そのまま部隊番号ね。一番隊の隊長がさ──」
「……ちょっと待て」
「どうしたの?」
フォンシーの表情が変わってる。すっごい真剣な顔だよ。どしたんだろ。
「今、部隊番号って言ったよな?」
「そうだけど?」
シャレイヤはきょとんってしてる。
ちょっと待って、部隊番号? 『メニューは十五個』『十九の夜』『二十三の瞳』……。
「『二十三の瞳』って……、二十三番隊ってことか?」
「そうね」
げげげっ! シャレイヤはなんてことないって顔してるけど、こっちはみんなが唖然としちゃってるよ。
「百三十八人……。兼任とかは多いのか?」
「いないわよ? ねえマウィー、今ってどれくらいいるのかな」
「ん、千人くらいじゃなかったっけ。あれ? 千五百だったかな」
なにそれ。
「『オーファンズ』だけで、なのか?」
「そうね。ああ、ウチは特別だから。育成施設の子たちがそのままクランに入っちゃったって、そんな感じなの。わたしたちももちろんそう」
近くのテーブルまで静まり返ってるんだけど。『夜空と焚火』とか『ラーンの心』もいるねえ。
「ね、ねえ。育成施設の子を育てる制度も、クランを作って自立させる考え方も。ヴィットヴェーンの領主様って何者なの?」
ミレアが立ち上がっちゃってた。声が震えてるよ。うん、わかる。
「え? ヴィットヴェーンじゃないわ。わたしたちはヴィットヴェーンのお隣、サワノサキの領民よ。育成施設もクランもそこにあるの」
「サワノサキ……。聞いたことがないのだけど、誰なの? 貴族なのよね」
「えっと、たしか伯爵様だったはず。だけどサワお姉ちゃんは貴族っていうか──」
「サワねーちゃんはサワねーちゃんだろ」
「ん。サワはサワ」
ピョリタンとファリフォーが割り込んできたけど、意味わかんないよ!
「えっと正式な名前は長くて知らないけど、ウチの領主はサワ・サワノサキ伯爵っていうの。伯爵様って言ったら怒られるから気を付けてね?」
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